TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
持ち込んでいた砂時計を逆さに返した。
ヴィオラには半日経ったら来るように言いつけてある。およそこの時計の砂が落ちきる頃だ。
「これは……?」
見慣れぬものが気になるのだろう。自分の頭と同じくらいの大きさの砂時計に、押し倒された体勢のままアンブレラが視線を向けた。
この部屋に時間を知るための家具はない。下手をすればアンブレラは時計の概念すら忘れたままかもしれない。
中庭に向けて設置された大きな窓。そこから見える空の明るさでしか時間を知ることができないが、いわば療養中の立場であるアンブレラにはさほど問題なかった。
「砂時計と言います。この砂がすべて落ちる頃に朝が来て、そこで再び逆さにすると夜が来る頃が分かります」
「えっと、便利ですね? ……外の明るさではいけないのでしょうか」
「たとえば、ほら、こうして光を遮ってしまえば分からないでしょう?」
繋いでいた手を離して、窓をドレープカーテンで覆ってしまえば部屋は外から完全に閉ざされた空間となった。
アンブレラは未だ分かったような分からないような曖昧な表情をしている。まあ実際のところ、時計の価値というのは「どんな条件でも定刻を共有できること」であるから、時間に束縛されない人間には飯時の指針にしかなるまい。
好奇心のためか砂時計に触れたそうに身を起こしたアンブレラの、白く手折れそうな指をもう一度握った。今度は押し倒すのでなく、ただ、目の前に腰を下ろすように。
窓際からベッドまでたちまちに移動したコルキスであったが、そこに慌ただしさや拙速が見られないのは流石の洗練された所作といったところか。
「駄目。アンブレラ様、私だけを見てください」
「わ、わかりました。……ふふ、コルキス様は手を繋ぐのがお好きなんですね、ん」
なんとはなしに絡めた指を這わせて
その声に、コルキスは全身の毛が逆立つような錯覚を覚えた。
(敏感な体質だとは思っていたが、あまりに
とにかく情欲を煽る少女である。声音はなべて甘くいやらしく、そんな声が己から出ていることを恥じらうばかりか「それ、なんだか気持ちいいです」と自己申告する始末。
時間はどうにか捻出したのだ。十分余裕はあるはずだし、あまり急いてはいけない。
部屋の空気とアンブレラ本人にあてられて失われる瀬戸際にあった理性が、ゆっくりと丁寧にしろと忠告する。
日常会話はこの程度でよいだろうが、まだ体の奥深くを触れ合うには早い。そのうなじに、乳房に、むしゃぶりつきたくなるような
アンブレラ自身の準備が足りていないのだ。体は、もしかしたら、彼女の生来の体質だけで行為中の常人と同じような反応を示すかもしれない。
しかし心がきっとまだ追いついていない。何も知らない少女では混乱するばかりだ。羞恥心を与え、価値観を芽生えさせ、自尊心を煽って自ら快楽の沼でもがくよう手助けしなければならない。
そう囁く理性が本当に普段の自分通りであったかどうかは、もはやこの時のコルキスには判別できなかったけれども。
その証拠に──あるいは正しく理性を従えた上で、コルキスはおもむろに羽織っていた衣類を脱いだ。それはほとんどバスローブのようなものだったので、脱いだというよりも体からずり落ちたと表現する方が正しかったかもしれない。
下着は一切着けていない。つまり、生まれたままの姿を晒してアンブレラと向き合っていた。
いくつかの理由から、コルキスはその状況に恥じらうことをしなかった。
ひとつが自信。そもそもとして、王を継ぐべく磨き上げた己の体で後ろめたいものなど何もない。アンブレラを前にしては少し思うところもあるが、プロポーション、肌や産毛の手入れ、肉の付け方、芸術作品として描きたがる画家が現れる程度には洗練されている。
またこの後に及んで羞恥心を持つこともない。
だから、裸の己を前に、ただキョトンとしているだけのアンブレラの反応にも驚きはしなかった。
「コルキス様、体が冷えてしまいますよ」
ただ、一応は確認の意図も込めての行動である。
ここでもしもアンブレラが恥じらう、大きく動揺するなどの反応を見せた場合、それはアンブレラが性的な羞恥心を既に獲得しているということだから、この後の流れで言葉を捻る必要があった。
しかし、その心配もなくなった。
「アンブレラ様。……こうして手を握るように、直に触れ合うと心が温まって、体も温まり、仲も親密なものになると言います」
「……あっ、それ、分かります。いまこうして手を握ってもらって、コルキスさんが優しい人だって分かりましたし、わたしもっと好きになりました」
「ええ、そうですよね。私もアンブレラ様と仲良くなりたいと思って、頑張って時間を作ってきました。あの砂時計をあと5回返して、砂がすべて落ちるまで。……沢山触れ合いましょう?」
「はいっ、ありがとうございます、……すごく嬉しいです」
朗らかな笑みを浮かべるアンブレラを見て、コルキスはぼんやりと愛を感じた。
好きという言葉で表現してしまうには少し語弊がある。恋人に向けるもののようで、我が子に向けるもののようで、国民に向けるもののようでもあった。そしてまた、一部の者からは愛を疑問視されかねないような所有欲に近い感情でもある。
「ですから、どうか私のことを知っていただくためにも、沢山触れてみてほしいのです」
「私のどこでも、見て、触れて、感じたことを教えてください」
無垢な少女を肉欲の沼に堕とす第一手。
コルキスは己の体をすべてアンブレラに委ねた。