TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
「コルキス様。記憶、戻りました」
コルキスが帰宅するなり、執務室で待ち構えていたアンブレラは警戒心をあらわに宣言した。
おや、と少しの動揺。想定の内ではあるが唐突な展開に、初動を間違わないべくすばやく相手の様子を観察する。
ネグリジェやゆったりとした部屋着とは違い、11区の制服を着込んでいる。肌面積の少なさは防衛策として間違ってはいないのだが、袴の上に乗るように強調された胸で台無しだ。
記憶は統合される形で残ったのだろう。やんわりとした拒絶は、逃げ方も分からないから交渉でどうにかしようという魂胆だろうか。この少女に交渉ができるかはともかく。
「まあ! それは良かったです、12区にいるアイリスさんにもお伝えしないと」
「……ち、近付かないでください!」
手を合わせてニッコリと微笑みながらアンブレラに寄ると、気弱にこちらを睨みながら少女は後ずさる。
騙された、と感じているのだろう。しかし残念ながらこの部屋の出入り口はひとつなわけで、後ろに下がるほど追い詰められるというものである。
「どうして、あんなこと」
「あんなこと?」
「その、えっちな、こと……」
「そんな、私はただアンブレラ様と仲を深めたかっただけです……」
「え、そ、そうなんですか……?」
恥ずかしそうに自らのされたことを思い出すアンブレラに真剣な表情で返事すると、疑念の目は維持しながらも少し動揺したようだった。この森人チョロすぎる。流石にもう少し疑え。
「いやまさかそんなわけ……でも人間って……」などとブツブツ呟き始めた少女に一抹の不安を抱きつつ、よそ見はいけませんよと距離を詰めた。
いつの間にか壁際まで追い詰めていたらしい。
ハッと気付いて顔を上げたアンブレラは、壁とコルキスに挟まれて逃げ場を失った事実に表情を固くする。
「それで、アンブレラ様はどうされるつもりだったのですか?」
「か、帰ります! 11区に!」
「へェ」
圧迫感のある笑みを作りながら問いかけると、少女は震える声で叫んだ。
向こう見ずさ。負けん気の強さ。意志は強いが、考えなしで、交渉ごとに向かない性質。そんなところも愛おしくてただ相槌だけを打つと、アンブレラはびくりと怯えるように体を震わせた。
少女の脚の間、袴を壁に押し付けるように膝を差し込み、右手を壁に付くと、顔と顔の距離はほとんどなくなった。
森人の特徴的な長く尖った耳に口を寄せ、敏感なそこに囁きながら膝をぐりぐりと動かした。
「いいんですか、帰ってしまって?
「耳、やぁ……っ❤︎❤︎ か、えりま……っ❤︎ んっ、ぁぁ……っ❤︎❤︎ かえ……っ、ゃだあ❤︎」
布越しに、膝の辺りが熱く湿ってきているのを感じる。
あんまりに弱すぎて心配になる。こうなるよう反射付けさせたところはあるけれど。
「囁かれるだけで、感じてしまうんですものね。えっちなこと、大好きですものね」
「ふぁっ、…………んっ…………んんっ❤︎❤︎」
「お膝でお股ぐりぐり、ぐりぐり、ぐりぐり……。ねぇ、ビクビクしましたね。そういう時はなんて言うんでしたか?」
「……っ、は、……ぁっ❤︎ …………き、まし、た……っ❤︎❤︎」
ほとんど頭が働いていないだろうに、躾けた報告だけはしっかりと返ってくる。
その事実に薄く微笑んで、とろんとした目の少女と唇を重ねる。抵抗らしい抵抗はなく、舌を中に入れて
あっという間に陥落した意志の薄弱さに苦笑しつつ、口を離して「帰りたいですか?」と問い直した。互いの唇の間にかかる銀の糸のような橋がきらりと光を反射する。
返事はない。
しかし、代わりとでも言うように、小さな赤い舌が精一杯前に突き出された。
嗚呼、都合がいいなァ。
都合がいい。
だからきっと、これは夢だ。
「……なんつぅ夢見てんだ」
最悪の寝覚めだ。
こうなったら楽でいいな、という自分の願望が多大に含まれている夢。可能性としてあり得なくもないが、最悪の場合は帰ってきたら館が吹き飛んでいることだってあり得るのだ。希望的観測といえよう。
しばしの自己嫌悪。そして本来ならどう対応すべきだったかという分析がはじまり、次第に胸の奥の方から喪失を恐れる不安感が増してくる。
不安。ただただ、今の状況から変わってしまうことが恐ろしい。
現状維持が唾棄すべきものであることは分かっている。11区、特にアンブレラが生活していた環境の周りにシンパを配置するなど、外堀を埋める作業も片手間に進めている。
前例のない記憶の失い方をしたということは、治り方だった前例をアテにできない。
夢に見たような、唐突に治ってしまうことだってあり得る。
その治り方も、記憶が統合されるのか、何かが失われるのか、まるで分からない。だから全てに備えておく必要はあるが、その分だけ心労と対策は苦しいものになる。
このまま記憶が戻らずぬるま湯のような日々が続くのが一番楽だ。
けれども、それではコルキスが本当に欲しいと思っているものは手に入らなくなる。
あの写真を初めて見たときの、雷に打たれたような感情を忘れられない。
「……アンブレラ様?」
側にアンブレラがいなかった。
まるで目覚めて母親のいないことに惑う赤子のようだが、同じ床に就いたはずの少女を見失ったことに気が付いて、何かに駆られるように探し始める。
どこだ。どこだ。どこだ。
この不安感は夢のせいだ。分かっている。
けれども、もしも記憶が戻って、捕まらないように魔法を使って逃げ出したのなら。
どこだ。
「わ……っ。こ、コルキス様?」
ほとんど服も纏わず、ローブだけ羽織って扉を開けた途端、ちょうど扉の取っ手を掴もうとしていたアンブレラと鉢合わせた。頬が上気していて、髪が少し湿っているように見える。
「アンブレラ様、どちらに?」
「ええっと……、その、昨晩はたくさんそ、粗相をしてしまったので、身を清めてきました。……その、間違っていたら申し訳ありませんが、部屋の外に出る時は服を纏ったほうが良いと聞きました……」
「あ、ああ、はい。すみません、寝ぼけてしまっていたようです……」
絶賛記憶と常識が抜け落ちている少女に常識を教えられてしまった。
コルキスのいる部屋の周辺は側近の侍女ら以外はやってこないので多少扇情的な格好だろうが支障はないのだが、服を着ろと言うのは至極まっとうなご意見である。
ぼうっと立ち尽くしてアンブレラを見つめていると、少女は不思議そうに首を傾げた。
その姿に、ほぼ無意識に抱きしめていた。それまでの不安感が少し薄れ、心が満たされていく感覚を覚える。
「コルキス様?」
それでもまだ少し不安が消えない。
小柄なアンブレラに対し覆い被さるように抱きしめている状況だったが、鼻先を首筋に沿わせ、首の横のあたりを強めに吸った。
ん、と艶やかな反応が返ってくるが、基本的には為されるがままの少女。その首元から顔を離すと、白くきめ細やかな肌には、内出血で赤黒い跡がクッキリと付いていた。
「……ごめんなさい、ようやく少し落ち着きました。よくない、夢を見て」
抱きしめた状態から手放すのも惜しいような気がしたので、くるりと回すように持ち上げていわゆるお姫様抱っこの状態にする。あわわと驚く少女だが、既に何度かやったことのある体勢なだけにすぐに腕の中に収まった。
部屋に戻ると、そっとソファに腰掛けさせてやる。
気持ちとしてはアンブレラは身を清める必要などないと思うのだが、少女自身が清潔さを好むのであれば口を出すべきところでもなく、その代わりのお願い事をコルキスは口にした。
「本当は、ひと時も離れたくありません。どこかに行くのなら、一緒に行きたいです。……ご迷惑ですか?」
いいえと少女が答えるのは分かっていた。卑怯というか、しょうもない問いをするものだとも自分を恥じた。
それでも生まれた願いに抗うことは困難だった。
記憶を取り戻してしまうのなら、そのときは隣にいてほしい。
嫌われる時も、拒絶される時も、あなたの心が動くとき、隣でその機微を感じていたい。
これはきっと、恋なのだろう。