TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ!   作:Tena

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人に聞くとすぐにググれって返す人がいるけれど、やっぱり専門家が近くにいるのならその人に聞くのがいいと思う。特に、wikipediaとかには載ってなさそうな内容は。

 学園都市において、すべての学生は導師と呼ばれる教授に師事する。

 大抵の場合は生徒の希望に照らし合わせて配属されるが、時には教授から呼ばれたり、特別な事情から首脳陣によって決定されたりもする。

 コルキスの場合は最後の例であった。大っぴらにしていないとは言え実質ソートエヴィアーカから訪れた親善大使のようなものであり、下手な導師のもとに付けるわけにもいかない。しかし学園都市のシステム上誰にも師事しないということは考えられず、適当な導師を選出する必要があった。

 そうして選ばれたのが首脳陣の一人に数えられるタゲリ導師であった。学園都市の研究者にしては穏やかな気質で、人望も厚く、権力の獲得に腐心する一部の導師達にとっては目の上のたんこぶのような存在だ。薄暗いことなど腹に一物抱える導師にとって国賓を迎えることは避けたく、押し付けあった結果でもあり、またタゲリが失態を晒して失脚すればいいという考えもあった。

 

 まるで子供のように短絡的で想像しやすい首脳陣間でのやり取りはコルキスにも想像付いていたが、理知的で親しみやすいタゲリのもとに配属されたのはどちらかといえば喜ばしいことであった。

 もちろん軟弱で貧相なその肉体は好みからは外れていたが、元より学園都市の人間にフィジカルは期待していないし、知識さえ得られれば問題ないのである。

 

 最近出会った肉体を思えば、やはりアンブレラが真っ先に浮かんだ。顔の造形の話でなく、鍛えられた筋肉により程よく引き締まった体躯には数多の戦場を越えてきた馬体に見られるような芸術性があった。女性特有の体の丸みを残しながら、しかし触診してみれば分かる極上の肉質である。

 深窓の令嬢のようにか細く弱々しい体よりも、少し力強さを残している方がよい。そちらの方が、組み伏せたときの愉悦も指先一つで(なぶ)ったときの快楽も増す。特に、しなやかな筋肉をまとった女性の海老のように背を反らせる姿は筆舌に尽くしがたいものがある。

 

 まあ、今は彼女のことは置いておこう。考えなければならないことも、知りたいことも多々ある。

 

「コルキス嬢、悩み事かね」

「ええ……。本日ありました講義のことで、少し」

「ほお、貴女のような才媛がこの時期の授業でですか」

「買い被りですよ。……魔霊種のことについて少々伺っても?」

「ははあ。さては授業の範囲を逸脱した内容ですな。良いでしょう、発見というのは興味こそがもたらすものです」

 

 打てば響くとはこのことだろうか。自分にとって無害な人間でこうも頭の回転が速い人物というのは中々出会うこともなかったので、タゲリとの会話は楽しめる。

 まあ質問と言ってもかなりどうしようもない内容である。もしかすれば知っているかもしれないが、昔からの共通理解だと言われれば返しようがない。

 

 魔霊種──特に森人の身体構造を、なぜ学園都市の人間が知っているのか。

 

 講義内で魔霊について熱く語った白髪の導師は、彼らの肉体の構成について語り興味深いと言った。

 しかしこれはおかしな話である。魔霊の代表格とも言える森人、彼らに関わることすら軽率にすべきでないと言われる世の中で、果たして少しでもその肉体について知見を得るような機会は存在するものだろうか。一人でもモルモットの如く扱えば、種族総出で人類を滅ぼそうとしそうな森人である。

 そもそも幽かの森に引き篭もっている彼らのことを、どうやって知るというのか。あるいは、それ以前からの知識なのか。

 

 当てもなく資料を探し求めるのは憚られたので、しばらくは保留にしておこうかと思った疑問だ。

 この際だからと聞いてみたが、あまり答えにも期待していない。

 

 コルキスの問いかけをじっくりと聞いたタゲリは、手を組んで瞑想するように目を閉じてから、しばらくして目と口をおもむろに開いた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「なんか時々歩いてるのか飛んでるのか泳いでるのか分からなくなるなぁ」

 

 なんかこの間ぶっ倒れてからたまにフワフワした感覚になる。

 元々頭フワってんだろと言われれば悔しいが流石にもう否定しきれない今日この頃、お酒を飲めばこんな感じなんだろうかと夢想しつつ、健康への影響として報告すべきか悩む。

 一応、そうやって感覚が狂うことも時間が経つごとに減ってきてはいるけれど

 

 結局どうして気絶してしまったのかは定かでない。幼い頃は魔力が枯渇して、抗いようのない眠気に襲われたことは何回もあったけれど、今回はそれとは違った。眠気というより、溺れるような苦しさがあった。

 

「まぁ、無理は良くないってことでしょうかね」

 

 腕の中の、雪のような毛並みの猫に語りかける。

 みゃおとおざなりな返事をされる。この子もどこから来たのやら。

 生き物の温かさというものは一度得てしまうと捨てがたい。銀毛に顔を埋めて猫を吸うと、懐かしい匂いがした。

 

「……あぁ、ヘリオに似てるんだ」

 

 彼女の猫っぽい雰囲気と相まって、白猫はどこかヘリオに似ているように思えた。

 ふてぶてしい感じはクソ雑魚系ロリババアのヘリオとは違うけれど、そもそも人と猫である。まさか聖域に根を張った彼女が化けて出たわけでもあるまい。

 

「キミはあんな変態さんじゃないですものね」

「なおぅ」

 

 ド変態でそのくせ妙に臆病で、なのに変な責任感の強さを備えた少女なんてそうそういない。いわんや猫をや。

 

 さて、今日はいーちゃんが家族と面会している。入院患者みたいなものなのでそういうこともあるのだろう。彼女がいないと少し静かで寂しいけれど。

 

「シュービルのご家族がいらっしゃることはあるんですか?」

「ひっ、……いや、多分、ない、です」

 

 食堂にいたシュービルに話しかけたらめっちゃビビられた。

 僕に限った話じゃないから彼の性格だとは分かるんだけど、ちょっと傷付く。

 

 たまに。ごくたまーーにだけど彼から声をかけてくれることもあるし、嫌われてはいないと思う。ゲロを浴びせ浴びさせられの仲だ。今更気を遣うこともあるまい。

 今日はシュービルも元気な日のようで、珍しくも言葉を付け加えんとばかりに口を開いた。

 

「ボクは、あの人達にとっていないものなんです。このままここで息絶えれば、きっと安心したって言われる」

 

 あの人達、というのは家族のことだろうか。

 淀んだ目つきで吐き捨てるように語ったシュービルにこれ以上話を掘り下げる気も湧かなかった。

 もし彼の言う通り歪んだ家族関係があるのだとしたら、彼の極端に内気な性格の原因も、きっと。

 

「でも、願われたって死んでやるもんか。絶対、生き残ってやる……!」

「……! シュービル、キミ、案外格好いいところもあるんですね! その意気ですよ!」

「あ、や、今のは……、そうかな、へ、へへ」

 

 シュービルがどんな病を抱えているのか僕は知らない。彼から話そうとするまでは聞くべきではないと思って。

 けれど、いーちゃんもシュービルも、そうやって自分の抱える病と長年向き合ってきたからこそ、人一倍人間らしい「強さ」を持っているらしい。

 

 決して「自分」を見つめようとしない僕とは、大違いである。

 


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