TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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エルフの魔力と出産・寿命の秘密は分かんないことが多いね。でも、そんなん調べる研究者系主人公よりも、僕は寿命いっぱい美少女たちとにゃんにゃんする勝ち組エルフ主人公になりたい。

エルフが魔法に近い存在、というのにはわけがある。

 

魔力とは酸素のようなものだ。皮膚呼吸のように体外から摂取し、そしてまた吐き出す。身体が酸素を無限に貯めることがないように、また、逆に生きている限り枯渇してしまうことのないように、魔力も体内と周囲を循環し続ける。

 

しかし、たとえば肺の大きさのようなものだろうか? 人も蓄えられる酸素の上限量というのは最低限決まっている。その上限値を求める方法があるのかは正直知らないし、普通に生きてきた日本人だったら気にしたこともないだろう。

それと同じく魔力を溜められる総量、すなわち器の大きさも決まっている。ではその器はどこで決まるかと言うと、母親の胎内にいる間である。

 

この世界の医学書などは触れていないのでよく分からないが、エルフの生殖の仕組みは殆ど人間と変わらないと考えていいだろう。そうして作られた受精卵には、エルフ、あるいはこの世界の人間の場合、両親のDNA以外にその魔力も含まれている。

栄養が母体と幼児を循環するように、魔力もお互いを循環する。そうして親の器の情報を元にした器が(かたど)られるのだ。

 

ただしこの理論のみだと、二人以上の子供を生んだ時に魔力量が分配される理由がわからない。何人子供を作っても、毎回含まれる魔力の器の情報は変わらないはずなのに。

その辺まで理解出来ている人はほぼいないらしく、慣習的に一子のほうが魔力量が多いと受け止められている。僕としては真名による魔力的な繋がりを推したいが、はたしてそんなこと研究している人はいるのだろうか? もっとも、僕が調べようとは思わないが。せっかく不老の種族に生まれたんだ、おにゃのことにゃんにゃんしたい。

 

魔力に満たされた母胎で育つからか知らないが、結果的に細胞まで魔力漬けの若作り生命体ができる。

どうもこの魔力が不老に影響するらしい。老化とは身体の酸化だ。それを食い止めているのか、あるいは酸化してしまった細胞を戻しているのか。

なにはともあれ魔力の性質として老化に対処するものがあるらしく、結果的に老化の始まる20~30代で見た目の変化が止まってしまうのである。一番脂の乗った時期ですね、げへへ。脂ってさ、にくづきに旨味って書くんだよ。つまり肉体の旨味……、漢字ってえっちだあ……。

 

生まれ、そして成長する過程の話はこんなところだ。

そして、当然エルフにも死は訪れる。では、そんな不老体の死に方はどんなものだろうか?

 

人間の望ましい死に方としてしばしば挙げられる老衰。まあ実のところ老衰自体ガバガバな概念なのだが、これは身体の老化あってこその概念だ。死んでいった細胞達によって、まるで寂れた商店街のように少しずつ身体機能が失われていく。それを知って本当に望ましいと思うかどうかは人それぞれだが、肉体に依存する分、他者との繋がりに関係なくその生の長さは多様だ。

 

しかしエルフは違う。僕らは、新しい子供が生まれる直前に死ぬ。

 

正確には、自分の子に新しい子供を生ませるために自ら体を魔力に還元するのだ。

だからエルフの死ぬ日は大体決まっている。前にも言った通り、魔力同士の波長から割り出すことのできる人生において数度の機会。そこで必ず子供を作らなければ破滅してしまう僕らの種族は、自分の子供が結婚して相手が決まると同時に、自分の命日も知ることになる。

おそらくは、器に満たせる魔力量の和だとか、血による魔法的な繋がりが関係しているのだろう。

 

でもそんなことはどうでも良かった。

 

どうでもいいくらい、悲しかった。

 

衰弱していくアセビを見て、自分の死というものを初めて気にして、母様になんとなく尋ねた。僕におばあちゃんやおじいちゃんがいないことから分かっていたはずなのに、それでも、そのことを知って涙が出てしまった。

 

だって、僕らは。

僕らの種族は、親に自分の子を絶対に見せてやれないのだ。

 

前世で僕には孫なんていなかったし、そもそもお嫁さんだっていなかったけど。

それでも、僕に会ったときのおじいちゃん達は本当に幸せそうだった。

あれは、好きな人と一緒にいるとか、美味しいものを食べるとか、そういった幸福とはおそらく全くベクトルの異なるものなのだ。

 

 

ただ、繋がった、と。生きている、と。

 

 

ちっぽけな己が広大な世界で必死に生きて、愛する人を見つけて、大切な我が子を生んで、無事に育ってくれて、それでああもう人生の折返しだななんて悲観していたら、子供が更に小さな子どもを連れてきて、孫です、と。

それは、生きてきたことへの報いなのだ。どんなに幸せな人生だって、誰しも辛いことはある。涙だって流す。涙さえ流れない悲劇もあるかもしれない。

 

だけど。それでも、そんな君の人生は大切なものだったんだって。

 

これからも繋がっていく、この灯火は「生きている」んだって。

 

それが、おじいちゃん達が見せてくれたあのほころぶような笑みの理由なのだ。

だから、孫を見せることは親孝行だなんて呼ばれるし、僕だって母様たちにその喜びを味わってほしかった。

 

不老なんて、ちっとも幸せなことじゃないのかもしれない。

変化を免れられない人生という、人間がどうしようもなく避けようのないものの中で見出した幸せは、老いない体だなんてものよりもよっぽど美しいものであるのだ。

そのことが無性に苦しくて、悲しくて、泣いていたら母様が抱きしめてくれた。

 

「でもね、レイン。死は決して、恐れるものじゃないんだ。私達は……私は、大切な我が子を抱く喜びを知っている」

 

「――キミが教えてくれたものだ」

 

「私の父上も、母上も、キミが生まれてくることを祈ってその身を捧げた。きっと……誰だってそうなんだ。我が子が新しい幸せを知ってくれる、そう思えば、ううん、そうやって誰かを幸せにすることは、決して悲しいことじゃないだろう?」

 

それを聞いても、悲しさは収まらなかった。

けれど、そういうものなのだと理解はできた。自分の最期に他者を幸せにすること。それは確かに、悲しむばかりではいけないと思えた。

だから、もう大丈夫だと伝える代わりに、僕も悪戯心で答えたのだ。

 

「でも、母様が僕に教えられた幸せはそれだけじゃありませんよね?」

「うぇ?」

大切な我が子に抱かれる悦び(・・・・・・・・・・・・・)、知りません?」

 

その言葉を聞いて、理解するまでに5秒ほどじっくりとかけながら、母様はゆっくりと顔を赤く染めて、俯いた。

 

「知ってる……ます……」

「よくできました。ご褒美に……教わったこと、復習しましょう♪」

 

このあと滅茶苦茶勉強会した(保健体育)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7日も過ぎた辺りから、アセビはもはやベッドから動くことが出来なかった。

固形物を食べれば吐き出してしまうので、口に含むのは流動食や飲み物ばかりだ。それも、一度に取れる量は限られるのでどんどんやせ細っていく。

彼女が枯れ木のように衰えていくのは無理もなかった。

 

禁忌の魔法とは、転移のことらしかった。これは勇者のみに許された魔法で、その子孫といえど転移の魔道具を用いれば災いが降りかかる。災いが何かといえば、すなわち魔力の吸収を体が行わなくなってしまうのだ。

もし仮に息を吸うことを禁止されたら? ギネス記録がどんなものかは知らないが、1時間持つ人間は存在しないだろう。それが魔力の場合、およそ10日だったというわけだ。

 

そしてその夜一度危篤を迎えた彼女は、勇者の血ゆえの強靭さか、あるいは母親としての意地なのか、なんとか峠を越し、容態は安定していた。

 

しかし本人も死期を悟ったのだろう。ツグミを連れてきて欲しいと言われ、僕が彼を抱きながら、他には乳母様と母様がいる。父様は祭りの後処理で、死にそうになりながら働いているようだ。

 

「夢を、見ているものだと思っていました」

 

もう目が殆ど見えないのだろう。アセビが虚空を眺めながら呟いた。

 

「あたしは勇者の子孫だなんて欲しくもない称号を持っただけの農民で、力もなくて。あのとき魔物に殺されて、こんな綺麗な人ばかりのいる世界の夢を見ているのだと」

 

なるほど、確かにエルフは傾国もかくやとばかりの美男美女揃いだ。死にそうな思いをした後であれば、自分は天国にいるのだと勘違いしてしまうかもしれない。

 

「けれど、違いました。あたしが死ぬのは今日です」

 

悲しいことを淡々と喋るな、と思った。

だけど違うのだ。彼女はもう、表情を柔軟に変える力すら残されていないのだ。

それだというのに、目からは透明の雫が溢れ出していた。

 

「ごめん……ねぇ。ツグミ、ごめんねぇ……」

 

それは悔しさなのだろう。

か細い、ともすれば聞き損なってしまいそうな彼女の声は、けれどどのような聞き手の心をも揺さぶる強い感情を孕んでいた。

 

「まなを、伝えます。フェリシア……さん、外していただけると」

 

切れ切れになった声で、アセビは乳母様の退出を願った。これから勇者を育てるとして、その家族は僕と母様、父様だけなのだ。当然のお願いだろう。

乳母様と母様が目配せをして、静かに乳母様は部屋を出ていった。

 

しばらくして、アセビの乾燥してひび割れた唇が動いた。

 

「……ディアルマス。ツグミ・ディアルマス……その子の名です」

 

でぃあるます、と僕は小さく復唱した。

僕の弟になる男の子の名前だ。ディアルマスだと長いし、アルマなんて呼び名はどうだろう。

 

「……よかった。誰にも真名を知られることなく、ひっそりと赤子のまま死んでしまうだなんて、そんな事にならなくて本当に……よかった」

「まだ、聞いてない名がありますよ」

「……え?」

 

心残りが無くなったとばかりに安堵の声音になるアセビに、母様が待ったをかけた。

 

「まだ、あなたの真名を聞いていない。家族の名も知らぬまま、私達に葬儀をさせるおつもりですか?」

 

母様は勇者の母とも、友人とも言わなかった。

ツグミは僕の弟で、アセビはその母親だ。なるほど、彼女は僕らの家族だ。いやあ母様が二人いるだなんて困ってしまいますね、しょうがないのでテレサを娶って嫁にしよう。

 

アセビは唇をひどく震わせ、堪えることのできないように再び泣き出した。

 

「ああ、ああ……! あたしは、ウクスアッカ。あたしの姉様、あなたの真名は? あたしの娘、アンブレラ、あなたの真名は?」

「私はテレサです、ウクスアッカ」

「僕はレイン。レインです、母さん」

「まーま!」

 

母様と僕が続いて真名を答え、訳も分かっていないだろうアルマが母を呼ぶ。

 

「テレサ、レイン。それにディアルマスも……。どうしてだろう、体はこんなに冷えているのに、心がこうも温かい」

 

それはウクスアッカの素の口調なのだろう。敬体が崩れ、村娘のような野暮ったい喋り方になっていた。

けれどその口調はどこか心地よく、僕のもうひとりの母さんの喜びがよく伝わってきた。

 

「ディアルマスを、最期に、抱かせて欲しいんだ。……頼むよ」

「何言ってるんだウクスアッカ、断るわけがないでしょう」

 

僕だと力が足りないので、母様がアルマを抱き上げてウクスアッカの体の上に寝かせた。

僕はバレないように癒しの魔法をウクスアッカにかけてやり、彼女はどうにか両腕を上げてアルマを抱きしめることができた。

まだものごころも付いていないアルマには今がどういう状況だか分かっていないのだろう。キョトンとしながら、久しぶりの母親の抱擁にキャッキャと喜んでいた。

 

「ねえディアルマス……勇者の使命になんて囚われないで、幸せになって……ね。そして、素敵な人を見つけて、子供を授かって、そして、そしてね……」

 

言葉が溢れ出してくるかのように、ウクスアッカはアルマに語りかけ続ける。最後があったのか定かではないが、最後までたどり着かないうちにウクスアッカは瞼を下ろして静かになってしまった。

 

「母さん!?」

「……大丈夫、レイン。眠っただけだよ」

 

死んでしまったのかと思った僕は焦りで声を荒げ、母様はそれを宥めるように優しく両肩を掴んだ。そしてまだウクスアッカの上で不思議そうに頬を叩いたりしているアルマを抱え上げ、行こう、と言って部屋を出ていった。

 

それは、優しい嘘だった。

 

「……見えて、るんだよ。母様、僕は……僕は……」

 

ウクスアッカの体には、もはや魔力が残っていなかった。

けれど、陽光に照らされ静かに目をつぶる彼女は、本当にまだ寝ているかのようで。

 

前世も含め、ものごころが付いてから。

 

僕が初めて触れる他者の死は、母親であった。

 

 

 

 

葬儀は静かに、けれど丁重に行われた。

エルフはそもそも死体が残らないから、土葬も火葬もない。なので外の世界の方式に従って、埋葬方法は火葬が選ばれた。

ほとんど関わっていない人間にエルフがここまでするのは驚きだが、かつての勇者と交流のあった長老会の一部の者が、「勇者の子孫をぞんざいには扱えない」と言って支援してくれたのだ。やる時はやるやん、長老たち。

まあ最初は「処す? 人間とか、とりま処しとく?」みたいなことを言っていたが、その頃は彼女の身分を知らなかったのだ。しょうがない。

 

「アルマ、母さんの最期だよ。見届けよう」

「……」

 

囲まれた結界の中を、煙が立ち上っていく。

 

「まーま……」

 

アルマは騒がなかった。そもそもよく分かっていないのだろう。

けれど、ただ静かに涙を流すその姿が酷く印象に残った。

 

人が死ぬって、こういうことなんだ。

 

 

「……母さん(・・・)。ごめん、ね」

 

 




死は死でしかなく、美化はその冒涜にしかならない。
あなたはどうやって受け止めるか。

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