TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
「あー、私の所属する研究室から手紙が届きまして」
相談がある、と言って休日の午後に執務室を訪れたカンナはそう切り出した。
コルキスにとって休日とは学外の執務をおこなう時間である。お国から指示された通りに学園都市の調査内容をまとめるなど、
その上文字通り命を狙いにくる弟陣営の間者も居たものだからやってらんねェと言いたいが、なんだかんだ仕事も刺客も処理できてしまっていた。腹立たしいのは、ソートエヴィアーカ王が捌けるギリギリを見極めて仕事を振っていそうなところである。試練を与える神気取りなのだ。あのクソは。
そんな間者どもも丸め込んである程度落ち着いた環境を構築できた今だが、こういう隙に足場を固めなければならず、国の仕事も相まって休みの日は今日も返上していた。
アンブレラのために捻出した三日という時間は実のところ非常に貴重なもので、だからこそ後ろの二日間弄ばれ続けたのは、時間の損失という意味でもアンブレラの籠絡という意味でも失敗だった。
思い返すだけで腹が疼き顔が緩みそうになる。気取られぬよう、しっかりと表情を取り繕って向かいに座るカンナを見つめた。すっかりと作り変えられた脳の報酬系は既に反応を終えていたが、気の狂いそうなほど疼くそこは、応対が終わったらすぐにでもあの人に慰めてもらおうと堪えることができた。
「昨日届いていたものですね。相談しにいらっしゃったということは、そこに何か重大なことでも?」
「えっと、はい。まあその、私にとって重大なだけでコルキス様はどうでもいいと思われるかもしれませんが、その、簡単に言うと、帰ってくるなと」
「帰ってくるな……? たしかに11区への転送門は使えませんが、移動自体は馬車で数日あれば可能です。何かあちらの研究室で問題でも起きたのでしょうか」
「あ、いえ、すいません言い方が悪かったです。事故とかあるいは嫌がらせとかじゃなくて、どうもこっちのタゲリ教授のところと共同研究をするみたいで、丁度良いからそれやっといて、と」
タゲリはコルキスの所属する研究室の教授である。
変わり者の多い導師の中では珍しく穏やかで理性的な性格の好々爺で、王女であるコルキスが配属されるだけあって学園都市内での地位も高い。しかしレークシアという学園都市の黒歴史を紐解くようコルキスに仄めかすなど、いまいちその内面を掴み取ることはできていなかった。
研究室内の繋がりは緩いものであり、職務のように何から何まで報連相が徹底されているものではない。
そのせいか共同研究やよその学生が入ってくるという話はされた覚えがなく、コルキスは続きを促すように相槌を打った。研究とはある程度計画的に行われるものなのだが、「丁度良いからやっといて」は信頼されすぎというか、少し都合良く扱われすぎていないかとカンナが心配になる。
「胸張って言うことじゃないんですけれど、私はあまり研究のモチベーションが高くないので先生に勧められたテーマをそのままやることが多いんです。それで前までの内容は一段落ついてるから、次の内容どうしようかなって思ってたんですけど」
カンナは学生としてはあまり褒められた部類ではない考え方をしているらしい。
が、実際のところ学生の半分はこんなものである。さらに、学園都市の気風か3割ほどは意欲的であるものの、残りの2割に至っては研究はほとんどせず遊んでいることもある。
「……正直なところ、タゲリ導師は基本的には優しいのですが、研究に関しては結果を求める厳しい方でもあります。意欲的でないとなると、少し辛い思いをするかもしれません」
「あー、ですよね……。というかうちの先生が緩すぎると思うんですけど、なんでタゲリ導師と研究する話になったんだろう」
己の思惑も混ぜつつ、しかしほとんどは本気で心配するつもりでカンナにアドバイスをした。
アンブレラの依存先を自身に限定させたいコルキスとしてはカンナに帰ってもらうのが望ましいが、それを差し置いてもノリでどうにかなるほどタゲリは優しくない気がする。
カンナの能力がどれだけ高いのかは分からないが、本当に優れた研究者というのは学生であっても名前が轟くものだ。カンナについてそういった噂は聞いたことがない。
共同研究の足掛かり(成果よりもノウハウの蓄積が求められる役)とはいえ、やめといたほうがいいんじゃないかというのがコルキスの素直な感想であった。
「詳しいことはタゲリ先生に聞けって書かれてたのでそれも踏まえて考えるつもりではあるんですけれど、うちの先生にはかなりお世話になってるので断りづらかったりもするんですよね……世知辛い……」
カンナが彼女自身の教授に頭が上がらないなどの事情もあるらしい。
ほとんど受け入れるつもりなのだろう彼女は。
そうなると、口には出されていないが、彼女が本当に相談したいことは別にある。
つまり、住まいの話だ。
元々は10日程度の予定だったのが、
ほとんどは向こうにいたわけだからそれについて文句はない。むしろ、一介の学生であるのに奔走してくれたことには感謝すべきですらある。
もうそろそろ帰りますという話もしていたし、円満に送り出せる雰囲気が整いつつあっただけに、9区への滞在期間延長というのは苦い顔をしたくなる。
カンナは適当に経費で宿代を賄うつもりかもしれない。が、コルキスが快く滞在期間の延長を申し出てくれるのを期待する気持ちもあるのだろう。
研究室の話など他愛ない会話で間を繋げつつ考える。
先も述べた通り、基本的にこの少女は邪魔だ。倫理的にも、流石にこれ以上は面倒見きれないよと叩き出しても問題ない。
しかし躊躇してしまう理由の一つに、コルキスの外面があった。
これが一般家庭で面倒を見ているならともかく、コルキスは王女で、この館はソートエヴィアーカの資産だ。直近まで住まわせていて、今後も同じ研究室の一員となるかもしれないというのに「もう面倒見れません!」と言ったとなると、「ソートエヴィアーカ結構カツカツなのかな?」と学園都市の肥えた豚たちが首を傾げる。
また、コルキス自身が「慈愛に満ちて懐の広い王女」という宗教でも開けそうなイメージ戦略で日々を演じているだけに、そこに邪推の余地を生ませたくない。
「ところで、その」
突然、話をぶつ切りにしてカンナが口を開いた。
一旦思考を止めて、切り替わる話題の方に注意を向ける。
「その、あー……、なんというか、そこのアンブレラ、重くないですか? 大丈夫ですか?」
カンナはコルキスの太ももに視線を向けた。
三人は余裕を持って座れそうなソファがローテーブルを挟んで向かい合い、コルキスとカンナもまた向かい合って座っている。
しかし、コルキスの上には最初から──カンナが執務室に入室した時点からずっと、一人の少女が太ももを枕にすうすうと死んだように眠っていた。
あぁ、ツッコミ入れるんだなァとコルキスは意外に思う。なにせ、これまですべてスルーされていたわけだから。
「カンナさんがいらっしゃる少し前までは起きていらっしゃったのですが、やはり未だに唐突な入眠をしてしまうようです。申し訳ありません、人の応対をする態度ではありませんよね……」
「いえ、事情は想像つきましたし、礼儀で言えば私なんて敬語がボロボロなので気にしないでほしいんですが……ただそろそろ数十分話しているので、足が痺れてしまうのではと心配になっただけです」
「ご心配ありがとうございます。相変わらずお優しいのですね」
謝罪と御礼、真っ直ぐに微笑みかけると、光に当てられたカンナは顔を赤くして「へっ、へへっ」と笑いのような何かをこぼした。淑女らしからぬ笑いだが不快感はなかった。
実のところ膝枕をしている説明には一切なっていないのだが、誤魔化せたようである。チョロい。
触れている部分から魔力が染み込んでいるのか、コルキスの下半身には常に微弱な快楽が走っている。
それでも眠る少女に枕してやりたい感情のほうが優先された。常に内壁をゆっくり撫でられているような快感に悶えながらも、おくびにも出さずにカンナとの会話を続けているのである。
膝の上で眠るこの少女がいなければ、まともに生活もできないくらい体と脳を壊されてしまった。
それでも愛おしい。それだからこそ愛おしいのかもしれない。体に必要な栄養素を求めるように、根幹的な部分まで少女に依存してしまったのかもしれない。
良いことだとは思わない。それでもこれが秘宝を手にした代償なら、すべて抱えて生きていく。
すっかり気持ちが昂ってしまって、カンナがいなければこのまま眠るアンブレラの耳元で愛を囁き始めたいくらいに胸の奥から愛情が溢れてくる。
辛い。苦しい。この衝動に抗うことはまさに不幸だった。
好きですと一言、届かない耳元に囁ければいいのに。……きっと一言では止まらないけれども。
やっとの思いで、そっと右手で頭を撫でた。そこまでに控えた。こんなことですら誰かと会話している時にするものではないが、カンナはそのことについて何も言わなかった。
カンナは邪魔だ。
けれど、嫌いなわけではない。
むしろ好ましい。
愚かでなく、しかし口うるさく干渉してくるわけでもない。
世話焼きな性格だが、自分の代わりに誰かが世話役をやるなら一人で過ごすことを選ぶ孤独体質。
何より、正直だ。嘘をつけないと言ってもいい。
それは彼女の芸術家気質な内面に由来するのだろう。
嘘吐きに囲まれて生きてきたコルキスにとって、信用とは文字通り腹の中まで自分で確かめた侍女たちだけに向けるものだ。
しかしこの少女は、悲しいほどに嘘がつけない。信用とまではいかないが、扱いやすく、また裏切る時も明確に判別しやすい良さがある。
だから、カンナ・アルタイズは、非常に好ましい邪魔者だ。
まァ、いいかと思いかけたタイミングで、夢を見ているかのように焦点の合わない目をこちらに向けてカンナが口を開いた。
「あの、足がしばらく平気なら、描かせてもらってもいいですか」
そう言って懐からスケッチ用の筆記具を取り出す。
あまりの唐突さに、コルキスは思わず目を丸くして固まってしまった。
「……ふふふっ。ねぇ、カンナさん」
「あっ、す、すみません! いいわけないですよね! あーあー、この口と体が勝手に!」
「ふふ、いえ、構いませんよ。9区にいる間、どうぞこれからも我が家で過ごしていってください」
「あ、良いんですか? じゃあ遠慮なく……」
おそらくは、絵を描くことの許可しか聞こえていなかった。
許可が出るなり
「わぇぅ!? 良いんですかァ!!?」
素直で、嘘がつけない。
こういった手合いは心酔させれば非常に使いやすい駒になる。
そんな名分を己に言い聞かせるように唱えて、コルキスは微笑みを返した。
白猫が傘の腹の上に寝に来て殿下と睨み合う展開もありましたが、よく考えたら乗った瞬間に絶頂する猫が生まれてしまうのでカット。
でも多分既に傘の自室に忍び込んで絶頂した猫はいるんだと思う。猫と人の快楽の仕組みが同じかは知らないけど……。