TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
「こんにちは、おじ様いるかしら?」
「父様? たしか舞姫達が来てて、応接室でその相手をしてたと思うが」
「ああ、分かったわ」
奏巫女の家樹を、御子と特に仲の良い友人であるキバナが訪ねた。
バッタリ出くわした勇者、ツグミ・ディアルマスが答える。
「父様に何か用か?」
「ちょっとね。大したことじゃないわよ」
キバナ自体は家名も持たず、特に何か森人の有力者の娘というわけではない。強いて言うならば、森人の中でも特に優れた容姿を持つ夫婦の間に生まれ、御子であるアンブレラ・レインと同年代ということか。
そんなキバナであるが、こうして巫女の家をふらふら歩いていても誰も何も疑問に思わない。御子と彼女の仲が良すぎるのだ。頻繁に互いの家に泊まるし、たびたび風呂も一緒に入っている。
もはや
と、そこでディアルマスの鍛え上げられた察知能力が人ひとりの気配を捉えた。魔力の気配が並大抵でない大きさである。こんな馬鹿みたいに魔力を振りまいているのは一人しかいない、ディアルマスの義姉、レインだ。
こちらに近付いてきている。この通路を歩いてきているということは……確実に風呂上がりである。
「あら、鼻歌……アンブレラじゃない」
「あれ? キバナちゃん? どうしたの、昼間か……ら……」
そこまで言い切ったところで、レインの視線がディアルマスに向く。
まったく、稽古の最中は未来予測かというくらい敏感にこちらの気配を捉えてくるくせに、オンオフの差が激しすぎる。
「つ、ツグ……ッ!」
レインは風呂上がりである。ショートパンツとシャツ一枚という気の抜けた格好で、ゆるい胸元に覗く陰やスラリと伸びた白い生足など、健全な人間の男子としては目に毒な光景だ。
彼女も、先日以降そうした物事にある程度気を配るようになったのだろう。顔を赤く染め、身を守るかのように腕で体を隠した。
食事の時なんかもそうだが、結構レインと気まずい感じの関係になっている。
気まずいというか……打ち解ける機会がないのだ。
「うぅ……」
ジトッとレインがディアルマスを睨んで、ジリジリと後退していく。そしてバッと振り向いて逃走した。
「はぁ……」
これである。レインがすぐ逃げてしまうから、何か小話でもして打ち解けるための機会が中々作れない。
あんなに弟大好きな感じだったレインが逃げ出した。その光景を不思議に思って、キバナが問いかける。
「ツグミ、何かあったの?」
「……なんもねえよ」
「あぁ……そう。告白したのね」
「……は!? えっ!? えっ!?」
誤魔化そうとしたのを瞬時に見破られ、少年らしさの垣間見える表情でアルマは驚いた。
否定はしない。嘘は苦手なのだ。それは美徳でもあると理解していたが、しかしこういった時はどうにも困ってしまう。
何か言ってやろうと口を開いたり閉じたりさせ、諦めたように溜息をひとつついた。
「その勘の良さを姉さ……アンブレラにも分けてやってほしいよ」
「無理よ。あの子の視線を追えば、他のものが何一つ見えてないって分かるでしょう?」
「そりゃあ、まぁ。……キバナは随分と割り切ってるんだな」
「あなたはともかく、女の私じゃあ先がないもの」
ほんとに、アンブレラがレンなら良かった。そう思う気持ちは今もまだ残っているけれど、でもいいのだ。
今のままでも……友達のままでも、他の友人とはしないくらい沢山触れ合える。唇を重ねる、それだけで十分幸せを感じられる。時折無性に苦しくなることがあるけれど、そうした時の対処法も覚えた。
女性同士での恋愛。森人の里におけるその行為の意味をどれだけアンブレラが理解しているかは定かではない。
最終的にどこぞののんきな森人の男にかっさらわれるくらいなら、ツグミと一緒になってくれた方がいいかもしれない。
「……無謀だけど、応援してるわよ」
「おう。オレは、勇者だからな」
「私よりチビだけどね」
「来年には抜かすが!?」
基本的に表情の変化が少ないこの少年も、身長の煽りには良い反応を見せる。
そういえばアンブレラも身長を気にしていたし、そう言うところは血が繋がっていなくても姉弟なのかもしれない。
ディアルマスと別れたキバナは、応接間の扉の前まで来ていた。
ノックをして、返事がないことを確認してからそっと扉を開ける。
ツグミは舞姫達(舞姫は本来一人だが、当代は双子の姉妹である)が来ていると言っていたのに、そこには舞姫の姿はおろか、レインの父キバタンの姿さえない。
(……『アンコール』、『ブレイバのいない夜』、……最後に、『螺旋構造手引』)
応接間の片隅、インテリアのように置かれている本棚のいくつかの書物を順に引き出す。すると、すぐ側の床にくぼみが現れ、指をかけて持ち上げると隠し階段が現れた。
入り口に置いてあるランプを手に取り、魔力を流し込んで明かりを灯す。よくある魔道具のひとつである。
足元に気をつけ階段をゆっくり降りていくと、しばらくして小部屋に辿り着いた。
入る前にランプの明かりを消す。一種のマナーというか、ルールだ。真っ暗でよく見えないが、そう複雑な構造をしている部屋でもない。
「……遅かったね」
「ツグミと少し話していました」
闇の中から男性の声がし、それに何でもないかのようにキバナが答える。
暗闇に身を溶かしている人物はキバナを含めて5人。そこまで広い部屋でもないため、少し息苦しさを感じた。
「それじゃあ始めようか。久しぶりだから、ボクらの目的を再確認するところから始めよう」
男の言葉に、視界は封じられているものの全員が同様に頷いた。
「この会は、ボクらが平穏無事で刺激的な、充分に満たされた生活を送るのを相互扶助するためのもの……つまり互助会だね。『資源』は有限で、かつ希少だ。誰か一人が独占しようとしてできるものでないし、無ければ困ることが沢山生まれる」
この中の誰もが必要性を理解している。しかし、自分ひとりで恒常的に十分な量を集めるのは無理がある。ならば、助け合いの輪を作ろうというものだ。
「みんな、このところ辛かったと思う。ボクらの失敗は、バレないと油断して集めすぎたことだ」
「「勇者が人柱になってくれたおかげで、どうにか乗り切れた」」
「そうだね、名無しの双子の言う通りだ。そこで、名無しの乳母から提案があるんだ。聞いてほしい」
同一人物が同時に喋ったかのような、重なった不思議な声音。その発生源の位置が異なっていなければ、きっと一人と錯覚したことだろう。
そして、男の声に促され、ここまで黙っていた最後の一人が口を開いた。
「……分かったのは、『源泉』様は『資源』を見た目でなく数でしか把握していない、ということです。ですが、見覚えのないものが増えれば気付くこともあるでしょう。ですので、『資源』を回収する際は、同一の見た目のものを用意して、交換することで『回収』を図ることを提案します」
流石、一番古くから『資源』の存在に気付いていただけはある、と誰もが感嘆のため息を漏らした。
「でも、同一の見た目のものと言っても、『源泉』の持つ『資源』の種類を全部は知らないわよ?」
キバナ……名無しの親友が疑問を呈した。
すかさず名無しの乳母からフォローが入る。
「問題ありません。こちらですべて記録し、換えを皆様の分注文いたしました」
おぉ……と再び声が漏れる。尊敬、あるいは畏怖かもしれない。どこまで用意周到だというのか、この名無しの乳母は。
「『共有』の時間は……今回はみんな持っていないだろうし、必要ないだろうね。一週間後にまた、今度は舞台の大樹にて互助会を開催するよ」
「「了解」」
「わかりました」
双子と親友が首肯する。
乳母が黙っているのは、その手引き自体彼女が進めるからだろう。
ある者は、『源泉』の幼い頃からその内に秘め続けた情熱のために。
ある者達は、『源泉』の聖水を浴びたとき閃いた天啓を、再び得るために。
ある者は、同じ「作る人」にそそのかされ、同様に智慧を欲して。
ある者は、時折感じるどうしようもない苦しさを乗り切るための手段として。
互助会は今日もどこかで開かれている。
誰も傷つかない明日のために。
Q.あなたにとって御子のぱんつとは?
A.
キバタン&舞姫s「福音」
アイリス&キバナ「精神安定剤」