TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
多分、自分の中にある人格に整理がついていないんだろうな、とぼんやり思った。
山賊に襲われることもなく、姫様に襲われることもなく、馬車にゆっくりと揺られる山道の途中である。コルキス様は何度か僕にちょっかいを出そうとしてきたけれど、今はアイリスと話している。エルフの文化に興味があるらしい。
女淵にいろ。その人格は、僕自身の中では一度死んだものとして扱われている。
だからこそ、今生は前世の延長としてではなく、まっとうに新しいものとして生きてきた。それでも記憶は引き継がれているから、時々入り乱れたように中身が混ざることもある。
しかし、母様と向き合い、踏み込まれ、暴かれ、ほとんど殺していたはずの人格に形が与えられた。名前が与えられ、レインでなく、ニイロとしての自分がいることを認めさせられた。
二重人格というのとは少し違う気がする。よくある強キャラみたいに、凶暴/穏和みたいに性格が切り替わるわけではない。思考と視点が常に2つあるのだ。
レインは、エルフ達の中で愛され、敬われて育ってきた。穏やかで、のんびりしていて、女好きで、所々抜けている。母様のことが大好きで、テレサがいるとむしろ他のことが何も見えなくなる。
一方、ニイロはその逆だ。疎まれ、物珍しそうな視線を向けられて生きてきた。臆病で、人が嫌いで、疑り深い。自分が一番大事で、他人に踏み込むことは決してなかった。
こうやって自己分析に時間を費やすのもニイロの癖だろう。レインはもっと、直感的な思考回路で生きている。好きなものにはフラフラついていくし、多分簡単に騙される。コルキス様のことだって信じようとしている。
それに対して所々精子を……間違えた、静止をかけているのがニイロだ。下ネタに走るのは両方。お前らほんと考察中にそういうネタ走るのふざけんな。もうどうしようもねえ。
……さて、ともかく、ニイロは人間の「汚さ」というものを信じている節がある。人間と言うか、人全般。エルフにだってそういう汚さはあるだろう。そんなもんだから、本当の意味で心を開くなんてことも早々ないし、大抵の他人と美味い話は疑う。
そんなわけで、姫様達が何かしら企んでいるかもしれないと予想する一方で、レインは「まぁしばらく信じてもいいんじゃない?」と述べるのである。
そのせいで時々矛盾じみた行動も取ってしまう。もう少し整理しないと、そのうち何かやらかしそうだ。既にやらかしている可能性は十二分にある。
この先も様々な人に出会うことだろう。その人を信じるか信じないか、ハッキリと判断できるだけの自我が欲しい。サンタさんください。
まあ、しばらくはクロさんに任せるか。
「ああ、ここからはオクタ・デュオタブオーサ・オブダナマの管理地区ですね」
ある看板を越えたあたりで、コルキス様が外を見ながら口を開いた。
関門のようなものがないのに驚いたが、何か魔力の膜のようなものを越えたし、バリアでも張ってあるのかもしれない。多分他の人には視えていない。
管理地区、という呼び方が少し違和感ある。学園都市は国ではないのか、と聞いてみると、説明に困ったように苦笑しながら答えてくれた。
「国と呼ぶには、統治機構が明確でないのです。三大国家でなく三大勢力と呼ぶのもそのためですね。ひとつひとつの研究機関が小さな国のように支配力を持っていて、それらの連合によって巨大な都市のようなものが形成されています」
ほぇ。ヨーロッパのEUみたいなもんか。あっちほど規模はでかくないのかもしれないけど。一応集団の中で上下関係はあるんだろうし、その中で一番偉い人が統治者みたいなもんかな。
続いていくつか話を伺うに、学生や研究者の移動がかなり容易らしい。この間まである研究所にいた人が、次の週には離れた場所の研究所に勤めたり、かと思えば全く別の学校で教鞭を執ったり。
それは確かに、学園都市って呼びたくなる感じだ。でも食糧事情とかその他諸々大丈夫なんだろうか。社会インフラとか。そこらへんの話は僕が分からないから何も言えないけど。
「アンブレラ様は森人の村でそういったことの管理もなさっていたのですか?」
「まさか。確かに特殊な立場でしたが、僕は森人の中で偉かったりするわけではないですよ」
「そうなのですか?」
驚かれる。いや、アレよ? 奏巫女とか本当に歌って踊ってにゃんにゃんしてるだけだよ?
さて。いくつかの農業施設などは、管理地区の境界付近に存在しているらしい。それが現在向かっているはずの場所だ。
そんな話をしていれば、丁度見えてきた。が、どうも様子がおかしい。
「人が、いない……?」
完全な工業化・機械化が済まされているとか、そういった話ではなく。
まるで昨日まで存在していた人々が全員石にされてしまったかのように、農村に人の気配がなかった。