TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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外界編
やべえ!外の世界結構楽しい!うわ変な動物がいる!うひょお〜…ところで、森出たときから付いてきてるあの人達は暇なのかな?普通に話しかけてくれないかな?きっとコミュ障に違いねえ!(仲間意識)


「……出てきました。やっぱり、周期通りっスね」

 

 若い男が望遠鏡のような筒を覗きながら呟き、その声に反応した数人の男達がおもむろに若い男と同じ方向を観察する。

 

「今回は3番からか。おぅい、他のとこのやつらに伝えてやれ。あとは、一番の急ぎで中央へ使いを出せ」

「自分でやれよぉ」

「部下を顎で使う悪い上司っス」

「うるせぇ、たまの権力乱用くらい許せ」

 

 いくらかの不満の声を、無精髭を生やした男は却下した。

 普段、中間管理職なんていう馬鹿みたいにめんどくさい仕事をやっているのだから、こういう時くらい自分は動かずにいたいのだ。

 渋々と動き出す部下に睨みを効かせてから、「今回は少し奇妙だな」と彼方に視線を遣るのであった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 リッカ・ソートエヴィアーカ。

 災厄を原因とする化け物たちと生き残りをかけて争う人類、その中でも強大な三大勢力と呼ばれるもののひとつ、鉄と血に塗れた軍事国家である。

 その前身はかつて失われた機械文明であり、現代では修復不能なオーパーツを用いて災厄との戦いを生き延び、また同時に周辺国家にも幅を利かせている。

 

 前線側にも多くの土地を持つが、その中央は人類の生存圏の中でも特に安全な場所、「(かす)かの森」に近い場所に位置する。というか、「幽かの森」に隣接した土地を確保しているからこその三大勢力なのだが。

 しかし、この巨大な軍事国家にはかねてより抱えてきた問題点があるのだが……今は置いておこう。

 

 三大勢力を始めとして、現在人類がもっとも注目しているのが「幽かなる精霊」──つまり、森人達の動向である。

 正直なところ、化け物たちとの戦いは敗北の見えた末期戦だ。人類種に死が訪れるその日を数十年先送りにしているだけである。しかし、そこに希望がないわけではない。

 なぜなら、伝承レベルで残されたかつての記録曰く、前回の災厄との戦いもこのような地獄の中にあったというのだから。

 つまるところ、人類の歴史というのは、一世紀以上に渡る災厄との争いに終始する年月と、また同じくらいの時間、国力を蓄え、周辺国と諍い、次の災厄に備える期間の連続なのだ。運が良ければ、備えの期間が数百年間与えられる。かつての機械文明はそうして作られたらしい。逆に運が悪ければ、災厄に一方的に蹂躙される期間が数百年続くことになる。機械文明の遺産のほとんどはその間に失われた。

 

 現在こうも追い込まれているのは、災厄が狡猾であり、人類の唯一の希望とも言える「勇者」を幼少の内にすべて葬り去ってきたからである。そして遂に、今やどこにも勇者が観測されることはなくなった。学園都市の研究者や魔法使い共が必死に観測を試みているが、ある時を境にぱったりと勇者はいなくなってしまった。

 この事実は知らない者も多いが、国の上層部にいるような者たちはみな知っている。絶望、悲哀、恐怖、その感情は計り知れない。それでも抗い続けているのは、かつてのように森人の介入があるかもしれないからだ。

 

 前回の災厄も、今回と同じく幼少の勇者を狙っていた。前回と今回で同じ戦略を取ってきているのは、もしかすれば災厄側にも知識の集積という行為が可能だからかもしれないが、今となっては後の祭りである。

 そんな中、前回は災厄が「幽かの森」に手を出し、森人達からの猛反撃を受けたために最終的に人類側は勝利することができた。勇者を何とか保護し、森人の力を借りながら災厄を下したのである。

 

 だから、今回もきっと森人が……。そんな願いを持って、なんとか耐え忍んでいる。

 

「……下らねぇなァ」

 

 そんな他力本願の敗北主義者的発想が、軍事国家当主の娘コルキスには気に入らなかった、

 いつか森人が? 災厄は今度こそ森人に手を出していないし、そもそも前回災厄に止めを刺した勇者は、今回見つかってすらいない。いない者を信じて、動かないものをアテにして、それで国が救えるだろうか?

 

 否。今必要なものは、そんな不確かなものではない。奪えるところから奪い、学べるところから学び、騙せるところを騙す。そんな狡猾さである。

 そんな折、「幽かの森」から定期的に現れる森人の動向を見張らせていた部隊から、普段とは少し違った森人の集団が現れたと報告が入った。

 

 森人は「幽かの森」に住む不思議な種族だ。「生きた歴史」や「幽かなる精霊」とも呼ばれ、人間の何倍もの時間を生きると言われている。

 またその見た目もおしなべて麗しく、かつての勇者の仲間たち曰く、「彼らの暮らす里は極楽そのものであった」と。

 しかし、森自体に何らかの術式が施されているらしく、その広大な土地のどこから入り込もうとも奥には辿り着けない。森を切り開こうとすれば獣が出るし、大抵ろくな事にはならない。

 結果的に、「幽かの森」は不可侵領域(アンタッチャブル)となった。幸いその現象は化け物たちにも適応されるらしく、人類は「幽かの森」に背中を預けて災厄と戦うこととなった。

 森人を怒らせれば、森に近い人類の中枢部は滅びるかもしれない。だからこその不可侵。できることなど何もないのだから、現状を信じて、もう後ろは気にしないことにすると決めたのだ。

 と、言うより。後ろを気にしていれば、あっという間に化け物たちに領土を侵されてしまうからなのだが。

 

 しかし、森の中から外界の様子を知ることができないためか、森人は数年、長ければ数十年に一度、森から人里に使節を送る。

 送ると言っても国主の元に来るわけではないのだが、その美しい容姿はたとえ隠そうとも気付かれてしまうもので、気付いた者達は怒らせないよう丁寧に対応しながら、他の人間と同じように接するのである。人によっては「精霊の泊まった宿」を名乗るようになるなど、中々に強かな商売をしている。

 森人が現れる時は、年はまちまちだが、その日付と位置はおおよそ安定している。力を持った存在の動向を把握していたいのが権力者というもので、この軍事国家では森との境界付近に監視用の施設を設置し、観測された際は報告させ、その後の動向も密かに追わせるようにしている。

 

「コルキス様。陛下がお呼びです」

「あァ──いや、どっちだ?」

 

 用がなければ呼ばない。そんなことはあの人と関わる上では当然のことで、いま疑問に思ったのは、件の森人のことか、災厄との戦争のことか、そのどちらか判別しかねたからだ。

 

「まァ、両方か」

 

 一度にまとめてしまった方が効率的だから。……そう唱える姿が容易に想像できて、無性にイライラした。

 これではいけない。私怨を持ち出せば、思考は鈍くなるし勘もはたらかなくなる。そんな感情は必要ないのだ。

 

「──私の最良の日々は過ぎ去ったのだから(Because my best days are past)

 

 己に言い聞かせるように一つの(ことば)を呟いた。

 懐古は生の対義語だ。振り返って感傷に浸る暇があるのならば、人は前を向いて進まなければならない。なにより、譲れぬ目的があればこそ。

 

 椅子に投げかけられていたコートを踊らせるように羽織り、準備は良いから案内をしろと従者に視線で命令する。

 自室はまだよいが、この建物内は全体的に寒すぎるのだ。寒冷地に所在しているというわけではなく、暑がりな筋肉質の職員達のために、空冷が常におこなわれている。その技術すら、根幹を過去の遺産頼りにしているという事実には嗤ってしまうが。

 汗の価値を知らぬ愚か者では、この先の戦いを乗り切ることもできないだろうに。

 

 

 

 


 

 

 

 

 座り慣れた円卓の一席をコルキスが埋めれば、全員が揃ったと進行役が謳い、会議が始まった。円卓についている重鎮のうち、王を強く支持する者からは非難するような視線を送られた。

 あいにくコルキスは呼ばれてから大して寄り道もせず来たのだから、悪いのは遅くに連絡を寄越した陛下(タヌキジジイ)だろと心中で舌を出す。どうせ、わざとだ。

 

 予想通り、議題は森人と戦争のふたつを中心としたものであった。他にも雑多な話題があったのだが、四捨五入すれば無いようなものだ。

 

「──そのため、今後も三大勢力での連携が重要となりましょう。姫殿下には、ぜひとも親善大使としての留学をご検討いただきたい」

「……あァ、学者連中にとっても、私らの手綱を握れているって実感は必要だろうさ」

「姉上、そのような言い方は「テメェは黙ってろ」──ッ!!」

 

 勢力関係というのは重要だ。巨視的にも、微視的にも。

 国同士の関係を考えるのならば、ソートエヴィアーカは強すぎる(・・・・)。その力は過去の栄華に縋ったものだが、強さは強さだ。

 災厄なんていう馬鹿みたいな脅威と戦っている最中でも、ヒトという生き物は内輪揉めをやめられない。表立って争うようなことは滅多にしないが、いつだって「その後」を見据えた輩が存在し、他国に力をつけさせ過ぎまいと腐心している。

 

 あまりにこの国が力を付けすぎれば、血迷った奴らが火種を持ち込んでくるかもしれない。

 「オレらは大丈夫」、その実感を与えてやるためには、時には人質だろうがなんだろうが使うべきであろう。

 

 下らない。言ってしまえば、本当に下らない。しょうもない生き物で、種の生存競争という目的からすれば非効率的ともとれる行いをヒトはする。

 馬鹿らしいし、心底軽蔑するし、嫌悪感を隠してやる気持ちにもならない。

 

 ──けれど、一番唾棄すべきはその厭世だ。

 

 厭世とはつまり、実情の見えていない理想主義者による、エゴに凝り固まった敗北主義的ともいえる思考だ。

 否定はできる。誰にだってできる。けれどそれだけをすることに大して意味はない。

 厭世には、その先がないのだ。

 

 重要なのは、ヒトの命である。

 それは、簡単には増やせないくせに簡単に失われるもので、しかしその喪失には大いなる悲しみと士気の低下を伴い、またそれを守り繋ぐことは種の生存に直結する。

 愚かで汚らしく軽蔑すべき生き物? だからなんだ。それを知った上で、ならばそれらをどうやって生かすか、そのことに考えが至らないのであれば、それこそ闘争の邪魔だからどこかでひっそり死んでほしい。切に願う。

 

 だから、たとえ裏にどのような謀略が潜んでいようと、留学そのものに不満はない。

 この身ひとつで保たれる均衡があるのなら喜んで捧げるし、何なら留学先で多くのことを学び、これから先のソートエヴィアーカに必要な知識だって持ち帰ってきてみせる。

 とりあえず、内部による留学中の暗殺は本当に無駄だからやめてくれ、そのくらいしか願いはなかったりする。いやマジで暗殺は時間と資源と人材の無駄だから。やめて。切に願う。

 ……が、こうした弱気な願いを見せたら逆に寝首をかかれることすらあり、時折無性にこの立場が煩わしくなることもある。世知辛い世の中である。

 

 自分に話が振られたら適当に受け流すのを繰り返す内に会議は進み(大して具体的な内容は固まっていないが)、もう一つの議題、新たな森人達についての話に移っていた。

 

「──ひとりは、100年前から観測されている識別名『オルモス』だと思われます。しかし、残りの2名が不明です。どちらも女性と見られ、片方が特に丁重に扱われていることから、森人の中でも地位の高いものと考えられており、識別名『女王(ドローネット)』が与えられました。もうひとりの女森人には識別名『ニース』が与えられています。このタイミングでなぜドローネットのような人物が姿を現したのかは判明しておりません」

 

(へェ……)

 

 調査部隊の方はよく観察しているらしい。高位の森人、か。

 にわかに円卓がざわめき立つ。それは、期待の表れだ。もしや我々を助けるために森人が立ち上がったのでは、と。

 

 しかし、それは的外れな期待であろう。最初に観測されてから一週間が経っているのだ。本当に助けようと思っているのならば、既に接触が得られているはずだ。

 実際には、森人達は森との境界近くの辺境をゆっくりとしたペースで移動している。

 

「ドローネットとニースについては、初めて出現した森人ということで写真機(スピージャル)の使用許可を申請し、受理後撮影をおこないました。お手元の資料に、その複製が配布されています」

 

 どうせ美人なのだろう、そんな分かりきったことを考えながら、資料をめくる。

 一枚目……女性にしてはかなり高身長だな。森人の特徴ではあるが。フードの付いたポンチョのようなものを着ているために、顔の上部は隠れ、口元の周辺しか確認できない。しかしまあ、それだけで美形と理解できるのも流石は森人といったところか。

 あとは、胸の山が信じられないくらい主張が強い。陰影からある程度の大きさは推察できるのだが……この資料を見たオッサン共の咳払いが妙に増えたのを白い目で眺めた。

 変態オヤジ共に聞こえるように舌打ちをひとつ飛ばしてから、もう一枚の写真を見るべく資料をめくった。

 

 

 ──そして、稲妻が瞳に流れ込み、背中を駆け抜けていった。

 

 

 その写真は、よく見れば奇妙な点があった。けれど、そんなことに気付けないくらい衝撃的で、己の生まれた意味を考えてしまうほどに魅了され、よもや何らかの呪いではと疑う程度に完成された造形美であった。

 森人の写真は、先のもののように口元だけが確認できる不明瞭なもののことが多い。それは、彼らがその目立つ容姿を隠すべくフードや仮面、被り物を身に着けているためだ。

 しかし、その写真は……その少女は、偶然か必然か、無警戒なのか意図的にか、風でフードがふわりと浮き上がった瞬間、こちらを向いて(・・・・・・・)、微笑んでいた。

 南方の碧緑の海を切り取ったかのように深く、しかし美しく煌めく、新種の宝石のような瞳。童女のように無垢な笑顔を作る口元はまるで「穢れ」というものを知らないかのように屈託がなく、おそらくは薄い黄金の色なのだろうが、陽光に透けて白銀に輝く毛髪は、写真ということを忘れて触れてみたくなるほどに柔らかそうである。

 風で舞い上がった草花は、まるで己の意思で1枚の写真を完成させようとしているかのように少女を彩り、その調和は女性美を求める画家たちに到達点を示しているようであった。

 決して、先ほどの女性のように肉欲的な体型をしているわけではない。身長もおそらく平均より低いくらいだろう。だというのにその無垢な表情は妖艶さを兼ね備えており、幼くか細い体躯は同性と言えども劣情を煽り、どこまでも歪で、再現のできない完成された美がそこにあった。

 

「────欲しいなァ」

 

 そのときコルキスの表情を見たものがいれば、恐怖に慄き、あまつさえ失禁したことだろう。猛禽類のようなギラギラとした目、牙を剥いて笑みを浮かべる口、何より、獲物を前にした竜の如き威圧感。

 ──幸いにも、他の誰もがその写真に意識を奪われ、気付くことはなかったが。

 

 人類の存続のためなら滅私奉公も厭わないコルキスとて、美しいものへの理解も、欲求も有している。

 世界にひとつだけという美しい宝石も、1000年に一人と言われる画家の絵画も、何なら天上の一品と呼ばれる極上の料理を口にするなど、その「格」に見合ったものに多く触れてきた。

 だからこそ、これ以上の「美」には今後一生巡り会えないということを理解した。それは同時に、「これは自分のものであるべき」という思考に繋がる。このような傲慢さは彼女がひそかに父親から引き継いだ性質なのだが、彼女は気付けていない。

 

 何の補足がなくとも分かる。

 これが「女王(ドローネット)」だ。

 

 これは、もらおう。

 

 己の身柄も、時間も、知恵も、何だって国と人類に捧げよう。

 だから、だけど、これだけはもらおう。

 

 合理性よりも直感に近い判断。けれど、間違ってはいないだろう。

 どうやろう? その後の会議の内容も、仲の悪い重鎮の嫌味も頭には残されておらず、コルキスの思考は、如何にしてドローネットを自分のものとするかということだけに割かれていた。

 




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コルキスの言語については英語を喋っているわけではありません。
単に作者の趣味です。邪気眼です。
古代文明とスチームパンクな軍事国家も趣味です。邪王真眼です。
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