TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
結論から言おう、失敗した。
それも、想定を遥かに上回る失敗であった。
前世から何も学んでいない自分の愚かさが悲しくなる。
変装に失敗したのではない。むしろそちらは悪くない出来であった。
小学一年生のモデルを眺めていれば分かるが、顔の整った幼児などだいたいみんな同じような見た目をしている。個性を出すところといえば、性格と髪型くらいだろうか。
どうも僕の瞳の色は赤橙色だと思われているらしい(普通のエルフは翡翠色である)し、御子は女子だという先入観がある。
エルフの男性は髪を伸ばしているのも珍しくないため、腰まで伸びた髪は粗雑に一つにまとめ、先っちょの方を編み込めば髪の問題はない。あとは適当に男の子っぽい服を着れば、それなりに溶け込めるのである。
初めは見ない顔だなと怪しまれたが、今までは親の仕事や家事を手伝っていたのであまり外に出られなかったと言えば、多少の哀れみを受けながらみんなの輪に入れてもらうことが出来た。
360度ロリかショタしかいない上に、見目麗しい子ばかりで溢れている。ここがこの世の天国か? とばかりに調子に乗っていたら、やらかした。
正直、男女関係なく友達付き合いというものの距離感が分かっていない。家にいる間一番年の近かった相手は、アルマを除けば乳母様の娘のアイリス(40)だ。対等な立場の付き合い方なんて教われるはずもなく、むしろスキンシップの延長で僕が彼女にキスの仕方を教えてしまったまである。
まあ男共との関係はそこまでこじれなかったのである。子供なんてしょっちゅう触れ合うし、肩組むわ抱きついてくすぐるわ何でもござれだ。あかんショタコンになりそう(本音)
しかし女子に同じことをすればどうか? あまつさえ、今生の経験でおにゃのこは可愛いと言われたい生き物と知ったので、機会さえあればすぐに可愛いと褒めそやせばどうなるか? 相手はこちらを男の子だと思っているのだ。
無論、惚れる輩が出てくる。
いや、そんな上手い話がとか疑う気持ちはわかる。勿論これを成人した男性が同じサークルの女子や職場の同僚にやれば、「うわ下心キメえ」とドン引かれることだろう。
だから僕もまさかな、とそこまで気にしていなかった。結果的にこれが裏目に出た。
光源氏計画なんてものをやろうとしてるのだから、おにゃのこを一人調略してしまうのは失敗ではない。だが、僕の計画ではその段階はもう少し後だったのだ!
切実なことを言おう。
僕はOTOMODACHIが欲しいッ!
それは崇高な概念である。前世ではもはや兵どもが夢の跡となってしまったソレを、僕は今度こそ満喫したかったのだ。さらに言えば、失った青春をここでやんわりと取り戻したかったのだ!
しばらくは子供たちとの野外遊びにふけって、友情というものの概念をここで今一度見つめ直したかった。友情とは何だ? 教えてくれエロい人、友情とは何だ!?
そんなことばかりに意識を割いていたからガバが出た。とうとう僕は、ある意味では青春の一つとも言える、「大きくなったら結婚しましょ」を言われてしまったのである。
キバナちゃん、6歳。
先日お七夜の際に僕が引率した子の一人でもある。小柄でほんっとうに可憐な、コスモスのように儚い美幼女だ。髪は赤みの強めな金色で、日向ではオレンジにも見える。御子としての僕が話しかける度に恥ずかしそうに俯いて、手を取った時に真っ赤になる小さなお顔には、もう鼻血吹きかけた。
僕は己の欲望に対しては割と忠実だ。だから、偽りのない本音を言わせてもらおう。
一番狙ってた娘が来た。や↑ったぜ(勝利宣言)
しかし同時に、「まだ……早いっ……! どうしてあと一年っ……いや、半年耐えられなかったのかっ……!」という割とクズな己もいる。
まあこんなどうしようもない内面をした人間に友達ができるわけ無いだろうと言われればその通りなのだが、己をクズだと自覚したところでそれが治る見込みがないのである。
すべては心に生えた珍棒が悪い、そういうことに出来ないだろうか。
そして大きく結婚発言をされた僕はというと、日和って「お友達からじゃ駄目かな」と逃げた。
それに「私達お友達じゃなかったの?」と返されればもう僕にはできることがないわけで、テンパった挙げ句選択肢を間違え続け、遂にはキバナちゃんが強硬手段、真名宣言に出かけた。
やはり追い詰められたときの女の子は何歳だろうと強い。人によっては泣き落としやガチギレを選ぶこともあるだろうが、この娘は既成事実を作るという最強の手段を選んだようだ。……あれ? 僕も女の子なんだけどな? 追い詰められてるんだけどな?
焦った僕は彼女の口を手で塞ぎ、怪我させないように気をつけながら馬乗りになる形で押し倒して、キバナちゃんの両手を抑え込んでいるのが現状である。
体を鍛えていたことがこんなとこで上手く転んだとよろこぶべきか、場合によっては事案になりかねない体勢だと絶望するべきか。
二人っきりで話したいから、と人通りのない木陰に連れ込まれていたのがある意味功を奏した。流石に公衆の面前で押し倒すのは出来なかっただろう。
「YOUこのままイッちゃいなよ」と囁く心の珍棒と、「土下座して全てを明かし、無かったことにしなさい」と叫ぶ理性が胸の内で渦巻く。
わからん。わからんぞお! パオーン!
混乱していた。混乱していたのだ。
前後不覚になるかと思うほどの思考の波に飲まれ、もはやキバナちゃんのことすら視覚に入れられているか分からないほどのテンパり具合であった。
後に思い起こして肝に銘じたこと。
……僕は、焦ると弱い。
よわよわ男装レインが取った行動は、奇しくも、心の珍棒も理性も納得100点満点のベストアンサーであった。
「キバナちゃん、僕はね、二つの秘密を抱えているんだ。それが理由で、君の想いには応えられない」
困惑した目でキバナちゃんが「秘密?」と問いかけてきているのが分かる。
無垢だ。この少女は、無垢そのものだ。
男に抑え込まれたら、おにゃのこってのは全力で抵抗しなければいけない。何されるか分かったもんじゃないのだ。股間を蹴るなり、口を抑えている指を噛みちぎるなり、出来ることは何だってすべきだ。
けれど彼女は、大好きな僕だから、と。信頼してくれているのだ。あまりにもそれは純粋で、穢れというものを知らない少女特有の無垢であった。
僕はそっと彼女の口を抑えていた手を離し、その腕で彼女の頭部を抱えるように固定した。
「逃げることを許さない」という意思表示である。
そして、かつてないほどに顔を……いや、唇を、寄せた。
とても長い時間のように感じた。
そっと顔を離すと、互いの口に架かった銀糸がぬらりと伸びるのが分かり、それが今の行為をよく説明していた。
キバナちゃんの表情は完全に崩れていた。目はまだぼんやりとしていて、触れば火傷しそうなくらい熱っぽいのだろう。
「……この通り、僕はどうしようもない変態なんだ。好きだって言ってくれる娘を押し倒して、ドロドロになるまでキスしちゃうくらい。こんなやつは、やめといたほうがいい。もっとマトモな男が沢山いる」
聞こえて……いる、のだろう。うん。
キバナちゃんの焦点がようやく僕に合った頃を見計らって、それとね、と続けた。
「それとね、今のキスは気にしなくて大丈夫だよ」
そう言って僕は結んでいた髪を手早く解く。
分かりやすいように適当な魔法を働かせることで目の色を変えながら、上の肌着を脱いで上半身を晒し、キバナちゃんの手を取って僕の胸に触らせた。まあ、膨らんでないんだけど。
「……女の子同士なら、ファーストキスにはなりませんから。騙していてごめんなさい、僕の名前はノアイディ=アンブレラ。次代の巫女となる者です」
嗚呼。どうしようもない、失敗である。
「――お久しぶりですね、キバナちゃん」
拗らせレイン「友達は何人かって? え、友達の定義は? どっから入れていいの?」
心の珍棒&理性「「よくやった!!」」
**連絡欄**
もう20話なんですね。兄貴たち、長らくありがとうございます。
女の子同士のキスはノーカンだから何回でもファーストキスが出来る。あ、もちろん男同士もです!
何度も言っていますが、この世界では、異性間で言えば真名を告げるのはヤるのと同じです。
もしくは前々回のアセビのように、非常に親密な仲であることを表現したい時に使います。