TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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あけましておめでとうございます。
まだ正気を失えていないのでサイドストーリーから再開。


ツッコミとボケとかトラブルメーカーと苦労性とかこの世はよくバランスとりたがるけど、ならもっと中庸を増やして中央値で戦いなさいよ!(残業中)

 泣き腫らしたであろう赤い目尻とそれに似合うよう鋭く細められた目つきは、普段の淑女然とした相貌からはかけ離れて、アイリスに美男子じみた雰囲気を纏わせていた。

 その女性として過剰なほどに魅力的な体躯のために間違っても男であるなどとは錯覚できないが、そこらの恋に恋するような少女たちであれば性別も忘れて虜になるだろう。美人というものは男も女もなんだか近しい見た目になるものだ。

 

 そんな、もはや目に毒ですらある光景を前に「複雑だけど眼福……」くらいの感想しか出てこなくなっているあたり、自分はもう毒されきった後なのだろうとカンナは溜息をついた。少なくとも将来結婚相手を顔で選ぶことはないだろう。

 そんなカンナの手は自然とスケッチに勤しんでいた。美しいものはいくつ描いても良い。馬車の中でさえなければもっと繊細なタッチができるだろうに。

 

「アイリスさんは、あの子の面倒を任されているんですよね? 側にいなくて良かったんですか」

 

 そう問うと、アイリスは中空に目をさまよわせてから、わからないんですと力なく答えた。

 御子様を守れなかったから。何にでも縋りたいから。そんな言葉が続くのをしばらくは待っていたが、沈黙だけが続き、更に続いてはらはらと涙を流し始めた。

 声を上げるでもなく、下手をすればまだ自分の涙に気付いていないのかもしれない。カンナのスケッチする手は勢いを増した。気付いて慌てて手を止める。

 

 アイリスの頬をハンカチで拭いながら考える。

 

(案外アンブレラの側に居ない方が正解かもしれないけれど……こっち(介護)側だったアイリスさんまであっち(要介護対象)側になるの?)

 

 世界は均衡を維持するように回っているのかもしれない。滅びてしまえ。

 

 しかし、転送門の事故などという前代未聞の出来事で、しかも記憶が……医者が何と言っていたかは3割くらい忘れたが、記憶が特殊な形で失われたという状況である。

 理解できないと言うほど情を知らないわけでもないが、それにしたってアイリスは気に病みすぎているようにも思えた。

 

 思い切って聞いてみる。

 

「アイリスさんがあの子に尽くすのって、何か理由があるんですか? たとえば助けてもらったとか」

「理由、ですか。……私がそのために生まれ、育てられたから、でしょうか」

 

 だいぶ重かった。いいや聞きようによっては闇が深くも感じられるが、これまでのアンブレラとアイリスの関わりを鑑みて、さてはこの人も言葉足らず族だなと掘り下げてみることにする。

 

「子供の頃からそう言い聞かされてきたんですか」

「はい……代々、奏巫女の乳母を務めてきたと聞いています」

「あっ、代々とかそういう……。ちなみに、やりたくないって言ったら辞めれるんですか?」

「……? どうでしょう、考えたことがありませんでした」

 

 カナデミコや乳母といったいまいちピンとこないフレーズも出てきたが、文化的な違いで対応する言葉が見つからなかったのだろう。乳母というか、四捨五入したらほぼ使用人みたいなことしてるし……。

 まあ、アンブレラはアンブレラで、あの歳になっても哺乳瓶を咥えていそうなアホっぽさがあるけれども。乳母が側に控えていてもおかしくないのかもしれない。

 

 家業だから。なんとも普遍的な理由だ。農家や職人、ありふれた例である。

 それにしたって命さえ賭けてしまいそうな忠誠に近い感情は程度が過ぎるけれど、程度の問題であって、性質の問題ではない。私だって、やりたいこと()で生きていくわけではないのだから。

 運命や役割に縛られる(さま)に、少しだけ親近感を覚えた。

 

「──もし、生まれも違って、好きなことができるなら……何をしてました?」

 

 そう問うと、アイリスは途端に時が止まったかのように固まり、何やら頭の中で思考が二転三転したのか、再び涙を溢れさせた。

 カンナは慌ててハンカチを取り出した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 転送門を使わなかったために、12区に到着するまでに3日を要した*1。9区の上品な雰囲気や11区の繁華な街並みとは異なり、12区はよく言えば牧歌的、悪く言えば田舎臭さの漂う地域であった。中央のあたりは建物も多く賑わっていたが、少し目線を上に向ければ山脈が連なっている。

 流石にこれだけの期間移動だけをしていると疲労も溜まるだろう。閉鎖空間でしばらく一緒に過ごしていたためか少し砕けた口調で、カンナは休憩を提案した。

 

「12区のアプトナディティス学区長はほとんど外に出てこないらしいわね。すぐ会えると良いけれど……。ひとまず今日のところは、宿で休みましょう」

「……いえ、少しでも早く、お会いしたいです」

 

 体と心の両面で一番心配なアイリスが一番意気込んでいた。

 まあそれもそうかと納得し体を動かす。実のところ、絵を描く都合上長時間体を動かさないでいることは慣れていて、揺れに対する酔いにも強い方なのでカンナは普通よりは消耗していなかった。

 

 学区長というか、学園の導師を探すときはとりあえず学区に行き、窓口っぽいところに声をかければ良い。間違っていても、正しい窓口までの案内図くらいは見せてもらえるからだ。

 9区の住民に比べて見慣れていないせいか、横を通り過ぎるたびギョッとした顔でアイリスさんを二度見三度見する人々(男女両方である)に少しうんざりしつつ、学区長との面会を取り付けるための窓口まで辿り着いた。

 

 アイリスさんの存在含め少々説明に窮する場面はあったものの、コルキス様から渡されていた書状を出したら割とサクサクと話は進んだ。

 あまりにやることがなさすぎて、買い物のお使いをしている気分になる。マァね。こちとら一般の人なのでね。なんか格好良い感じの交渉術とか期待されても陰キャ晒すだけなんだけど。

 

「会うだけでしたら、学生なら手続きなくても良いんですけどね〜」

「えっ、なかなか学区から出てこないからお会いできないと聞いていたんですが……」

 

 職員さんの発言にギョッと目を剥く。

 

「先生は生徒さんからの質問なんかも受け付けていらっしゃいますよ。ただ、『塔』から出たがらないので、会合なんかには姿を見せないそうです」

「『塔』?」

「学区の中にありますから、道中見えなかったかもしれませんね」

 

 そう言って見せてもらった学区全体の地図はベーグル状になっていて、中央に大きな穴*2が空いている。

 「塔」とやらはその中央にあるらしい。

 

「……な、なんでこんな?」

「さぁ……研究施設として利用されている学生さんもいるようですし、魔導的に利用されているんではないでしょうか?」

「……アイリスさん、行けます?」

「はい、行けます」

「はい……行くますぅ……」

 

 あまりにめんどくさい。

 ここから更に長距離歩かなければいけないこともだが、そもそもこんな変な場所の塔に住んでいる導師サマと話さなければいけないことが何よりも。

 

 

 

 


 

 

 

 

 一応言っておくが、引きこもり陰キャの類である。

 馬車に三日間。これは別にいい。馬車で夜を明かすわけでないし、ずっと座ってられるし、絵を描ける。

 が、引きこもりは足腰が弱い。特に膝が弱い。学区まで歩き、学区の窓口を探し歩いた。ガクガクである。膝。死。

 

「……アィ、っス、さ……、元気、ね」

「そ、そこまで長距離歩いてはいないと思うのですが……」

 

 忘れてた。この人森の民だ。私より重いモンぶら下げてるくせしてまったく堪えた様子がない。

 

 前方に塔があることは分かっていたが、その様子を事細かに観察する余裕はなかった。

 ただまあ、塔と呼ばれるだけあって観察するまでもなく高さは圧巻のもので、空まで続いているのではと思うほどだ。おそらくは石造りだけど、別に煉瓦だろうが草で編んであろうがなんでもいい。疲れた。あ、ひんやりしてて気持ちいい。

 

「カヒュッ……カヒュ……、うぇ、げほっげほっ……!! ふぅ……」

 

 流石にこのレベルで死にかけている人間を急かすほどアイリスさんも鬼ではないらしく。

 灯りの見える場所まで壁伝いに歩いていくと、必死に訴えかけるような声が聞こえてきた。ちなみに学区の建物全体はそこまで高くないため、昼間の今は塔も陽光に照らされている。

 

「…んせい! 次の会議こそ出席してください! 私だって忙しいんすよ!」

「……ふぉふぉ。いいかねミヤコ君、人生と世の中には、自然と生まれる意味がある。与えられるものもあるがね、今はいいじゃろう。さて、聞くところによると何やら転送門で事故が起きたらしいのう。珍しいことじゃ。それ自体とても珍しいことじゃが、珍しいから恐れるというものでもない。しかし儂もこうして先人たちと同様に老いさびて体も動かなくなり、些細なことでさえ朝日を覚えられるか不安になってしまう。そこに今君がいるということ、それこそに意味があるのじゃよ。度重なり非常に心苦しいことではあるがのう、たとえ代理という形であっても君が選ばれたこと、そこに意味を見出すことはできんかのう?」

「あっ、あっ、あっ…………はい」

「……ふぉっふぉっ。ではここまでにしようかの。子供と……珍客が訪ねてきたようじゃからのう」

「あっ、はい。……あれ?」

 

 首を捻りながら部屋を出て、カンナたちの横をメガネをかけた神経質そうな男が通り過ぎていった。

 カンナにはなんとなく理解できた。彼も苦労性だ……。

 

「……ふぉふぉ。入りなさい。ふむ、学園の服を着ているということは二人とも生徒じゃったか。ああ、構わず座りなさい、儂も礼儀の諸作法は知らんからの。君は森の子じゃな。雰囲気がようく似とるのう」

 

 部屋の主は長い髭を蓄えたやや身長の低い老夫であった。銀髪と白髪の混じった髪髭と、室内でも被ったままの黒いアトリエ帽以外は、導師のローブを纏った普通の人物である。やや口数が多いだろうか。

 

「あの、御子様を助けて頂きたく──」

「あっ、えっと、学園長様から書簡……? を預かっていて!!」

「……ふぉふぉ、まあ落ち着きなさい」

 

 説明もなく慌て気味に口を開いたアイリスにつられてカンナまでドタバタとレントリリーの走り書きを取り出そうとすると、アプトナディティスがゆったりとそれを宥めた。

 そもそも、互いの素性すら明らかでない状況である。不思議とカンナには彼が12区の学区長だという確信があったが、我に返るとアイリスと顔を赤らめながら自己紹介した。

*1
およそ東京〜静岡の移動

*2
半径3~4km




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