TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
ロリ殿下☆ごーもんちゅう!
父上が言った。
『王を目指せ』
母上が言った。
『王になりなさい』
だから目指した。
目指す意義も理由もなかった。
それを蒙昧に目指す日々は、きっと最良だった。
男の身辺についてあらかた暴き終わった頃、雑談と化した尋問はある問いで一変した。
既にここまで話したのだからと、私は半ば信頼すらして男に尋ねた。
『では、実行役は誰だったのでしょうか』
『……ック』
『……? どうしましたか。久しぶりな気もしますが、一枚いただきますね』
間髪入れず爪を剥いだ。
身悶えする男だが、口角は上がったままであった。
『……ク、ク。どう話すかなと思ってたけど、あァ、まあもういいか』
『質問には簡潔に答えてください』
『アハ、だからさ、俺だよ。俺が殺したんだ』
なんでもないことのように薄笑いを浮かべて答える姿に、最初は脳が理解を拒んで停止した。
数瞬経って理解したとき、頭の血管が切れて死んでしまうのではないかと錯覚するほどの眩暈がした。
『クヒャ、ヒヒッ、嗚呼その顔が見たかった。いやまぁご存じの通り死因は服毒だけどさ、渡したのは俺だよ。避妊薬ってな』
『避妊? 母上は──いや、母上が不貞などするわけ』
『してたけどな。まあ俺ァツラは悪くないし、話が上手くて床も上手いから』
『貴方が……っ』
感情の濁流は止まるところを知らず、怒りと動揺から言葉は続かなかった。
反射的に男の首を絞めていた手は、折る寸前まで力んでいた。
一瞬我に返り手の力を緩めると、男は咳き込みながらも愉悦に顔を歪めて言った。
『そうさ! その顔だ。最高傑作サマのしょうもない姿が見たかったんだ俺ァ!』
尋問を始めてから一番の笑顔で、しかし一番醜悪な笑顔を浮かべて、男は喜んだ。
想像するまでもなく、男は性格が最悪なようだった。
美しいものを歪めることに幸せを感じる性質を持っていて、捕まった時点でその目的はどれだけ私の心を壊せるかということにシフトしていたようだ。
『出会い方が違ったら、なんて少しでも思ってくれたかなァ! 信頼でもしたか? 何度か甘い言葉も吐いたけど、少しでも好意を抱いてくれたなら最高だね。嗚呼、母親もそうだった。10回も通い詰めたら簡単に抱けたよ。王族■■■チョロいなぁ!』
男は続けてどれだけ母上の体が良かったかをしみじみと語ったが、知識はあっても年齢の追いつかない私にはほとんど理解ができなかった。いや、脳が理解を拒んだ。
腰が抜けて、冷たい石の床にへたり込んだ。実のところ若い男と関わったことなんてなかったから、男の言った通り淡い感情くらいは生まれていたのかもしれない。
それが、ドロドロとした何かに踏み躙られ、幼い身に受けるには余りある傷を刻まれた。
ところが、怒りと恐怖で震えていた体が、ある一線を越した途端ピタリと震えるのをやめた。
体は冷めていき、涙は跡だけ残して引いていった。
防衛機制のように、体が心を守ろうとしたのかもしれない。
そしてその体に備わっていた脳は、ソートエヴィアーカの史上最も優れていた。
『貴方に──いや、アンタに誑かされた母様は、結局人間だったんだな』
ぽつりと呟くように言った。
けれども男の耳には届いていただろう。
私の言葉を、反応を、一字一句残さず楽しみにしていたはずだから。
『なァ、なんで私が最高傑作だのなんだの呼ばれるか想像できるか?』
『簡単さ、全部分かっちゃうんだよ』
顔はほとんど伏せたままで喋っていたが、肌に伝わる空気の震えから、男が表情を変えたことを私に教えてくれた。
期待していたものと様子が違うからと、怪訝な表情でも浮かべていたのだろう。
『アンタが今一番嬉しいのはさ、私がここで壊れることだよな。ショックを受けて、取り乱して……』
『分かるよ。うん。だから、それはしない。あァ、口調? これは単に……ヒトじゃないものに敬語使っても仕方ねェだろ?』
男は苦々しい表情ながらも笑みは浮かべたままでいる。
この感情も、分かる。
男は気付いているのだ。どう言い繕おうとも、私のどこかは今この男に壊されてしまったということを。
けれども望んだ方向に壊れてくれなかった。どうにも不満の残る方向に進もうとしている。
嫌だよなぁ。今までは全部上手くいってたもんなぁ。
嘲笑って人生終えれたら最高だったろうになァ。
アンタの本性はわかったよ。
人心掌握がお上手ですね。自分より能力が高い人間に
『まあでもさ、やっぱ感情はあるから、誰も見てないこの場で発散するな? これは東の国でよくある手術らしいんだが、王の側近は発情期をなくすために去勢手術を施されていたそうだ』
その後の尋問で男はめっきり口を開かなくなってしまった。
せめてもの抵抗なのだろうか。それも分かってしまうけれども。
『で、指示したの誰? いやうん、聞いてみただけ。ハゲのリパーリアだよな』
最初のうちは反応を見せなかったが、答え合わせをするかのように次々と秘密を言い当てていくと、だんだんと信じられないものを見るような目でこちらを見始めた。
男自身からは核心的な情報は引き出せていなかった。それでも、男の出した情報と、それ以外の捕らえた者から得た情報で答えは得られた。
『本当はさ、尋問なんてわりとどうでもよかったんだ。ただまァ、やって良かったよ。進むべき道が決まった』
汚い人間が沢山いることに気付いていた。
浅ましく悍ましい精神の持ち主が蔓延っていることを分かっていた。
それでも、優しく美しい世界で生きていた私は人を信じていたかった。
それは最良の日々だ。何も知らずにいること。無垢なままでいること。綺麗なものだけが目に映る世界で死ぬまで生きること。
母上が亡くなったいま、私の最良の日々は過ぎ去った。
私はこれから、汚いものを直視して生きていかなければいけない。
しょうもない生き物がいることを理解して生きねばならない。
『王になるための準備を手伝ってくれて助かったよ。
『大っ嫌いな
執務をする手を止めて、机の引き出しから小刀を出す。
刀身を剥き出しにして首に添える。手の震えはない。いつでも引くことができる。
ただ、頭にはずっとあの人の姿と声が巡っている。
「ヴィオラ、私は甘くなったか?」
少し緊張した面持ちでこちらを見つめていたヴィオラに、何気ない口調で問いかけた。
ヴィオラは表情を殺した顔で、静かに尋ね返す。
「あの人と民、どちらかを失うとしたらどちらを選びますか?」
「……」
「即答できないのなら、変わってしまったのでしょう」
反論の余地はなかった。
なにせ、十分すぎるほどに自覚症状があるのだから。
「変わってしまったのなら、そのときに首を掻き切るつもりだったんだがなァ」
変わること。それ自体は悪ではない。
悪いのは、昨日の自分との約束を守れなくなることだ。
生まれて、自我が芽生えた時から連綿と続いてきた「昨日の自分との約束」を破ること。
まだ死ねる。
まだ約束は果たせる。
どちらを優先することもない。貪欲に、両者を己のものにすることを選べる。
それでも、明日の自分があの人だけを選んでしまわないと信じることは、もうできなかった。
「これ、渡すよ。知ってるだろうが、少しでも擦れば私を殺せる」
護身用と銘打っていたその小刀をヴィオラに投げ渡す。
まあ実際護身に使えなくもないのだが、本当の用途は自害のためのものであった。
竜の血を引く私だからこそ致死に至る、ある種の「毒」を練り込んだ刃。
「私がさっきの問いにアンブレラと答えるようになったら、殺してくれ」
「承りました」
恭しく頭を下げる。
こうして誰かを頼るようになったことも、きっと変化だ。
「お前が居てくれて良かったよ」
いつでも私を殺せる、私の大切な従者。
(これな、本来2話前からひと繋ぎ1話で投稿する予定の内容だったんじゃ)