TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
練習用にと渡されていた鉱石を一つ、袋から取り出した。
片手に握って、静かに見下ろす。
何も聞こえなかった。
木々の囁きも、月光の唄も、夜風の息遣いも。
意識が遠のくようなことはない。
溺れるような深さも、自我の交錯さえも。
何も聞こえないのだ。
誰も聞いていなかったのだ。
彼ら彼女らにとって、この世界はこんなにも閑寂なものなのだ。
いくつかの想いに、頬を伝うものがあった。
拭う手。握られた石は、もはや色を変えることもなく収まっていた。
「古い建物?」
「ええ。この辺りにありますか?」
いーちゃんが家族と面会をした翌日、僕は彼女に問いかけた。
久しぶりに家族にあったからか、普段の二倍くらいニコニコしている姿を見る。羨ましさも感じるが、僕のことまで話したらしく「今度はあーちゃんも紹介できたらいいな〜」と言われては曖昧に笑って返すほかなかった。まあ、可憐な少女の笑顔は微笑ましいものだ。
「うーん、ここからあんまり出ないから分かんない……」
首を傾げられる。可愛い(脳死)
とりあえず頭を撫でておいた。撫で返してきた。可愛い(脳死)
探しているというほどでもないが、いーちゃんに尋ねたのは白妙の止り木周辺の建物のことだ。
この間気絶して数日寝込んでる間、まるで胡蝶之夢のように現実感を伴って眺めた風景は、少なくともここ近辺のもののようであった。所詮は夢だからどこまでが想像の産物かわからないが、夢の途中で白妙の止り木らしき白い施設も見えた。
そしてその中で見たものの一つに、僕の記憶にはない、そこそこ大きな古びた木造建築物があった。街なんかも見た気がするが、そことは離れた、どちらかと言えば白妙の止り木のような山奥の環境だ。
これでも森に住む一族である。日本で生きていた頃は分からなかったであろう木々や自然の見分けも付くし、その上であのオンボロ建造物はここ周辺にあるような気がする。
何度も言うが、夢の話だ。本当にあるかどうかは分からない。むしろ無い可能性のほうが高い。だがしかし、僕はここへ来てからというもの他の建物は見ていないのだ。それなのにわざわざ夢に出てくるだろうか? だとしたら、実はどこかでチラッと見ていて深層心理に景色が残ってたという可能性もある。
まぁ、本当にあったら面白いな程度の考えだ。白妙の止り木という安全と平和の保たれた場所で勉強したり談笑したりするのもいいが、近くに探検スポットがあるのなら怖いもの見たさで訪れてみたかったりラジバンダリ。
残念ながらいーちゃんに心当たりはないらしいがしょうがない。体質上お出かけもしにくいだろうし、そもそも存在するかわからないものだ。
「そもそも、勝手に敷地から出たら怒られるよ?」
「うぇっ、そうなんですか……!?」
「昔かくれんぼした時に、凄い怒られたよ。外は危ないから出てはいけません!……って」
にゃーん……。探検とか勝手にしたら怒られるのか……。いやそりゃそうだよなぁ……。
「でも、ほんとにその建物があるなら面白いね! 誰か住んでるのかな? ここにいると、他の人に全然会わないから気になるなぁ」
確かに、森に隠れ住む魔女とかがいたら面白い。なんかこう、学園都市から追い出されたマッドサイエンティストみたいな。
……いや冷静に考えたらそれ