TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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可愛い子には旅をさせよって言うけれど、美しい子はむしろ旅の途中で強姦されかねないから深窓の令嬢やらせるべきかと。何が言いたいかっていうとつまり、ニート辞めたくない!!

「……えぇと、じゃあ、第二回ノアイディ家家族会議〜〜」

 

 死んだ目で僕がそう宣言した。

 パチパチと父様が小さく手を叩き、どこから取り出したのか、はたまた作り出したのか、金髪巨乳の土人形を動かすルーナが小太鼓をドコドコ打ち付ける。

 白髪貧乳のヘリオは「儂と神、家族ではないのだが」と頬杖を付きながら呟き、アルマが「オレも血は繋がっていませんよ。一緒に住んでるようなものですし、いいんじゃないですか」と答えた。

 母様は椅子に縛り付けられている。若干胸が縄で強調されていてエチチ。ついでに僕も椅子に縛り付けられている。

 

「はい。じゃあ、レギュレーションは母様の逃避禁止というわけで。……あの僕縛られる必要ありました?」

「私も、縛られなくても逃げやしないんだけど……」

「巫女は、我が用意した円卓から逃げた前科があるからギルティじゃ。人の子は、まあ、その次に逃げ出しそうじゃからな。灰色は黒じゃ」

 

 ルーナの要請により、第二回家族会議が実施された。飽き性のエセ女神としては前回中途半端な状態で終わってしまったことが不満らしく、話し合いは一発で終わらせろとのこと。話し合いって繰り返して行われるものだと思うんですが。

 家族会議というか、ルーナやヘリオがいることも考えると有識者会議みたいなものかもしれない。「レイン」の今後に関する。

 

「では、実況(司会)はわたくしレインがお送りします……。解説は命名神のヘリオさんと世界神のルーナさんです。よろしくお願いします……」

 

 やはり拘束が解かれることはないらしく、死んだ目になりながら続けて言った。なお席順は以前と同じである。

 デフォルトが死んだ目なルーナがウムと答え、ヘリオは可哀想なものを見る目で僕に横目で視線を送っている。やめろそんな目で見るな!

 しかし、なんでこのエセ女神ずっと死んだ目なんやろなぁ、転生するときは普通だったと思うんだけど。堕天させられたことまだ怒ってるんだろうなぁ……。怖いので、話題に出したことはない。

 

「前は……、僕の本来の真名がニイロであるとお伝えしました。レインと偽ったことに関してですが、『ニイロ』という名が本当に無理なんです。自分がそう(・・)であると認めることが、吐き気を覚えるくらい無理です。こればかりは上手く伝えられる気がしません。……あとは、言い訳のようになりますが、当時は真名がどれほど大切なものか分かっていませんでした。気付いた後も、ずるずる言えないままでした。ごめんなさい」

 

 上半身が椅子に縛り付けられたままだから、首だけ精一杯下げて謝る。謝って許されるんだろうか、これは。でも、謝る以外の選択肢を僕は知らない。

 多分、みんな優しいから。彼らは許してしまうのだ。じっと僕を見つめる三対の瞳は、責めるものでなく、続きを促すものである。

 

「ちなみに、人の子よ。お主も知らんじゃろうが、ひとつ解説をしてやろう」

 

 虚乳(原料が泥という意味で)が腕を組みながら声を上げた。

 なんですかいな、と横に目線を送る。なお、ルーナが腕を組んで胸が強調された瞬間母様が視線を真下に向けたのには気付いている。大丈夫ですよ。ロープで強調されるだけの大きさは母様もあります。その絶妙なサイズ感が僕は一番エチチだと思います。

 そういう思いを込めて、自由に動かせる足で母様のふくらはぎをスリスリ撫でる。顔を真っ赤にして恨みのこもったような視線を送られた。解せぬ。あと、僕の足の動きに気づいた右横の正真正銘のド貧乳から右手の甲を(つね)られた。解せぬ。

 

 それはさておき、ルーナの語りである。

 

「前世から転生の過程、そしてこの世界に生まれるまで。お主の意識は連続的なものであったじゃろう? その過程で、魂の本質が変化すると思うか?」

 

 多少の暗転はあったが、確かにずっと己というものへの認識、過去の延長線にいるという意識は無くなることがなかった。それを根拠にしていいのかは分からないが、「魂の本質」とやらは変わっていないだろう。

 だが、それがどうしたと言うのだろう?

 

「魂の本質……それが変わらんということはな、真名も変わらんのじゃよ」

 

 ルーナを見ていると、背後でピクリと動く気配がした。僅かに視線を送れば、ヘリオが口元に手を当てて考え込んでいる。

 

「……お主らが知り得ぬこととして、我が言えるのはここまでじゃな。あとは宿主、お主が話してやれ」

「ヘリオ?」

 

 基本的に、ルーナは「何でもできる」あるいは「何でも知っている」からといって、それを行わないし話さない。極力「世界」に自分の干渉の跡を残したくないらしい。僕の魔力拡張どうこうに関しては、それをしないと彼女が元いた場所に帰れないから一切自重していないらしいが。ポリシーはあるが、実利主義ゆえに捨てることもあるというわけだ。

 ここで切り上げたということは、この先は彼女無しで話を進められると判断したのだ。話題を振られたヘリオの名を僕が呼ぶ。ああ、と低い声で答えて、少し考え込むようにしてから小柄な少女が口を開いた。

 

「……お前さまの前にいた世界には、真名も魔法も存在しなかった。それは確かか?」

「うん。多分。と言っても、僕十数年しかあそこにいなかったけどね」

 

 エルフ社会に馴染みつつある今の感覚としては、十年で一体何が分かるのかという思考が生まれている。まあ、物事の流れ・変遷する速さがこことは段違いだったんだろうけど。

 だって大半のエルフの若者を見てみようよ。大体昼寝してるよ。いや大人も昼寝してるな。午睡(シエスタ)は日本にも導入するべきだった。

 

「これは、予想でしかないと先に言っておく。……真名、魔法というものがどんな世界にも存在するとして、お前さまのいた世界では真名を知る手段が存在しないが故に魔法が『存在しない』ものと思われているのだろう」

 

 うん。それは、もしかしたらなって僕も思った。

 ルーナ、いわゆる上位存在さえ使っているのだから、魔法がこの星特有の何らかの物理現象というわけではあるまい。むしろ、こちらが「標準」だ。分かりやすく言えば、地球において魔法は失伝している。

 最初に真名を教えてくれる人がいなければ、誰も真名を知ることがない。そうすれば誰も魔法を覚えない。知らないことは存在しないのと同義だ。

 

「生まれたとき、誰もが魔力を持っている。その魔力は真名と結び付けられたものだ。お前さまのいた世界では、苗字と名前というものを使っていたそうだな? ならば、真名との結びつきが失われた魔力はじきに肉体から乖離する」

 

 そろそろ話が難しくなってきた。頭痛い。

 まあ今言ったことは、僕が現在死にそうになってる原因の部分だからまだ理解できた。アルマとか付いてこれてるんだろうか……あっ、虚空を眺めてますね、これはダメそう(こなみ) お姉ちゃんと一緒に脳筋タイプとして生きていこうね。

 

「……ええと、その話とルーナの言っていたことに、どんな関係が?」

「まあそう急くな……。魔法が乖離した体は、その時一番結びつきの近い名前が真名であるように振る舞いだす。お前さまの場合、それが『ニイロ』という言葉だったわけだ。ここで先ほど神が言ったように、『転生しても魂の本質が変わらない』のならば……」

「それが、僕の真名が『ニイロ』だった理由(わけ)ですか」

 

 その名は、偶然僕が、隕石に当たってしまうように引き当ててしまったわけではないということだ。たまたま三文字の文字の並びが一致したのではない。言うなれば、そもそも僕を狙って隕石を投げつけていたのである。

 

 というか、僕は前世で得た思考回路があるからともかく、この褐色白髪ロリどうやっていまの間にそこまで考え至ったんだ……? え、もしかしてヘリオ、キミ頭つよつよ系のロリ……?

 僕の思う思考の柔軟さランキングでは、ルーナが枠外で父様が次点、母様が続いて、アルマとヘリオでタイくらいかと思ってたんだけど……。え、なに、脳筋って僕とアルマと母様だけ? マ?(絶望)

 

 ヘリオがIQハーバードだった、という事実に絶句している僕を見て何を勘違いしたのか、彼女は椅子の横に縛り付けられた僕の右手をそっと握り、目を伏せて「すまん……」と呟いた。

 正直何を謝っているのか分からない。彼女はずっと僕に「真名を使え」と(さと)してきたわけだし、あの時彼女が僕に言おうが言うまいが僕の真名は「ニイロ」だったのだ。

 

 手のひらをキュッと握り返し、僕は本題を切り出すことにした。

 

「と、まあ、いまの『僕の真名』はニイロです。……でも、『僕』はレインです。レインでありたい(・・・・)と、そう思っています」

 

 ともすれば、真名をこのまま偽り続けてニイロとしての魔力が乖離したとき。命を失う代償に、次こそ「レイン」を真名として生きていけるのかもしれない。

 でも、それじゃあダメだ。

 

「僕は、レインとしてあなた達と、これからも生きていきたいです」

 

 これがわがままでしかないことは分かっている。

 全部自分の思う通りにいかないと癇癪を起こす、子供みたいな言い分だ。

 でも僕、まだ「大人」ってやつを経験してないんだぜ?

 

 それに何より、「子供っぽいワガママを言うこと」と「大人っぽく言葉を飲み込むこと」、本当に大切な人達にどちらを選ぶべきかって話だ。

 

「知恵を貸してください。権力を貸してください。立場を貸してください。時間を貸してください」

 

 動かせるだけ、頭を最大限まで下げる。

 泣き虫な僕だけど、どちらかと言えば決意に近い気持ちであったから零れるものは何もなかった。

 

「断っても当然です。本当に、ただわがままを言っているだけなんです。差し出せるものもありません。ただ……お願い、します」

 

 なにか差し出せと言われて、肉体ぐらいしか思いつかないほど僕には何もない。商談だったら門前払いもいいところ。でも、そもそも頼むことすら知らなかった頃に比べれば、少しは。

 アルマの「なぁ」という声を聞いて、顔を上げた。

 

「ええと、オレ、何をすればいいか分からないんだけど……」

「あぁ、ごめん……言葉が足りなかった。つまり、このまま『レイン』を名乗れば、近い内に魔力が乖離して僕は死んでしまう。それでも、そうならずに『レイン』として生きていける方法を一緒に探してほしい、です」

「死んで!? ……いやでも、手伝うのは構わないけどさ、オレ、何の力もないぞ?」

 

 ……はい? 何の力もない?

 

「いやキミ、勇者でしょう……? いずれ外の世界でいちばん有名な人間になっちゃうんだよ……? 人脈だって、失われた技術だって、何でも欲するがままになるかもしれない」

 

 むしろ一番頼りにしているまであるんだけど……。なんかこう、オーパーツか何か転がってるかもしれないし……。

 そもそも、そうだ。彼は「転移」という、本来ならば肉体の魔力に関わる回路を壊しかねない魔法を自在に使える「例外」だ。つまり、何らかの条件が揃えば、この世界では「例外」も存在し得る。ならば、真名を偽るという「例外」だってあり得る。

 僕のわがままの、一番の希望が彼なのかもしれない。まあ、勇者として活動する前に僕が死んでるかもだけど。

 

「…………外の世界に行くの、楽しみになってきたかもしれない」

 

 目をパチクリとさせてから、アルマが呟いた。

 つまりは、何も迷うことなく、彼は僕のわがままに付き合うと宣言した。

 

 そのことに感謝しつつ、今度は父様を見る。彼は微笑んで僕を見つめていた。……おいおい、縛られた美少女見つめて微笑むとか変態か? HENTAIでしたね。何でもないです。

 

「レイン、君はさ。本当に手のかからない、いい子だったと思う」

 

 今となっては転生したからだということを理解しているのだろうけれど、母様と一緒になって裏切ったということさえ気付いているのだろうけれど、それでも父様は柔らかく笑って言った。

 

「ディアルマスのことも君が率先して面倒を見てくれたから、とても助かった」

 

 本当に、この人のことは分からない。

 どんな気持ちでそう語っているんだ。なんだってそんな、結婚式の親のスピーチみたいなこと言って。もっと怒ってほしいし、呆れてほしいし、あるいはいつもみたいに馬鹿げたことを言ってほしい。

 

「──だからさ、初めてわがままを言ってくれて、凄い嬉しいんだ」

 

 やめてくれ。あんまり優しくしないでくれ。また泣いてしまうだろ。

 

「君の父親になれてよかった。これで、堂々と君を助けてあげられる。……僕らの子供に生まれ変わってくれて、本当にありがとう」

 

 それはきっと、勘違いなのだと思う。

 この世界に生まれてしまったことを後悔ばかりしている僕が、一瞬でもそのことを、嬉しく思ってしまった。そう思う権利すら疑わしいと言うのに。

 

「……あなたの、子供でよかった

 

 震えたような声を漏らしたのは、きっと僕じゃない。風か、そうでなければ、空耳だ。

 だって、僕が言ってしまうには、あまりに罪深すぎる。

 

「困ったな……」

 

 今度は母様が口を開いた。

 

「……知恵も、権力も、何もかも。貸すどころかキミに全部あげちゃっていいんだけどさ。ディアルマスが勇者として外を訪ねて、キバタンが森人の知識を探るとして、私なんにもできないんだ」

「そんな、こと──」

「あるよ。私にできるのは……あとは歌うくらい? 歌って解決できることなら、レインがもう解決してるでしょ? だから、私は何もできない」

 

 何でもするのにね、と母様は寂しそうに笑った。それこそ命さえ差し出すのも厭わなさそうに。

 必死に否定の言葉を考えた。けれど、何も出てこなかった。

 

 

 

 

「いや、当代。お前でなければできないことが沢山ある」

 

 

 

 

 ──僕より先に、ヘリオが否定したから。

 

 うぇっ!? と母様が可愛らしくキョドっている中、僕もその「沢山」の内容がまるで分からないから、疑うような目でヘリオを見つめた。

 数秒。何かの決意をするかのようにヘリオが瞑目し、深く息を吐いたのち静かに言い放った。

 

「……まずは、そうだな。長老会に、御子が『外の世界』に旅立つための許可を取り付けよ」

 

 ……え、旅? 嫌なんだが。

 




レイン「24時間以上母様から離れると死ぬので」

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来週終わらせて、そこから9月頭の2週間ほど連日投稿とさせてもらいます。

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