TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
素振りというものは果たして何を振っているのだろうか。
鉄芯の通った木剣を振りながらふと考えた。
素振り。素を振る。ふと味の素をしゃかしゃか振っているCMが思い浮かんだがそれはどうでも良い。
なんというか、己の人格、すなわち素の自分を振り落とす作業のように感じられたのだ。まあ元々は、素直に棒を振るだとか余計なものを省いて(素)振るという意味なのだろうが。
素振りの最中、己を置いてきぼりにするような感覚がある。
まるで自分が「斬る」という概念そのものになってしまったかのような、それ以外の全てを排除されてしまったかのような。良いものか悪いものか、その感覚が怖くて、感じるたびにこうしてろくでもないことに頭を働かせるのだ。
もしかしたら悟りだとか剣士としてはとても良い兆候なのかもしれないけれど、そもそも僕は剣士でないし、そんな色々捨てて修羅ルートに進みそうな人生は御免こうむる。
ふと気配を感じ、その場でいなばうあーする。別に足を180度開いているわけじゃないので正確にはのけぞっただけだが。
「──くっ!!」
「ツグ、危ないじゃないか。何をするんだ」
隣で一緒にウォーミングアップをしていたツグミ何某である。僕の可愛い弟。なお最近中間反抗期の模様。
先日は一度模擬戦で一本取られ、それ以来嫌われはじめたとヘリオやルーナに相談をした。
なお、なにも回答が得られなかった。
さて、僕なりに考えて出た結論は、「まず嫌われないようにつよつよお姉ちゃんを維持する」ということである。
5才差あっても、勇者とかいうフィジカルマジカルトロピカルチートくんに可憐なおにゃのこ(なお中身)は追いつかれてしまった。
だがしかし、それはまだ純粋な体力面の話なのだ。最低限(僕はこれを最低限と認めたくない。最高限だろこれ)トレーニングはしているし、ルーナに教わっている魔法で肉体を補助すればまだ何とかなる範囲なのである。
また、体力面で負けていても察知能力は僕の方が(現時点では)高い。アルマはまだ本能ムキムキ出しなので、今回のように不意打ちをされても反応できるのである。
読み合いで勝てようが、そもそも体がついてこないために先日はボコされたのだ。
可憐で美少女で儚さカンストのレインちゃんに不意打ちなんて男らしくない? うんうん、わかるよ。母様譲りのこの体、見た目がチートだよね。中身が僕だからあれだけど、見た目は僕も性癖。男に生まれてたら告って振られて投身自殺してた。
しかし、彼にも彼なりの理由があるのだ。
ボコられた後日、僕は上述の通り魔法でズルすることを決心し、反抗心の芽生えてきたアルマを翻弄した。いやあ、掌の上で弄ぶの最高ですねぇ! ベッドの上で母様弄ぶのも最高ですねぇ! なんか最近は弄ばれること増えてきましたねぇ!?
そこで僕はアルマに「本気を出すから、勝ちたかったら修練中いつでも殴りかかってきて良いよ(意訳)」といったわけだ。つまり、先ほどの不意打ちは不意打ち(公認)というわけである。
そんなことを思い出している間もアルマの猛攻は続く。
上段、中段、下段をお前剣道家に謝れというレベルで滑らかに変化させながら、殺る気マシマシ筋肉オオメ合間スコシの注文だ。
当店では受け付けておりませんとばかりに家系で育てた厳格さを見せ受け流すが、少しでも流し損ねると腕に痺れが残って次の動きがツムツム。
というかなんで鉄芯入れてんの?(素朴な疑問) 普通に死ねるじゃん? シロ先生は頭がおかしいと思っていたけれど、こういうところで発揮するのはやめてほしい。もっとこう、人命に関わらないところで。裸で大路を駆け回るとかさ。
命というものに対する考え方が独特な人だ。
多分、稽古中に僕がアルマに殺されても何も思わない。監督者なんていなかったんや……。どうして……(現場猫並感)
「ほらほら! 目線がたまに泳ぐよ? そうだね、今日当てられたら何でもひとつ言うことを聞いてあげよう」
「……!?」
毎日同じことの繰り返しでジリジリ差を詰められても辛いだけだから、変化をつけようと思って餌をぶら下げた。
まあ僕が何でもすると言ったところでどうでもいいのかもしれないけれど。
「今後一切顔を見せるな」とかだったら死ねる。魔力が乖離とか関係なく死ぬ。精神が肉体から乖離する。
アルマは思いのほか反応を見せる。よかった、流石に無関心とかではないらしい……。
しかしやる気は入ったように思ったのだが、所々気がそぞろになり始めた……? 集中力が切れたのか?
「──そいっ」
「ぐあっ!!」
急にわけわからない速度で後ろに回り込まれるが、そこで一瞬アルマが硬直したので足を払った。
ここまで隙を晒せば一旦終わりだ。
剣だろうが槍だろうが珍棒だろうが、鉄芯入りのもので殴られたら普通に痛い。アルマにそんなことはできないので、僕はだいたい体術の何かしらで彼の体勢を崩して終わらせる。
「まだまだだね」
「……」
テニプリの言ってみたい言葉ランキング5位をドヤ顔で言ってやった。アルマは悔しそうな顔をする。
ちなみに、1位は「んん──っ、
「最後のは凄い疾くて良かったと思うんだけどね、集中力が切れちゃった? というかあの移動どうやったの……? あとは、相手から目を逸らしちゃダメだよ」
「しゅ、集中できるわけ……」
「ほら、人が話してる時も目を逸らさない! そんなんじゃきっと勇者として苦労するよ。さあ、僕の目をちゃんと見て」
アルマが目を逸らしながら文句垂れるものだから、これではいかんと両頬に手を添えてこちらを向かせた。
む、目を合わさない……。合わせろー合わせろー……あ、合った。あ、また逸らした。合わせろー。
まったく、困った弟だ。
「さ、いったん休憩だ。汗を拭こうか。タオルはある? 僕の使う?」
懐に忍ばせてたタオルを差し出したら全力で拒否られた。
まあそうだよな。姉のタオルとかあの年になったらもう共用したくないよな。少し傷ついたけど、このくらいなら成長を感じられるから受け止めよう。
ふと目をやれば、相変わらずシロ先生は一人でよくわからない稽古をしている。
親指一本で逆立ちスクワットって何の特訓になるんだ……?(困惑)
「先生……」
「見とった。最後ンはおいも追いきれんかったが、なんばしよっとかない?」
「さあ……。オレ、ねえさ……アンブレラに勝てるんでしょうか?」
壁。はるかに高い壁がある。それも、ごく身近に。
先生はいいのだ。年齢の差がある。人の寿命を遥かに超えるその時をすべて研鑽に捧げたら、当然その分実力差は生まれる。
しかし、これは。
たった5年差、そしてこちらは男で勇者という肉体面でのアドバンテージがある。
一度越したと思った壁は、壁の接地部にたまった塵の山でしかなかった。
しかしこちらの絶望をまるで知らんとばかりに、先生はふんと鼻を鳴らした。
「実力じゃあ勝てんこともないが……どうやらおまんも、一種の馬鹿じゃけえの」
「……」
沈黙で返すほかないのは、自覚があったからだ。
血どころか種族さえ繋がりのない義姉。その見た目は種族上の事情を加味してもなお美しく、他者を癒すために魔法を使うことに躊躇しない慈愛の精神を兼ねる。今は亡き実の母親も、彼女の迅速な救護なしにはそもそも口を聞くことなく死んでいたらしい。
外向けの顔はお淑やかだが、自分や幼なじみに見せる顔には快活な無邪気さが覗いていてその差異を感じる度に心が跳ねた。
さらにはまるで欠乏している愛情を集めるかのようにスキンシップが多く、聞くところによると自分の初めての口付けは彼女が相手らしい。どのような意味があるのかはわからないが、幼なじみなんかとはしょっちゅう口付けをしている。
いつ頃か、唇を直接重ねることはなくなった。それでもさっきみたいにすぐ顔を触ったり、抱きしめてきたりする。思い出せば、これまたわけも分からず体の中央が熱くなる。
この「馬鹿」は、一生治らないのだろう。
──オレがレインを守れるようになる日は、いつだろうか。
レイン「亀の甲は下ネタ」
亀の甲「解せぬ」
主要キャラ人気アンケート:"好き"と"性癖"は違うと思うので、ひとまずは一番応援したいキャラへヨロシクゥ!
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テレサ(女神母様)
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ヘリオ(神(笑))
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キバナ(ょぅι゛ょ)
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アイリス(乳母娘)
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ルーナ(エセ女神)