TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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夜逃げすれば猫……ヤバそうな奴から逃げられるのでは?だから世紀末のモヒカン、君たちはお呼びじゃねえんだよ!

 夢を見た。以前と同じ、恐ろしい夢。

 

 誰もいない舞台を観客席からゆっくりと歩いていき、境にある根のドームを避けるように進めば弓道場に辿り着く。

 そこで僕はいつものように的に刺さった矢を抜きに行き、帰ろうとしたところで何者かの気配を感じる。

 

 しかし今回で言えば、夢の終わりはあっけなかった。後ろにいる誰かが近寄るよりもずっと先に、現実で揺り起こされたのだ。

 

「──様、御子様」

「……ぅゃ?」

 

 重たいまぶたを上げればアイリスの顔。寝坊でもしたのかと思ったが、外は暗く明らかに夜中であった。

 

「……ん、……ぅあ、えっと、どうかしましたか?」

「暗い内に、街を出るそうです。詳しくはクロミノ様から。まずは、出立の支度をしましょう」

 

 ほう。なんだ。早漏か? 急いで出る分には構わないけれど。

 眠気を訴える頭をグラグラ振り回し、アイリスの世話を受けながら着替えて荷物をまとめた。まあ大して量もないんだけど。

 

「奴らの目的がなんであれ、『なんでも屋』に絡まれる前にここを離れて、お前を学園都市まで連れて行く」

「ほぇ」

 

 ということらしい。キセノさん達、『なんでも屋』さんがエルフを狙っているのか、はたまた全く別の仕事でここに訪れているのかは分からないが、クロさん的には彼らに一切関わらず距離をとってしまいたいとのこと。

 そんなに悪い人……悪い猫には見えなかったんだけどなあ。ともすれば、仲良くなってモフらせてもらうことだって可能かもしれない。ケモミミをモフることは人類の至高命題なのである。

 

 それにしても、僕の支度が済むまで部屋に入らず待っていたクロさんは紳士的だなぁと思案する。人嫌いのくせに人に配慮してしまうのは、きっと彼の本質が優しい人なのだろう。

 そりゃあ女性の寝室へ男が入るのは問題とされる場合も多いだろうけれど、急ぎの話があるならそんなこと気にする必要はないのだ。

 

「……紳士的と言うか、常識だぞ」

 

 白い目で見られた。解せぬ。だがアイリスもコクコク頷いているので、反省すべきは僕なのかもしれない。

 だとすれば、アルマへの教育を少し間違えたな。主人公ポジの勇者様だから、ラッキースケベを引き寄せられるよう「男女差別はいけないから、用がある時はノックだけして部屋に入ってしまおう」と教えてしまった。僕という実験台でラッキースケベの素振りも十分出来ているし、きっとハーレム王になるだろう。

 というかそれ差別じゃなくて区別だな、多分。差別と区別、実に難しい話である。……はい、そうです。眠いのでかなり適当なことしか考えていません。

 

 まあじゃあ、眠気覚ましにボチボチ出発しましょうかぁ。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ガタリガタリと揺れる荷車に眠気を誘われながら街道を征く。

 前線から遠く離れたこの地では、物流もまだまだ盛んで、早朝の薄暗い頃から行商人が街の間で荷物を運んでいる。先程までいた街を出発しようとしていた一つの商隊に声をかけ、荷車の後ろに三人乗せてもらっている。

 旅人が隊商に助けてもらうのはよくあることらしい。その代わり商品を買うこともあるそうだが、そもそも昔から残る風習なので、運んでやることに対して手間と思わない人が多いのだとか。ちなみに盗みをはたらけば袋叩きにされるとのこと。人間怖い。いや当たり前か。

 

「特に、この頃は賊が多いですからねぇ。固まって動かないと、たちまちカモにされちまいます。荷車なんかの装飾も、舐められない程度にはしっかりと、けれど旨味を感じさせない程度には(やつ)したものにするんです」

「なるほど」

 

 若い行商人見習いとアイリスが会話する。知識自慢はいいのだが、先程から視線がチラチラとアイリスの胸に吸い寄せられているのがバレバレである。まあ、アイリス本人は気付いていないのかもしれないけれど。

 童貞かな。童貞だろうな。童貞じゃなくてもあれは見ちゃうか。なんかもう興奮とかする前に神々しいもんな。万乳引力は今日も健在である。ばれないようにクスクスと笑ったが、見習いくんが顔を赤くしたから気付かれてしまったかもしれない。申し訳ないことをした。

 

「──っと、貴族様の馬車ですね。道を譲ります。おうい、全員端に寄れぇ」

 

 商隊というのは基本的に速度を出せない。もちろんダラダラ運んでいれば食料なんかが腐ってしまうが、それでも重い荷物を運んでいれば移動速度には限界がある。

 偉い人とかに限らず、移動だけを目的とした集団がいれば道を譲るとのこと。一応今回は、昨今の治安の悪さを配慮して同行しないか声をかけることにしたらしい。

 

「この先、特に危ない道もあります。そこまでは同行なされた方が良いと思いますが」

「──お申し出感謝いたします。ですが、急ぎますゆえ」

 

 凛とした女性の声が聞こえた。民衆に丁寧な言葉を使うお貴族様というのは、果たしてこの世界では一般的なのだろうか。

 だがまあ、話す機会があるわけでもなく、朝霧の中にその馬車は消えていった。

 

「あれ、ソートエヴィアーカの姫様じゃないか?」

「マジか。俺はもっと厳つい人物って聞いてたけど。あそこまで柔らかい口調で話す人だったっけか」

「いいや、俺には分かるね。あの声はコルキス様だ」

 

 路肩で停車する傍ら、暇なので商人たちの雑談を盗み聞きする。

 ソートエヴィアーカ……人類の三大勢力のうち、軍事国家と呼ばれるところか。国境付近だろうに、よくこんなところまで出張ってくるな。フットワークが軽いのか。

 ついでに休憩を取ることになったらしく、本格的に暇になってしまった僕は歌でも口ずさみながら暇を潰した。

 

「────♪ ──♪」

 

 歌声を聞きつけた野鳥なんかが寄ってくる。荷車を引いていた牛とサイの仲間みたいな動物も興味津々にこちらを見る。

 こころなしか辺りの木々も僕に合わせてざわめいてくれているようで、言葉を交わすよりもよほど、音楽というのは心を繋ぐものだなあと実感した。

 

「素晴らしい歌声だな。旅人って言ってたが、吟遊詩人か? この歌は知ってるかい?」

「いえ、この辺りの歌は知らないものが多いですね。もしよろしければ、教えていただいても?」

「……お、おう。じゃあ、オレの故郷の歌なんだが──」

 

 鳥獣が誘われれば、当然人間だって誘われる。そこにはきっと、大した差はない。

 顔を赤くしてキョドる隊商の男性から、いくつかの歌を教えてもらい、それを練習しているうちに出発となった。

 

 ──そして、僕は彼女に邂逅する。

 

「……おいアレ、さっきの姫様のとこ、襲われてねえか!?」

 

どこ経由で学園都市入りする?

  • とある学園都市の変態達
  • とある軍事国家の姫殿下
  • いいぜ、アンケートが何でも
  • 思い通りに出来るってなら
  • まずは、そのふざけた結果を先に見る!

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