TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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日常編2/幕間
天才にぼこぼこにされたあと、その天才がぼこぼこにされている姿を見るとなんだかなぁってなるよね。まあそれでも積んで行くしかないし、コツコツ行きましょうか


 強さとはなにか。

 人は何のために己を鍛えるのか。

 

 その答えは知らないけれど、前世でもそれなりに弓の道を修めていたので、武道というか、ただ己を磨くなどという曖昧な理由でも鍛錬を続けることはできた。

 建前は、僕が逃げ出せば先生がアルマを見てくれないという脅しにあった。しかし実際のところは、ゆっくりと、淡々と、ひとつの物事に打ち込んで成長していくという過程が好きだったのだと思う。

 身体強化のおかげなのか体の素のスペックが高いのかは知らないが、体運びや動体視力、戦闘の勘、どれも面白いくらいに吸収し成長することができた。そんな調子で5年近く達人の側で練習してきたわけだから、今なら日本の高校剣道くらいならイイ線まで行けると思う。身体強化を使えば人外の領域に踏み込めるから、対人間なら中々負けることもないだろう。

 

 5年は短い時間ではないが、決して長い時間でもないと思う。ただ魔法が使えるか否かというだけで、24時間365日頑張ってきた人達をひょいひょい越えれてしまうというのは、その努力と時間を嘲笑っているようでやや心苦しさも感じる。

 が、同じくらい僕も、積み上げてきたものを簡単に追い越されているのだ。

 

 ──転移。

 

 あれはアカン。みんな大好き「縮地」なんて歩法のように、かねてより戦闘において移動は再重要案件とされてきた。(ちなみにみんなが縮地縮地呼んでいる歩法は実は違う技だったりする。名前は忘れた)

 刹那のやり取りで結果が決まる世界で、いついかなるときも背中を取られかねないというのはもはや無理ゲーである。攻めにも使えるし、逃げにも使える。攻略するとしたら、アルマが「転移をしよう」と思考するより先に倒さなきゃいけない。つまり、不意打ちくらいしか選択肢がない。

 

「……そのはずなんだけどなぁ」

 

 チート勇者の理不尽さに現実逃避しているつもりだったが、目の前で行われていた模擬戦の結果は、彼が転がされている風景であった。

 アルマの相手は、最近ちょくちょく稽古に関わってくるようになったシロ先生である。

 

「……もう一回ッ!!」

「応。頭を使わんか頭ァ」

 

 横から眺めているとよく分かるが、転移の魔法は本当にパッと消えて同時にパッと現れる。時間差は作れないらしい。まあ、消えてる間どこにいるんだって話だしね。

 が、先生が「もっと頭を使え」と言うように、馬鹿なんじゃないかってくらいアルマの転移先は位置が悪い。

 ……いや、彼が悪いというより、先生がおかしいのだろう。なぜアルマの転移先が事前に分かるのか。背後に飛んだり、後ろと見せかけて超低姿勢で下段から打ち込んだりしても、転移した次の瞬間にはアルマの顔の前に棒切れが置かれている。

 

 言ってしまえば、完全に戦局をコントロールされているのだろう。先生は今まで一人で鍛錬していたのだろうし、アルマだってそんな読みが悪いわけじゃないというのに、どうしてここまで翻弄できるのか。

 一度聞いてみたが、完全に感覚型の天才の説明だった。うん。先生に関しては、教授してもらうというより、見て盗んで学ぶ方が良いのだろう。

 

 ……あ、またアルマが転がされた。

 

 後頭部から行ったから痛そうだが、癒しの魔法を勝手に使うと怒られるので何もしない。曰く、「痛い方が覚える」。真理である。なので、僕自身も鍛錬中に怪我を治すことはしない。

 

 先生の試合運びを眺めて分析しながら、転移の魔法がどういう風に魔力をはたらかせているかも気になるから、アルマの周りと彼自身の魔力を「視る」。

 空気中の魔力塊とかはわざと視ないようにしない限りはずっと視えているのだが、生き物固有の魔力塊は逆に視ようとしなければ視えない。

 

 蟲師だったかな。瞼の裏の瞼を閉じると視えないものが見えるようになるって話があったけれど、それに似ている。瞼ではなく、瞳の裏の瞳って感覚だけど。焦点を顔の近くに置くと、周りの景色がぼやけて見える。ガラスか何か、層を挟んで見ているように。

 それに似た感覚で、瞳の裏の瞳の焦点をずらす。すると、人体に重なっているはずの魔力塊も視える。あとは慣れれば、どんなふうに流れているのかだなんてのが分かるようになる。

 

(……連続的じゃないんだよなぁ)

 

 「転移」を真似できる気がしないのはそこだ。

 連続的。何やら難しい言葉のような気がするが、言い換えてしまえば、現実的でないのだ。

 

 魔法が物理法則を守らないのは今更だが、それでも何らかのルールには従っているように思う。空を飛ぶことだって、結果だけが付いてきているわけではない。空気中の魔力塊が僕の体に直接はたらきかけた結果だ。

 しかし、転移は違う。結果だけが突然現れる。魔力だけが行き先に移動するとかそういうことでなく、アルマが転移する直前、そこにあった彼の魔力がその場に溶けるように消え、行き先に現れる。まるで空間をそのまま交換したかのように。

 過程がないのだ。不連続、肝心の「はたらき」の部分が一切分からない。あるいは、僕の「視える」魔力にも限りがあって、彼は視えない部分で何かをしているのかもしれないけれど。……そうだったらどうしようもないので、転移の魔法も解析できることを祈るばかりである。魔法学校とやらに過去の勇者の話とか残されていないだろうか。

 

 なお、ルーナに女神やってた頃は転移できたんですか、と聞いたところ、できていたらしい。勇者だけの特権でないことは分かった。勇者か神様だけの特権なのだ。

 僕もルーラしてぇなぁ……。そしたら旅に出ても毎日母様に会えるんだけどなぁ……。

 

 あ、またアルマが転がされた。力尽きたのか今度はもう起き上がる様子がない。

 

「おまんはほんに馬鹿というか、分かりやすいのう……」

 

 先生がアルマを見下ろしながらため息をついた。

 アルマの動きが分かりやすいなら、それすら読み切れず負けた僕はもっと馬鹿なんでしょうか?

 

「読みや勘は、おまんの方が優れちょる。そうなぁ、おまんは目で追いきれんくらい疾い相手とやったことがないじゃろ」

 

 そういった人物と何度もやれば、今のアルマくらいの練度で転移をされても同じようなものとして戦えるらしい。

 逆に言えば、アルマが更に成長して転移の使い方がうまくなった時は、先生でも彼を捉えきれなくなるのかもしれない。

 

「……って、シロ先生が追いきれないくらい疾い人が森人(エルフ)にいたんですか?」

「いんや……、獣人じゃ。以前の勇者の、仲間のなァ」

 

 先代勇者の仲間……。そうか、仮にも長老級の年齢だもんな、この人。なんなら前の前の勇者とかも知ってるのかもしれない。

 前の勇者と言えば、エルフと結託して災厄を打ち払った人物だ。詳しくは知らないが、エルフ全体からの好感度も高めだしさぞ立派な人物だったのだろう。

 

 獣人か……。

 ケモ耳、実在するんだろうなぁ。モフモフした尻尾も。

 ケモ度がどれくらい高いか知らないけれど、モフりてぇなぁ……。

 

「先生はそれくらい疾く動けますか?」

 

 なんなら、その速さで相手してほしい。

 そうすれば、アルマにまだ追い抜かれずにいられるだろうから。

 

「膝が痛ぇ」

「あっハイ」

 

 体に負担かかるからね。しょうがないね。

 膝の痛みは軟骨のすり減りだったりして、癒しの魔法でどうこうとかじゃなかったりする。痛みは多少消せるかもしれないけど、多分真面目に治そうとしたら医学を学ばなきゃいけないだろう。

 

 まあ、何はともあれ。

 

「とりあえず、一本よろしくお願いします」

「応」

 

 気絶したままのアルマを日陰に運んで、使い古した木剣を取る。

 対する先生は、拾った適当な棒を握っている。多分拾ってなければ素手で相手される。

 

 まだ先があるというのなら、学べることは学ばせてもらおう。

 しばらくここを離れるのだから、今のうちに学べるだけ。

 

 まあ、旅の途中の護身術くらいには使えるんじゃないですかね。

 


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