TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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kskのため、短編集っぽい回です。


どんな反応を見せても押し倒されるしか分岐ルートがない転生娘はもうどうしたらいいですか。そのまま押し倒されろと?たしかにそれもいいかもしれない天才か!!

くちぐせ

 

 

 母様の口癖が増えた。

 

 驚いたときはよく「うぇっ!?」と独特な反応を見せてとても可愛らしいのだが(若干僕も影響を受けてしまっている気がする)、最近は、僕が何か言うたびに、あることを尋ねてくる。

 

それは(・・・)レインの言葉(・・・・・・)? それともニイロ(・・・・・・・)?」

 

 これだ。

 正直、常日頃「僕」と「自分」の意識を分けているわけではない。

 「僕」なら普通こう言う、「自分」なら普通こう言う。そんな風に雑に分類しているだけで、一人称を意図的に「僕」とする以外は、実際はごちゃまぜだ。

 なので、問われても結構困ってしまうのだが。

 

「……両方、じゃないでしょうか」

「へぇ〜〜、ふふっ。へえぇ〜〜?? ふふふ、えへへへ」

 

 こうやって答えると、凄い嬉しそうにニヤニヤする。

 何が嬉しいのかなんとなく分かってしまうのが悔しいけれど、ニヤけ顔の母様がとても愛らしいので複雑な心境。

 眉を八の字にしてジト目で睨むくらいしかできないのだが、この表情をすると母様が「押し倒していい?」と聞いてくるのでもうどうすればいいですか(唐突な質問)

 

 ちなみに、「両方」でなくどちらか片方を挙げると不満そうな表情になる。

 例えば「レインです」と答えると、頬をぷっくり膨らませて、

 

「じゃあ、ニイロはどう思ってるのかなぁー?」

 

 と、僕のほっぺをむにむに変形させだす。にゃめろォ(やめろォ)

 

 反抗のつもりで無言を貫こうとすると、段々と触る箇所を変えてくる。耳のとんがりに、鎖骨の付け根、首の横筋などと、僕の弱いところを弄ぶようにスリスリ。

 

「んんっ、ふぁ、にゃぅぅ、ゃぁめっ、てぇっ……♡ だぁめ!」

「ここかなぁ? ここも好きだよね、ほら、ほらほら」

 

 大抵負ける。おかしい、僕が母様を調教したはずなのに。

 

 ……いや、ちゃんと振り返ってみてみれば、負けてないが?

 負けたことないわ、うん。負けな──

 

「ぁぁぁぁぁあああっ♡ いうっ♡ いうっ♡ いいますっ♡♡ だからぁ、やめてぇ♡」

「やめちゃっていいの?」

「だぁめ♡ ゃだやだっ、やめないでっ♡」

「そっかそっかぁぁあ〜、へえぇ〜〜?? ふふふ、えへへへ♪」

 

 ……と、気持ち良い上に母様の愛らしいニヤケ顔を見れているので、実質僕の勝利である。

 どう答えても必ず勝利ルートに繋がっている。常勝無敗の王道を突き進む。

 かぁ〜〜っ、敗北を知りたい♡♡

 

「じゃあレイン、ベッド行こうね」

「うんっ♡♡」

 

 目を覚ますと、腰と足がガクガクになっていた。

 

 

 

 


 

わたしの

 

 

「レイン、それにしてもどうしたの、ハイネックなんて着て。暑くないのかい?」

「……」

 

 あの日、すべてを母様に捧げると誓ってから2、3日が経ち。

 僕の服装を見た母様があまりに酷いことを言うものだから、ジトッと睨みつける。

 何も答えず半目で見上げる僕を眺めて、少し考えるようにしてから母様は言った。

 

「……ねえ、押し倒していい?」

「ば……っ! 何言っているんですか! だいたい、誰のせいで首を隠してると思ってるんですか!?」

 

 そう言って、首元をぐいと引っ張って、隠していた部分を見せた。

 そこにはきっと、色白さ故によく目立つ、手形の内出血の跡が付いていることだろう。先日、母様に首を絞められた際のものがまだ残ってしまっているのだ。

 

 母様は一瞬驚くかのように僕の首元に視線が縫い付けられるが、一拍置いて、あぁと納得したような顔をした。

 

「ご、ごめん……。結構くっきり残っちゃってるね……その、痛んだり、する……?」

「いえ、さほど……」

 

 そう言って、(見えないが)襟をさらに引っ張って、僕も自分の体に視線を向ける。

 朝も鏡で確認したが、見た目ほど痛みはないのだ。実際もう治りかけなのだろうし、本当に、体質的に跡が残りやすく分かりやすいだけだろう。

 あとは、この間の身体強化肆の反動で激痛を味わったが、それでなんかこう、精神的に痛みへの耐性がついた。鈍くなったとも言うかもしれない。

 痛みに鈍くなると言うと何やら物騒だが、普通に前世でもあった。ちょっとした怪我で入院した際、点滴? だかなんだか知らないが、血管にぶっとい注射針を刺す必要があったのに、担当看護師が5回外した。その後ベテランの人が呼び出されて一発で成功させた。ブチ切れるかと思った。その後、インフル予防接種なんかの細い注射に、まったく恐怖を抱かなくなったのだ。

 

 などなど、服をめくったまま遠い昔の思い出を懐かしんでいると、母様が少し顔を逸らしながらゴホンと咳き込んだ。

 

「……レイン。あのね。よっぽど上から覗かなければ見えないとはいえ、そうやって胸元とかへの警戒心が薄いのは、少し危ないよ」

「……? そこまで誰も気にしないと思いますが……。まあ、見られるくらい、構いやしませんよ。減るもんでもありませんし、資源は有効活用するものです」

 

 美少女の肌は適度に晒していくのが社会、ひいては世界人類のためだと思う。脚とか。肩とか。鎖骨とか。

 前世から掲げるこの持論を、僕が実行しないでどうする。あ、でも母様の肌は僕のものなので駄目です。

 

「……ふぅん」

「え……ちょ、わっ、何を!」

 

 急にお姫様抱っこのように抱き上げられて、体勢の崩れた僕は慌てる。いや抱っこは嬉しいけど。

 

「きゅ、急に、どうしたんですか。危ないじゃないですか」

「いや……、どう危ないか、教えないとなぁって」

 

 実にニッコリした笑顔で母様が微笑んだ。

 僕もヘラっとした愛想笑いを返す。あかん。圧に負けそう。

 

 ふらつく様子もなく僕を持ち上げながら、母様はどこかへとずんずん歩いていく。

 

「……あの、こっちって」

「寝室だね」

「まだ真昼ですが!?」

「休日だから問題ないよ。昔に戻ったみたいだね♪」

 

 仕事を終わらせた母様に死角はなかった。っょぃ。かぁさまっょぃ。

 

「──ひゃっ!?」

 

 突然、母様が僕の首元に顔を寄せる。

 なにせ、顔が良い。いくら見ても見飽きることのないそれが、至近距離に突然近づいてくるというのは何度味わっても慣れないものだ。

 

 スンスンと鼻を鳴らしてから、頬をこすりつけるように母様が顔をグリグリしてきた。あぁ^〜理性が溶かされる音ぉ^〜。

 

「くす、ぐったいですよぉ……」

「……ふふ、ごめんね。その、あんまり良いことじゃないかもしれないけどさ、さっき首の跡を見せてもらってさ……」

「……? それで、なんですか?」

 

 母様は言い淀むように、途中で言葉を切った。

 気になって続きを尋ねると、柔らかくふわりと(わら)って答える。

 

 

「……わたしの(・・・・)って感じがして、ちょっと嬉しくなっちゃった」

 

 

 ……その微笑みは、少しずるくないだろうか。

 

 僕にできたのは、熱くなっていく顔を感じながら、俯いて目を逸らすことだけだった。

 

 

 

 


 

あなたの

 

 

 前回までのあらすじ。

 首の痣を見て発情した母様にベッドの上にぽいと投げ出され、間食として優雅にいただきますされる5秒前。

 

 母様の圧にビクビクしていた僕であるが、冷静に考えてみるとどうだろう。

 攻め気な母様に、美味しく頂かれる。うん、悪くない。むしろいただかれるのもやぶさかでないぞ。

 

 さあどうぞ! 極上の、あなたのためだけの食材がこちらにご用意してあります!

 そんな風に胸を張る三ツ星シェフの如く、僕もフンスと気合を入れて食材になりきった。

 

 母様がベットに体重をかけて、ギシリと小さく軋む音が聞こえる。

 顔の横に腕を置くようにしながら、髪がサラリと撫でられた。

 

「……っ」

 

 髪が梳かれて、指が僅かに頭皮に触れて。その優しい手付きだけで、ドキドキしてしょうがない。

 

 ……さ、さあさ! 食材の状態はますます良くなっていますよ! 今が食べごろ、旬の旬! とろける美少女の体を、いざ召し上がれ!

 

 ゆっくり母様の顔が近づいてくる。

 

 抱きしめ返すような腕の形を作って、目を瞑り、その幸福の瞬間を静かに待つ。

 

 さあ、唇が、重なり合わさって……。

 

 唇が……。

 

 重なり……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……あの?

 

 まだですかいなと目を開けば、そういえばとでも言いたげな、何事か思いついた顔で母様が口を開いた。

 

「……あれ、でもレイン、キミ、内出血なら癒しの魔法で治せるんじゃない?」

「……!」

 

 首元の、青アザの話の続きらしい。

 

 でもその言葉は無視して、おねだりするように、目に涙を浮かべて声を震わせた。

 

「たべて、くれないんですか……?」

 

 そう言って、ぇあ、と舌を差し出すように口の外に伸ばす。

 母様の理性を飛ばすには、それで十分だったらしい。

 

「──ん、ちゅ、……ぷは、んむ……んぁ……」

「んん……っ、ゃ、急に、はげしッ──んむ……っ!? んぅ、ぁ、ちゅ……」

 

 おねだりは、半分本音、半分照れ隠し。

 だって、言えないだろう。

 

 

 あなたの(・・・・)って感じがして、嬉しくなっただなんて。

 

 

 朝、鏡を見て、痣に気が付いて、無意識に優しい手付きでそこを撫でてしまっていた。

 愛おしむように。あなたに付けられた(しるし)を感じられるように。

 

 時間が経てば、いつか消えてしまうのかもしれないけれど。

 それでも、今すぐに治してしまおうだなんて、そんな勿体ない(・・・・)ことができるはずもなかった。

 

 全てを捧げるなんて、そんなことを心の底から思えたとして、それでもやっぱり形のないものは不確かで、不安になってしょうがないから。

 ならば、いっそ、首輪でも付けてくれれば。

 

(……なんて、ね)

 

 激しい接吻の交わりに、段々と思考も蕩かされていく。

 

「……か、さま」

 

 照れ隠しも、何もかも、忘れ去って。

 荒れる息の隙間、吐息混じりに語りかけた。

 

「首以外の……見えないところなら、しるし、たくさん付けてください……っ♡」

「──!!」

 

 お腹とか、内腿とか。

 あなたのものだという印を、体中に。

 

 

 

 

 目を覚ますと、腰と足がガクガクになっていた。

 あと、体中にマーキングされてた。

 

 

 

 


 

よんでみてよ

 

 

 母様的には特に何のしがらみも感じてないらしいけれど、僕としては少し気まずさを感じる父様。

 僕が母様と真名を交換したこと、ひいてはえっちなことをしているのも気付いているらしい。果たしてエルフがどれほど「セックス」という概念を子作り以外の意味で理解しているのかは分からないけれど、それでもまぁ、普通は嫌悪感を示されても仕方がない。

 そもそも、最初は父様が母様に手を出さないから浮気しているものかと思ってたんだよな……。浮気どころか、快楽のためのセックスという概念自体エルフは持ち合わせておりませんでした。嘘やんお前。

 

 そんな父様は今、僕と母様が一節ずつ交互に歌う、しりとりみたいな遊戯をしている傍らで、のんびりと何かを書きつけている。

 

「……父様、何を書いていらっしゃるんですか?」

「ん? これ? ……まあ、僕も舞台が好きなだけあって戯曲を書いてみたいと思うことがあるんだけどさ。この間レインが言ってた、『別の世界』っていう概念を取り入れたものを、少しね」

「ほぇぇ」

「しかしまぁ、物を書くってのはなかなかどうして難しいね。でもやってみると、不思議と図面を引くのと似通ったところがあるものだ。結構、楽しいかもしれない」

 

 僕が頭の悪そうな相槌を打つと、父様はよく分からないことを言う。建物の設計と物語の設計、どこに共通点を見出したんだかサッパリだ。

 しかしまあ、作家を兼業するのはやめてくださいね。ただでさえ忙しいんだから、仕事自分から増やしたら死にますよ。あれでもエルフで過労死って聞いたことがない……みんな基本のんびりしているからか。

 

「そういえば、レインは僕の真名も知っているんだよね?」

「うぇっ!!?」

 

 突然グングニルを投げつけられた気分。

 ……いや、小さい頃に呼ばれてるの聞いたから知ってるけど、どこでバレた?

 あぁ、転生したって言ったから小さい頃から自我があったことに気付いたのか……?

 

「……知って、ます。ごめんなさい。聞いてしまいました」

「いやいや、別に責めているわけじゃないよ」

 

 いや普通に村の禁忌なんだが……?

 まあなんか、多分、この人は色々と規格外なんだろう。HENTAIだし。

 常識が通じると思ってはいけない。というか、常識を分かった上で飛び越えてくるタイプ。一番厄介。

 でもエルフは結構な割合でHENTAIが存在するから、その数だけこういう人が存在しているのかもしれない。つらい。種族ボイコットしたい。

 

「一回さ、ボクの真名を呼んでみてくれないかな」

「えぇ……?」

「一回でいいんだ。呼んでみてよ」

 

 目を輝かせてわけの分からないことを言い出した。なぜ率先してルールを破りに行く? 頭おかしいのか。

 母様の方から「はい?」という険のある声が聞こえてきた気がするが、母様がそんな怖い声を出すわけがないので気のせいだろう。

 

 父様はワクワクとした顔で待っている。

 なんだこれめんどくさい……まあ、迷惑かけているわけだし、一回くらいお願いを聞いてやるべきかもしれない。

 

 分かりましたよ、というふうに少しため息をついて、父様の方に向き直った。

 

「…………うぅ」

 

 なんか、改めて呼ぶってなると結構恥ずかしい。

 まず自分の親で想像してみてほしいが、自分の親を下の名前で呼ぶとなったら、かなり気まずいと思う。あとはクラスメイトの女子とか。普段は名字で呼んでいるその子を改まって名前で呼ぶとかなったら、もはや先に切腹したい。

 

 でもきっと言わないとこの状況は終わらないので、観念して父様を見上げながら口を開いた。

 

「…………マルス……さん

 

 さん付けになったのはご愛嬌である。呼び捨てよりは、心理的な負担が少ない。

 

 うぅ……、恥ずかしい。あんまり反応とかも見たくないし、なんなら部屋の毛布の中に潜り込んで頭抱えたいくらいなんだが……。

 チラリと父様を見ると、片手で顔を抑えて、天井を仰いでいた。

 

「マルス」

 

 と、母様がひどく無機質な声で父様を呼ぶ。

 何気に、赤子の頃を除いて、僕の前で父様の真名を呼ぶのは初めてかもしれない。

 

「……はい」

「だめだよ?」

「はい……」

 

 百年以上連れ添った夫婦は、これほど言葉少なでも伝わるものがあるらしい。

 羨ましいな、父様。僕もはやく母様とそういう意思疎通できるようになりたいな。

 

「レイン」

「は、はい!」

 

 今度は僕が呼ばれる。

 

「お部屋に行こっか」

「…………はい♡」

 

 しばらくは代わりに肉体言語で意思疎通していこうと思う。

 

 目を覚ますと、腰と足がガクガクになっていた。

 

 

 

 


 

すこしでいいもの

 

 

「……なにか変わった?」

「ん?」

 

 久しぶり、というわけでもないのだが、今日はキバナちゃんのおうちにお邪魔して、泊まらせてもらっている。

 夕食を食べ終えて風呂が沸くのを待ちながら談笑していると、キバナちゃんが不思議そうな顔をして尋ねてきた。

 

 ちなみに、必然的に母様と一緒に寝ることができなくなるのだが、24時間以上触れ合う時間がないとお互い心身ともに甚大な影響が現れるので、お泊りの直前と直後は沢山えっちしている。

 

「洗髪剤とか香水……じゃないわよね。そもそもあなた、香水使わないし」

 

 そう言って後ろから抱きしめるように僕の首元に顔を近付け、スンスンと鼻を鳴らす。

 

「あの……あんまり嗅がれると、くすぐったいし変な匂いしないか心配になるんだけど……」

「いつも通り、いい匂いがするわ」

「……じゃあ僕もキバナちゃんの匂い嗅ぐ」

 

 今度はこっちのターン! とばかりに、キバナちゃんの後ろに回ってクンカクンカした。

 あ^〜少女の体臭は人類の化石燃料じゃあ……。

 

「……た、確かに、一方的に嗅がれるのは恥ずかしいわね」

 

 そう言って赤面するキバナちゃんは愛らしい。

 でも、と呟きながら、オレンジ色のアリスはこちらを振り向いて僕の髪に触れた。

 

「髪を切ったわけでもないものね……あら?」

 

 僕の長くて重ったらしい髪の毛をかき分けるように弄ると、何かに気付いたかのようにキバナちゃんが声を上げた。

 

「どうしたの?」

「……何でもないわ。お風呂が温まったみたい。入りましょ」

 

 どうしたんだろう。首の痣は、もうほとんど見ても分からないくらいまで消えたと思うんだけれど……。

 ひとまず、一緒にお風呂に入ることにした。体が温まれば心も温まるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 全然温まりませんでした。はい。

 

 いや、風呂は気持ちよかった。サッパリしたし、やはり世界の三大発明に取り上げられてもおかしくないとさえ思う。

 今日はわりと健全な方法で互いに洗いっこしたが、それでも肌を触れられるくすぐったさで声が漏れてしまったのはご愛嬌である。

 

 が、どうしてか。風呂を上がる頃には、すっかりキバナちゃんが不機嫌になってしまっているのである。解せぬ。

 せっかくの楽しいお泊り会も、これでは心と空気が冷え切ったまま終わってしまう。わざわざお揃いのパジャマを用意してパジャマパーティーする準備も整えたというのに、どうしよう。

 

「き、キバナさん……どうしてそんなに怒っていらっしゃるんですか……?」

「怒ってないわよ」

「うゃぅ……」

 

 八方塞がりである。

 女の子って、難しい。

 

「そうね……ごめんなさい。本当に、あなたは悪くないのよ」

「本当に?」

「本当に。……じゃあ、これだけ許してくれるかしら」

「いてて」

 

 そう言って二の腕をつねられた。結構強めに。わけわからんめう。

 しかし本当にそれを区切りに不機嫌なのをやめたらしく、こちらに寄ってきてクタッと体を預けてきた。猫か。

 

「うわ結構赤くなってる」

「全力でやったもの」

「……まぁ、こんなんで元気になるなら構わないけどさ」

 

 猫の毛並みを撫でるつもりでサラサラとした髪に触れる。

 しばらくそうしていると、撫でていない方の手を奪うように握られた。

 

「全力って言っても、私、力無いのよね」

 

 キバナちゃんは、戦闘狂のやる握手みたいにぎゅーっと強く握る。

 ……確かに全力でこれはかなりよわよわだ。これ握力20もないよな。中学生女子ってどのくらいが普通なんだろう。

 

「僕も全力で握り返していい?」

「やめなさい。死ぬわよ、私が」

「そんな人を握力オバケみたいに」

「どんな瓶の蓋も開けられていいじゃない」

 

 納得いかない扱いである。

 キバナちゃんは僕とアルマが鍛錬しているところを見たことがあるからそう言うのかもしれないが、身体強化をかけていない状態だったら、僕だってわりと常識的な握力だと思う。40とか。いや生前男なのにもっと非力だったな……?

 そもそもアルマがおかしいのだ。鍛えれば鍛えた分だけ、極限値というものが存在しないかのようにグングン成長していく。多分、もうリンゴくらいなら片手でグシャリできるのではないだろうか。それでいて一切強化系の魔法を施していないのだから、勇者という生き物のチート具合が分かる。

 

「……そう言えば、ツグに負けちゃった」

「あら、今までほぼ負け無しだったのよね? そのわりに、あまり落ち込んでいないように見えるのだけれど」

「落ち込んでるけどさぁ……なんか、思ってたよりずっと先を行かれてたみたいで」

 

 悔しさを感じる前に、手の届かないところに行かれてしまったような、喪失感に近いものを感じている。

 結局どうして目隠ししていたのかは教えてもらえていないけれど、転移、あれをあそこまで自在に使われたらもう勝てる気がしない。もっと成長するんだろうし、これ将来相手しなきゃいけない災厄さん涙目じゃないか?

 ルーラみたいに飛ぶ場所が決まっていたり、使うのに何かしら時間がかかるならまだ分かるのだが、多分存在そのものが転移の擬人化みたいな感じなんだろう。ノータイムで背中取られたら、勝てるわけがないんだよなぁ……。チート勇者やめてくれぇ……。

 

「それじゃあ、もうこれからは鍛えるのをやめるのかしら」

「僕? そうだなぁ。先生がアルマの相手をしてくれるなら、僕、いらない子だよね」

「これから、一緒にいる時間が少し増えそうね」

 

 と、嬉しそうにキバナちゃんが微笑む。

 まあ確かに、午前中はアルマと汗を流して、午後はルーナのところで魔力量拡張に努めてたからなぁ。唯一の同年代の友達なのに、このところはあんまり一緒に遊んだりしていなかったかもしれない。

 

 体を鍛えようとした発端は、母様とのえっちでバテることがないようにと思ってのことだ。最近は、極まると体力関係なく脳がショートすることを知ったので、もうあまり体を鍛える意味がない。むしろ、すればするほど感度が増して達しやすくなってしまう。

 

 ……けれど、実のところ、いま鍛えているのは違う理由なのだ。

 

「僕さ。できないこと、足りないものばかりだから、少しでもできることを増やしておきたいんだよね」

 

 思い出すのは、ヘリオがいなくなった、というよりルーナが憑依してしまった、あの日。

 心の準備も何もなしに、突然降り掛かってきた。何もできなかった。ルーナに頭を下げることしかできなかった。

 武力があればどうにかなるとは思っていない。魔力があればどうにかなるとも思っていない。けれど、何かができる「期待値」を上げることはできる。

 まあ多分、誰もがそんなことは承知で、だからこそ地球ではお金、権力、地位だのを高めようとみんなあくせく働いていたのだろうけれど。

 

「…………ばか」

「いてててて」

 

 全く同じところをつねられた。あんまり力はこもっていなかったけれど、様式美として痛みを訴えておく。

 しかし赤み引かないな。体質というか、表皮が薄いのかな。

 せっかく首元の痣が取れてきたのに、今度はしばらく二の腕を隠さないといけないかもしれない。ノースリーブのほうが動きやすいから好きなんだけどなぁ……。

 

「……ほんの少しでいいもの

 

 スス、と赤くなった部分を撫でるようにしながら、いじけるような小さな声が聞こえた。

 その言葉の示唆するところはいまいち掴めなかったけれど、もう少し、この可憐な友人と一緒にいる時間を増やそうと思った。

 

 

 

 


 

ひとりでできるかな

 

 

 父様との関係もそうだが、アルマとの関係も非常に拗れてしまった。

 

 一応気を遣ってはいるのだが、風呂上がりなんかに気が抜けてるとつい薄着で歩き回ってしまう。流石に下着ではないが、母様のいうところの「警戒心が薄い」というやつだろう。

 そんな格好で、アルマを見かけて声をかけたりしてしまうと、困ったことになる。

 

「……レイン、……その」

「えぇ……また……?」

 

 目を逸らすようにしながら、羞恥心と申し訳無さを混ぜ合わせたような声色でアルマが言葉を詰まらせた。

 視線を少し下にずらせば、腰のあたりのズボンがテントを設営している。

 

 うぅ、と思いながら、一度ため息を付き、人の小なさそうな場所までアルマの手を引く。

 まあ、あれだ。察してほしい。

 アルマの珍坊くんがコンニチハと挨拶する傍ら、本当にこれで良かったのだろうかと思案した。

 

 

 

 

 先日、「森」で僕がアルマにやらかした。

 個人的には、あそこで止まれたことに少しホッとしている。あれ以上進んだら、本当に取り返しのつかないことになっていただろうし、なにより母様に申し訳ない。

 しかし、まあ、なんというか。

 エルフたちの生活を見れば分かることなのだが、「性的な快楽」という概念が、この共同体には欠落してしまっているのだ。

 当然、誰も「人間」であるアルマにそれを教えることがない。「勇者」という意味ではエルフにかなり近い存在なのかもしれないが、僕の脚なんかであれだけ出していたわけだし、きっと人間のオスとしての性感はかなりあるのだろう。エルフのオスも、僕が母様にしたみたいにじっくり開発すれば性感が芽生えるのかもしれないが、あいにくそんなことをする奴がいない。僕も別にやりたくない。

 

(いまも、これだけ気持ちよさそうだし……)

 

 涎を追加しながら、片手に収まるそれをチュコチュコ刺激する。アルマは女の子みたいな情けない声を出している。ショタコンのつもりはないが、なるほどと言いたくなる情景だ。

 

 さて、話を戻す。

 誰も彼に性教育をしない。「オス」という生き物の性質を教えない。しかしアルマは、性的快楽を覚えてしまった。

 結果、時折何らかの要因で興奮すると、珍坊が元気になるようになってしまった。

 いや、結果というか、生理現象であるからいずれは経験する仕方がないことであったのかもしれない。

 そもそも、冷静に前世のことを振り返れば、仮にこの体のようなお姉さんがベタベタ構ってきたら僕だって欲情する自信がある。風呂上がりに薄着で周りをウロウロしたり抱きつかれたりしたら、そりゃあ元気になる。かと言ってハグを絶対禁止なんてことにしたら滅茶苦茶寂しい。気付いたときは控えるようにしているけれど、無意識に、甘えさせたり甘えたりしたくなる。

 

 でもまあ、分かる人は分かると思うが、大きくなったままの状態でほっとくというのはかなり苦しいのだ。時には痛みすら伴うだろう。身体の一部が、充血して膨張しているわけなのだから。

 ともなれば、前世で男としての経験がある僕が、彼に正しい性教育をしてあげなければなるまい。いやでもこちとら童貞だぞ、そんな葛藤がなかったと言えば嘘になる。しかし、童貞にだって少年に性教育をしてやる権利はあるはずだ。

 

 とりあえず、シコり方を教えることにした。

 

 勃たない方法? 無理だろ。それこそ斬り落とさないと。

 そも、失ったところで、僕のように心の珍棒は残り続けるのだ。転生者が言うんだから間違いない。

 そんなわけで、教えたのは対処の仕方だ。対症療法って言うんだっけ?

 

 最初のときはやり方を伝えなければいけないから、代わりに僕がシてあげた。

 擦りながら、珍棒がどういう器官なのか、精子がどういう役割を持つのか教えたが、ちゃんと聞いていたかは怪しい。……かといって、シラフで説明するのはこちらも恥ずかしかったのだ。

 

 元男として、他人の珍棒に触れるのが不快でなかったと言えば嘘になる。

 友人とAV鑑賞しながら並んで抜くみたいな話を聞いたことがあるが、控えめに言って理解できない。隣のやつの白濁液が自分にかかったら絶対死にたくなると思う。

 

 だが、まあ、可愛い弟だ。これが父様だとか、他の男とかだったら迷わず「斬り落とせばいいのでは?」と言っていただろうが、アルマのはまだまだ小振りな珍坊だし、赤子の頃オシメの世話をしたことを思い出せば、まぁ耐えられるのである。

 あとは、この間負けたことで芽生えた悔しさや喪失感。それらが、僕の手なんかで女の子みたいに喘いで、情けない姿になっているアルマを見ると多少薄まる。まあつまり、実力では勝てないから精神的にマウントを取って自己肯定をするクズだ。この本質の汚さは中々治りそうにない。というか、本質って治るもんでもないか。

 

 閑話休題。

 最初に僕が教えてあげるところまでは滞りなくいったと思うのだが、「これからはひとりでできるかな?」と任せてみて、次の日に「自分の手じゃ全然収まらなかった」と恥ずかしそうに相談されたのだ。

 お前昨日あんだけ出したやろという言葉は飲み込み、もうにっちもさっちもいかなくなったので、こうして今日も僕の手で処理している始末である。

 本当にどうすればよかったんですかね。教えて下さいえろい人。

 

(……そろそろかな)

 

 根本が膨らんできた。あと、最近気付いたが、出そうになるときって玉が上がるらしい。

 

 他人の珍棒を握っているという嫌悪感と、マウントを取っている自分への嫌悪感。

 それらで少し顔を(しか)めてしまっていると思うが、多分アルマはこっちの表情を見る余裕がないと思うので許してほしい。

 

 握る手とは別に、先の部分を包むようにもう片方の手を被せる。撒き散らすわけにはいけないから、こうして受け止めるのだ。

 顔で受け止める? メリットがないやろ。口で受け止めろってのも、人様のうんこを食えるようになってから言ってほしい。母様の排泄物なら僕は平気な気もするが。

 一旦止まったあとも、出し切らせるために握った手を動かすのはやめない。全部出させた方が次の時までの間が長くなるのだ。

 

「……ん。全部出せたね。偉い偉い」

 

 出し終わったあと、アルマはグッタリとする。

 ここが、勇者とエルフの共通点だ。精子は、遺伝情報として魔力の形質を伝えるために体から一定量の魔力を奪う。無意識の内に生体機能を体内の魔力で整えている魔法的存在は、射精によってかなりの活力を失ってしまうのだ。

 勇者の性質がいやらしい(意地が悪いの意味)のは、エルフとは違って珍棒の性感が普通であることだろう。人並みに気持ちよくなれてしまうから、本能は射精を求める。一方射精すれば待っているのは倦怠感であるから、イマイチ前向きにはなれない。

 アルマが自分の手では十分な快感を得られなかったのはこのせいだと思う。ある程度性的興奮を覚えながらやらなければ、脳が射精後の不快感を嫌がって十分に気持ちよくさせてくれないんだ。

 

 まあ、だから、アルマからすれば、出さなければ困るけれど、出したら出したで辛いのである。

 頭のひとつでも撫でてやりたい気分だが、あいにく両手がベタベタだ。

 

 射精までの時間を早めるのと、少しでも終わったあとの倦怠感を減らすため、一連の行為は僕がアルマを後ろから抱きかかえながらシている。

 どこかで言ったが、抱きしめているときの方が癒しの魔法が使いやすいのだ。魔法で維持していた体調が魔力を失うことで悪くなってしまうのなら、僕が魔法で体調を整えてあげればいいという寸法である。

 

「なにはともあれ、アルマも魔力量を拡張しないとね」

「……ぁあ」

 

 恥ずかしさを堪えるように、コクリとアルマが頷いた。

 

 射精で一定量の魔力が失われるなら、それで体調を崩さないくらい元の魔力量を拡張すればいいのだ。

 魔力量が拡張されれば、射精による不快感がなくなる。不快感がなくなれば、一人で自家発電するのもきっと上手くいくようになる。そうなれば、こうして僕がシているあまり健全でない現状も改善されることだろう。

 災厄を倒すべき勇者がいつまでもおにゃのこに射精管理されているようじゃ、救われる世界も救われないだろう。

 

 とにかく、これが僕なりの性教育というわけだ。

 ……というか他に何も思いつきませんでした。マジで誰か助けてください。

 

「……それじゃあ、僕、手洗ってくるね」

 

 ある程度アルマの体調が良くなったのを見て抱擁を解く。

 これもいつものことだが、彼は既に、安心したように寝入ってしまっていた。その表情は、10歳の子供らしい無垢なものである。

 

 拗れた関係ばっか作ってしまう転生娘はもうどうすればいいですか……。

 




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