「……」
佐天は、自室でのんびりしていた。というのも、少し考え事をしていたからだ。
なんというか、もったいない事をした気分だった。友達に唆されたのと、昏睡状態に陥った人達が目を覚さない、というのにヒヨってつい提出してしまったが、能力はこれでまた手に入らなくなってしまった。
「……はぁ」
一度で良いから、能力を使ってみたくて、それで学園都市に来たのに、結局は無能力者。ほんの一瞬だけ火花を散らすことも出来やしない。
ここから先、何があっても能力は自身の身につかないのか。周りが徐々に能力を開花させていく中、自分だけ置いていかれてしまうのか。想像すればするほど、嫌な方向に転がっていく。
そもそも、才能なんてみんな平等じゃない。その差を埋めるのに、少しズルする事の何がいけないのか。
「そうだよ……今からもう一回、ダウンロード……!」
そう思ってパソコンに向かって立ち上がった時だった。ポトっと自分のポケットから何かが落ちた。
お守りだった。学園都市に行く前に、母親からもらったもの。「あなたの体が何より一番大事なんだから」と言われて渋々、受け取ったもの。
それが、何かを自分に語りかけている気がした。
「……そっか、そうだよね……」
もし、昏睡状態に陥った時、二度と目を覚ますことがなかったら? それこそ、このお守りをくれた母親への裏切りなのではないだろうか。
あのヒーローさんも言っていた。能力者の方が多く犯罪を犯す、と。自分がそれと一緒になってどうするのか。
やめておくことにして、やっぱりのんびりする事にした。
×××
一度、帰宅した非色は、とりあえずもらった情報を頭の中で繰り返しながら街をかけていた。
やはり、幻想御手と昏睡状態は無関係ではない。十中八九、セットでついてくるものだろう。ならば、やはり幻想御手は危険なものだ。佐天が踏みとどまって捜査に協力してくれたのはとても助かったと言える。
「そろそろ本格的に洗うか……」
やはり幻想御手についてネットで洗うべきなのだろうが、自分のパソコンを持っていない。姉のパソコンは姉の部屋にあるのだ。
従って、やはりいつも通りにパトロールし、犯罪を見かけたらとっちめ、ついでに吐かせるのがベストだろう。
そんな時だった。早速、派手な電撃が目に入った。
「ほら見ろ。早速一件」
そう呟き、ホルスターの水鉄砲をクルリと回し、一気に急降下した。
「ってコラァ‼︎ ざけんじゃねーぞアンタァッ‼︎」
「なぁっ⁉︎」
「ふざけんじゃねーぞ、は君の方」
そう言って、水鉄砲を放ちながら攻撃された少年の前に立ち塞がる。これで終わりのはずだった。が、その水鉄砲は直撃する前に電気によって燃え尽くされる。
「……は?」
「な、何よあんた……って、二丁水銃?」
「おお! ヒーローじゃねぇか!」
「あ……み、御坂さ……御坂美琴」
しまった、と言わんばかりに冷や汗が出る。まさかの超能力者だ。攻撃されたツンツン頭の少年のレベルは分からないが、おそらく無能力者だろう。
「ほら見ろ、ビリビリ! お前が派手に騒ぐからヒーローに目をつけられたぞ!」
「え、いや……あんま煽らないで……」
「へぇ? あんたが代わりに相手をしてくれるってわけ?」
「そ、そういうんじゃ……」
というか、この二人かなりフランクな関係なんじゃないだろうか? 軽口を叩き合っているように見えるし。
「……もしかして俺、お邪魔だった?」
「そうよ」
「いやいや、絡まれてたの俺だろ! 助けろよあんた!」
「怪我したくなかったら退きなさい」
「今までなんで俺だけ助けてくれねーんだとか思ってたけど、今なら分かる。さぁ、やっておしまいなさい!」
「……」
どうにも判断しづらい。何なのだろうか、こいつらの関係は。面倒臭くなったので、思わず投げやりな態度を取ってしまったのが、運の尽きだった。
「……痴話喧嘩なら俺、帰るけど」
その一言は割と地雷だった。ピリッ……と、目の前の超能力者から殺意が放たれる。それも、紛れもない大きなものだ。
自身に危機が近づいている事をすぐに察し、それはツンツン頭の方も同じだった。
故に、二人は同時に思った。これは、巻き込まれる、と。
「誰と、誰が痴話喧嘩だコルァァアアアッッ‼︎」
直後、放たれた電撃に、非色は慌てて一瞬で後方に飛び退きつつ、ツンツン頭の少年の襟を掴んで回避しようとする。
が、結果的にそれは必要なかった。何故なら、ツンツン頭の人が右手で電気を打ち消したからだ。
「……は?」
「っぶねぇ〜……完全に死ぬ威力だったんだけど……」
「え、今……」
何をした? と聞こうとした時だった。近くから機械音声が響いた。
『エラーNo100231-YF。電波法に抵触する攻撃性電磁波を感知』
「「え」」
警備ロボが煙を吐いて転がっていた。一発で嫌な予感がしたツンツン頭の少年は、慌ててその場から駆け出し、美琴はその後を追いかけて行った。
取り残された非色は、どうしたら良いのかも分からず、とりあえずもうあの二人は追わずに別の現場に向かうことにした。
×××
翌日、白井黒子は街の中を見回っていた。と、言うのも、
「……そういえば、最近ヒーロー様を見ませんわね」
夏休みになったら絶対に向こうも動くと思ったのに。いや、目撃情報はあるため、おそらく動いているのだろうが。
あの人は
「いえ、今は取引現場に集中しましょう」
金銭を用いて、なんてする輩は絶対にロクな奴がいない。そう思って顔を出したのだが……。
「あ、し、白井さん……」
「あれ、佐天さん? ちょうど良かった。この辺りに
「その、さっきまでいたんですけど……」
佐天が指差す先では、三人揃って水鉄砲によって壁に張り付けられている。こんな事できる輩は一人しかいない。
「一応、警備員には報告するよう言われていたのでしておきましたけど……」
「……また勝手にあの人は……」
まぁ、手間が省けたと思って良いだろう。今のうちに、気絶している連中のポケットをまさぐる。音楽プレイヤーかUSBの類いを探すためだ。
「
「ええ。人が昏睡状態に陥ってる以上は、やはり危険物だと思われますので。場合によっては、所有者を保護することになると思いますわ」
「た、大変ですね……? でも、それならさっきヒーローさんが持って行っちゃいましたよ」
「え、そ、そうなのですか?」
聞かれて肯く佐天。
どうするつもりなのだろうか。まさか、自分だけのものにして売るつもり? いや流石にそれはないだろう。
とりあえず考えても分からないので、気になったことを聞いた。
「ところで、佐天さんは何故ここに?」
「あ、はい。散歩してたら、まさにその取引をしようとしていた人達を見つけてしまって……揉め出したので思わず、仲裁しようとしたら、あのヒーローさんが助けてくれて」
「……なるほど」
顎に手を当てた黒子は、感心したように呟いた。
「お心遣い感謝致しますわ。……ですが、次からは警備員に通報して下さいな」
「は、はい!」
「では、失礼致します」
そう言って、黒子は別の現場に飛んだ。
しかし、何処の取引現場も片付いている。犯人は一人しか思い浮かばない。それも、USBや音楽プレイヤーは全て回収済みだ。
明らかに、
徐々にフラストレーションが溜まっていく。まるで、駆けつけた時には全てが終わっている警察官のような自分に、だ。
自分にはテレポートがあるのに、それでも追い付けない。徐々にムカついてきた。
そんな時だ。初春から通信が入った。
『白井さん。すみません』
「なんですの? まだ現場を一箇所も抑えられていませんの」
『それが……一七七支部の窓に変な飛来物がありまして……』
「飛来物? 鳥のフンですの?」
『いえ、それが……と、とにかく一度、引き返してもらえませんか?』
まぁ、そう言われては仕方ない。ため息をついてテレポートで引き返した。支部の中に入ると、初春と美偉が窓の外に張り付いている物を眺めていた。二丁水銃の水鉄砲から出る液体によって貼られている。
「これですの?」
「そうなんだけど……とりあえずとってくれる?」
美偉に言われ、紙を一枚手に取るとテレポートさせ、ビニール袋を切り裂いて中身を回収した。
そこに入っていたのは、音楽プレイヤーやUSBだった。
「え、これって……
「ですかね?」
美偉と初春が「ラッキー」と言った顔をしている中、黒子は一人、奥歯を噛み締めていた。
「……上等ですわ。その喧嘩、買って差し上げましょう……!」
何故か闘志を燃やした黒子は、そのまま別の現場に向かっていった。
×××
あれから二日が経過した。非色は今日もヒーローとして街を駆ける。ここ最近、
そのたびに止めに入っているわけで、怪我も増えていった。勿論、軽い怪我程度はすぐに修復されてしまうわけだが。
まぁ、まだまだ活動できる。こうした一件一件を片付けても事態の収束には結び付かないが、それでも目の前の悪事を許すつもりはない。
「……でも、そろそろ元を叩きたいんだよなぁ」
音声ファイル、の時点でコピーは可能だ。これを収束するには、元を叩いた上で
でも、それらを探すには圧倒的に人数が足りない。風紀委員と連携するのがベストなのだが、黒子が自分と組もうとするとは思えない。
正体を隠して、というのも考えたが、喫茶店で話して以来、黒子や初春と顔を合わせていない。今から固法非色として
そんな時だ。また事件が目に入った。
「……はいはい。出勤ターイム」
そう小さく呟き、また首を突っ込みに行った。近くの取引現場で、また売る側がつけ上がって値を上げているのだろう。
近くの路地裏に顔を出した。
「そ、そんな……! 30万なんて聞いていない!」
「そりゃそうだ、今上がったんだからよ」
「良いから払えねえなら帰れカス」
「カスは君達の方だよ」
「「っ⁉︎」」
相手は二人。そろそろ、水鉄砲も通用しなくなってきた。能力には敵わない程度の銃だし、拳の方が速い。
まず一人の背中を蹴り飛ばし、転ばせるともう一人に拳を振るう。が、そいつの手から赤いレーザーのようなものが放たれ、慌てて回避した。脇腹を掠め、ライダースーツが破れて血が漏れる。
しかし、それも気にせずに顎にアッパーを叩き込んだ。浮き上がった身体に踵落としを放ち、最初に背中を蹴った奴の上に叩き落とし、そこでようやく水鉄砲を使う。
「ふぅ……終わり。そこの君、通報しておいてね」
「あ、は、はい……!」
それだけ話して立ち去ろうと、路地裏から出ようとした時だった。
「あ、まっ、待って下さい!」
路地裏の入り口から、見覚えのある花飾りが顔を出した。
「あっ、初は……じゃない。ま、待つ? ドユコト?」
なんかテンパってよく分からない返事をしながら、とりあえず隣に着地する。初春がどういうわけかそこにいた。
「あの……二丁水銃さん、ですよね?」
「他に誰に見えるの?」
「その……お願いがあって来たんですけど……」
風紀委員の君が? とマスクの下で片眉を上げると、初春は付近を見回す。罠に嵌めようとしているのだろうか? 今の風紀委員にそんな暇は無いと思うのだが。
身の安全の確保を終えたのか、改めて説明した。
「あの……白井さんの事、助けてあげてくれませんか?」
「? 捕まってるの?」
「い、いえ……ただ、能力者の犯罪が激増して、白井さんの傷も日に日に増えているんです。‥……こんな協力の申し出、白井さんに知られては怒られてしまうのですが……どうかお願い出来ませんか?」
ああ、そういうコト、と非色は頷く。確かに自分の生傷は治るから良いが、普通の人なら一度、傷を負うと治るのに数日が掛かる。
「そう言われても……あの人、俺のこと見かけたら速攻で捕まえに来るよ」
「ですから、可能な限りで良いんです。現場を多く抑えるだけでも構いません。少しでも白井さんの傷が減るようにお願いします」
「まぁ、考えておくよ」
そう返事した直後、電話が鳴り響く。初春の携帯だった。
「もしもし?」
『初春、どこで何をしておりますの?』
「わ、わぁ、ごめんなさい! ちょっと飲み物を買いに……すぐ戻ります!」
『全く……』
それだけ話して、電話を切った。
「話はそれだけです。では」
ぺこり、と礼儀正しくお辞儀だけして走り去っていった。
自分を見つけたのは、取引現場を一箇所マークした上でそこで張っていたのだろう。このクソ暑い中、よくもまぁ外で待機出来たものだ。
よく分からないけど、黒子は同僚に心配かけさせてしまうほど頑張っているのだろう。
「……ま、少しくらい気にかけておくか」
そう呟くと、ジャンプしてまたパトロールについた。
×××
ヒーロー活動を終えた非色は夜中にもう一度、出掛けることにした。理由は、犯罪が増えているので何となく美偉が心配になったからだ。
それと、最近は風紀委員も忙しそうなので、たまには自分がご馳走しようと思い、コンビニスイーツでも買ってあげることにした。
サプライズにしたいので、先にコンビニに入って冷蔵コーナーを眺めていると、見覚えのある顔がアルコールをカゴに入れているのが見えた。
「おや、君は……」
「あっ、えーっと……木坂先生?」
「……木山だ」
見覚えのあるお姉さんと顔を合わせた。
「君も、こんな時間に買い物かい?」
「あ、はい。姉が風紀委員なので、たまには労おうかと……」
「そうか……だが、君も大分、疲れているように見えるが?」
「え?」
ドキリ、と心臓が跳ね上がりそうになる。疲れを見抜かれる事なんて姉にもされたことないのに。
「何、昔は私も教鞭を振るっていたからね。子供の変化は見逃さないものさ」
「……そ、そうですか?」
まさか、ヒーロー活動までバレている、なんて事はないだろうか? 割と鋭い人のようだし、あまり一緒にいない方が良いかもしれない。
「じ、じゃあ俺はこの辺で……」
「まぁ、待ちたまえ」
呼び止められ、さらにビクッとする。そもそも、この街の研究者、という時点で割と苦手な部類だ。その辺の連中の実験動物だったのだから。
「私からの労いだ。私が出そう」
「え、いやそんな……」
「気にするな。……それに、私は君に興味がある」
「え……?」
「中学一年生にしては、随分と体が出来ているな」
その一言で、非色の表情は変わる。もちろん、平静を装ってはいるが、何を言われるか分かったものではない。
この女は、自分を何処まで知っているのか。ヒーローをやっている事ではない。それのさらに前の段階、あの人体実験についても知っているのだろうか。
「それに君の目、この前喫茶店で話をした他の子達とは違う。……この街の闇を、知っている目だ」
「っ……闇? この街の夜は明るいですよね?」
「君は、どんな闇を体験したんだろうね?」
心臓が嫌に高鳴りしている間に、いつのまにか自分の正面に回られ、頬に手を置かれていた。ゾッとして、思わず距離をとってしまう。
まさかとは思うが、この女は関係者なのだろうか? あの計画の。だとしたら、ここで捕らえた方が良いか? いやでも、今力を振るえば正体がバレる。それ以前に、店内で戦うのは危険だ。
考えがまとまらず、心音だけが激しくなっていく中、木山は小さくフッと微笑んだ。
「……なんて、冗談さ」
「はえ……?」
「すまないね。お詫びに、私がご馳走しよう」
「あっ……」
手に持っていたスイーツを取られ、お会計を済まされてしまった。
二人でコンビニを出ると、去り際に木山は声を掛けてきた。
「では、私はこれで」
「あ、はい。また……」
「……なるべく、私は君に会いたくないが、な」
どういう意味だ? と、眉間にシワを寄せている間に、木山は立ち去ってしまった。