TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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でもなんだかんだ言って焼き肉でも満足してしまうので、究極、肉が食えればその形態は何でも良いんだろうなって。あとはそれが他人の金であればなおヨシ!

「え、待って下さい……、これ、肉寿司(アジ・リッサ)とやらがあるらしいのですが……!」

 

 席についた僕は、メニューの端に書かれた特別メニューに目を輝かせた。

 見た目が完全に肉寿司。前世で食べたことがないのでよくわからないが、とにかくブルジョアそうな見た目の食べ物である。これを食べたら大人になれるような気がしている。こういう発言が一番子供っぽいのだと思う。

 この世界の場合は寿司と肉寿司どちらが先なんだろうか。わりとどちらもご飯に合うし、一握り分のお米に切って乗せて食べようという発想はすぐ出そうだ。なお、今のところ寿司には遭遇していない。

 

「じゃあ御子はその盛り合わせで。おじさんは何を選ぼうかな……」

 

 どちらかといえば、メニューにはステーキなんかの方が多い。あとはハンバーグらしきものもある。

 僕はというと、自動販売機に見たことのない飲み物が売っていればそれを選ぶ性質(タチ)だったので、期間限定や特別メニューという言葉に弱いのである。大抵後悔する。飲むさつまいもだの飲むシュークリームだの、日本人はロクでもないものばかりを開発するから。

 こんにゃく芋を食べようとした精神は現代になっても健在であった。民族性ェ……。

 

 注文して暫く待つと肉寿司が運ばれてくる。全然関係ないが、この料理が運ばれてくるまでの時間をどう過ごすかで性格が分かると思う。相手と会話したり、即座にスマホを取り出したり。僕は一緒に食事に行く友達がいなかった。

 生肉が乗っているがそのまま食べても平気なのだろうか、などと考えていると店員さんがバーナーらしきものを取り出す。

 

「うわぁ……!」

 

 炙られた肉から滲んだ脂が照明を反射して、波のように七色の輝きを生む。

 火を通せば当然、香ばしい肉の食欲をそそる匂いが立ち昇る。もうこの時点で僕の胃は米と肉以外受け付けなくなっている。人類は肉寿司だけ食べて生きていけば良いんじゃないかな……?

 

「……とても美味しそうですね。ところで、この道具は魔道具ですか?」

 

 ……が、食欲に負けてがっつくような真似をすると肉寿司の品位まで下がるような気がして、僕は余裕ぶって店員さんにバーナーについて尋ねた。隣に座るアイリスが、そっと僕の口端の涎を拭う。ありがとう。

 

 フード集団だからか、緊張した面持ちで肉を炙っていた店員のお姉さんは、フードの下から聞こえてきた少女の声に不意を突かれたようである。

 僕がバーナーを指差していることに気がつくと、やや上ずった声の早口で答えた。

 

「は、はい。……魔導都市から仕入れた魔道具ですね。どういう風に火が出るのか私は知らないんですけれど……。昔は肉を炙るのは職人技とされていたんですが、今ではこの通り、私みたいなのでも簡単にできるんです。魔導都市様様ですね」

「へぇ、職人技だった時代は、職人が自分の魔法で火を起こしていたんですかね」

「まさか! そんなことに魔法を使うなんて、とんでもないです。そもそもこんな街では、魔法でまともに火を起こせる人の方が珍しいくらいです!」

 

 その言葉に、僕とアイリスはコテンと揃って首を傾げた。

 そりゃ焦がさないように火加減を調節するのは難しいだろうけれど(と言っても多分大抵の大人のエルフはできる)、そもそも火を起こせないというのはどういうことだろうか。

 火なんて、その総称を知っていれば子供でも扱える。人間だって魔法を扱えると聞いているから、適正の問題か?

 その疑問には、クロさんがボソッと答えた。

 

「学園都市の人間でもないと、魔力の感知すらままならないからね」

 

 にゃんと。

 あぁ、でもいつか、ヘリオが人間の真名の扱いの雑さとその技量の無さを嘆いてたっけな。

 ……なんか急に学園都市行く意味が分からなくなってきたな。気持ち的には病気にかかったから東京の大きい病院に行くくらいの感じだったんだけど、途端に村の長生きおばあちゃんに会いに行く気分になった。

 でも、行けって言ったのもヘリオだからな。なんかあるんだろうけど。てか、ヘリオは聖域ニートのくせにどうして色々知っていたんだろう。

 

 まあ、難しいことは後で考えるとして、今は肉である。肉。

 手掴みで食べるのが肉寿司の作法らしい。むんずと掴んで、舌の上を這わせるように一気に口に含んだ。

 味よりも先に香りが口の中に広がる。ゆっくりと旨味を全て舌に染み込ませるよう、飲み込んでしまわないように注意して噛み締めた。

 

「は、あぁぁぅ……っ」

 

 なんだこれ。

 

 なんだこれ。

 

 なんか、泣けてきた。

 

「えっちだ……」

 

 初めて食べる肉寿司の味わいに恍惚とする僕を見て、リリィちゃんがおぉっと感心する。

 うん。分かる。自分でも今ちょっと喘ぎ声っぽい溜息漏れたなと思った。でもんなこと関係ねえんだわ。喘いでも許されるくらいには美味いんすわ。全人類食べて欲しいし、なんなら肉寿司さえあれば災厄と人類は手を取り合えると思う。

 側に立っていた店員さんもやや顔を赤らめて微笑んでいるが、関係ねぇ。二個目を手に取る。

 

「はっ……んっ、んぅ……くぅ……!」

 

 蕩けるんよ……。

 噛みしめるつもりだったけど、噛む前にお肉がとろりと蕩けるんよ……!

 思えば、高い肉を食べるのも初めてかもしれない。言わば、生娘が初めてで最高の快楽を知ってしまったのである。

 これは……男女問わず、メス堕ち……間違えた、メシ堕ちするわ。

 

「キセノ! 私もあれ食べたい!」

「お前はもう食べたであろう。今追加で頼めば、きっと残してしまう」

「だってあのおねーさん泣いてるよ!? 美食は人の心を動かすし、その事実の前には胃袋なんて些末な問題だよ!」

「何を言っているか分からないが、駄目なものは駄目だ」

「上に乗ってるのが魚だったら自分も頼んでるくせに!」

 

 リリィちゃんが子供らしく駄々をこねて、キセノさんが頑なに許そうとしない。

 やめて……! 肉のために争わないで……!

 この肉は、争いを生むためのものじゃなくて、争いを無くすためのものだから……!

 

 だから、僕の肉を……、僕の肉を……っ、僕の肉は……分け、分け……、分けたくないよぉ……。

 無理だよ、一つだって誰かにあげられないよ……。

 

 涎を垂らしたリリィちゃんが、僕の口に運ばれる肉寿司とキセノさんの顔を何度も見比べる。

 僕だって誰かを救ってみたかったけれど、自分勝手な僕では駄目なんだ……!

 肉美味ぇ……!

 

 震える手で最後のひとつをそっと持ち上げる。

 絶望した表情のリリィちゃんがいたたまれなくて、僕はおいでとチョイチョイ指を動かす。

 そして、目を輝かせて僕の隣まで来たリリィちゃんの前で、肉寿司を口に含んだ。

 

「…………ぁ、うぁ……」

 

 すっと光を失って見開かれるリリィちゃんの瞳は、この世のあらゆる負の感情を煮詰めたかのような闇であった。

 でも僕は、キミのそんな顔が見たかったんじゃないんだ。

 

 あげることはできなくても、きっと人は、分け合うことならできるから。

 

 小さなリリィちゃんの体を持ち上げて、そっと口移しをした。

 驚き、恍惚、感動。目まぐるしく表情を変えた幼女は、次第に夢中になって僕の口の中に残った旨味を味わった。

 口内を蹂躙される僕は、しかし不快に感じることはなく、むしろ誰かとこの感動を分かち合えたことに喜びを覚えていた。

 

 肉、美味ぇ……!!

 

「……あの、お客様、店内でそのようなことは……」

 

 気まずそうな店員さんに怒られた。

 後悔も反省もしている。

 


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