TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
ゆっくりと街を遠ざかるソートエヴィアーカ王家の馬車を窓の外に見ながら、黒猫が気分悪そうに呻いた。
「流石に、朝から肉は……」
「何言ってるの。美味しいものはいつ食べても美味しいんだよ? 昨日おねーさんが食べてたやつ、今日は私が全部食べるんだから!」
フンスと鼻を鳴らすのは金髪碧眼の少女。ともすれば誘拐事件かと疑われかねない組み合わせであるが、少女の発言力の方が強いことは一目瞭然である。あるいは、黒猫の保護者としての矜持かもしれない。
昨晩目の前で濃厚なキスを見せつけられた女店員は、遠目で昨日の少女だと気付くと、ホールを別の店員に任せ自身はキッチンに立て籠もった。見事な保身である。心なしか顔が赤くちょうど今喉をゴクリと鳴らしたが、保身は保身である。社会的制裁からの保身の可能性は十分にある。
「さて。依頼も終わったし、次はどうしたい?」
「うーん。面白い方がいいよねー」
で、あれば。エルフの姫を追うのが現状一番面白い方向に転がりそうだが、とキセノが考えたところで、その思考を読み取ったかのように少女が口を開いた。
「おねーさんにはどうせまたそのうち会えるからさ、そんなに考えなくていいと思うよ」
「キミがそう言うのならそうなのであろうな。そうすると……おお、かたじけない」
そこまで話して、料理が運ばれてきた。マダム達に人気のありそうな爽やかなウェイターがニコリと微笑んで皿を並べ、フォークとナイフを握った少女が目を輝かせる。
「手掴みだろう」
「あっ!!」
どうやって食べるのだろう、と首を傾げた少女に黒猫が助言した。肉寿司にフォークとナイフは不要である。
二、三個ぽぽいと口に放り込んで咀嚼。喉を鳴らして水を流し込んだ少女は、もう一度首を傾げた。
「昨日ほど美味しくなーい……」
「朝に肉なんて食べるから」
「そーゆー問題じゃないと思うんだけどなー……」
不味くはない。不味くはないのだが、昨日口移しで味わった肉はこの何倍も美味しかったように思えるし、その差は食べた時間などではないように思える。
残った肉寿司をもしゃもしゃと消費していきながら考え込んでいると、黒猫がなにか思いついたようだ。
「我輩、エルフは全身が魔力で満たされていると聞いたことがあるな。グッサの肉に含まれる魔力と何かしら反応を起こしたのかもしれないし、あるいは、そもそも彼女の唾液自体に良質な魔力が含まれているのかもしれない。何せ、あの学園都市が血眼になって追跡し続けるほどである」
「早口で何言ってるか分かんないけど……それだ!!」
「……」
黒猫ご自慢の知識を披露したというのに、返ってきたのは口を噤みたくなる反応である。早口じゃないが。ちょっと情報量が増えただけだが。必要な予備知識を付け加えて話しただけだが。
「うーん、じゃあおねーさんがいないともうグッサのお肉食べる気にならないなー」
「それは良かった。吾輩は、このまま毎日毎食グッサを食べることになるのかと怯えていたのだ」
「うん。じゃあ次は魚かな。魚の美味しいところに行こう!」
人猫の好みが猫に近いかどうかについては世の研究の及んでいない領域である。しかし、その尻尾はピンと立っていた。
「キセノキセノ! 私凄い商売思いついた!!」
「……予想できるが、言ってみなさい」
「おねーさんの涎集めて、『万能調味料』って名付けて売ったらバカ儲けだよ! なんなら『この人が作りました』って顔写真貼ってもバカ儲けだよ!」
「やめなさい」
なんでも屋の飽くなき探求は続く……。
「……んぅっ」
「御子様?」
「どうかなさいましたか、アンブレラ様?」
「いや、なんか寒気が……」
コルキス様の依頼を受諾し、簡単な依頼書で契約を結んでから再度馬車の旅に出発してからしばらく。突然寒気がしたけれど、風邪とかではないよね。エルフは免疫つよつよ民族のはずだし。
「冷えたのでしょうか? もう少し近付きましょうか」
「ん!? ち、近くないです、か……?」
「そうでしょうか。我が国の冬は厳しいので、寒いときには姉弟でこうして暖を取ったものです」
タスケテ!!
え、距離感近くない? 人間ってみんなこんな感じなの? ……でも、よく考えたら、僕の今生の目標っておにゃのこと戯れることだよな。別にいいのか。
「……アンブレラ様は、肌もとても綺麗ですよね。森人の方はみなこのようなのでしょうか」
「ひぁぅ……た、たぶん……」
いや駄目だわ。この人の太ももの撫で方、戯れ越してもうえっちなんだわ。太ももって普通に性感帯だから、ぞわぞわ感じるんだわ。なんなら手足も性感帯だし、お腹も背中も首も性感帯だし、おにゃのこの体って全身性感帯なんだわ。そりゃ触ったら痴漢で捕まるよ。
「ゃだ……こるきす、様、そのさわり方は、ぁ、ぅ……」
やば……。
クラっと来たところで、アイリスが僕の体をガッシリ確保した。
「
「ぁぃ、りすぅ……」
「……ん゛っっ」
本当にアイリスの体がポカポカ暖かくなってきた。
いや、普通に暖かいなこれ……体脂肪の問題か? おっぱいがでかいからか? 湯たんぽじゃん。寝れるわ。
なんならアイリス暑そうなくらいだし、顔も少し赤い。てか鼻血出てない? ちょちょいっと治した。助けてくれたのはありがたいが、体調管理が甘い乳母である。
とりあえず出した結論。この姫様、魔性の女かもしれない。
当然、お姫様なわけだし、えっちなことの経験は僕の方が勝っているはずだ。母様との日々が僕を支えている。しかし、世の中には(母様のように)えっちなことの素質が神がかっている人もいる。
コルキス様の場合は、きっと天性のマッサージ師なのだ。リンパが張っているのだ。全部流さなければいけないのだ。
ナニはともあれ、彼女に体を自由にさせるとマッサージモノのワンシーンになりかねない。注意しよう。
ふう。
落ち着いたので、なんだか微妙な空気を一掃すべく話題を変えようと思う。
昨日の肉の話でもするか。
「そういえば、昨日は夕餉に肉寿司を食べたんですけれど」
「ええ。もしかすると、坂の上の? あそこは全国的に有名なお店なんですよ」
「ああ、そうなんですか。──ところで、コルキス様はなんでも屋をご存知ですか?」
なるほどなぁ。だからキセノさん達も来てたのかもしれない。美味しかったもんなぁ。
クロさんも知ってるくらいだし、コルキス様もやっぱりキセノさん達のことは知ってるんだろうか。キセノさん達というか、正確には猫人について知りたい。モフりたい。お姫様なら顔馴染みのモフり店くらいありそうだ。
返答が遅いので下から伺うようにコルキス様を見上げると、笑顔のまま彼女は頷いた。
「……ええ。彼らは、様々な場所で名を馳せていますから。悪いことをする時もあれば、街一つを救ったこともあるそうですよ」
「へえ! 凄いなぁキセノさん……。僕、キセノさんみたいな猫人の方に思い切り抱きついてみたいんですよね」
「彼らも人ですから、それは難しいかもしれませんね……」
あ、そうか。
体に触らせることでお金取ったりするのって、もはや水商売とかと同じなのか。
それよりは健全な気もするけれど、それでも触らせる側からしたら不特定多数から触られるのなんて地獄だもんな。
お姫様が知ってるようなお店にはないか。しょうがない。獣人の友達を頑張って作って、モフらせてもらおう。その代わり僕は何を差し出そう。おっぱいかな。おっぱいだな。おにゃのこの友情はおっぱいで守れるって聞いたことがある。
学園都市、獣人のおにゃのこがいるといいなぁ……。
狐耳とかだったら最高だよなぁ……!