TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
コンコン、とノックの音が鳴る。鳴らしたのは僕だが。
「アルマー、いる?」
ちなみに、ノックの回数は2回がトイレだの4回が初めて訪れる場だのと細かいルールが決まっているそうだが、ぶっちゃけそれを日常生活で気にするのはアホらしいだろう。いちいち部屋の扉4回も叩かれたら、むしろ「うるせえよマナーがなってねえな!」とブチ切れ案件である。
んー、と間の伸びた声がし、木製の開き戸が内側に開かれる。目線より少し低い位置に黒髪。愛する弟、ツグミ・ディアルマスである。なお現在下着泥棒の疑いがかかっている模様。
まだ少年らしさの抜けない風貌であるが、鍛えているからか何か別の要因か、同年代の子達よりやや垢抜けた印象である。洗練されていると言うべきか。まあ、勇者の使命を意識しながら生活してたら自然とこうなっちゃうのかな。もっと可愛がってやらんと。
逆にこの年頃のエルフ達と言えば、男女問わず大体が脳内お花畑である。15歳前後でおにゃのこ達は少し恋愛に興味を持ち始めるが、男の子は20になっても外遊びが大好きだ。金髪翠眼のイケメンたちが楽しげに虫取りをしている光景を見られるのはエルフの里だけだろう。僕も混ざろうとしたらアイリスに必死に引き止められた。つらい。
全然関係ないけど、アルマって黒か銀縁のメガネ似合いそうだな。残念ながら水晶体周りの細胞(チン小帯というらしい、完全に下ネタですね)も中々劣化しないので、エルフの里にメガネ文化は根付いていない。つまり、メガネ萌えがここに転生したら死ぬ。メガネ萌えじゃなくてよかった……。
でも母様がメガネかけてたら、可愛い上にエチチポイントも高そうだな。まあこれは僕がメガネ萌えってより母様萌えだからってだけだろうけど。マザコンでなく、正確に言えばテレサ萌えである。
それはさておき、聴取といこうじゃないか。名探偵ってかデカだなこれ。
「さて、大事な話があるんだ」
「あー……、じゃあ、オレも言いたいことがある」
部屋に通され、机に向かい合って座る。アルマは寝る以外ではあんまり部屋を使わないらしく、ワードローブと小棚、そしていまお互いが席に着いている小さな机くらいしかない。
棚には僕が一昨年誕生日にあげた自作のぬいぐるみと、小さな木片が置かれている。あれ確か、先代の鍛錬用木剣だな。使いすぎて折れたやつだ。
しかし、どうもアルマからも話があるらしい。
これもしかして、マジでヘリオが言ったみたいに、拾ったけど言い出せなかったパターンか? ちなみに、ぱんつソナーの反応はしっかりワードローブの方から来ている。
「えっと、じゃあアルマの話の方から聞こうかな」
ポジティブに考えるんだ。逆に、このタイミングでぱんつを拾ったことを告白しないのなら完全にクロである。さあ、何の話をしてくれるのかな!! 猥談でもしますか!!
ああ、と返事をして、アルマが席を立つ。
そしてワードローブの方へ歩いていき……やめて……ここで解決させて……やめてぇ……。
「その、これなんだけど」
「ぁぁぁぁああアアア!!」
「!?」
アルマが取り出したのはハンドタオルだった。
しかし何かを包んでいたようで、それを開いたところにあったのは水色の布、肌触りの良さそうな、片手で掴めてしまうような小さな下着……つまり、ぱんつであった。僕の。
もうオラこんな世界嫌だ……。
アルマがここで明かしたということは、彼が盗んでいた可能性が極端に減ったわけだ。となると、それでも誰かが盗んでいた場合、僕は一切気付くこと叶わずに、何者かにぱんつを奪われているということになる。普通に怖い。
もうあれかな……ぱんつに全部地雷になるような術式施そうかな……。そんな魔法無いか……。まあ、空気が膨張して破裂する術式くらいならいけるかな……。
「レ、レイン……? ごめん、気持ち悪いよな、でも盗んだとかじゃなくて──」
「──いや、君は間違ってないんだ。全然気持ち悪いとかない。もうそれでいいんだ。君は本当に何も間違っていないから……」
でも、本音を言うと盗んでいてほしかったです。
ここで「しょうがないな〜アルマはお姉ちゃんっ子なんだから〜」とゴールできるのが一番良かった。こうなってしまったら、どこかに潜む盗人と全力でやり合わなければいけない。けれど近ごろのノーパン週間のせいで、犯人も何かしら僕が気付いていると警戒したことだろう。
「いや、……これだけじゃないんだ」
僕が世界に絶望して机に突っ伏そうとしたところで、アルマが予想外の言葉を紡いだ。
……これだけじゃ、ない?
「もうひとつ」
そう言って、アルマがさらにタオルの包みを取り出す。
今度は、白を基調とした少しレースのあしらわれたぱんつが出てきた。僕のだ。
「あと、これも」
唖然として何も言えない僕をよそに、アルマは3つめの包みも取り出す。
僕のぱんつだ。僕の。ぱんつ。まいぱんつ。ぱんつ。
「え、……え? ……えぇ?」
僕が彼に対し餌として撒いたのは、最初の水色の一枚だけだったはずだ。
……まさか、勝ったのか?
その期待は、即座に切り捨てられた。
「やっぱ、全部レインのか。いやどうにもタイミングが掴めなくて言いにくくてな……。風呂場近くとか、廊下に落ちてたのを拾ったんだけど。んじゃ返すよ、はい」
「…………ぁぃ」
全部、落ちていただと……?
風呂場近くに罠を設置した覚えはない。結構みんな使うから、誰かを狙うのに適さないからだ。
ええと、つまり。
僕が不注意で、家中にぱんつバラ撒いてたんですかね?
風呂上がりとか、着替えて脱いだ服を洗濯物を置いておく場所まで持っていって、いつも「そぉれ(上機嫌)」って投げ込んでいる。
その持っていく途中で、ぱんつだけポロポロ落としていたと?
ぱんつだけ落とす呪いか? なにそれどんなデバフ?
「……拾ってくれて、ありがとぅ……」
「お、おう。大丈夫か……?」
なんとか感謝の言葉だけ絞り出して、羞恥で赤くなった顔を覆う。
もうやだ。れいんこどもだもん。じゅうよんちゃいだもん。ぱんつおとすことだってあゆもん。むしろすすんでおとすもん。
はい! 閉廷!! ぱんつ問題終わり!
「それで、レインの話ってのは?」
「もう解決しましたぁ……」
終わりだから! もうほじくらないで! 他人を疑った僕が一番悪かったです!!
人を疑う前に自分を疑うべきでした! 恥ずかしいからもう全部忘れましょう!!
……なんか悔しいから、というか恥ずかしさを紛らわすために、アルマを少しからかってやろう。
「でも、ぱんつくらい普通にいつでも手渡ししてくれればいいのに。僕がアルマのぱんつ拾ったってそうするよ? そんな恥ずかしがって、好きな女の子の前じゃないんだから」
席に着こうとしたアルマが、中途半端な姿勢でピタリと動きを止めた。
……お? 恋バナ苦手純情ボーイか?(愉悦)
「そういえば、アルマ好きな子いないの? キバナちゃんとかうち来た時そこそこ喋ってるよね? キバナちゃん凄い可愛いし僕の推しなんだけどどう思う?」
「……うるせぇ」
おう照れてる照れてる(愉悦)
やべえ、母親ってのは子供の恋愛ごとに首を突っ込む生き物と聞いてたけど、その気持がわかるかもしんない。たしかにこれは楽しい。いや、愉しい。
キバナちゃんは僕の推しだが、アルマなら譲れる。というかむしろ、キバナちゃんとアルマ付き合わねえかなと思って幼少期の頃から顔を合わせさせたわけだし。キバナちゃんの姉になりたい。弟夫婦を弄りたい。
「ああ、これ僕の前世ネタなんだけどね、この間アルマの言ってた『月が綺麗ですね』って、前世の世界だと『私はあなたを愛しています』の意訳のひとつなんだよね」
「……は? ……マジで?」
「マジマジ。まぁ別にその訳が本質じゃないんだろうけどね。でもロマンチックなセリフだし、好きな子口説く時に使ったらどうかなっ?」
別に、「月が綺麗ですね」を好きな相手だけに言わなければいけないわけではないと思うけれど。だからその返しとして「死んでもいいわ」を選んだ僕は正直センスがない。まぁ、センスあったらレインなんて名前選ばないよね。
そうだな、言ってしまえば、「火垂るを見にゆきましょう」みたいな言葉でも良いのだ。漱石が言いたかったのは、日本語という素晴らしい言語の枠組みの中で、わざわざ「私はあなたを愛しています」だなんていう野暮ったく無粋な言葉を選ぶなら、翻訳家など言葉に関わる仕事はやめてしまえ、ということだ。
「…………たが?」
「ん?」
アルマが顔を俯かせながら、羞恥にプルプル震えて何か言葉を零した。
よく聞こえなかったので、聞き返す。
「好きな奴に、使ったが?」
……?
この子、もう誰か口説いたんか? そんなチャラ男に育てた覚えはないんだが。
「ええと、そう言う意味だって知ってたの?」
「いや、いま知った」
……??
「あの時以外で、誰かに言ったのかな?」
「言ってねぇよ。レインにしか、言ってない」
……???
あ、そうか。
「いや、好きな子ってそういう意味じゃなくて、……なんて言えば良いんだろうな。僕も愛とかは言葉にできるほど分かってないけど、家族とか友達とかのそれじゃなくって、結婚して、一緒に子供を育てて、キスとか他の色んな事とかもその人としたいなって思えるような、そういう相手のことなんだよ」
「──だからッ!」
アルマは、家族愛と好きな子への愛の違いが分かっていないのだと思った。
というか、実際のところ友愛とその愛にどれだけの違いがあるかなんて僕にはわからないけれど、一般的に「好きな人」と呼ばれるものへの感情を整理できていないのだと思った。
それならと説明をした僕に、アルマが声を荒げた。
「だから、レインが、ニイロが好きって言ってるんだよ!」
…………?
………………うぇっ!?
「馬鹿にすんな。オレだって、戯曲の一つや二つ読むし、舞台だって観に行くこともある。恋愛と家族愛の違いぐらい、知ってる。その上で、お前が好きだって言ってる!」
「……ぇ、ちょっ、まって……」
なんだ、これ。
え、告白? これ告白? 人生初の告白?
まって、なんか、え、まって、顔が急に熱くなってきた、タンマ。
「ぃや、……あの、ね? うぇ……、えぇ……? あぅぅ……」
やばいやばいやばいやばい。
心臓めっちゃうるさい。
母様に好きって言われるのとはまた違う、なんか、なんだこれ。やばい。
全然、準備も何もできてなかったから、頭と体がすごいチグハグな動きしてるし、変な汗出るし、とにかく何も分からない。やばいとしか言葉が出てこにゃい。
「……っクソ、こんなタイミングで言うつもり無かったんだが」
「にゃぅ、あの……、うゃぁ……」
え、え、何すればいい? 何言えばいい? わふう?
おちつけ、ほら素数を数えて1、1、2、3、5、8、13、21……フィボナッチ数列だこれ!
もちつこう、ほらペッタンペッタン……餅ついてどうすんだぁ!!
……よし、多分少し落ち着いた。
ええと、告られた。弟に? うにゅ? あばばばば!!
はゃぁ……うひぁぁ……告白される側ってこんな大変なもんなのかぁ。
ええと、うん、断るよ。うん。母様いるって? それは流石にアルマの精神形成に影響与えかねないな……。なんて言えば……。
「あ、あのあの、あのね、えっとね」
「落ち着け。オレもパニクってるけど、レインはとにかく落ち着け」
パニクってるって嘘だぞこいつ!!
こんな無表情で!! ばか!!
「あのね、この間言ってなかったけど、僕の前世、男の子だったからね? 男の子と恋愛するのはアルマあんまり好きじゃにゃいでしょ?」
「……? いまレインは女性だろ?」
つよいよぉ……。
チート勇者つよいよぉ……。チート関係ねぇ……。
へぇぁぁ……(脱力)
「いや、あぅ、でも、……ごめん。僕、好きな人がいるんだ」
「知ってる」
「…………へ?」
もう訳分かんないので幼児退行しまぁす。
ばぶぅ。だぁー。ぶあー。ばぶばぶ。ぶゃぁー。
「別に、いま好きってこと言ってどうにかなれるとは思ってねぇよ」
うゃ?
「でも、絶対に惚れさせてみせるから。もっと大きくなって、強くなって、格好良くなって、レインに男として意識させるから。……俺のことを一番、好きって思わせてみせる」
何だコイツ、乙女ゲーの攻略対象か?
キリッとした顔で言うんじゃねえ、あやうく男にときめきかけただろ。というか、男として意識させるのは、僕の中身が男だからむしろ悪手では……?
まあでも、一番好きって思わせる、それは……。
「……無理だと思うよ?」
僕の価値基準の一番に据えられているのが母様だから。
それはもはやすべての物事に対する物差しとなっていて、越せるかどうかの問題じゃなくなっている。
「無理に挑戦するから、勇者って呼ばれたらしいぜ?」
あああ! もう格好良いなぁ主人公かテメェは!! 勇者だから主人公ですね!!
ばぶぅ!
「と、とにかく! 恋愛感情持ってるならもうおなにーの手伝いはしないから! 一緒のお風呂も禁止!」
「風呂はレインから突っ込んできてたよな……?」
性の乱れはよろしくない。家族間ならともかく、そこに恋愛感情が挟まってくるのなら別問題である。
「ぱんつ、それ3枚ともあげます! だから、今度からはそれ使って一人でしなさい!」
「えぇ……」
好きな子のぱんつなら、オカズとしてこの上ないだろう。
顔が火照るのを感じながら、逃げるようにアルマの部屋を飛び出た。
心臓、うるさい。ばか。もっと大人しくしろ。電気ショックで無理矢理止めてやろうか。
頭、おちつけ、あほ。もっと冷静になれ。温度いじって無理矢理凍結させてやろうか。
なんだ、男同士で、しかも姉と弟だぞ? そんなんで恋愛感情芽生えるとは思わないだろ、ばかばか、ばーか!
……いや、女同士で、母娘で近親相姦してたわ。ドロッドロの恋愛感情芽生えてたわ。もはや恋愛感情って呼んで良いのか分からんけど。
何が「無理に挑戦するから、勇者って呼ばれたらしいぜ?」だ! 僕には母様がいますから!
……だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!
**連絡欄**
無事、勇者が姉のパンツを嗅ぐことで一人で自家発電できるようになりました。
もうお姉ちゃんの白くしなやかな指にお世話になることもありませんね!
性教育は大性交…間違えた、大成功!!
ど う し て こ う な っ た(6回目)