TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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バトル漫画におけるバトルシーン、恋愛映画における告白シーン、推理小説における推理シーン……やはり一番盛り上がるシーンはそのジャンル名にも関わってくるものじゃが、日常系なら何シーンじゃろな?

 扉の前に立ったヴィオラは少し様子がおかしいように見えた。

 何かに迷っているような……しかし、往年の連れ合いである。お互いの価値観などについてはとうに既に知り尽くしていて、伝えなければならないことはどんな些事でも必ず伝える。逆に言えば、伝えなくていいと判断したことは実際に伝える必要のないことであり、無理に聞き出すこともない。

 

 やがて意を決したように表情を引き締め、ヴィオラが両開きのドアを案内人のように押し開いた。

 コルキスも続いて部屋に踏み込む。香も花もないはずだが、うっすらと甘い香りがしたような気がした。

 

 中は広い。広いが、簡素な部屋であった。

 扉に近いところにはローテーブルを挟んで向かい合ったソファ、部屋の奥には、壁際の中央に天蓋付きの大きなベッドだけが置かれている。その他は、照明と最低限の調度品だけ。

 ベッドには深窓の令嬢のように身を横たえて窓を眺める淡金(アイボリー)の少女がいる。天蓋は開かれていて、その奥で()()()がゆっくりと動いた。

 

(……あァ、生まれながらに女王(ドローネット)なんだな、この子も)

 

 赤色の視線がこちらに向けられた瞬間、全身に鳥肌が立ち、膝を屈し(こうべ)を垂れたくなるような衝動に襲われる。

 もちろんそんなことはしない。おくびにも出さない。コルキスも「頭を下げさせる側の人間」だからだ。

 

 生まれながらに王なのだ。コルキスも、アンブレラも。

 

 記憶を失う前は、人懐っこい人格が包み隠していた。きっと家族から愛され祝福され育ったのだろう。

 記憶を無くしてからは、ほとんど自我というものがない人形であった。無機物にカリスマは宿らない。

 それがいまこうして、無意識のままに、コルキスが気圧されるほどの「空気」を身に纏っている。無垢な自我だからこそ、内面の本質ともいうべき部分が顕著に外に向けて現れているのだろう、とコルキスは考えた。

 

「……! コルキス様っ」

 

 こちらに気付いたアンブレラは、コルキスの感じたカリスマなどはどこ吹く風で、花開くような無垢な笑顔────ではなく、どこか艶美な微笑みを浮かべた。

 

(……ッ!?)

 

 情欲をそそるその表情に背骨の下あたりで何かがゾクゾクと震える。

 何かに「染まる」にはまだ早い。それなのに「ただの無垢」で収まっていないというのは、一体どういうことか。

 

 チラリとヴィオラの方に目を向ける。

 視線に気付いて顔を上げたヴィオラは、しかし見当違いなまでに真面目腐った表情でコルキスに向けて頷き、「信じています」とかなんとか呟いて部屋を出て行った。

 違う、そうじゃない。何を信じた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 赤子のように頻繁に眠ることを繰り返すアンブレラは、ほとんどの時間をベッドの上で過ごしている。

 それは必ずしも体力が消耗してしまうというわけではなく、彼女の脳がその日の経験をまとめるなど仕事するのに必要なのだ。コルキスとてかじった程度の知識であるため曖昧だが、脳は経験したことから必要な部分だけを取り出すのに睡眠を必要とするらしい。

 そのためアンブレラの過眠症とも呼べる症状はそのうち落ち着くと予想されているが、逆に言えばその頃にはアンブレラの頭の構造はほとんど固定されてしまい、記憶を取り戻す上でそれが障害となりかねない。

 

 しかしなんであれ、ベッドの上で過ごすばかりで退屈してやいないだろうか。

 そんな心配をしつつ、コルキスはベッドに腰掛けてアンブレラに身を寄せた。肩が触れ合うほどの距離である。

 

「コルキス様、今日はどうされたんですか? 珍しいですね」

「……理由がなければ会いに来てはいけませんか? ふふ、冗談ですよ。アンブレラ様に会いたかったからです」

「わたしもコルキス様にお会いしたかったです。──お世話になってばかりで、何のお礼もできてませんから……」

 

 ああまったく、本当に、人を誘うのが上手い。そう思った。

 ()()()()()()はまだ育ってないだろうから、上目遣いで言葉を紡いだコルキスに対し少しもドキリとした様子がないのはまあ分かる。こんなのはほとんど癖になっているもので、特に男性相手に非常に有効であるから無意識にやっているだけだ。

 しかし、「会いたかった」と言えば「わたしも」と返し期待をさせて、期待が吊り上がったところで「お礼がしたかったから」と義理的な側面を強調する。天性の、人の心を掻き乱し惹きつける才能があるのだろう。

 

 恋人もかくやという距離で会話をしても気にした様子がないのは、心を開かれているというより、あらゆるものに対し無警戒であるからと考えるべきだ。

 記憶を失う前から無警戒な側面はあったが、それでもあの頃は身体的な接触に恥じらいがあった。ある程度は性的な事柄について知識があったのだろう。それが今は、吐息がかかるほど近付いても甘えるような瞳(おそらくはこれが自然体なのだ)でこちらを見つめるばかりだ。

 

 無性に甘い香りがして、頭がクラクラとしてくる。

 香は焚いていない。怪しい薬もキメていない。いわゆるフェロモンというやつだろう。気を抜けば今にも押し倒して乱暴したくなる。

 

 しかしそれではいけない。

 自分の衝動に突き動かされるだけではただの自己満足で終わる。蕩かして依存させるなど夢のまた夢だ。

 

 丁寧に丁寧に。

 

 「抱かされる」のでなく、「抱く」のだ。

 求めると与えると言い換えれば分かりやすいだろう。実のところ、全く逆の行動である。

 

「んっ、……?」

 

 片手で髪を撫でつけてやると、まなじりを緩めながら「どうしたの?」と言わんばかりに小首をかしげる。

 後頭部の形をなぞるように撫で続けると、手の平から伝わる頭皮の熱と、コルキスの手でも十分収まってしまうほどに小さな頭に、つい引き寄せて口付けしてしまいたくなる。

 キスしたいキスしたいと壊れたように繰り返す本能をなんとか理性で黙らせた。しかしその理性も、かなり限界が近いのは確かである。

 

「アンブレラ様の御髪は、綺麗で、柔らかく、不思議な良い香りがしますね」

「そう、なんですか? わたしはあまり分からないです……でも、コルキス様の香りも、安心しますね」

「自分の匂いというのは気付きにくいものですから。ふふ、アンブレラ様が安らいでくださるのなら嬉しいです」

 

 良い匂いがすると褒めると、アンブレラはコルキスの首元の髪を掬って顔を近付ける。

 唇と唇の距離はもはやほとんどない。キス以外の単語が思い浮かばなくなったコルキスは、一度脳を切り離し、ほとんど口の勝手に動くがままに言葉を発した。何とか会話が成立したのは、ひとえにこれまで口先という武器で戦ってきた経験ゆえであった。

 

 微笑むコルキスに、しかしアンブレラは悩みを告白するように口を開いた。

 

「……その、ここまでよくしていただいているので、わたし、恩返しをしたいんです」

 

 コルキスの視点から言えば、そもそも現状で利益が得られていた。アンブレラの生活費のほとんどは学園都市に補償させているし、その上でアンブレラの身柄を押さえているということそのものが価値である。

 しかしまあ、アンブレラからすれば、下手すると補償のことすら知らないのだろう。となればよほど無責任でない限り日々罪悪感が生まれ続ける。

 

「これから沢山いただきますから、気にしないでいいんですよ」

「えっ……と?」

 

 疑問符を浮かべているアンブレラに、コルキスは少し余裕を取り戻して微笑んだ。

 

「ひゃっ」

 

 腰と頭に手を添えて、少し下側、ベットの中央にアンブレラの体を動かした。

 

 ふわりと降ろしてやると、仰向けになったアンブレラは「びっくりした」と言いながらキョトンとした表情でコルキスを見上げる。

 真っ白なシーツに、照明を反射して同じく真っ白な髪が広がった。肌の色も白くて、ただ瞳だけが赤く妖しく爛々と輝いてコルキスを見つめている。

 魔法を使っているときだけ赤くなるというその瞳には、一体何が映っているのだろう。

 

「アンブレラ様、手を繋ぎましょう」

 

 そう言って、両手を指を絡ませるように向かい合わせで繋いだ。

 そのままバンザイの体勢を取らせ、太腿の上に跨がる。俗に言うマウントポジションである。

 

 それでもなお、アンブレラは恐れる様子も、恥じらう様子もない。

 何も知らないのだ。何も分からないから、「コルキス様どうしたんだろう」なんて言いたげに、少し困ったような笑顔でこちらの発言を待っている。

 

「いただきますね」

 

 そうアンブレラに微笑みかけると、今度こそ、屈託のない、花開くような無垢な笑顔が返ってきた。

 コルキスはそれが愛おしくて愛おしくて、思わず涙と喘ぎに歪んだ後の姿を幻視した。

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