TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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本章の総括(中編)


第172話

 

 世間を騒がせた転送門の停止事故も、ひと月も経つころには話題に上がらなくなる。

 

 全学区における数日間の使用停止は少なくない混乱をもたらし非難轟々であったが、一度使えるようになってしまえば、転送門の安全性について尚考えようとする人は稀有なものだ。その裏で、未だに記憶を失ったままの少女がいたとしても。

 今でも、9区と11区の間だけは人の行き来ができない。しかしその程度となると瑣末な問題で、6区と7区の姉妹学区のように連携を取っているわけでもないから、周囲を見てみればほとんどの人間は元の生活を取り戻していた。

 

 あの人の友人、カンナから話を聞いてみても、自分の研究があるからそろそろ11区に戻ろうと思っているそうだ。学園長レントリリーに課された役目も、そろそろお役御免なのだろう。

 日常が帰ってきたのだ。

 それはコルキスもまた、同様に。

 

「恋人でもできたのかね」

「恋人、ですか……? いえ、特には……」

「うわぁー、タゲリせんせーそれセクハラですよ。……でも私も似たようなこと思ってたんですが、違うんですね。最近のコルキスさん、以前にもまして綺麗になってたから」

「本当ですか? 身嗜みなどはこれまで通りなのですが、そう言っていただけると嬉しいです」

 

 淑女としての仮面を貼り付け柔らかく微笑むと、研究室内の知人である少女はウッと胸を押さえながら「見た目っていうかふいんきが?」と述べた。

 

 変わったかどうかで言えば変わったのだろう。いや、変えられてしまった。

 あってはならないことであった。王を志す己が、「自分の意思」の介在しようのない次元で他人に在り方を決められてしまう。

 

「ふむ、まあなんであれ、以前より成果が減ってるわけでもあるまいし、いいのですがね。以前より鋭さは無くなったものの、焦りからも解放されたようだ」

 

 タゲリの言葉にコルキスは動揺した。妙に納得がいってしまっただけに、いっそう。

 落ち着いた、大人びたと捉えれば褒められたように思えるかもしれない。

 しかし、野心が無くなったと解釈すれば────心の中で歯噛みをする己がいた。

 

 学域を後にする。

 館に戻る。

 

 あの日。快楽に溺れて、深く沈んで、息継ぎも許されない底に繋がれたコルキスは、しかし不思議と、その後行為ばかりに耽るようには()()()()()()

 諌められたのだ。やらなければいけない仕事に研究があるのなら、その時間を削ることは良くないだろうと。

 誰にって、それはもう。

 

「──コルキス様、おかえりになったんですね。本日はいかがでしたか?」

 

 執務室に入れば、少女がいる。

 見る者全てに美という概念の更新を強制するような容貌。

 声音は柔らかく、一度聞けば心を揺さぶられ、二度目からは揺り籠のような安心を覚える。

 幽かの森に棲むと言われる精霊のひとり。観測隊の与えた称号は女王(ドローネット)。名はアンブレラ。

 

「アンブレラ様、ずっとこちらで待っていらしたのですか? お身体の方は……」

「いえ、帰ってくる時間をヴィオラさんから伺っていたので、お出迎えの準備をしていました」

 

 そうして新妻……間違えた、少女は、お茶と菓子をせっせと持ってくる。

 陶器から液体が注がれるとほんのり湯気が上がる。もしかしたらと思い自分で入れたのか問うたらそうだと答えた。

 そういった雑用(こと)は侍女がするべきなのだが……、それはそれとして、少女が己のためにタイミングを見計らって準備してくれていたという事実に胸が暖かくなる。

 感謝を伝えて頭を撫でると無垢な笑顔が返ってくる。女性の中では体格の良いコルキスからすると、小柄なアンブレラの頭は非常に撫でやすい位置にある。

 

 そのままの笑顔で、アンブレラはではと問い直した。

 

「今日は、どのようなことをされたのですか?」

 

 ごく普通の問いかけであるにも関わらず、コルキスはびくりと体を震わせて、しばらく黙ってから、ゆっくりと選ぶように口を開いた。先んじて漏れる吐息は熱い。一瞬だけ内腿を擦り合わせた。

 

「……午前中はまず、共同研究の相手会社と報告を兼ねた打ち合わせを……」

 

 立場と能力ゆえに、日々の業務は数も種類も多い。

 当然留学生として単位取得のために授業に出席するし、既に研究室に配属された身なので研究も行う。それとは別にタゲリから示唆された学園都市のこと(レークシアについて)を調査し、横の繋がりのために茶会に呼ばれもする。祖国へ提出するレポートを書いて、逆に祖国から届く自陣の声に指示を出し、あとはこの館の(あるじ)として承認すべき書類等々を確認。

 

 うんうんと横で相槌を打つアンブレラは、ひとつ言うたび「すごいですね」「えらいですね」「頑張っていますね」などとこちらの欲しい言葉を耳元で囁く。

 ちなみに、話をするためにお互いソファに着いたが、向かいにも席があるとか関係なくアンブレラは隣にいる。元はコルキスの勧めたことだったが。

 

 既に近い距離をさらに詰めて、甘い声は誘惑を歌う。

 

「大変なこと、嫌なこと、王女様として皆様のために頑張っているのは素晴らしいことだと思います。少しの間だけ『しあわせ』を……わたしからのご褒美です」

 

 知っていた。期待していた。もう何度も与えられたご褒美だから。そういう約束で、()()()()()()()()()()、頑張っていたのだから。

 話しているうちから期待で体の内側が疼いていた。何度も自分が他者の分析で用いた「できあがっている」状態に、己がなっていることを自覚していた。

 

 そういう全部を。

 己の浅ましさを含めて全てを理解できるだけの賢さがあったから、コルキスの側頭部に触れようとしたアンブレラの手を、震えながら、何度も躊躇いながら……そっと握って、止めた。

 あるいは、恩師であるタゲリの言葉が呪いのように耳にへばりついていたのかもしれない。

 

「……コルキス様?」

 

 当のアンブレラはというと、なぜ止められたのかが全く理解できないという表情で、きょとんとコルキスを見上げていた。

 それはそうだろう。アンブレラにとって快楽とはしあわせで、人は幸せのために生きていて、それを与えることに何の問題も存在しないのだから。

 他ならぬコルキス自身がそう教えたのだから。

 

「もう、やめます、こういうの」

 

 身体はどうしようもなく快楽を求めているのが分かる。

 本能に、口先と腕一本だけが抗っている。そのせいか、あまり多くを言おうと口をひらけば涙が溢れてしまいそうで、ゆっくりと片言で話す他なかった。

 

「わた、私は、王、だから。快楽じゃない、民の、ために、やらないと」

 

 タゲリが言ったように、コルキスは今も全ての面において結果を出し続けている。

 あるいは「ご褒美」を目前に吊り下げられたことで、これまで以上に成果を出すようになったかもしれない。いっぱい頑張ればいっぱい褒めてもらえるから。

 

 だが、「快楽のために努力をして、結果として民が救われる」のと、「民のために努力をして、結果(ご褒美)として快楽が与えられる」のではまるで違う。

 具体的には、快楽と民を天秤に吊るされるようなことになった時に、民を選べなければいけないのだ。

 

 コルキスには己の弱さを見つめるだけの強さがあった。

 だからこそ、今の「快楽はご褒美」という詭弁を自覚し、もはや己が快楽を得るためだけに日々の雑務をこなしていることに向き合った。

 

 それに対し、少女は。

 

「えっと、全部は分かりませんでしたが、素晴らしいと思います。コルキス様は変わろうとしているんですね」

 

 あっさりとそれを認めた。

 これには拍子抜けである。

 

「いいの、ですか」

 

 また己の弱いところに気付く。

 もしかすると、断られて、そのまま快楽に流されることを心のどこかで望んでいたのかもしれない。

 アンブレラに少し反論をされれば、きっとコルキスは諦めていた。反論の仕方は無数にある、これまでのコルキスの発言との矛盾を挙げば簡単だ。

 

「カンナさんを見ていて気付きました。人はきっと、その人が望むことをするべきです」

 

 コルキスが脱力すると、アンブレラは自由になった腕で横からコルキスを抱きしめた。

 顔の目の前に黄金(こがね)の髪が広がる。甘い匂いにくらくらするが──それだけだ。この続きは、ない。

 

 再び胸が暖かくなる。

 ハグというものはストレスを減らすらしい。

 そうだ、こういうのでよかった。アンブレラにはただ、側にいて、心を支えて欲しかった。だって、貴女が居るだけで幸せを感じる。

 

 どうにも下腹部は疼く。■きたがっている。

 それを堪えて、執務用のデスクに席を移す。アンブレラは微笑んだままソファで茶を楽しんでいた。

 

 今日は書かなければいけないものも少ない方だが、それでも毎日数件は有力な貴族などから招待が届く。国同士軽くいがみ合っているとはいえ、ソートエヴィアーカと繋がりを持っておきたいと考える者は多い。■きたいと主張する秘部を無視する。

 9区にあってよほど大事な相手でなければ基本は行かないことにしている。■きたいが、我慢。

 とはいえ理由を適当に書くのが面倒で、離れた学区ならそれを理由にしても良いが、あまりあからさまに断るよりは■きたいけれど■けない■きたい。■きたい。

 

「……っ」

 

 既に自覚はある。頭を使うことをやめて、なるべくテンプレート文をなぞるように手紙を書いた。

 今日は4枚だけでいい。書いて、書いて……1枚……2枚……。

 

 よし次は──■きたい。違う、時候の愛撫は、■かせて。違う。

 

 まともに文を書くことはほぼ不可能になっていた。

 耐えるように、顔を伏せて、ペンを握りしめて、少しでも疼きを落ち着かせようと深呼吸を繰り返すが、椅子に触れている部分からの振動だけで■きかける。

 この姿勢がいけないと勢いよく立ち上がる。椅子が大きな音を立てて後ろに倒れるが、どうでもいいと思えるくらい体の状況はギリギリだった。あの人が心配そうに何か声をかけてくれているのは分かる。でも、答える余裕がない。■きたい。

 

 ■きたい。■きたい。■きたい。■きたい。

 頭が狂いそうになる。狂っている。■っていいなら、狂ってもいい気がした。

 

 立ったまま机にしがみついて、浅い息を続ける。

 呼吸をやめたらおそらく終わる。一回そうなれば収まりが効かないのは予想できる。でもそれで■ったほうが気持ち良くなれるんじゃない? うるさい殺すぞ。■かせろ殺すぞ。

 

 ■くデメリットは? 一旦落ち着けるし良いんじゃないか? お前王だろ。快楽より絶頂を優先しろ、違う、民だ。■きたい。ああ、■きたい。

 私は王だから、(みんな)のために、なァ。

 

「がっ、ぐ、うぅぅ……っ、うぅっ、うぅぅう……っ」

 

 すぐ側にあの人がいることも忘れてしがみついた机に涙を溢れさせる。

 先ほど書いた手紙もダメになっているかもしれないけれどそれすら気にならない。

 

 悔しくて悔しくて、情けなくて、■きたい気持ちで狂いそうで、理由は一つに絞れないけれど、とにかく涙が止まらなかった。

 性感帯がどうとかそんなことを無視した、人間が受領できる最大の快楽を流し込まれるあの感覚を、どうか。

 

 あ

 

「コルキス様……大丈夫ですか?」

 

 終わった。

 

 よほど私が倒れそうだったのだろう。

 肩を貸すように懐に入って支えるアンブレラ。

 胸が体に押し当てられ、右手は脇腹を掴み、声は鼓膜を揺らす。

 

 触れられた瞬間に絶頂を迎えなかったのは、諦めたからだ。

 天秤の傾きが決まってしまった。

 

 上体を起こして、体を支えてくれている少女を壁際に押し付ける。

 右手を取って秘部に触れさせ、左手を取って側頭部に触れさせる。

 何かを察したのか、少女は少し悩んでからそのまま右手指をぬるりと滑り込ませ、私のナカで一番弱い場所を抉るくらい強く押し込んだ。

 

「……ぉ゛っ❤︎❤︎❤︎」

 

 すっかり耐性の無くなってしまったこの身体は、準備ができていたこともあいまり、なすすべもなく■かされた。唸り声のような嬌声が漏れる。

 相手の耳元で、泣きながら絞り出すような声で懇願した。

 

「……■かせて、ください

 

 えっと、でも、と先ほどの私の発言を慮るような迷い方。

 それでも「こちらが望むなら」と、ほとんど間を置かず決めたらしい。

 

「はい!」

 

 表情は見えなかったが、満面の笑みで、いつもの無垢な微笑みを浮かべて返事したのだろう。

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