TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
「疲れた……」
「お疲れさまです」
溜息をつくクロさんに労いの言葉をかける。
穏やかな会話であったと思うのだが、心配性なクロさんは気を遣うことが多かったのだろうか。200年以上そんな気遣いをして生きて、よくここまで禿げなかったものである。
「半分はお前だよ」
「またまた、ご冗談を」
「分かっていて言っているよな。まったく、おじさんもう年なんだけど……」
くたびれたオッサンの姿というのは、たとえイケメンであっても残念な、……いや、普通に哀愁漂う渋いオジサマに見えるぞ? おにゃのこ3人くらいは引っ掛けてそうなオジサマに見えるぞ? やっぱりイケメンしか勝たないのか? キレそう。
「僕にもそのイケメン成分を分けてほしいです」
「御子は……色々な意味で、無理だと思うよ」
「そうですよ。御子様は現時点で最高の状態なのですから、クロミノ様のようになっては世界の損失です」
「悪口が聞こえた気もするんだけど……まあ、そういうことだ。というか、今以上に何を望むんだ」
いややっぱり男の子なんでカッコイイものが好きなんですよ。
まあ正規の手順で女性の体に生まれ変わった以上、ある程度の割り切りはできているけれど。例えて言うなら、一部の男性が女体化に憧れる感情に似たものなのかもしれない。
格好良ければ万事上手く行くような気がしてしまっているのだ。
……母様が愛したのはこの姿の僕なわけで、今更何を望むでもないんだけど。
などと二人に言えるはずもなく、宿も確保した僕達は、今晩の食事処について考えることになった。
今まで泊まっていたところは宿と食事処が一緒になっているものばかりであったのだが、この宿はどうやら酒場くらいしかないらしく、それも騒がしめの酒場ということで、余計な騒ぎに関わらないよう別の場所を選ぶ必要があったのだ。
「確かこの辺りはグッサが名産だから、それなりの店に入れば何か美味い肉料理があるだろう」
グッサとは牛のような肉の王様ポジの動物である。
エルフって普通にお肉食べるんだよな。というか森でも大樹を使って畜産してたし。木の実中心の食生活でなかったのは日本人的に非常に助かった。
そうこうして選んだ店は、前世で言うファミレスのようなボックス席が特徴的な、小洒落た肉専門の料理店であった。ともすればいきなりステーキを出してきかねない。
通された席まで辿り着いたところでクロさんが突然立ち止まるものだから、わぷ、と僕は彼の背にぶつかった。
「もう、なんですか。……って、キセノさん!」
クロさんの背中越しに向こうを覗けば、そこには見覚えのある人型の黒猫さんと、はじめて見る金髪碧眼の少女がメニューを眺めていた。
黒毛の執事のような人猫、なんでも屋のキセノさんである。
店を変えないか。クロさんがそう口を開くよりも先に、キセノさんが金色の猫目をパチクリと僕に向けた。
「おや、これはアンブレラ様ではないですか! まさか、このような場所で再会するとは!」
「そうですね。狙ってこの店を選んだわけでもないんでしょう?」
「勿論、今日この場所で巡り会ったのは偶然そのものですとも。……アンブレラ様は、『持っている』方ですね」
フリーズしているクロさんはともかく、この店をあとから選んだのは僕達だし、席を案内したのは店員さんだし、キセノさんが僕らを付け狙ってということではないのだろう。
「『持っている』?」
「ええ。稀にいらっしゃるのですよ。人、運、物。出会いすら手繰り寄せる、特別な人というのが」
「ええと……それはなんか賭け事とか強そうですね」
「それは少し違いますが……しかしギャンブルにおいても、極端に強いか弱いかのどちらかでしょう。一度経験なさって、勝てるようであればその道に進むことも良いかもしれませんな」
なるほど。僕はカイジだったのか。
エルフたちはあまり賭けをしないから分からなかったが、今度機会があれば試してみよう。まあ、母様に出会えた時点で僕が運を引き寄せているのは確実である。
「でも、キセノさん昨日の今日でよくこの街まで来ましたね」
「キセノはね、足が速いんだよ!」
僕達は、途中でアクシデントがあったとはいえ、朝から夕方まで移動してようやく辿り着いたのだ。キセノさんまでもがこの街に訪れているのは、クロさんが警戒した通り、少し怪しさを感じる。
そう思って口にした言葉に、巨大なグッサ肉を頬張っていた少女が答えた。口元には肉汁と食べカスが付いたままである。
「……え、ええと、そうなんだ。凄いね。もしかしてキミは、キセノさんが探していた子かな?」
「ああ、そうです。その件はありがとうございました」
「違うよ、キセノが迷ってて私が探してたんだよ」
足が速いで納得できるわけもないのだが、子供特有の強引さに戸惑ってしまう。
なにはともあれ、キセノさんの迷子探しは無事に終わっていたらしい。
質問を改め、僕は金髪の少女の名前を聞くことにした。
「ところで、キミのことはなんて呼べばいいかな?」
「なんでもいいよ。金髪でもリリィでもなんでも!」
「……そっか、リリィちゃんっていうんだね。僕はアンブレラ、よろしくね」
「うん、よろしく。おねーさん、私と同じくらいなのにおっぱいおっきいね!」
んっ?
うん?
おっぱい揉まれたな。
うん、リリィちゃんにおっぱい揉まれた。わしっといかれた。
すげえや。流石に思考が追いつかなくてフリーズするわ。てか場の空気も凍ってるわ。
だが、僕だって伊達に人生2周目を走っていない。こんなんでペースを乱そうというのなら見通しが甘いのである。
「ね、リリィちゃんは何歳なの?」
「多分……12くらい?」
「うん。僕達ぐらいの年頃は、1、2歳の差が大きいからね。キミも、きっとすぐに大きくなるよ。それにアイリスを見てごらん。上には上がいるんだ。大きさなんて、気にすることないさ」
「わ、ほんとだ……」
性の個人差について講釈を垂れる。流石僕。完璧だ。
アルマの性教育も多分上手くやったし、僕は案外保健体育の先生とか向いていたのかもしれない。
そうやって二人でアイリスのデカメロンを
「場所を考えような、場所を」
「初対面の人に何をしているんだ……」
「「いったぁ……!!」」
クロさんとキセノさんである。
アイリスは少し恥ずかしそうに、胸を腕で覆って顔を赤らめている。しかしおっぱいを隠せていない。
周りの客も顔を赤らめている。しかしおっぱいへの視線を隠せていない。特に男。あ、あそこのカップルの男が殴られた。
「もう、早く注文しましょう……?」
アイリスが絞り出した声は切実そのもので、クロさんもやれやれと撤退を諦め、結局その店で食事をすることとなるのであった。