TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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人間、精神的に追い詰められたら最後はやっぱりおっぱいに落ち着くんやなって。僕エルフだけど。……あの、アイリス?鼻押さえてるけど大丈夫?また鼻血かな?

「御子様、被り物が窮屈ではありませんか? 大丈夫ですか?」

「僕、フードは好きですから。平気ですよ」

 

 アイリスに気遣うような声をかけられ、明るい声で問題ないと主張した。

 

 様々な都合から、エルフということはなるべく隠したほうが良いらしく、僕はフード付きのマント、アイリスとクロさんの二人も顔を隠すような格好をしている。

 人によっては、視界が狭まったり密閉感が強かったりという理由でフードを嫌うかもしれないが、前世でぼっち街道を進んでいた陰キャの身としては、その外界から守られている感じが結構安心感が合って好きだったりする。陰キャはフード好き説を唱えたい。

 あとはマフラーとかも結構好きだ。これは、陰キャだったからなのか自分の顔が嫌いだったからなのか、理由は不明瞭だが。前世の頃は、とにかく顔を晒すことが怖かった。傘とかも視線を切れるから好き。

 

「この間みたいに強風で脱げかけるかもしれないんだから、ちゃんと深く被っておくんだぞ」

「はい」

 

 過保護のあまり僕の快適さを優先するアイリスとは違って、クロさんはとにかく問題の起こらないよう意識しているようだ。

 アイリスは「クロミノ様、御子様にそのような物言い……」と不平をこぼしているが、おじさんのクロさんはどこ吹く風といった様子である。僕は別に身分が高いわけではないし、彼と上下関係もないのだから敬われる理由もない。

 

 クロミノ、あるいはクロコ。通称クロさん。

 元々、定期的に人類や災厄の偵察をする役目として派遣される使節の一人であり、現在の派遣員の中では最古参らしい。長ければ数年に渡って外の世界を旅して、資料や情報を記録して持ち帰る。エルフが『生きた歴史』と呼ばれることがあるのは、長生きするからというだけでなく、こうして世界全体の歴史を保管し続けているからである。

 エルフの森で生活する期間は外界にいる時間よりも短いらしく、エルフの文化と同じくらい人間の文化に精通しているそうだ。そのためか、どこかエルフっぽくない、言い換えれば”人間っぽい”言動を見せることがある。(つまりは、脳内お花畑度が低いということだ)

 

 彼と接してみて初めて気付いたのだが、この美少女ボディと共に生活するうちに、自覚できないくらい、僕は注目されることに慣れてしまっていたらしい。気付けたというのも、彼と一緒に行動していて視線を感じることが少ないのだ。

 いや普通は他人をそんなジロジロ見ないだろと思うかもしれないが、今まではジロジロ見られていたのだ。多分。ジロジロって言い方が悪いな。とにかくこうして振り返ってみると、エルフの森で生活していて、特に男性からの視線は多かったのだと思う。

 クロさんは、僕に無関心なのか、あるいは他人を「見る」という行為の危険性をよく理解しているのか、そう頻繁に僕に視線を送ることがない。これが想像以上に心地よかった。

 

 視線といえば、先程クロさんの言った「この間」はビックリした。

 森を出て数日歩いたあたりで、風の強い草原があったのだ。フードはめくれるわ髪は乱れるわ散々だった。もはや一周回って楽しかったまである。アレ、雨の降ってない台風の日みたいな。

 風の流れに乗れば多分空を飛べた。アイリスに必死で引き止められて、クロさんに窘められたから我慢したけど。

 森の中はあそこまで強い風にさらされることがないから、少々興奮してしまったのだ。人生二週目なのに恥ずかしや。考えてみると、もはや前世の経験を活かせた覚えがない。情事(シモ)の事情くらいか。母様開発には役立ちました。

 

 それと、よく分からないけど写真をパシャパシャ撮ってる人がいた。あの草原は中々に雄大な景色だったから、写真愛好家の中では名スポットなのかもしれない。

 前世ではカメラ趣味を持つことがなかったから構造なんかは分からないが、この世界のカメラは魔法を利用しているらしい。魔力が見えるからこそ分かったことだが、カメラから被写体に向けて魔力のビームを放出する感じだ。

 当たって怪我をすることはないと思う。しなかったし。まぁつまり、地球のカメラが光学を利用しているとしたら、この世界のカメラは光子の代わりに魔力を利用しているのだ。

 

 ただ、どう見ても魔力の燃費が悪い。あれだけ長距離から一定時間魔力を放出し続けないといけないとなると、普通の人は一枚撮るだけで魔力が枯渇してぶっ倒れると思う。人間の体は構成要素を魔力に頼ってないから枯渇しても平気なのかな?

 僕のことも撮ってくれるらしかったので、母様とのアイドル生活で鍛えたファンサ力を発揮してみせた。笑顔とポージングはアイドルの基本です。自分(ニイロ)が死にたいと嘆いている。分かりみが深い。どうしてこうなった。

 撮影される瞬間ちょうど風が吹いてフードがめくれたのも、アイドル力、もといエンターテイメント力高いと思う。配信者でもやろうかな。世界が撮れ高のために僕を優遇してくれている気がする。

 

 しかし、あんまりフードをピラピラしていたらクロさんに叱られた。

 曰く、人間達がエルフに手を出してくることは滅多にないけれど、分別のない輩に狙われかねないとか。あとは、いたずらに人間達を驚かせたり変な影響を与えたりするのもよくないと。

 強い口調で、人間とのあいだにはラインを引いておかなければいけないと言われた。

 

 そりゃ、普段彼らは僕達と関わらずに生きているのだから、余計な影響を与えるのが良くないってのは分かるけど。

 それでも、一切関わるべきではないというのは少し寂しい気がする。

 

 

 

 


 

 

 

 

「それじゃあ、5日分」

「は、はい。……丁度いただきます」

 

 クロさんが宿屋の受付にお金を渡し、それに若干詰まりながら受付の女の子が応対した。

 声は渋く、ダウナーな雰囲気やフードの下から覗く表情、またその高身長。それらだけで、クロさんが魅力的な男性であると気付いてしまったのだろう。ワンチャンとか狙っていなくても、イケメンや美女と喋る時に緊張してしまうのはよく分かる。

 というか、こんな皆して顔隠してたら普通にエルフって気付かれるんじゃないだろうか。気付かれていないつもりなんだろうか。意外とクロさんも抜けているところがあるのかもしれない。おじさんだからね。しょうがないね。

 

 宿は石造りのオーソドックスな感じだ。

 受付があって、団らんスペースのような広間があって、中くらいの広さの部屋がいくつかある。日本のアパホテルとまではいかないけれど、現在の人間の文明的にはかなり綺麗だと思う。トイレが水洗だし。つまりは、しっかりと下水が整備されているのだ。家樹でもないのにようやるわ。

 

「こちらになります」

「……ありがとう、ございます」

「ひゃ、ひゃい……」

 

 僕らを部屋まで案内した女の子が下がろうとしたので、そっと礼を伝える。

 そんなにビビらなくてもいいのだが、あれだろう、僕の言葉遣いのせいだろう。

 

 森の中と外では言語に乖離がある。

 一応、どちらも真名、もとい「最初の言葉」を軸とした言語であるから大元は一緒なのだが。特に人類は発展したり滅んだりと忙しかったため、その時の王様や覇権を握った国などによって少しずつ変化していく。

 それでも「ありがとう」みたいな単純な言葉は通じるはずなのだが、伝わるのはニュアンスだけで、向こうとしては「感謝いたします」だったり、「御礼申し上げます」だったりと、古めかしく、あるいは重々しい言葉遣いとして聞こえてしまうらしい。

 

 噛んだのが恥ずかしかったのか、緊張からか、顔を真っ赤にしながらペコペコと頭を下げて女の子は下がっていく。可愛い。うん。可愛い。

 外の世界に出て気付いたのだが、おにゃのこの可愛さってのは顔だけではないのだ。もちろんエルフの少女たちは見ているだけで癒やされる可愛さだが、だからといって外の世界に来ておにゃのこにガッカリするようなことはなかった。なんならお婆ちゃんにすら可愛さを感じるまである。特にさっきみたいな若いおにゃのこを見ると、真っ白なキャンバスを前にしたときのような高揚を感じる。

 

「……やっぱり、人間の言葉を覚えたいですね」

「焦らなくても、交渉は私達がやるけどね。むしろ御子は矢面に立つべきでないのだから、今のままでちょうどいいんじゃないか?」

「でも、ODO(学園都市)に行っても言葉が使えなければ、学べることは減ります」

「……それは確かにそうだな」

 

 まあ、学園都市でどうこうってのは建前だが。

 もっと人間のおにゃのこたちと楽しくおしゃべりしたいです。

 

 クロさんは外界を長く旅しているのだから、当然人間の言葉を話せる。一部の特殊な言語を使う部族の言葉すら使えるらしい。マルチリンガルすごい。かっこいい。僕もこういうおじさんになりたい。性別が違うから無理ですね……。

 アイリスも僕の側付きとして旅についていくことが決まって勉強したらしく、買い物や人々の会話を捉えることくらいならできるらしい。

 クロさんは結構せわしなく動き回っているから、暇な時間、アイリスに宿で教えてもらうのがいいのかもしれない。

 

 分かっていたことだから僕も森で勉強しておけばよかったのだが、正直その時間がなかった。元々、エルフにしては異常なくらい一日を予定で埋めていたのだ。父様の遺伝かもしれない。

 おはようせっくすして朝食を食べた後はアルマと稽古。昼食後はルーナに魔力拡張してもらい、数分気絶して起きてから自力での魔力拡張の技術を教わる。時間が余れば他の魔法を教わることもあるし、奏巫女としてのお役目があるときもある。村を回ってみんなに声掛けをするのもやめるわけにはいかないし、夕食後はお風呂とおやすみせっくすで時間が溶ける。

 時間を作れるか作れないかで言えば作れたのかもしれないが、正直あれ以上何かを詰め込んでも僕はパンクしていた自信がある。脳味噌クソザコナメクジなので。

 

「それじゃあ、おじさんは少し出かけてきます。御子は極力部屋を出ないで、絶対にアイリスちゃんと一緒にいるように」

「了解です。クロさん、いってらっしゃいです」

「……うん」

 

 言いつけをするなり、足音もなくクロさんが消えた。人の意識の切れ目を見つけるのが上手い彼は俊敏性も高く、本当に消えてしまったかのように動くことができる。魔力の痕跡はないから、純粋な身体能力だ。

 

 さて、こうして学園都市に直行もせずに何をしているのかというと、クロさんを筆頭に現在の外の世界の情報収集をしている。ついでに、僕とアイリスは人間の文化に馴染めるよう努めている。

 最後にクロさんが外界にいたのは10年前だ。アルマが来て少しくらいの時期に帰ってきたらしい。エルフにとっては一瞬でも、10年あれば人間の社会は大きく変動する。戦時中であれば一つの国が滅びかねないし、王様の代替わりだってあるだろう。

 だから、たとえば10年前はエルフもどんな種族も安心して滞在できた国が、現在差別の激しい人間至上主義の国になっているかもしれない。学園都市が、災厄の手によって半壊させられているかもしれない。(学園都市が半壊するほど攻め込まれているのなら人類はもう滅ぶだろうが)

 

 今いるところは、学園都市とソートエヴィアーカという軍事国家、その両方に行ける距離感の小さな旅人たちの街だ。エルフの森にも近いわけだし外壁などはないが、軍隊が駐在することもあるらしく宿が多い。

 ふと部屋の窓から外を見渡した。「猫」がいた。

 

「……!?」

 

 えっ……、えぇ……。

 なにあれ。

 

「あ、アイリスぅ……」

「どうされましたか、御子様?」

「あ、あれ……」

「どれでしょうか?」

 

 困惑したように窓の外を指差す僕に、アイリスも窓の外に視線を向けた。

 しかし、そこにはもう何もいない。

 

「何も見えませんが……」

「ねこが、いたんです」

 

 震える声を上げる。それ以外に伝えようがなかった。

 いや、だって。

 

 二足歩行のデカい黒猫が、スーツを着こなして歩いていたのだ。

 

 あの光景を、どう言語化して伝えろというのか。

 

 とりあえず、しどろもどろとなんとか説明する。

 

人猫(ひとねこ)、かもしれませんね」

「人猫?」

 

 クエスチョンマーク。知らない言葉だが、人間と猫の中間という意味だろうか?

 

「御子様がお生まれになる前、30年ほど昔までですかね。先代の勇者、森人と友好関係にあった彼の仲間の一人が猫人(ねこひと)だったため、一時期獣人が戯曲の登場人物として一人はいたんですよ。最近は流行りが移り変わってしまったので、御子様は存じ上げないかもしれませんね」

 

 ええと、つまり。……ケモナー大勝利ということでよろしいか?

 

 説明を聞くに、獣人も魚人もこの世界にはいるらしく、特に代表的な猫型や犬型の獣人は特別な呼び方があるらしい。

 要約すれば、ケモ度が高い場合は「人猫」のように「人」を先に言い、ケモ度が低い場合は「猫人」のように「人」を後ろに付けるらしい。僕の見た黒猫は、二足歩行であること以外は完全に猫だったので「人猫」というわけだ。

 人語を介し、現代では人類側の勢力としてカウントされ、協力して災厄と戦っているらしい。素の身体能力が高いとか何とか。

 

 学園都市を挟んで軍事国家の反対側、三大勢力のひとつとしてケモミミ王国が存在するらしい。あにまるぱーく。や↑ったぜ。

 ODO(学園都市)とソートエヴィアーカの間にあるこの街で出会えるのは珍しいらしいが、結局他の人間と変わりないらしく、見るのはいいけど積極的に関わりに行くのはやめるよう釘を刺された。

 HAHAHA、僕が他人に関わりに行くわけないじゃないですか。んな対人能力高かったらエルフの森でもっと楽に友達作れてるよ。でもモフりたい気持ちはある。

 

 まあ、初対面の人に「モフらせて」って言ったら捕まるよなぁ……。

 

「学園都市に行けば、このあたりよりもっと獣人の方がいらっしゃるでしょうから。そこでならきっと、仲の良い獣人の方ができますよ」

「うぅ……それを待つことにします」

 

 悲しみ。ぴえん。

 モフり欲を紛らわすべくアイリスに抱きついた。

 

「御子様……っ!?」

 

 おっぱいがふっくらもふっと僕を包む。

 何カップあったらこんなクッションみたいな胸部装甲になるんですか……。

 

「……ちょっと、寂しくなってきたのかもしれません」

 

 母様やみんなと別れて一週間。

 こうも誰かの温もりを求めてしまうのは、モフりとか関係なく、ただ寂しいのかもしれない。こんなんで、真名の問題を解決するまで心が持つのだろうか。

 不安に思っていると、アイリスがギュッと抱きしめてくれた。先程まで以上におっぱいに包まれる。

 

「甘えて、頼ってください。そのために、(わたくし)はここにいますから」

「……ん」

 

 彼女も、正しく乳母であるらしく。

 ふと覚えた寂しさも、気付けばどこかへ立ち去ったのであった。

 

どこ経由で学園都市入りする?

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