TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
シュービル。黒髪だが、日本人顔と言うよりはギリシャとかの方に多そうな顔立ちの、少年特有の細身男子。なんだっけ、ラテン系?
村では天使のようなショタエルフ達とショタアルマに囲まれてきたので、彼のような普通の男の子は新鮮に映る。黒髪という点ではアルマと同じだが、あの子は東洋系だ。東洋もラテンもない世界ではあるけれど。
ところで、あの可愛らしい脳筋の弟は今頃どうしているだろうか。ひと月も離れれば、エルフの女の子たちは美少女ばかりだし目移りしてくれていそうだ。将来勇者ハーレムを作る下準備でもしているのかな。
本日はこのシュービル君と仲良しこよしになりたいと思う。野郎相手ににゃんにゃんする趣味はないから
学び舎でアイリスの他に二人しかいない同輩だ。せっかく出会えたのだし、しばらく一緒にいるわけだし、是非とも良い関係を築きたい。
……この辺は、かつて
レインとして──奏巫女の娘として生きていく上で、人と関わることは不可欠であったし、名前を覚え、交流を深めることは半ば義務であった。母様に言えばそんなことはないとやんわり否定されるかもしれないが、母様やその先代が積み上げてきた信頼を裏切れるほどの身勝手さも、「自分」も持ち合わせていない。
にいろなら何と言うだろうか。
薄っぺらな人間関係を量産するくらいであれば、成すべきことを成せ?
最後には嫌われるのだから、一緒にいない方がいい?
なら、にいろには何か成すべきことがあったのだろうか。
生きる目的、否、死ねるだけの理由──それも違うか、ただ、きっと、君が死んだ時に思ったことが、蓋し答えであったのかもしれない。
それなら、僕が生きる理由だって。いま死んでしまったって、別に問題……あるか。死んじゃあダメだ。母様と一秒でも長く一緒にいるために。生きる目的はないけれど、死ねない理由がある。今は、これでいいじゃないか。
なら、母様だって、いつか死んで……。嫌だ。やだ。やだ。考えたくない。ずっと一緒にいるんだ。ずっと。いつまで。頭が痛い。右胸が痛い。考えるな。
「……シュービル君と、仲良くなりたいと思います!」
「いーんじゃない?」
「……まだ、御子様にそのような関係は早いのではないでしょうか」
女性用の寮室。ベッドの上。いーちゃんが能天気に賛同し、アイリスが顔を顰めながら奇妙なことをのたまう。
白妙の止り木では、きちんと男子生徒と女子生徒の寝床が分けられている。あとは教師用の部屋が個人個人与えられていて、他にも部屋が何種類か。
「そのような関係って、どんな関係ですか」
「ええとですね、御子様、植物にはめしべとおしべというものが──」
「そのくらい知っていますが!?」
「ええっ、ど、どこで!?」
マジ? なんか乳母に生殖器も知らない純情ガール扱いされてんだけど。いやマジ?
本気で動揺しているアイリスを半目で睨み、不満の意を示すために頬を膨らます。いーちゃんに宥めるように撫でられる。え? 宥めてない? じゃあなんで撫でたのいま? 気持ちいいからいいけど。
前世の記憶抜きにしたって、舞台演劇で恋愛はあるあるネタだし、おませな少女たちというのは恋バナにだって花を咲かせるのだ。
その上、僕は恋愛の先に気持ちいいことがあるのも知っている(!) 性行為を繁殖のための儀式もとい試練と思っているエルフ達よりよほど耳年増なのだ。経験もあるから、耳年増以上だ。僕がエルフで一番えっちだ!! 変態キングだ!! ハハッ。やだなそれ。
「わたしも、カノジョになりたいって話かと思った」
この学び舎、恋愛脳しかおらん!!
え、それともなに、おにゃのこってこれがデフォなの? ちょっと男の子の話題出したらすぐ恋愛に直結させるの?
純粋無垢な天然モノだと思っていたいーちゃんが思いの外年頃の女の子しているのは少しショックだったが、あまり無垢に拘っていては業界からやれ処女厨だのやれユニコーンだの叱られる。理解を示し、真摯に向き合っていこう。
「いーちゃんは子供の作り方を知っていますか」
……はい。これはガバ。
「ひひ、知ってるよ。パパとママがお願いするとできるんだよ」
「そうですその通りです間違いありません」
勝った!! 勝った!! 今夜はドン勝だ!!!
ユニコーンと呼ばれてもいい! いーちゃんは純粋培養の無知無知っ子だ! や↑ったぜ(完全勝利)
感極まって、ハグしながら頭をナデナデする。不思議そうにするいーちゃんだが、抱きしめたことには嬉しそうに抱き返してくれた。女の子は気軽にこういうスキンシップができるから素晴らしい。おいそこのアイリス、後方腕組み親父面するな。
あまりの愛らしさに「僕達の子供もお願いしてみませんか」と言いかけるが流石にこらえた。いーちゃんは友達、いーちゃんは友達、いーちゃんは友達……いーちゃんと一緒に母様孕ませれば解決するのでは?(混乱)
……さて、気を取り直して、シュービル某と仲良くなる方法について考えよう。
大人しめの子だし、印象としてはゲームとか好きそう(陰キャ)だから、にいろ的には気が合いそうなんだけど。
「実は
「嘘でしたら今夜からいーちゃんと寝ることにします」
「すいません嘘です誠に申し訳ありません」
「あーちゃん、アイリスさんと一緒に寝てるの?」
「そうですよ」
「いいなぁ。わたしも、ダメ?」
小首を傾げた少女の問いかけを断れる童貞って存在するのか?
しかし話が進まん。アイリスが乗り気でないようだし、いーちゃんはひとつの話題に対する集中力がかなり低い。
でも僕一人でなにか実行すればガバることは目に見えているし、シュービル君のような内向的な子には第一印象が肝心だ。できるだけ同類と思ってもらった上で、何かしら良い印象を抱いてもらう必要がある。経験者は語る。
「シュービル君ってどんな方なんですか?」
「うーん、わたしの嫌いなもの食べてくれるね。好きなものは半分くれたり。いーちゃんたちが来る前の、わたしたち二人だけだった頃の話だけど」
「すごい良い子そう……」
そうなのだ。陰キャ(先ほどから決めつけてばかりいて非常に申し訳ないが)というのは、ごく少数のコミュニティにおいては実はそれなりに振る舞えるものだ。
だがそれが人数が増え、ヒエラルキーなり、そうでなくとも友人の優先順位が生まれてしまうような状況だと、自分がその下にいるように思って孤独感に苛まれ、時に不器用な失敗をし、最終的に独りを選ぶ。凄いよく分かる。
特に、現状は彼以外がみな女の子というのが問題だろう。40を超えているアイリスを人間の彼の体感として「女の子」と呼ぶかはともかく、性別という強力な要素において少数派となってしまっているのは非常に心苦しいだろう。
ここはひとつ、僕が男性側として彼とチームを組むべきではないだろうか。
「あーちゃん、なに言ってるの?」
「……御子様、その、失礼ですが、ほぼ確実に失敗……シュービル様を勘違いさせてしまうかと……」
どうして(震え声)
いつもそうだ。僕の思いつく案に碌なものがない。それが分かっているから周りの人を頼っているというのに、そちらもよく分からない方向に行く。解せぬ。
「……ところで、あーちゃん課題はできたの?」
「ま、まだです。今日中には、きっと……」
白妙の止り木で学んでいる、魔力の放出を抑える方法。
ちっとも進展がない僕は、実際に放出を抑えることはまだできなくていいから、何かそれをおこなうときの方向性を見つけるよう課題を出されている。
具体的なイメージを、自分なりに何かしら考えてみなさいというのだ。
「なら、それを話しかけるキッカケにしたらどーかな!」
ペカーと頭の上に豆電球を輝かせながら発案する少女に、僕とアイリスは揃って首を傾げた。