TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
女性の武とは如何なるものか。
そもそもの性質としてスタート地点から男女で異なる。真実か疑わしいが、筋肉量が増加するポテンシャルにも差があるとさえ言われている。
その結果、
ならば、私は女であることをやめよう。
「ハッ」
「……っ!!」
一息に肺の中身を吐き、訓練用の棍を槍のように突き出す。
初め武器の柄で受けようとした相手は、しかし受けきれぬと遅れて判断したのか、顔を歪ませながら無理矢理体を捻った。棍は背後の壁に衝突し、決して小さくないヒビが広がる。
姿勢を崩した相手に、油断は許さないとばかりにそのまま連続して棍を振るう。一度の判断のミスが生まれれば、そこから一気に叩き潰すのが正しい。
「……参りました」
「っふう、このくらいにしておくか」
そう言って、コルキスは冷や汗を流す側付きの騎士──ヴィオラに笑いかけた。
決して実力差が離れているというわけではない。今回に関して言えばヴィオラが判断を間違えたことが味方しただけで、場合によってはコルキスが負けることもある。
そもそも、そのくらいの実力がなければ連れてこない。
アンブレラに語った、政争の影響で連れてこられる従者が限られたという話。嘘ではない。嘘ではないのだが、実際のところはコルキス自ら連れてくるものを選別した。自分より弱いような護衛をぞろぞろ引き連れるのが邪魔くさかったのだ。
もっとも、もしもコルキスがたった一人の跡取りであればこのような軽挙は許されなかったであろう。そういう意味では、政争の影響というのも真実だ。
「しかし、いけねえなァ。
ドリルとか、使えない羽とか、眼鏡とか。
と言っても、魔法で戦えるこの時代。あるいは、銃火器すら用いられるこの時代に、純粋な体術による戦闘能力がどこまで意味あるのか疑問視する者もいるのだろうが。
いつまで経っても現れない勇者に対し、人々が絶望していない理由もそこにある。
もしかしたら、森人が救ってくれるのではないか?
もしかしたら、魔法や銃器があれば勇者は必要ないのではないか?
むしろ剣を振るうだけの勇者など何になるというのか? まさか伝承のように
「実際、私も魔法の可能性に関しては分かんねぇことばかりだしなァ。少しは得られるモンがあればいいんだが……」
今まであれば、魔法など唱えられる前に術者を殺してしまえばよいと考えていた。
しかし
闘技場に立って一対一で戦うのであれば、せいぜい戦術レベルの話であれば、コルキスはどのような魔法使いにも負けないと思っている。
しかし、国と国、あるいは人類と災厄という規模の話になると、あのレベルの魔法は驚異なんてものじゃない。何もできずに完封される恐れすら、否定できない。
今頃、あの美しさと愛らしさを兼ね備えた少女は、見つめていればそれこそ気が狂ってしまいそうなくらい妖しげな彼女は、
簡単に汗を流し、ヴィオラの用意した服を纏って研究所の一覧が記された書類に目を下ろす。一口紅茶を含んだところで、来客の報が上がった。
コルキスが入室を許可して、ヴィオラが扉を開く。
「クロコ様ではありませんか。どうなされたのですか?」
想定外とまではいかないが、意外な人物の登場にコルキスが内心驚く。
席を勧め、正面に着いた。
伝承によれば、森人は男女問わず線の細い、儚げな雰囲気の者ばかりというが、この男に関しては整った顔立ちではあるものの野趣あふれる容姿をしていた。はるか昔から人間側の領域に姿を現していることが確認されていたから、その影響だろうか。
「いえ、しばらくこちらを離れますので、ここまでの道程世話になった御礼をと」
「そんな! 言ってくださればこちらからお伺いしますのに」
「はは、御礼する側が呼び出すわけにもいかないでしょう」
口に出す言葉が心と連動しているようなアンブレラとの会話と違い、どこか社交辞令じみたやり取り。慣れのためか、こちらの方が気楽にこなせるというのも皮肉な話である。
「コルキス様、ありがとうございました。護衛と言っても名ばかり、ほとんどそちらの厄介になっただけでしょう」
「厄介などと思うことがあるでしょうか。そもそも一度賊から救われた身、王家の血を継ぐ者として、多少なりとも恩を返せたのであれば何よりに思います」
さて、本題はなんだろうかとコルキスは思いを巡らせた。
まさか本気でお礼を言いに来ただけなんてことはあるまい。十中八九、アンブレラのことについて釘を刺しに来たのだろうが。
「王家……」
「ええ。300年を超える歴史に、泥を塗る訳にもいきません」
その言葉にクロコが微笑んだ。
長命の種族故の嘲りの可能性を一瞬疑うが、それにしては表情が柔らかい。
「俺は……失礼。私は、少々人付き合いというものが苦手なのですが」
「そうなのですか? 仰るほどには見えませんが……」
「下手というより、苦手なんですよ。特に、裏表が気味悪いような相手と付き合っていくのが」
「それは──」
暗に、猫を被っていることに気付いているぞというメッセージか。
「私も、同意いたします。……ですが、立場あってこその私。腹を割る、本音で語る、信頼云々。聞こえは良くとも、実情には即していないでしょう」
「その通りですね。だから、人付き合いというものが苦手なのです」
そう言って、クロコは含みのあるような溜息をついた。
やはり、一番「人間らしい」森人だ。会話の意図するところを中々明らかにせず、しかし時折こちらが顔を顰めたくなるようなことを零す。
(まァ、常に笑顔で爆弾みたいな話題持ち出すよりかはマシだが……)
名誉のために、誰のことかまで想像するのは控えた。
「……そんな私でも、種族への愛着、帰属意識、いわゆる誇りというのは持ち合わせておりまして。──あんまりうちの姫様で遊ばれると、それがね、腐るんですよ」
予想できていた話題でも、ぞわりと鳥肌が立ち、危うく殺気が漏れかけた。
強い魔力を有する存在はその存在感も増すと言うが、なるほど、量が多くともただ撒き散らすだけのアンブレラやアイリスと異なり、指向性を持たせるだけでここまで……。
「……当然のことでしょう。我々、ソートエヴィアーカも、誇りこそ一番に優先いたします」
「そうですか。それは、とても良いことだ」
クロコがフッと笑えば、妙な圧迫感が霧散する。
あまり時間もないので挨拶はこの辺りで、と立ち上がったあと、去り際に思い出したかのように付け加えた。
「詳細は私も聞いていませんが、あの子は学園都市で何かしら目的があるみたいですよ。コルキス様さえよろしければ力になっていただけると幸いです。ご存知の通り、一人では少し抜けたところがありますから」
「……ええ、喜んで」
ヴィオラが見送ったあと、コルキスはずるずると椅子の上で姿勢を崩す。
「……ァ〜〜、一応、お墨付きは頂けたってとこかァ……?」
「コルキス様、行儀が悪いですよ」
「今更だろンなもん」
人間社会のゴタゴタに巻き込むなという警告をされた一方で、関わること自体は認めるようである。これで、アンブレラに関わる間は他の二勢力とのバランスを考えるだけで良くなった。
更に言えば、魔力を威圧感とリンクさせることについても興味が出てきた。
存在感が増すということは、そのまま本人のカリスマ性に繋がる。何かしら収穫があればと思って学園都市に来たが、しばらくはそのことを調べても良いかもしれない。
あわよくば、政争を終結させられるような功績を得たいものである。
「つかれた……おじさんつかれたわ……。しばらく本気で寝溜めしたいなぁ……」
「な、なんかできそうな気がします! 御子様! できそうな気がしてきましたよ!」
「えっ、嘘でしょう!? 僕、まださっぱり分からないのですが……」
そのおっぱいより少し小さいくらい、つまりマスクメロンくらいの大きさの岩石を持ったアイリスが喜色満面に叫んだ。
今やっているのは、魔力の無作為な放出を抑えるための練習のひとつ。ヤァヒガルと呼ばれる石に対し、魔力を
ヤァヒガル、分かりやすく言えば魔結晶とか魔法石とかそこら辺の概念。魔法石はガチャ回すやつか。
以前話した通り、魔力というのは
また、液体にしてもさほど魔力の貯めやすさが変わらないことから、ポーション的な概念にも繋がってくるらしい。あんまり詳しい話はまだ聞いてないけど。
さて。このヤァヒガル、普通の人ならいざ知らず、僕らのように魔力ダダ漏れの人であれば触るだけで魔力が染み込んでいく。魔力における浸透圧的な話であると思うけど、これも詳しいことは聞いてない。
魔力が染み込んだヤァヒガルは色が変わる。であるからして、もしも僕らが魔力の放出を抑えることができれば、ヤァヒガルに触れても色が変わらなくなるというわけだ。これ自体は魔力の放出を抑える手段にはなりえないけれど、出ているかどうかを調べることはできる。
ここ、白妙の止り木では、勉強の時間に放出を抑える理論を教えつつ、自由時間なんかはヤァヒガルを使って自主的に練習をさせるようになっている。割と感覚的なところもあるらしく、自分で勝手にやり方を覚えて「卒業」していく子も多いとのことだ。
「アイリスさんは凄いんだねぇ。あーちゃん、ウチらもがんばろー!」
「おー! ……と言っても、全然できる気がしませんよぅ」
こちらの能天気そうな少女はイフェイオン。白妙の止り木にいる、僕達以外の二人の生徒のうちの一人だ。
色素の薄い、藍を帯びた髪色をしている。こんなアニメみたいな髪色存在するのかと驚いて聞いてみたところ、やはり珍しいらしい。
もう一人の生徒は黒髪の男の子で、シュービルという名前。かなり内気で、まだあまり仲良くなっていないからどんな子かはほとんど知らない。
イフェイオン……いーちゃん曰く、不器用な男の子らしい。かわいい。ショタコンに目覚める。いや、エルフの森で育てば誰でもショタコンになる。天使しかおらんもん、あそこ。
さて、アイリスは何かできそうな気がしてきたなどと叫んでいるが、僕の方の進捗はどうか。
進捗ねぇ……。
進捗、ダメそうです……。
そもそも、「進捗」という言葉が係り結びの法則のごとく「ダメです」に繋がってる。「進捗いい感じです!」って話聞いたこと無いもんなぁ。なんかどの分野でも、進捗に言及してる人はみんな詰んでる気がする。
つまり進捗について考えた時点でダメなのは決まっているわけで、決して何も進めていない僕自身が悪いわけではない。はい証明終了。何言ってるか分かんねえ。
「あーちゃんは可愛いんだねぇ」
益体もないことを考えながらヤァヒガル片手に涙目になっていると、いーちゃんが微笑みながら僕の頭を撫でた。
この少女、昔から動物に好かれる体質らしく、数多のもふもふを撫でてきた経歴を持つ。そのせいか撫でスキルが尋常でなく、大して年の変わらない少女に頭を撫でられるという屈辱でも無意識に受け入れてしまう。
猫だったら喉が鳴ってた。エルフで良かった。そんな風に油断していたら、今度は顎の下の辺りをスリスリ撫でられる。完全に動物扱いだが、ほわほわした気持ちよさに抗えない。
「ふふ、耳がピコピコしてる」
「……ッスゥーー」
いーちゃんがぽわぽわ笑い、コルキス様のときは率先して静止をかけてくれていたはずのアイリスは鼻を押さえながら震えている。
……あれ、知らぬ間にいーちゃんのお膝の上に寝っ転がってるぞ? なんでだ? ……あー、そこ、鎖骨の付け根あたりくすぐったいけど気持ち良い……。すごい。気持ちいのに全然えっちくない。これがモフり力カンスト勢か、ふぁ、ねむ……。
うな。ふんす。うみゃ。あったけ……。
寝ます……(確信)