TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
「つ、遂に完成してしまった……」
声が震える。
目の前には、ほうとため息を付いてしまうくらい立派に反り返る長物。
思わず頬擦りしたくなってしまうが、それをぐっと堪え、隣に並んで置かれたものを見る。
和弓を引くための道具。簡単に言えば、弓を引く人が
つまるところ、和弓と弽の再現ができたのだ……!
どうもエルフたちの弓には慣れなかったため、弓は弓師に、弽は革細工師に話を聞いてもらい、どうにこうにか試行錯誤の末に辿り着いた。弓は構造を伝えてあとは先方に任せていたが、弽のほうは誰も知らないので、幾度もの失敗を乗り越えてここに到達したのだ。
弓は木製の焦げ茶色。強さは26キロくらい。
弽は素材の都合で黒色だ。当然日本とは生態系が違うので、子鹿なんて用意できなかった。鹿に似た動物の皮だが、鹿とは違い一本角が生えていた。
矢はほとんどどこでも変わらないので、エルフの間でも一般的なものをそのまま使える。長さだけ、僕の
とりあえず一、二
「〜〜っ!!」
こ、これだよこれ……!
離すんじゃなく、「離れ」る感覚。こればっかりは、
息を
頭の中から、あらゆる思考が立ち消えていく。その代わりに、自分が世界に溶け込んだかのような、どこか別の場所から自分を眺めているような感覚になる。
……ああ、そういえば素振りをしている時もこんな感じに──
「…………あっ」
いかんいかん。余計なことを考えたせいで離れが雑になってしまった。矢所、矢の飛んでいった場所が狙いからずれてしまう。
今更的を外すようなことはないが、継矢、つまり既に刺さっている矢に当たってしまうと、矢が壊れる。あまり良いことではない。矢、勿体ないし。
まあこの辺の感覚というか、集中力は、引いていれば追々取り戻せるだろう。この世界での生活は鍛錬の時間を除いて随分のんびりしているものだから、僕の方まで段々とのんびりした思考回路に変わってきている。……元からか?
「おお、凄いねアンブレラ。全部真ん中じゃないか!」
「……見事なものだね」
反省していると、いつから見ていたのか父様と母様が横から声をかけてきた。野外で真名を呼ぶのは不用心なので、母様には仮名で呼ばれている。
「その弓と手の装具は、前世の世界のものかな?」
「はい、そうですね。まぁ、威力は特別強いわけでもないので芸術的な側面が大きいかもしれません」
多分、木弓で40キロとかの弓を作るのはなかなか難しいと思う。ボウガンの方がよっぽど使い回しやすいし、鉄製の弓なんかがあれば、いくら大きな和弓を用意しても絶対に威力で負けることだろう。
特に、森の中でこんな長いものを振り回せるはずもない。
ただ「当てる」、「殺す」という目的のためならば、わざわざこんな道具を持ち出す必要はないのだ。
それでも、和弓は美しい。人体を完璧に使い切れば、時に鉄板だって貫く。
モンゴル弓や
……というか、効率重視があんまり好きじゃないのもあると思うけど。
「あぁ、ただ服装がちょっと違うので、そこの違和感はありますね。弓を引くときはそれ用の服があるんですよ」
「どんな服なの?」
「袴と道着なんですけれど……
そういや袴ってなんであんな折り目多いんだろ。構造はほぼ同じくせに、ついぞスカートはジャパニーズカルチャーに実装されなかったし。
歌舞伎とか、奇をてらった文化の人達なら「折り目のない袴!」みたいなお巫山戯くらいしそうなものだけど。それとも僕が知らないだけで、普通にあったのかな?
「じゃあ、作ってもらおうか」
「まじですか」
mjd?
サラッと父様が放った言葉に硬直し、ついでに言葉遣いが崩れた。
「まじですよ。……丁度暇そうにしてる友人が居たから、新しい発想の服飾デザインを伝えたら喜ぶと思ってね」
父様はいつも忙しそうにしているのに、どうして他のエルフ達は暇人が多いんだろう。
……あ、父様が首を突っ込むタイプの人だからですね。
「ほんとに作るとは……」
「私の分も頼んだんだってね。楽しみだなあ」
奏巫女としてちょっとした仕事を終えてきた母様と一緒に出来上がったものを受け取りに行き、お弟子さんだという若めの男の人から完成品を受け取った。
買い物をしながら帰り道を一緒に歩く。デートみたいで楽しいなふへへ……。
それにしても、母様はやっぱり人気者だ。買い物ついでに店主と歓談し、気付けばオマケをもらっている。
権力者に媚びへつらおうってわけじゃあないんだろう。そもそも、巫女って権力者って呼んでいいか微妙な位置だし。特別な立場ではあるし発言権もあるのだろうけれど。
「私だけじゃないと思うよ?」
「僕は好かれる要因ないじゃないですか」
「こんなに可愛いんだから、それだけで愛されるさ。……それにキミ、ちゃんとみんなの名前覚えてるんだね」
ああ、まあ、見た目はまあ、分かる。母様の娘ですし。母様の娘ですし!!
信じられるか? この体、
名前を覚えるのは結構頑張った。いや、ほんとに頑張った。
前世でのコミュ弱ってのは、何も会話下手ってだけで陥っていたわけではない。そもそも人の名前が覚えられないのだ。それだけで話しかけるという行為の面倒くささが一段回上がるし、会話を継続するということも難しくなる。結果、あまり話しかけないし、話しかけられても素っ気ない人間が出来上がる。
全国のコミュ強たち、そのことを理解した上で、コミュ弱にたくさん話しかけてやってくれ……! 友達がいなくていいと思っているわけじゃないんだ。ただ、経験値と能力が圧倒的に足りていないんだ……!
「私がキミくらいの頃は、人の名前どころか、関わることも少なかったさ。……だから、
「……そういうものでしょうか?」
「うん。きっと、キミが思っているよりね、キミは沢山の人から見守られているよ」
……いかんな。
独りよがりな思考に陥りがちだから、こうやって色んな人に気にかけてもらえていることを誰かに教えられると、つい涙腺が緩んでしまう。
前世ではあまり涙を流す機会もなかった気がするけれど、転生してからはもう何度も泣いてしまっている。泣き虫になってしまったと反省するべきか、情緒豊かな生活ができていることを喜ぶべきか。
でも、恥ずかしいけれどあまり悪い気はしないから、きっと喜んでいいことなんだろう。こんな泣いてばかりでいつか枯渇しないかな。下手したらあと数年の命だし、出せるだけ出しとこうか。
「……どう、ですか?」
「「「……」」」
家に帰り、ちゃちゃっと着付けをした。どんな風なのか見せるために、まずは僕だけ。
父様母様、アルマ。見慣れぬ衣装に戸惑うように三人とも無言で見つめてくるから、若干の気まずさがある。
「な、何か言ってくださいよ」
弓道着は男女で腰板があったりなかったり、前紐を結ぶ位置が違ったりなどと差異があったはずなのだが、正直おにゃのこの着るもののことなど知らない。
袴の位置が女性は高くなることは分かっていたので、そこで邪魔になる腰板だけは取っ払ってもらって、あとは僕が使っていたものと同様にした。
後ろ髪は縛らずに流していると払ってしまう可能性があったので、耳を出して後ろにまとめて縛っている。一本に結ぶと長さの分揺れて姿勢が崩れるので、頭の後ろに輪っかを作るような感じ。
鏡を見てみれば、まあ可愛らしいのだが、ジャパニーズカルチャーに憧れてコスプレした外国人にしか見えない。しかも耳がちょっと尖っている。コスプレ感しゅごい。
「これは……いいものだね」
父様が真面目くさった顔でそう呟いた。……まあ、動きやすいですよ。
和服は行事用に着ると堅苦しいが、運動用だとか、普段遣い用として着る分にはかなりルーズで、楽なのが良い。甚平とかエルフ文化に導入したいが……おにゃのこの体では、あまり着るのに向かないかもしれない。
「好きだ……」
「ファッ!?」
母様は唐突に告白してきた。みんなの前なんですが!?
ま、まあ状況的に、馬子にも衣装みたいな感じで可愛いね好きだよ、みたいなノリで言ったんだろう。弓道着可愛いよね。分かる。僕も弓道女子大好きです。だから弓道部のおにゃのこと付き合ってる男共は許さない。もげればいいのに。
赤面しつつ、アルマにも感想を伺ってみる。
「……き、綺麗、なんじゃないでしょうか?」
若干キレ気味に言ってきた。
落ち着け。どうした敬語になって。落ち着け。
僕も母様の唐突な告白でテンパってるけど。
その後、皆の分も一緒に作ってもらったので着方を教えてあげる。
父様は僕と同じでコスプレ外国人感が強く、逆にアルマは黒髪なのでよく似合っている。うん。黒い袴に白い道着、そんで髪は黒っていうこの色彩の感じも、弓道着の良さのひとつだよね。
そして母様だが、あかん。
自分が着ているときは一切気にしていなかったが、道着の男女差で脇が開いているかどうかという違いがあることを忘れていた。
そりゃあ、JKが腋晒して弓引いてたら変態が集まっちゃうから、女物は脇閉じたもの用意しますわ……。
つまるところ、いま母様は脇の開いた男性用のものを着ている。
袴・母様というだけでただでさえエチチなのに、これで脇が見えてしまうとなればエチチポイントのハットトリックですよ……。何言ってるか分かんねえ……。
とりあえず、母様の脇をガン見しながら袴で和弓を引いてみたりした。
やっぱりこっちの方が気分が乗る。気持ちよく引けたと思う。
もちろん、その日の晩は弓道着を着せたままコスプレえっちをした。
やっぱりこっちの方が気分が乗る。気持ちよくイってたと思う。