とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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タイミングの悪さは天下一品。

 風紀委員の支部では、黒子が身体に包帯を巻いていた。ここ最近の連戦で身体にガタが来ている。が、やめるわけにはいかない。

 午前中も一通り暴れてきた所だが、あのヒーロー様とやたらと出会したため、微妙に不機嫌である。助けられたのだから尚更だ。

 とにかく、今すべき事は三つ。幻想御手(レベルアッパー)拡大の阻止、昏睡した使用者の回復、そして幻想御手開発者の検挙だ。

 なんかもう普通に参加している美琴が、周りにいる黒子と初春に聞いた。美偉は表でパトロール中である。

 

「そういえば、彼は手伝ってないの? 非色くん」

「あー……やはり、彼は無能力者なので最近は協力要請は致しておりませんわ」

「ふーん……あんなに協力してくれようとする人、中々いないと思うけどなぁ」

「でしたら、まずは風紀委員に入っていただかないと」

 

 美琴は例外中の例外である。それだけ超能力者というのは強力な力があるのだ。

 

「意見聞くくらい良いんじゃない? ほら、爆弾魔の時に意見聞いた時だって、ポンポン可能性を浮かべてたじゃない。全部、捜査し終えた話だったけど、知恵借りるくらいなら良いんじゃないの?」

「……お姉様、まさかとは思いますが、彼の事を気に入っているんですの?」

「少しね。幻想御手(レベルアッパー)が手に入るサイトを見つけた時といい、自分に出来ることを精一杯やってる感じがあるからさ」

「……」

 

 これはー……あの男も要注意人物として頭に入れておくべきなのかもしれない。

 

「……まぁ、お姉様がそう仰るなら、聞くだけでも」

「そう言う割に不満そうねあんた……」

 

 そう言いつつ、黒子は電話をかけ始めた。

 

 ×××

 

 非色は、廃工場に来ていた。ここは元液体金属を使った工場である。今は廃墟だが、実はここは設備がまだ生きている。

 そのため、学校以外で液体を作る場所のカモにしている。ここ最近、液体を作れていなかったから良い機会だ。

 何人か警備の人間がいるが、この程度なら潜入の邪魔にはならない。

 既に液体の作成は完了し、片付けも終えたので後は帰宅するだけ。通気口を通って這って動いている。

 通気口から見える警備達は警備員とは違う裏の人間だろう。でなければ、こんな廃墟に配備される理由がない。本当はボコボコにしてやりたい所だが、今はそうもいかない。

 さっさと帰って、またヒーロー活動に戻らないと……と、思った時だった。ピロロロロロッと電話の音が鳴り響いた。

 

「えっ」

「! なんだ今の音は?」

「誰かいるぞ!」

 

 やってしまった。普段、他人から連絡来ることなんてないから、マナーモードにするのを忘れていた。

 携帯に表示されている名前は「白井黒子」。本当に何処までも苦手なタイプの人間である。とりあえず、慌てて切ろうとしたのだが、間違えて通話ボタンを押してしまった。

 

『もしもし、緋色さんですの?』

「っ、し、白井さん……あの、今は……」

「上だ!」

「やれ!」

 

 直後、マシンガンを放たれ、強引に通気口から出た非色は、持ってきたゴーグルで目だけ隠して移動を始めた。顔が完全にバレるのだけはごめんである。

 

『……何事ですの? なんかガガガガッて音が聞こえますわよ?』

 

 言えない、銃声だなんて言えない。ましてや、それを避けながら逃げてるなんて口が裂けても言えない。

 だが、今更電話を切ることもできなかった。今「後でかけ直します」なんて言ったら怪しまれる。

 

「工事現場の近くなんです! それより、何かご用ですか⁉︎」

『そうでしたわ。あなたは幻想御手(レベルアッパー)の仕組みについてどう思われますの?』

 

 なぜ自分に聞く、と思いつつも後ろからの弾丸を回避しつつ、当たりそうな奴はキャッチして別の方向に投げつける。

 

「とりあえず、パッと思い浮かぶのは、使用者が一人では機能しないということ!」

『その心は?』

「不特定多数にばら撒く意味がないから! 関係者は少なければ少ないほど良いものなのに……!」

 

 と、言いかけた所で別部隊が回り込んでいた。それにより、銃弾を避けるために壁を走りながら加速した。

 

「やれ! 撃て!」

「奴をただの人間と思うな!」

「能力者かもしれん!」

 

 銃弾を回避しながら目の前の敵の間に入り込むと、ジャンプしながら空中で回し蹴りを三人にほぼ同時に放つ。

 

『……なんか「撃て」という声が聞こえますが』

「バッティングセンター近いから!」

『ただの人間と思うな、とは?』

「おお! あれは第七位さんかな? あの人、身体能力も折り紙つきの化け物らしいね!」

 

 何とか言い訳を並べて誤魔化しながら、とりあえず聞かれたことに答えた。

 

「えーっと……どこまで話したっけ」

『関係者が少ないほど良い、という所ですわ』

「ああ、そうだ。それで……」

『いえ、言いたい事は分かりましたわ。その他に何かあります?』

「あとはー……そうだな。っと、危なっ!」

 

 背後からの銃撃を宙返りで回避しつつ、その辺に落ちてる瓦礫を足で蹴り上げ、殴った。それが背後からの追撃者に直撃させる。追ってが来なくなったのを確認すると、近くの壁を思いっきり殴った。

 大きな穴を開けると、そこから外に出た。

 

『……今の衝撃音は?』

「え、えーっと……ば、爆弾が爆発した?」

『それは流石に無理ありますの』

「ぎ、銀行強盗! 銀行強盗!」

『バッティングセンターで第七位さんが銀行強盗とかどんなカオス⁉︎』

「あるだろ! そういうことも!」

『ありませんわ!』

 

 せっかく外に出られたのに、慌ただしいなんてものではない。とにかく、これは電話だ。やろうと思えば切れるのだ。

 

『吐きなさい! ……まさか、勝手に幻想御手(レベルアッパー)の捜査をしているのではないでしょうね?』

「し、してません! と、とにかくご心配無く!」

『心配はしますわ! 佐天さんのお友達でしょう⁉︎』

 

 面倒になってきた。半眼になった非色は、耳元から携帯を離す。

 

「あっ、なんか電波の調子が……」

『あ、待ちなさい!』

「わー充電切れだあ」

 

 そこで通話を切った。さて、後は追っ手を撒いて帰るのみである。

 

 ×××

 

「……」

「どうだった?」

 

 怪しみが深まった黒子は、美琴に聞かれて、とりあえずそれは置いておくことにした。今は、幻想御手である。

 

「非色さんから聞けた話はあくまで彼の推測ですが、一つでは機能しないとのことです。ネットから不特定多数にばら撒いた意味がないから、と」

「……なるほどね。その上で、幻想御手(レベルアッパー)はレベルを上げる手伝いをしている事を併せると……」

「能力が発現しない、或いは育たない人の一番の要因は能力の処理能力です。幻想御手(レベルアッパー)は、聞いている人達で処理能力を共有するものだとしたら……」

 

 問題は、音楽プレイヤーのみでどうやって学習装置と同じ働きをさせるか、だが。

 

「荒削りですが、無い可能性ではありませんわね」

「でも、それだと全く別系統の能力者でも機能することになるわよ?」

 

 美琴の説明に「確かに」と黒子は頷く。だが、まだ専門家の意見を聞いたわけではない。

 

「……とにかく、木山先生にご連絡して聞いてみましょう」

「そうね。じゃあ、その線で動いてみましょう」

 

 それだけ話し、とりあえず行動開始しようとしたが、その前に美琴が怪訝な顔をしながら聞いた。

 

「そうだ。そういえば、非色くんは大丈夫なの?」

「え?」

「なんか、撃たれたとか第七位がどうとか……」

「そうでしたわ。早急に確認しませんと」

 

 ×××

 

「ふぃい……なんとか撒いた、と」

 

 自宅に戻った非色は、調合した液体を水鉄砲に移す。さて、これからどうするか、もちろんヒーロー活動である。

 しかし、まさかマシンガンを持っているような連中が警備しているとは、あの工場は中々、きな臭い。流石に工場を出た後は撃って来なかったが、しばらくつけられていたようだし、今度、蹴散らしてしまおうか。

 

「そんなことより、と」

 

 それと、次に黒子と会った時はどんな顔をすれば良いのだろうか。絶対に怒られる気がする。

 まぁ、ベストなのはこの事件が終わるまでは会わないことだろう。勿論、元の姿では、だが。ヒーローとしては助けてやると初春と約束してしまったし、そっちの姿では会うことにするが。

 そう決めた直後だった。電話がかかってきた。

 

「……うげ」

 

 黒子からだった。出るべきか否か。いや、出ない方が良いパターンだろう。だって、絶対にさっきの続きだから。

 無視することに決めて、今度こそ部屋を出ようとすると、着信が止んだ。

 

「……」

 

 これはこれで心が痛い。友達、と呼んで良いのか分からないが、知り合いからの電話を無視してしまったのだ。今度、謝ろう、と思っていると、また電話がかかってきた。今度は、御坂美琴の文字。

 

「もしもし?」

『あ、出た。今何してんの?』

「え、家に帰ってきたとこですけど……」

 

 帰ってきたのは10分前だが、まぁ嘘ではないだろう。

 

『あ、そう。じゃあ聞き方変えるわね。なんで黒子からの電話に出ないの?』

「……え」

 

 安易だった。まさか、一緒にいるとは。いや、大丈夫。こういう事だって、ない事はないのだから。

 

「た、たまたまですよ! さっきタッチの差で出れなくて、かけ直そうとしたら御坂さんから電話が……」

『……』

「……かかって、来て……」

 

 なんだろう、この電話越しの圧は。吐きそうなくらいだ。

 

『逆探知できましたよ。本当にご自宅にいるみたいです』

 

 初春の声が聞こえてきた。わざわざ真偽を確かめていたようだ。この人達、忙しいんじゃなかったのだろうか? 

 

『……まぁ、無事なら良いですわ』

『無事なら良いって。でもあんたあまり心配かけさせるんじゃないわよ』

「あ、はい。すみません……」

『じゃ、またね』

「失礼します……」

 

 次からはマナーモードにしよう、と心に固く誓った。

 さて、出発するのが遅くなってしまったが、今度こそ出撃した。適当にほっつき歩いて、目に入った悪事を懲らしめつつ、情報を集める。やるのはそれしかない。

 

「よし、行くぞ……!」

 

 部屋の窓から一気に飛び降りた。

 

 ×××

 

 初春飾利は、木山春生の所に訪れていた。あの後、共感覚性に気づいた美琴と黒子は病院に行って幻想御手を楽譜化して波形パターンの分析をしている。

 気づいた、というよりほぼほぼ確定と見て動いていた。

 

「……なるほど。それで、君以外の二人は何やらイライラしていたわけだな」

「は、はい……なんか、非色くんのハッキリしない態度がイライラくるみたいで……」

「まったく……第三位も風紀委員もまだまだ子供だな。人間、余裕がある方が良い」

「あ、あはは……でも、やっぱり彼は少し普通じゃない気がします。体格も頭の回転の早さも」

 

 実際、少なくとも自分よりは賢い。試験の点数、二回連続学年トップも偶然では片付けられない。それも佐天に勉強を教えながら、だ。

 しかし、必要以上に告げ口するつもりのない木山は、椅子から立ち上がって初春の肩に手を置いた。

 

「君は君で彼を気にかけてやれば良いさ。今は、幻想御手(レベルアッパー)に集中した方が良い」

「は、はい……」

「コーヒーでもいれて来よう。少し待っていてくれ」

 

 そう言って、部屋を後にする木山。

 正直、初春は非色についてあまり心配はしていない。非色の事はよく知らないから。

 だから、割と冷静なまま辺りを見回した。そこで、たまたま棚からはみ出ていた資料が目に入ってしまった。

 

 ×××

 

 時同じくして、幻想御手(レベルアッパー)の被害者が無理矢理、脳波をいじられている事が分かった。その脳波と、人間の脳波をキーにするロックが一致した。その登録者が、木山春生であることが分かった。

 

「ダメですわ、お姉様! 木山春生の所に行った初春と連絡が取れませんわ!」

「っ……まずいわね」

 

 すぐに助けはいかなければならないが、事こうなれば警備員への通報が先である。

 黒子が通報している間に、美琴は幻想御手(レベルアッパー)の詳細を医者に聞いていた。要するに、幻想御手(レベルアッパー)の本来の目的は使用者の能力を引き上げるものでは無い。同じ脳波のネットワークに取り込まれる事で、能力の幅と演算能力を一時的に上げてはいるが、それが目的なわけではなかった。

 だが、その目的は未だ見えない。いや、今はこの際、目的はどうでも良い。とにかく止める必要がある。

 

「お姉様、警備員が木山の研究所に到着したようですが、木山も初春も消息不明だそうです」

「他の職員は?」

「木山の目的も行き先も分からないそうですわ。これから捜査を開始するそうですが……」

「……何も、出て来ないでしょうね」

 

 そんなドジ踏んでる女が、ここまで自分の目的を隠し通せて来たとは思えない。

 おそらく、データは持ち逃げされているか、或いはアクセスした直後に消されたか……何にしても、叩いても埃は出ないだろう。

 ならば、内容を得るにはひとつだ。本人を捕らえて締め上げる。

 

「お姉様!」

 

 出ようとした美琴に、黒子が声を掛ける。

 

「何?」

「警備員が、木山春生と初春を捕捉しました!」

 

 その報告に、思わず美琴は嫌な予感がする。どうにも、木山がこうなった場合の対処方法を考えていないとは思えない。

 それこそ、一介の研究者に過ぎない木山が、警備員に対抗するための力を隠し持っている、そんな予感がしていた。

 

 ×××

 

 高速道路で走行中だった木山は、そのブレーキを踏まざるを得ない状況に陥った。

 前方に、盾と警備ロボットを構えた警備員隊が止まっていたからだ。

 

『木山春生だな! 幻想御手(レベルアッパー)散布の被疑者として勾留する。直ちに降車せよ!』

 

 リーダーと思わしき男が、スピーカーを持って叫ぶ。

 助手席に座らされていた初春が、隣の木山に声を掛けた。

 

「どうするんです? 年貢の納め時みたいですよね」

「ふふ……どうする、か。悪いけど、まだ納めるつもりはないよ」

「どういう事です?」

幻想御手(レベルアッパー)は、人間の脳を使った演算機器を作るためのプログラムだが、同時に使用者に面白い副産物をもたらす物でもあるのだよ」

 

 そう言う木山の目は、らしくなく好戦的に煌めいていた。ニヤリとほくそ笑むと、自分の車から大人しく降りた。

 それに合わせてアサルトライフルを向ける警備員。フルフェイスマスクの下の目に、微塵の油断もない。人質がいる以上、慎重にならざるを得ない。

 

『両手を頭の後ろに組んで、その場でうつ伏せになれ』

 

 その木山を遠巻きにオペラグラスで観察する隊員がリーダーらしき男に声をかける。

 

「拳銃を所持している模様。人質の少女は無事です」

「うむ。確保しろ」

 

 それにより、慎重に距離を詰めていく警備員達。その直後だった。部隊の真ん中にいた男のライフルが、突如として仲間に向けられていった。

 

「なっ……!」

 

 そして、まだ引き金に指をかけていないにも関わらず、仲間の背中を撃ち抜いた。

 それにより、他の警備員はその男に銃口を向ける。

 

「⁉︎」

「貴様、一体何を……!」

「ち、違う! 俺の意思じゃ……!」

 

 弁明した男の目が見開かれる。それにより、他の隊員たちもその視線の方向を向いた。何故なら、木山の手に風が集まっていたからだ。

 

「なっ……!」

「バカな、学生じゃないのに……能力者だと⁉︎」

 

 能力開発を受けていない人間が能力を使うなどあり得ない。一瞬、パニックになったその隙に、その風の一撃は放たれた。

 明らかに避けられるタイミングではない。仲間の裏切りと想定外の事態に誰もが呆気に取られたその時だった。

 直撃間際に、盾を持った男がその風を討ち払った。

 

「なっ……!」

「お前は……!」

「……ほう」

 

 威力から見て、盾一枚では絶対に払える威力ではない。盾を持つ腕が、相当な馬鹿力ではない限りは。

 真夏のニット帽、季節外れのスキー用ゴーグル、誰が見たって暑そうなマスクとライダースーツ、唯一、季節にマッチする腰の水鉄砲。

 颯爽と現れたのは、二丁水銃だった。

 その男は、手に持ってる盾をクルクルと回しながら正面に構えると、その場にいた警備員に告げた。

 

「はい。全員、撤収ー!」

「……?」

 

 何を言っているのか分からない。この状況で撤退する警備員はいない。

 だが、本当に状況を理解しているのは、非色の方だった。

 

「ここから先は、ヒーローの出番だよ」

 

 そう言うと、盾を構えた二丁水銃は突撃した。

 

 


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