TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
「へぇ、学園都市への交換留学生。王族も大変ですね」
「分かりますかクロミノ様。そのような場合ではないのですが、信頼を保つというのも難しいものです」
人嫌いのクロさんがどのように会話を捌くのか。
そこそこ興味あったんだけど、蓋を開けてみればめちゃめちゃ猫をかぶっている。このオッサン。
なんかもっと、「はあ」「そうですか」「それで?」みたいな、ダウナー系覚えたての高校生みたいな会話をすると思ってたんだけど、接待に慣れたサラリーマン並に適応している。大人だぁ……。
真の人嫌いは嫌いな素振りを見せないということだろう。覚えたか中高生。間違っても「俺って人間嫌いだから〜」とか言っちゃダメだぞ。
そんな感じで会話に花が咲く中、僕も少し疑問に思っていたのだけれど、どうして一国のお姫様が護衛一人でこんな場所にいるのかとクロさんが尋ねた結果が冒頭である。
実際に山賊に襲われてグヘヘの寸前だったわけだし、危機管理ガバガバだな送り出した国は何考えてるんだ(ブーメラン)とか考えていたのだが、その理由は留学という名目らしい。
テンポ良く交わされる二人の会話を聞いていると、どうやら国同士のパワーバランスを保つために必要な「政治」の話らしい。前線は災厄でてんてこ舞いだが、まだ安全な後方では災厄打倒後の世界を見据えたやり取りがなされてるのだとか。
「人間って、愚かなのでしょうかね」
アイリスがコソコソっと耳打ちしてくる。こしょばい。
まったくもってその通りなのだが、前世の世界でも戦争の傍ら味方同士で腹の探り合いをしていたそうであるし、むしろ下手に賢いせいでそうなってしまうのだろう。
本当に愚かだったら、未来のことなんて考えられないだろうし。
戦いとともに築いてきた歴史があって、だからこそ戦いが終わった後の世界を知っていて、備えてしまうのだろう。
しかし、留学か。それでももう少し人を付けてあげるべきなんじゃないだろうか。
そう考えていると、僕の思案気な表情に気が付いたのか、コルキス様は恥ずかしそうに説明を付け加えた。
「森人の方々に話すようなことではありませんが……、現在のソートエヴィアーカは世継ぎを巡って少し乱れているのです。長女の私が、留学の過程でいなくなれば……という思惑もあるのでしょう」
他国とだけじゃなくて、一つの国の中でも争ってるのか……。人間めんどくせぇ……。
むしろ、エルフはどうしてあんな寝惚けた生活習慣なんだろう。エルフだからか。もうそれでいいや。
将来この人間達の先陣を切っていかなければならないのがアルマだと思うと、強く生きての一言に収束させたくなる。
「それで、提案があるのですが……」
両手を合わせてコルキス様が伺うように言う。
その内容は、食費や宿泊費は賄うし、謝礼も払うので学園都市までの道中護衛をしてもらえないだろうか、ということであった。向こうに辿り着くまでが一番危険らしい。
僕らの目的地も学園都市である。そこまで馬車に同乗させてもらえるというのはかなり助かるし、身の回りのことまでお金を出してもらえるというのも実に太っ腹である。
が、クロさんは即答することは渋った。
「……その返答は、後日とさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、勿論。急なお話ですもの。もうじき今日の宿泊地の街に到着するそうですし、宿を取って、明日また出発する頃にでも教えていただければ」
ふふ、と微笑むコルキス様は、とても国内の後継者争いに苦労している人物のようには見えない。平気そうな顔だが、これで僕達が断るようなことがあったら、この人は学園都市までまた護衛一人と御者だけで行くつもりなのだろうか。
というか、彼女が留学生として行くということは、僕もきっと学園都市の学生として入学させてもらうことになるのだろうし(ヘリオから預かった手紙の効力があれば。なかったらどうしよう)、この提案もとい依頼を断ると、後々面倒があるのではないだろうか。
え、お前私の提案断ったのにおるやん。私のこと嫌いなん? 敵なん? みたいな。
一度学生生活を経験している身としては、クラス内で敵は少ないほうが良い。できれば誰からも無関心でいてもらえるのが一番だが、それが無理なら、せめて敵対はしないようにするべきである。
でないと、文化祭で口車に乗せられ女装させられるような、一生モノの辱めを受けることになる。あれ以降男子の中で僕に告白してみるというネタが流行ったらしく、非常に困った。
だがまあ、あまりに条件が良すぎるし、クロさんが即答しなかった気持ちもわかるのだ。
とりあえずは、今夜の宿でお互いの考えを交換して、その上で決めよう。
できれば受ける方向で。僕の明るい学園生活のためにも……!