TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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第151話

「一体、どうすれば……」

 

 巫女が頭を抱えている。ルーナはそれを、過保護なことだと思いながら眺めていた。

 

 宿主(ヘリオトロープ)が白状したのだ。巫女はいま、(人の子)が何やら危険な状況にあるということを知っている。

 それを聞くが早いか巫女は森を出て人の子に会いに行こうとしたらしいのだが、流石に長老会のじじばばらが止めた。人の子がいない今、奏巫女の血を持つ者は巫女だけである。奏巫女とやらを絶やすわけにはいかないのだろう。まあ、一人出掛けて危険な目に遭ったのに残りの一人も送り出すのは馬鹿じゃよな。

 しかし人の子もそこそこじじばばに愛されていたようで、本当に危険な状態なのか、誰を救助に行かせるか、村の偉い人らはてんやわんやらしい。

 

 巫女としては直接自分が行かないと気が済まないのだろう。

 危ないどうこうを伝えず、娘に会いたくなったから出掛けますと言えばまだ可能性はあったように思うが、騙るという発想がなさそうだ。まあ、それは(ここ)の子らの美点でもある。

 

「のう、宿主。そうは言うがお主程度に魔力があれば巫女の代わりは務まるのではあるまいか?」

「いえそんなことは……、ああ、あなたがそう仰るのなら奏巫女の能力自体は再現できるかもしれませんが、儂はここから動くことができませんから。能力としては代わりになれても役割を代われはしないでしょう」

「ほぉん。まあローカルな話は知らんからの。しかし実質()()()()神のようなものなのに、不便じゃのう」

 

 ルーナは仮にも時空とはひとつ次元の異なる位相で神と呼べる立場にいた。

 それだけにこの世界で扱われている魔法程度なら大抵知っているのだが、流石にローカルルールのような独自の魔法までは把握していない。なぜなら、教会に住むウィレームおじさんの抜け毛の量を増やすといったしょうもない魔法まで知る意味はどこにもないからだ。

 もちろん言われれば仕組みを理解できる。奏巫女はおおよそ付与魔法の類だと思ったのだが、宿主はそこまで知っているわけではなさそうだ。

 

「のう、巫女。今回はそう悪いことにはなるまいよ。そも、本当に危険じゃったらこの瞬間にお主が森を飛び出て駆けつけたところで間に合うまいし、それよりも人の子のタイムリミットである4年半後に備えた方がいいじゃろう。だから、あまり老人たちをいじめてやるな」

 

 若い者の衝動に振り回される年長者の苦しみというものをルーナは理解していた(他の神からしたら「お前は振り回す側だったろ」と言いたいところだが)。

 長老会のじじばばを気遣った発言であったが、こういった戒めはたいてい逆効果だったりするのだ。

 

「ええ世界神、もちろん私もそれは理解しています。私には奏巫女として以外の経験がありませんから、いざ駆けつけたとしてできることもそう多くないでしょう。そもそも私のできることはアイリスができるでしょうから、彼女を信じて任せれば良いのです。今回は緊急性が低いというのも本当なのでしょう。しかし! それにはどれだけの確証がありますか? 万が一があるというのなら、私が行かない理由はありません。手遅れだというのなら、遺体を確保し、蘇生の可能性に賭けましょう。あの子について私が諦めるわけにはいきませんから」

 

 これだから愛情は面倒なんじゃ……と心の中でため息をつく。

 

「分かった。では宣言しよう。()()()()()()。仮にあったとしたら、我の存在を賭けてこの世界に干渉し捻じ曲げる」

 

 テルース(クソバカ神)を殴る算段はある。力を取り戻せば干渉も不可能ではあるまい、代償は大きいだろうが。

 そこまで言うと、巫女は面食らったように黙り込み、無意識のうちに放出していた大量の魔力を収めた。

 

「あの子の状況を、どの程度ご存知なのですか。それだけ仰る根拠は」

「お主が人の子を愛する気持ちと同じくらい、我は我を信じておる。この世の理に通じているのも大きいじゃろうがな。お主らほど事態を重く見とらんから、人の子が自力で解決しようと分かるわけじゃ」

 

 己を担保に出したつもりなどさらさらない。

 自分が選んだ存在。ただそれだけの事実が、「たかだか魔力の()()、あるいは()()で自我を失うはずがない」という確信を生み出していた。

 

「知識があればあるほど、確実なリスクヘッジが取れるんじゃよ」

「……でも地上に堕とされるのは分からなかったのですね」

「ほう」

 

 ボソリとヘリオトロープが呟いた言葉に青筋を立てる。土人形に血管は実装されていないが。

 このメスガキはいつも余計なことを言う悪癖がある。あるいは、折檻を期待して発言しているのだろうか。

 

「そういえば、人の子の真名を呼びながら最初にまぐわったのって宿主なんじゃよな。いつじゃったからほら、お主らがお七夜と呼ぶ日に、目を合わせるなり発情して、終わりそうになるたびに何度も誘惑して……」

「ひっ、それは脚色が──!」

「……へぇ、私達が心配してる間にそんなことが」

 

 折檻は面倒なので、巫女の嫉妬を煽り代行させることにする。

 嫉妬……? まあ、嫉妬だろう。巫女がどういう感情になったかは分からないが、この子も大概なのでうまいこと宿主を躾けてくれるはずだ。

 

「神様、まずは何て言って、どういうことをしたのか、させたのか、余すところなく説明してもらえるかな?」

「ヒッ……」




7話くらい前でルーナが「止まった理由はよく分からん」と言っていますが、理由の予想自体は何通りかできています。できていることにします。
一通りに絞れていない「分からん」です。彼女が原理の予想できない現象はこの世界にはありません。

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