TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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外の世界にも結構慣れてきた気がする。交渉も何もかも、やり取りはアイリスかクロさんがやっちゃうから暇なだけだけど。ところで学園都市ってどこですか?

「交代の時間だ、ご苦労さま。追跡は問題ないか?」

「えぇ……まあ」

 

 壮年の男に声をかけられ、2年目の新米導師クラムヴィーネは苦笑いとともに曖昧な返事を返した。それを見咎めることなく、男はクラムヴィーネの肩をポンポンと軽く叩き、場所を代わる。

 クラムヴィーネ、彼女がこんな返答をしてしまうのもしょうがないのだ。

 

「……相変わらず、とんでもない量の魔力を垂れ流してやがる。ありゃバケモンだな。『(かす)かの森』の中は、あんなんがいっぱい歩いてんのかね」

「一応、アレ──女王(ドローネット)は特別な個体らしいですけれどね。ほら、他の二名はまだ常識的な放出量でしょう」

「おい待て、ドローネットってなんだ」

「は……聞いてなかったんですか? 朝礼会議で、ソートエヴィアーカから入手した情報ってことで言われましたよ?」

「あー、はて。……寝てたなガハハ!」

 

 導師の男というのは、どうしてこうも人格破綻者に溢れているのだろうと目眩を覚え、思わずクラムヴィーネは溜息をついた。ついでに、ずれ落ちた眼鏡の位置を直す。

 自分が憧れた導師というのはもっと賢く、凛々しさを兼ね備えた誇り高く力強い職業だったはずなのだが、必死に努力して導師となったのちに目の当たりにしたのがこの男である。

 まったく、才能というものは理不尽に違いない。以前からヒシヒシと感じていたことだが、化物(ドローネット)を見て更にその思いは強まった。

 

 とかく、凡人には生きにくい世である。

 

 

 

 


 

 

 

 

 魔導学園都市オクタ・デュオタヴウォーサ・オヴダナマにとって青天の霹靂であったのは、学園の存在意義について根底から覆されかねないほどの莫大な魔力を有した存在が、突如として幽かの森より出現したことである。

 

 幽かなる精霊という魔法的存在が多量の魔力を保有していることは既知である。定期的に現れる彼らを遠くから観察し、時に無知を装って接近することでその保有量は測られてきた。

 その量は導師の中でも経験を積んだものと同等程度で、人物によらずおおよそ一定であり、幽かの森に住む森人はすべてこの量であると思われていた。

 これまでは(・・・・・)

 

 素で上位の導師並というのは驚異的だが、言ってしまえば上位の導師並でしかない(・・・・・・・・・・・)のだ。特別な生き物だとしても、埒外の存在ではない。理解ができるなら、追いつけるし追い越せる。なぜなら、学園のトップは埒外の存在(・・・・・)なのだから。

 そう思ってきた。これまでは(・・・・・)

 

 先に述べたとおり、これまでは最終的に接近することでコッソリとその魔力量を計測していたのだ。マッチの火なのか、ランプの火なのか、焚き火のものなのか。ある程度そばまで近寄らなければ知り得ないように。

 

 しかし、晴れた昼間に「太陽はどこか?」と問う者はいないだろう。

 つまりはそういうことである。

 

 探すまでもなく(・・・・・・・)測るまでもなく(・・・・・・・)、ドローネットはただそこにいた(・・・・・・・)

 

 クラムヴィーネが苦笑いしたのもそういうわけだ。

 追跡は問題ないか? 問題ないに決まっているだろう。いや、むしろ問題しかないのかもしれない。それは、追跡というにはあまりに稚拙なもので、むしろ居場所に気付かないほうが難しいと言っても良い。

 計器に己の魔力を通せば、否が応でもそれに気付いてしまうのだから。

 

 

 

 

 魔力量計測に使われる計器は、生き物が自然におこなっている「魔力の呼吸」とでも呼ぶべきはたらきを利用している。

 

 生き物は周囲、特に地上の生き物は空気中の魔力と、自身の保有する魔力を常に交換し続けている。魔力は貯めるものではなく、流れ続けるものだ。自身の最大保有量とでも呼ぶべき量に達している場合、空気中から身体に流れ込む魔力と同じ分だけ、身体から空気中に魔力が流れ出す。

 このとき、生き物の体内を通った魔力はその真名の影響を受け、空気中に元々存在していたものとは状態が若干変化する。空気中に分散していくにつれ差異は薄められていくのだが、この「生き物の周囲にあり空気中の魔力とは状態が違う魔力」の量を計測することで、その生き物の持つ魔力量を概算することができるのだ。

 そのため、遠方からや人混みの中だとこの計器は使えない。……はずなのだが、ドローネットに関しては違ったらしい。それどころか、至近距離で計測しようとすれば計器が故障することだろう。

 

 軍事国家のリッカ・ソートエヴィアーカからもたらされた情報は、出現した森人のうち一人が要人であるというものであった。また個体名も統一しておこうということになり、ソートエヴィアーカ側での呼び方をそのまま流用した。

 一応は人類の三大勢力のうちの二国だ。表面上は仲良くしているし、情報や物資のやり取りはもちろん、人的資源のやりとりもある。学園都市を国と呼ぶかは悩ましいところだが。

 

 しかし、三大勢力のうち真ん中に挟まれるようにして存在する学園都市としては、不安の種には事欠かないのだ。

 前に災厄、左右に強大な他国。精神的な負担はさることながら、防衛を考えなければいけない国境線が広すぎる。もはや後方で沈黙を保つ幽かの森だけが心の癒やしであったのに、突然バケモノ(ドローネット)が飛び出てきてもう涙目である。

 しかも森人の一行はゆっくりと、しかし確実に、学園都市に向かって移動しているのだ。これ以上厄介ごとを持ち込まないでくれ。いつものように、人類の暮らしの調査をして、そのまま森へ大人しく帰って欲しい。

 

 ……ここまでが、学園都市に住む、哀れにも常識を持ち合わせ、政というものを人並みに理解できてしまった人間の思考である。

 

 学園都市は湧いていた。

 それはもう、湧いていた。

 ついでに、頭の中身も湧いていた。

 

 莫大な魔力を有した森人(研究対象)が。

 ドローネットが、自らの意思で(鴨がネギと出汁入りの鍋を背負って)学園都市へ向かってきているのだ。

 

 森人と敵対すれば、災厄と合わせ、前後を敵に挟まれることになり、それは即ち人類の終焉を意味する。森人がどれだけ戦争に対応できるのかは分からないが、既に限界に近い戦線にこれ以上負担はかけられない。

 そのため、三大勢力の間で幽かの森は不可侵領域であった。奴隷商にも、森人を扱った場合は相応の罰(・・・・)を与えると通達が行き届いており、国営の奴隷商だけでなく、個人勢にもその周知は徹底している。

 だから、人攫いも売れない森人に手を出すことは滅多に無い。最悪なのは、災厄との戦争というものを理解せず、今日明日の我が身の幸せのために、見目麗しい彼ら森人に手を出す賊くらいか。それらも極力抑え込んでいるので、森人から人類への心象はまだそう悪くないはずだ。

 

 さて、話を戻そう。

 手出しの許されない森人だが、彼ら自身の意思で接触を図ってくるのならば、それはもう、敵対しない限りどんな風に利用しようが問題ないのだ。

 彼らは、謀略や調略には明るくない。閉鎖的で穏やかな暮らしが思考を鈍らせたのだろう。

 ならば、バレないように、あるいはバレても問題のない程度に、彼らの力の一端を我が物とすることは容易である。

 

 たとえば、ドローネットに「お願い」して、その膨大な魔力の一部を借りる(・・・)というだけでも、その効果は大きいだろう。

 あるいは調略によって人類側に引き込み、森人全体の支援を受けられるようになったら素晴らしい。

 何よりも狙いたいのは、「人類側」ではなく「学園都市側」についてもらうことだが、欲張りすぎれば失敗に繋がるから注意しなければならない。

 というか、どうやったらあんな量の魔力を保有できるのか、ぜひとも調査させていただきたい。大丈夫、身体検査するだけだから。健康診断みたいなものだから。天井の染みを数えている内に終わらせるから。先っちょだけだから、ね?」

 

「……先生。漏れてますよ、思考」

 

 追跡の当番を終え研究室でひと息つこうとしたクラムヴィーネだが、そこにも碌でもないやつが待ち構えていた。なんだ魔導師って。ろくでなししかいないのか。

 

「こら、今はキミも先生だろう? それともなんだ、キミはまだ学生気分だっていうのかい。それはいけない。キミだって能力ある導師の一人として選ばれたのだから、それに相応しい振る舞いを心がけなさい、ね?」

「……はい、すいませんハマシギ導師。注意します」

 

 美少女の写真を眺めながら電極片手に「先っちょだけ」と呟くのが「相応しい振る舞い」なのかクラムヴィーネには判断しかねたが、ここで反論すれば1に100のマシンガントークとして返ってくるだけであり、なにより恩義のある先生だったので大人しく従った。

 そもそも、たしかにいつまで経っても先生先生呼ぶのはよくないのだ。気を付けるようにはしているはずなのだが、やはり長年呼んできた呼び方はそう簡単には変わらない。

 

 しかし、かなり執着心の強い人だから、目を付けられたドローネットさんは少し可哀想かもしれない。

 先生……いや、ハマシギの眺める写真をクラムヴィーネも横目で盗み見る。やましいことがあるわけではないが、ハマシギの見ているものを横から奪えばマシンガンのいい的だろう。

 ソートエヴィアーカの写真機(スピージャル)で撮ったものだろう。いまだ魔法で再現することのかなわない「機械」のひとつだが、逆に複製技術はこちらの方が優れている。大方、写真を共有してもらう代わりに複製を学園でおこなったのだろう。

 

 ひと目見て、その写真の少女に目が釘付けになった。魅了されたと言い換えても良いが、その次の瞬間ににじみ出たのは、恋慕や渇欲などではなく恐怖だった。

 ……いや、恐怖という言葉が正しいのかも判別つかない。ただひたすらに、理解が出来なかったのだ。

 

 なぜこのような美しい生き物が存在するのか?

 初めはただその一心であった。次第に、このような美しさを兼ね備えながら膨大な魔力をも秘めていることへの嫉妬や、その嫉妬すらおこがましく感じてしまい、憎みきることの出来ない混乱などで心と頭がかき乱された。

 

 先生に目を付けられたから可哀想? なんたる傲慢か。

 クラムヴィーネの心配などが届く場所にドローネット(この美しい生き物)はいないのだ。ただひたすらに高みに存在し、まるで空から一粒落ちる雨粒のように、気まぐれに私達に干渉する。

 同情など、する余地もない。否定的なニュアンスでなく、余地を持つことなど許されないという意味で。

 

 最後にクラムヴィーネを襲ったのは無力感であった。

 

 どうして。

 どうして、神は私達を創りたもうたのか。

 

 人類も、災厄も、必要ないではないか。

 こんなに美しくて、魔導の極みに立てる存在がいるのならば、他のものはすべて余計ではないだろうか。

 

 どうして私は生きるんだろう?

 私の生きる数十年など、かの存在の数秒にも満たない価値しかあるまいに。

 

「──愚か(folly)愚か(folly)愚か(folly)! 愚かだよキミは!」

「せん、せい……?」

 

 蒼白としていた顔に気付いたハマシギが、クラムヴィーネに向かって暴言とも取れる言葉を放った。

 

「すぐにそうやって悪い方へと考える! いつも心配して震えている! 何も見ないうちから、絶望してしまうのは良くない。これから最高に楽しいことが待っているんだから、ね?」

「……最高に、たのしいこと」

 

 最高に楽しいことが待っている、とハマシギは断言し、その言葉にクラムヴィーネの顔が上がる。

 

 ふと、クラムヴィーネは心が温まるのを感じた。

 いつだってそうだ。この人の言葉が、後ろ向きなクラムヴィーネに前を向かせる。あるいは、後ろを向いたまま歩く方法を教えてくれる。

 だからこそ、いつまで経っても先生と仰ぐことをやめられない。

 

「……はい。私、見てみたいです。会ってみたいです。ドローネット、さんに」

 

 頭の中だけで考えるのは一旦やめよう。

 どうせ、悪い方にしか考えられない。

 

 なら、一回会ってみて。喋ってみて。それからもう一度考えよう。

 そもそも、ドローネットさんみたいな重要人物と話す機会があるか分からないけれど。

 




ソートエヴィアーカ→ソトエビアカ→ソトエビ赤
おや…?(狙ってないです。作中の言語で軍隊みたいな意味の単語です)
でもソートエヴィアーカでの仲間内の呼び方は「同志」にしようと思います。
深い意味はありません。学園都市が「導師」だから対応させただけです。
ほんとです。

どこ経由で学園都市入りする?

  • とある学園都市の変態達
  • とある軍事国家の姫殿下
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