TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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感想で前話のレインが猫っぽいと言われ納得
今話で弓道用語がいくつか出てきますが、調べるのが面倒なら雰囲気で読んでくれていいです


ドラゲナイ♪ニガサナイ♪ユルサナイ♪……あのこれって、ジャスのラックさんの利権に関わりますかね?オリジナルの呪文詠唱ってことで許してください何でもしますから(何でもとはイッテナイ♪)

 真っ白な空間。

 あるいは、真っ黒な空間。

 実際はそのどちらでもないのだろう。強いて言うならば、ルーナに初めて会ったときの、転生する最中のあの空間によく似ている。

 

 その空間を認識して、僕が「僕」であると気が付いたとき、たちまちその空間──世界の景色が変化していった。

 チグハグな世界だった。小さな細長い弓道場があり、それは、前世の頃僕がほとんどの時間を費やした場所であった。しかし、的の置かれた(あずち)の反対側、射場の裏手には、舞台の大樹が繋がるようにそびえているのである。

 僕は観客席の奥に立ち尽くしていて、傘を持っていた。

 

 傘。

 そうだ、雨が降っている。ちゃんと差していないと、濡れて風邪を引いてしまう。

 ここは屋内だけれど、雨が降っているのだから何らおかしなことはない。

 

 なんとなく、舞台に向かって歩き出した。距離はあるし壁だって挟んでいるのに、その奥の射場も見えている。

 観客席横の通路を進んでいると、ふとルーナがすぐそばの席に座っているような気がして振り向いた。もちろん誰もいない。人のいない観客席というのは少し不気味な気もする。

 

 舞台に登って観客席を振り返ればいつもの景色だ。テンションが上っているときだったら、いまここで歌のひとつでも無人の観客席に向かって披露しても良いんだけれど、どうにも眠いしだるいしやる気が出なかったのでやめた。

 舞台と射場の繋がっている部分には、大樹の根が包むかのように作られた小さなドーム状のものがある。何となくそこには近付きたくなかったから、少し距離を取りながら射場の方に足を踏み入れた。

 

 そういえば、さっきここで弓を射ったのだった。矢取りに行かなければいけない。

 矢道には雪駄が一人分置いてある。「■■■い■」と名前が書いてあるのだけれど、どうにも上手く読めなかった。なんか眠いし、頭働いてないから文字も読みにくいんだろうな。

 矢道の芝の上を歩くとサクサクと音がなる。雪を踏み分けているかのようだ。違うか、いま雪の上を歩いているんだった。白銀の道には、僕の足跡だけが残る。

 にゃーんにゃーんと鳴き声が何度か聞こえたので、にゃーんと鳴き返す。ありゃ、泣き声が止んでしまった。再び、サクサクという音だけが響く。

 

 的の中央には、矢が二本。正鵠を射るというやつだ。見慣れたものだし別に驚かないけど。

 弓道の矢の抜き方はちょっとした作法がある。守んなくても別にどうということはないけれど、射場の神棚にお尻を向けないように体の位置に気をつけつつ、腰を下ろし、そっと右手で引き抜く。

 

「──ぁ」

 

 二本目を引き抜いた瞬間、やってしまったと気が付いた。

 ここで、矢を抜いてはいけなかった。

 違う。

 そもそも、射場に入るべきでなかった。

 

(でも、土を拭き取らないと)

 

 抜き取った矢の矢じりには当然土がついている。(あずち)横の看的所でそれを布切れで拭き取る必要がある。

 それは、決まり事だから。

 そっと布を手に取り、矢の先端をギュッと拭った。

 

(……後ろに誰かいる)

 

 看的所はそんな広い空間でもないのに、すぐ後ろに誰かが立っていることが何となく分かった。それは気配だとか魔力を察知したとかそういうことではなく、揺るがない結果として「誰かがいる」ということを理解したのであった。

 

 恐ろしくて、振り向くことなんて絶対にできない。

 矢の先端を包むように持ち、もう片方の手も添え、俯くようにしながら早歩きで矢道を帰る。

 はやく、舞台に戻りたい。ここにいてはいけない。

 はたして矢道はこんなに長かったか?

 

(怖い……怖い……。はやく。嫌だ。はやく。……母様。父様、アルマ。ヘリオ、ルーナ、キバナちゃん、アイリス……。誰か、どうして、誰も)

 

 息が詰まるような恐怖。果てしなく長い矢道と、重く鉛のように動かない足。

 突然、それらから解放された。足は思うように動くし、おかげですぐに射場に着いた。

 あと少し。あと少しで、帰れる。

 

「……っあ」

 

 思わず声が漏れた。もうあと一歩というところで、冷たい手が僕の左手を掴んだのだ。少しぬめるような感じがしたことから、その手が濡れていることが分かる。

 

「ゃ……」

 

 冷たい手の主が僕に体を近付け、何事か囁こうとするのが分かる。

 

 逃げられない。

 

 ──そう絶望した瞬間、舞台の向こうから右手ごと誰かに引っ張り上げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──レイン! レイン!? 大丈夫!?」

「っは、……は、っ、ぁ、あぁ……うぁ……」

 

 冷や汗をかいたまま目を見開いた。

 誰かが抱きしめてくれている。……ここは、ベッドだから、そうか、母様か。

 

 深夜だ。悪い夢でも見たのだろう。思考はそれだけ落ち着いていたけれど、いまの一瞬で刻まれた恐怖はかつてのトラウマを思い出させるには充分だったようで、体がガクガクと震え、息も過呼吸のように絶え絶えだ。

 右手を握ってくれている母様の手を、そっと僕の首に誘導する。

 それだけで伝わったのだろう。とても悲しそうな表情を浮かべながらも、母様は首を握る力をそっと強めてくれた。

 

「──は、ぁっ。はぁ。……か、さま。ありがと、ございます」

「お礼なんて……」

 

 母様なら絶対に絞殺なんてしないという信頼がある。

 それ以上に、母様にならこのまま殺されたって構わない。

 だから、母様に命を握られているこの瞬間が、世界で一番安心できる。

 

 でも、あなたは悲しそうな顔をするから。

 できれば過去のしがらみも全部、乗り越えられればいいなと思う。

 

 ……しばらくは難しそうだけど。

 

 

 

 


 

 

 

 

「……それで、後ろにいたその何者かは、最後になんと言ったのじゃ?」

 

 あのあとは何事もなく眠りにつき、日が明けてから昼食後にルーナの元を訪れた。

 不思議な夢を見たという話をすると、ルーナは興味深そうに尋ねてきた。

 

「『ない』……ナントカナイだと思うんですけど、よく聞き取れなかったですね……。そもそも聞きたくなかったので。ホラーの定番だと、ニガサナイとかユルサナイがありそうです」

 

 大穴でドラゲナイとか。

 

「しかし、お主も小心者じゃのう。頭だけでなく心まで鶏になったか? 夢に出てくる不埒者など、殴り飛ばしてしまえばよかろう」

「誰が鳥頭でチキンハートですか……いや、思い当たるところありますね」

「お主の場合は、チキンハートはチキンハートでも毛が生えていそうじゃがな」

 

 なんかめっちゃディスってくるんですけどこのエセ女神。

 図太くねえよ。めちゃめちゃ繊細だよ。いまもめっちゃ傷付いてるからもっと僕に優しくしようよ。

 

 こうじゃ、こう、などと言いながら、ルーナは腰を入れて殴るジェスチャーを見せてくる。地味に堂に入っているのが何とも言えないが、ヘリオの小柄な体でそれを見せられると、なんか空手道場の子供みたいに見えてくる。微笑ましい。

 

「はいはい、まあ次は殴れるよう頑張りますよ」

 

 アルマとの稽古は日によっては道具無しでやることもあるから、格闘も、喧嘩慣れしている不良よりはできる。

 この間告白されて以降少し気まずかったけれど、ご飯食べて寝て何度か戦う内に気まずさを忘れてしまった。こういうところが図太いって言われるのかもしれない。もっと繊細で可憐な美少女ムーヴしないと……。

 

「さて。それはともかく、今日からは少し発展したことを覚えてもらおう。発展というか、お主が旅に出てここを離れる上で必要になることじゃな」

 

 雑談も終わって魔力拡張をお願いしようとしたらそんなことを言われた。

 

 球体の体積を考えれば分かるが、半径を少しずつ増やしていった場合、10から11になるのと100から101になるのでは体積の増加量がまるで違う。

 魔力にも似たことが言え、しかし同じ1の拡張ならば、増加元、つまり僕自身への負担は変わらないらしい。

 

 旅に出るからと魔力拡張を中断すれば、その期間の分だけ損になる。

 どうやら発展した内容として覚えてほしいのは、今までルーナに任せきりにしていた魔力拡張そのものらしい。

 

 不快感の幸福感への変換などといった魔法は教えてくれないらしい。一歩間違えれば自分の脳を壊しかねないのと、そもそも旅までに僕がそんなに何個も覚えられないだろうとのこと。やりたければ将来自分で編み出せと言われた。

 ルーナがそういった技術を用いて魔力拡張を進めていたのは、そうでもしなければ1000年単位で時間が必要になるからとのこと。僕が死ぬ。

 今までは拡張作業中に毎秒1000ずつ拡張されていたものを、旅の間は毎秒1ずつ、しかし一日中ずっとやれ、みたいなことを言われた。それなら痛みとか不快感といったものはそこまで感じないから、幸福感への変換が必要ないらしい。

 

 ちなみに、こうして毎日細々とやってきた魔力拡張は、ルーナのためでもあり、僕のためでもある。

 

 ルーナが扱える魔力は、ルーナ自身のものだけだけだ。しかし、そのほとんどは堕天させられた時に奪われるか封じられるかしてしまい、彼女ひとりでは魔法の一切を行使できない。

 だが、彼女が魔法を使って僕を転生させたことで(世の中の転生というものは魔法によって為されるらしい)、僕の体に彼女の魔力の残滓が残っているとのこと。そのため彼女は、僕の体に触れている間なら僕の魔力を自分のもののように扱える。

 僕の魔力量を増やすことで、彼女もできることが増えるのだ。そうして最後に彼女を堕天させた上位者を殴り飛ばすのが目標らしい。

 

 対して僕の場合は、真名の問題がある。ルーナはその解決法を知っているらしいが、信条的なもののためにそれを直接教えてくれることはない。

 それでも、彼女も言っている通り、使える魔力の量さえ多ければあとはどうとでもなるのだと思う。全能とも言える彼女がそう言うのだから、そこは信じていいだろう。

 少なくとも、魔法学校で助かる方法を見つけて、でも自分の魔力が足りませんでした(笑)は洒落にならない。(拡張する時の不快感を抜けば)魔力を増やして損はないのだろうし、ひとまずやっとけという感じである。

 

 とりあえず、拡張の程度を間違えて何度も激痛に悶え苦しんだことだけ言っておく。

 微調整難しすぎるんですがこれは……?

 

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