TS転生すればおっぱ……おにゃのこと戯れられるのでは?だからチート勇者、テメェはお呼びじゃねえんだよ! 作:Tena
現在のエルフ観察状況は
軍事国家:
カメラと斥候班で観察→クロさんを追跡
学園都市:
魔力の測定器で観測…のはずが無くても察知できるレベルのヤベェのが来た→眼鏡を派遣
主人公:
この間いーちゃんの胸を少し触らせてもらいました→観察?まあなんかよく見られてますけど、まさか賢い人間さんたちがそんな無意味なことするはずないですよ。
です。
そのため脱走の検知に関しては、「レインの魔力を追う」ではなく「敷地の領域を閾値以上の魔力が通過すること」に変更しました。施設防衛にも役立つからね(こじつけ)
折角なので追加で説明してしまうと、レインが【圧縮】を覚えたことは既にバレていました。どうして知らないふりをしてくれていたんでしょうね?
「ギン」
「あぁ?」
呼びかける声に、面倒臭そうな素振りを隠さないまま男が返事をした。
「教官って呼べ。いつも言ってんだろクソガキ」
「アンタが俺らに指図できんのは訓練の間だけだろ。なんて呼ぼうが俺の自由だ」
荒々しい口調で叱りつけるも、目の前のクソガキが態度を改める様子はなかった。
実際のところは、彼らが生活するこの施設にいる時間全てが訓練の一環である。しかし面倒くさがりなギンには、物覚えの悪い子供にそれを丁寧に教える気力もなく、また「教育」することすら億劫であった。少年と同じく、ギンも明確な訓練の時間でなければ職務に勤しむつもりはなかった。
それに、かつてはどんな時でも教官と呼ぼうとしなかったことを思えば成長はしている。その時は仕事として「教育」しハシギも懲りたようだが、一方でギンのこうした性格も知られてしまったようだ。
「昼間のあいつら、誰な──」
「教育」した。
大人と子供の質量差がある。普通に殴れば、普通に吹き飛ぶ。
「『あいつら』じゃない。『あの方々』、もしくは『御一同』だ。いいか? 義務じゃない、命令だ。ルールだ。守るのが常識で、背くなら殺す。俺が殺さなくても他のやつが殺す。分かったか? 分かったら返事しろ」
「……つ、ぅ」
「教育」した。返事が遅いから、もう一度。
仕事と認識しているからこそ、「面倒臭い」でサボってはいけないラインをよく理解していた。
「分かったか?」
「……は、い」
「……よし。いいか、一度言ったことがあると思うが、お前がバカなのは知っているからもう一度だけ説明してやる。服を見ろ。髪を見ろ。肌を見ろ。どれだけ学がなくても、それで身分の違いが分かる。お前が知っている中にあんな上等で純白の服を着た人間がいたか? あれほど美しい存在がいたか? それだけ分かっていれば、少なくとも戦いの外で死ぬことは減る。次は説明しないからな」
ニコリと微笑みかけると、ハシギは俯いた。教えるという点においては、剣幕は濫用しすぎてしまう。笑顔のほうがよほど使い勝手が良く、相手も忘れにくい。
「それで、……あの方々は、誰、だったんですか」
「分かりやすく言うと、他所のお姫様とこの国の貴族サマの娘……かね。お前らはああいった人の肉壁になるんだ」
厳密には違うが、伝わるように言えばこんなところだろう、とギンは心の中で付け足した。
幽かの森についてはよく分かっていないことばかりであるし、そもそもこの学園都市は国ではなく連合のようなものだ。が、それを説明して伝わるとは思えないし、なにより面倒だ。
ハシギを見ると顔を青くしていた。訝しんで、低い声で問いかける。
「……何もしていないだろうな?」
「……睨んで、ウザいって言った。……知らなかったんだ! 訓練に戻らないとって……だから、俺……」
「あぁ……、まあ、運が良かったな。白樺……あの白い服を着た方々は、純粋培養で権力のケの字も知らないような人間ばかりだ。他の相手ならお前その時に死んでるだろうし、生きてるならこれから先気を付ければいい」
だからこそ、こんなところまで出張ってきたことにはギンも驚いている。
訓練所を設置する場所についてもっと口を挟んでおけばよかったかもしれないが、それでも白樺からここまで来るには、道を知っていなければ1日じゃ済まない。言ってしまえばあそこは良い子ちゃんばかりが生活している場所なので、こんなところまで冒険してくるだなんて想像できなかった。
「お姫様……」
ハシギが小さく零したのをギンは聞き逃さなかった。
恋でもしてしまったのだろうか。
だが、咎める気はなかった。ハシギとて釣り合う相手でないことは理解しているだろうし、それ以上に、あの暴力的なまでの蠱惑に抗えないことを責める気にはなれなかった。
忘れろ、諦めろと言った言葉一つ、あるいは暴力とてその気持ちを曲げられないだろう。
軽く言葉を交わした結論として、中身はきっと普通の人間に似通ったものがあるのだろうと思った。けれどもその美しさに関しては、あらゆる価値観を捻じ伏せる力があった。
その美しさに反し中身が馴染みやすいからこそ一層誘惑されるのかもしれない。面倒臭さ故に深く考察する気はなかったが、それでも一つ、彼女を前にした人間は魅了か警戒どちらかを選ばされるのだろう、ということは分かった。
ギンは警戒を選んだ。それは生来他人を信じない性格だったからこそだ。それでも面と向かって話していれば気を許してしまいそうな、あるいは襲いかかりたくなってしまうような誘惑に駆られた。であれば、目の前の少年が彼女に恋したとてそれは不可抗力だろう。
だがまあ、可哀想に。
一度魅了されてしまえば、しばらくはどんな女性も霞んでしまうことだろう。
幽かの精霊。恐ろしい種族である。
「シュービル」
「……な、なに」
食堂でシュービル少年の向かいに腰掛け名前を呼ぶ。
返事を受けてからしばらく考え込み、これみよがしに溜息をつくとまさしく「えぇ……(困惑)」という表情をされる。スマン。
「僕、キミと仲良くなるって言っていたじゃないですか」
「う、うん」
「ですが近い内にここを去らなければいけなくて、それまでに仲良くというのは少し難しそうかな、と……。しょぼんです、はぁ……」
優先順位。
後悔しないように生きるためには、それが一番大事だと思っている。
だから、いーちゃんの病気のことも、シュービルと仲良くなることも、のうのうと生活を送っている横で過酷な訓練を強いられている子供たちのことも、全部後回しにして僕は僕のために、ないしは母様のために有限の時間を使う。
「準備ができたら話しかけてくれ」なんて言うNPCは現実に存在しない。ピンチに合わせて「秘密兵器が完成したぞ!」と駆けつけてくれる博士なんて幻想だ。
「人と仲良くなるのって、難しいものですねぇ……」
「……あ、あのさ。仲が良いって、どうなったら言えるの、かな?」
仲が良い、友達の定義か……。それ前世で一生分かんなかったんだよなぁ。教えてエロい人。
なに? エッチなことすれば仲良くなる? うるせえ! 僕はおにゃのことにゃんにゃんする以外でこの体は差し出さないぞ! 男なんて全員もげてしまえ!
まあでも、友達の定義ならともかく、仲が良いか悪いかってのは案外単純か。
「やっぱり、お互いのことを好きかどうかじゃないでしょうか。シュービルは僕のこと好きですか?」
「えっ……、いや……」
あっ辛いんだぁ……(涙目)
なぜ自分から地雷を踏みに行ってしまったのか。言い淀まれたときのこの空気の重さやばい。
「……ぼ、僕は、シュービルのこと、好きです、よ?」
大怪我を負ったメンタルを庇うように震え声で虚勢を張ると、シュービルは一瞬動揺してから小さく「いや、どうせ……」と口を開いた。
「いえ、嘘や世辞ではありません」
彼は自分が他人に好かれるはずがないと思っている節がある。それは、にいろが同じだったからよく分かる。
そういった根本の考え方が似ているところがあるから、彼のことを好ましく思うのだ。
「たとえばその、他人を簡単に信じないところ……好きですよ。人間すべてを疑っているわけじゃないんです。キミは、ちゃんと人を観察する。よく見ている。根気が必要です。信じられるまで疑うのなら、それだけ体力も気力も使う。……そこまでして自分に向き合ってくれる人がいるなんて、最高じゃないですか。素晴らしいことですよ。だから僕は、キミが好きです」
シュービルが顔を赤らめた。元が色白だから、血色が良くなるとわかりやすい。
もしも……もしもだ。
もしもかつてのにいろにそう言ってくれる人がいたなら、何か変わっていただろうか。
あるいは、実際にいたのかもしれない。ただにいろが気付かなかっただけかもしれない。
「あとは、キミの実は負けん気が強いところも好きです。気が弱そうに見えて、譲らないと決めたものがありますよね。まだそれが何かは分かりませんが……、自分の中に一つ自分で決めた芯がある。とても素敵だと思います」
微笑みかけた。
きっと、表層的なものが多くてわかりにくいけれど、シュービルは「強い人」なのだ。
誰かに向き合う強さを。自分の信念を曲げない強さを。ひけらかさずに、けれど大切に抱いている。
あまり褒められすぎると恥ずかしさのゲージが限界を迎えるらしく、シュービルはますます顔を赤くして、散らかった頭を整えるかのようにその黒髪をワシャワシャとかき混ぜた。
「……君は、ずるいよ。卑怯だ」
「え、ええと……?」
いじけたように口を尖らせるシュービルに、僕は呆気にとられた。
「毎日、会う度に笑顔を振りまいて、声をかけてきて。自分の気持ちに素直で、すぐに好きとか言っちゃう。……そんなの、嫌うほうが難しいじゃないか」
「はぇ……?」
つまり? 褒められてる? でも文句も言われてる??
素直って言っても、普通に裏表はあるんだけどね。ああでも、いつからだろう。嬉しいこと、楽しいことをできるだけ伝えるようにしようと思えたのは。少なくとも、前世ではない。
頭の上に疑問符を浮かべて目をしばたたかせている僕に、シュービルは溜息をつく。
「そういう、大事なところで少し馬鹿になるのもずるい。つまりさ……、まあ、なんというか、僕も君のことが……いや、まあその、変な意味でなく、……その、好き、に、分類できる……、そういうそれだよって、ことさ。……アン、ブレラ」
「!!」
ヤッターー!
名前で呼ばれた!!
あと好きって聞こえた!! 定義的には仲良し達成!!
上手く言葉が出てこなかったが、目の輝きで喜びが伝わったのだろう。
フイと顔ごと逸らしたシュービルは、手元にあったコップを掴んで口まで運び、中身が無いことに気付くと恥ずかしげに水を注ぎに行った。
戻ってきたシュービルに、満面の笑みで問いかける。
「あの、ここを出ていった後も定期的に顔を見せに来ようと思っているんです! 面会があるじゃないですか、なのでいーちゃんにも。その時、シュービルのことも呼んでもいいですか?」
「……まあ。ボク、誰かと面会したことないからあまりよく知らないよ」
「やったぁ♪」
「ねえ聞いてる?」
その後、なれないことをしたシュービルがキャパオーバーして吐きかけるなどドタバタしながら、僕はまた彼らに会いに来ることを約束した。