TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
『もう勉強飽きたぁー』
幼い頃の私は、市井の子らと変わらず生意気で甘ったれた姿を身内に晒していた。
要領は良かったから内と外での態度は使い分けていた。
特に、当時は私一人しか跡取りとして表に立てる人間がいなかった(弟は幼児であった)ため、普通よりも社交の場に立つことが多かったように思う。
それだけに、後宮での姿を知らない者からは最高傑作という評価すら受けたことがある。
才気に溢れ、私自身それを自覚していたから表情にも自信が滲み出ていたことだろう。
一部の保守的な立場からは男児であればという声もあった。歴史上女性の王はそう多くない。酷い失敗をしたというわけではないが、国が栄えた時代の王は、時代柄か強い男が多かった。
ただ、実のところ、子供がそうやって「子供らしい」姿を晒すのは、子供が子供で在るからということ以上に、周りが子供に「子供であること」を求めるからという要因の方が強い。
だってそうだろう、子供らしくなければ気味悪がられるのだから。
大人が社交界で気障ったらしく振る舞うように。老人がいつの間にか一人称を変えるように。
「個人」というものの大部分は、己が決めたことよりも環境で決まったことの方が多い。
だから、母上を喪った私は、その環境の変化に合わせて在り方もガラリと変わった。
誰も私に子供であることを求めていなかった。
それを察知できてしまうだけの勘の良さが備わっていた。
『俺ぁ話すのは好きだぜ。なにせ普段は一人仕事ばかりだからな』
『そうですか? こちらの手を煩わせないのであれば助かります。ではまず、普段の仕事について教えてください』
『いいぜ。でも俺が話したらアンタのことも教えてくれよ。オヒメサマってのは普段何をしてんだ?』
その男はほとんど裸同然で拘束もされていたというのに、実に自然体で過ごしていた。
目隠しをされた上で声だけで私を判別できていたあたり、やはり諜報の類の人間なのだろう。
本によると、尋問官の選びうる択は「質問をする」か「苦痛を与える」の2つのみであった。
どの本も基本的に尋問中の会話は最小限に留めるようにとあった。おおよそ情を生まないためだろう。
その上で、この男が今提示したような「会話と引き換えに情報を提供する」という条件にどう反応すれば良いかまだ未熟な私には判断できなかった。
よく分からないので、爪を一枚剥がした。
振り返ってみれば、私怨混じりの尋問だったのだ。拷問と呼んで差し支えない。
結果的な対応としては正しいのだが、結果までの経緯は望ましくないものだったろう。
『……っ、てぇ……。へへ、爪の手入れが得意ですってか? そういえば貴婦人の方々って爪が綺麗だよなぁ。目隠しを解いて見せてやくれないか?』
『……普段の仕事について教えてください』
『構やしないって。だから目隠し解いてくれよ。綺麗な御尊顔を拝みてぇんだ』
なぜこうも学ばないのだろうかと不思議に思った。
こちらの問いに素早く答えなければ痛みが増えるだけなのに、なぜと。
だから、もう一枚爪を剥いでから、一拍置いて目隠しを解いた。
この男からは交渉しながらの方が情報を引き出せるかもしれない。
眩しさを堪えるように薄く目を開いた男は、一目こちらを見て口を開く。
『嗚呼。やっぱり綺麗だ』
男は比較的整った顔立ちをしていた。目つきは少し悪いが、浮かべた笑みはサマになっている。
とはいえ、こちらは肉親を殺された直後で、悲哀と殺意、あるいは決意をドロドロと濁らせ、それを他者に気取られぬよう何重にも仕舞い込んだ状態である。
出会い方によっては友人にでもなれたのかもしれないが、いま生娘のように顔を赤らめるというのは演技でもできなかった。
『んじゃあ、約束通り話そう。そうだな、俺ぁ普段──』
少し意外だったのは、男が宣言通り情報提供しはじめたことであった。
また軽口を叩いて、のらりくらりと尋問を躱していくかもしれないと想像していたのだ。
そう重要な情報をもたらすわけではなかったが、こちらの知らないことも出てくる。
連続する尋問に心が疲弊していた。楽に情報を得られるならそれに越したことはない。
『なぁ、なんでオヒメサマご本人がこんなことしてんだ?』
『それは……知る必要のないことです』
『いいじゃんか。もう分かったろう? 俺ぁ普通になんでも話すよ。どうせこの後死ぬんなら、可愛いお嬢さんとの雑談くらい許してくれよ』
間者としてはどうなんだと思う発言もあったが、こちらの立場からはメリットしかない。
少し気の抜けた私は、男が無駄口を叩くことを多少許していた。
『母上……自分の母親が殺されたのだから、自分の手で解決しようとするのは変なことでしょうか』
『なるほど、ね』
このとき男は感慨深そうに頷いたが、浮かべていた笑みの理由は知る由もなかった。