とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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ヒーローは敵を倒すだけでなく人を守るもの。

 初めてそいつの存在を知ったときから、気にはなっていた。やり方も実力も、まるで作り物の特撮ヒーローのような存在だったから。

 自らヒーローを名乗り、困っている人々の前に颯爽と現れ、被害者だけで無く加害者の命まで考えて成敗する。皮肉にも、この街のド外道な研究によって生み出されたものが、この街のヒーローとなってしまっていたわけだ。

 みんながみんな、彼のように立派な志を持っていれば、自分もこんな真似をする必要はなかったのだろう。

 だが、そんな事を思っても仕方ない。現実にはそうならなかったのだから。それに、結局そのヒーロー様も、あの子達を守ってはくれなかったのだから。

 

「……まさか、君が絡んで来るとはね」

 

 目の前で、盾を持ったまま突撃してきた少年に、水流操作で迎撃しながら声を掛けた。

 その水を盾で受け、真後ろの警備員の方へは流さないよう斜め後ろに流しつつ、横に逸れて壁を走って接近する。

 

「まさかって、俺はみんなのヒーローだよ? 首突っ込まないわけないでしょ」

「にしては、随分と到着が早かったな」

 

 そう言いつつ、左手を非色に向け、先端からレーザーを出した。非色が足場にしている壁に大きな穴が開いたため、それを避けるためにジャンプして回避し、空中で一回転しながら着地し、再度接近する。

 

「それに関してはたまたまだよ。散歩してたら警備員が急行してたから、後を追ってみたら面白いことになってた」

「……なるほど。ヒーロー体質、というものか」

「いやその言葉は知らない。……でも、正直嬉しい」

 

 手に持っている盾を投擲する。ブーメランのように曲線を描いて飛ぶ盾が木山に向かうが、届くことなく水によって弾かれる。

 それと共に非色は一時、ジャンプして木山の頭上を飛び越えて背後を取った。しかし、恐らくだが木山に死角はない。よって、下手に手を出すことはしなかった。

 車の扉を開けて、中の初春を連れ出した。

 

「う、二丁水銃さん⁉︎」

「どうも。助けに来たよ」

「は、はぁ……どうも」

 

 その直後だ。警備員達による一斉射撃が木山に向けられる。それを見ると共に、非色は強引に初春を引っ張って両手でお姫様抱っこをした。

 

「ひ、ひゃあっ⁉︎ あっ、ああああのっ、私強引なのは嫌いじゃないですけど私まだあなたのこと何も知らなくて……!」

「ごめん、舌噛むから黙ってて」

「え?」

 

 その直後、木山のスポーツカーを持ち主に向かって蹴り飛ばした。正面からは銃弾、背後からはスポーツカーによる突撃、高速道路で横は壁。逃げ場はない。

 そう踏んでいたのだが、木山は自分の付近にドーム状のシールドを張って塞いで見せた。勿論、爆発炎上したが、中の本人は涼しい顔をしている。

 

「っ、うおっ……!」

 

 あれはシールドではない。付近に破壊作用を起こす事で爆発も何もかもを相殺させたようだ。その破壊は、道路にも広がった。

 

「なっ……さ、さっきと全然、違う能力⁉︎」

「だからお口バッテン! 舌噛むって!」

 

 道路の亀裂は警備員の前衛や非色の足元にも広がった。巻き込まれた全員、道路の下に落下していく。

 

「うっ、お……!」

「やばっ……!」

 

 道路から地上まではそれなりに高さがある。落下すれば無事では済まない。勿論、落下すれば、の話だが。

 

「初は……お、お嬢ちゃん。しっかり掴まってて」

「え? わひゃあ!」

 

 瓦礫の上を踏み台にした非色が高速で移動し、落下する警備員に接近する。一人目の手首を掴むと、まだ道路まで距離が短いため、道路の上に放り投げた。

 

「うおあああ……!」

 

 さらに二人目も放り投げる。これから先は下で受け止めるしかなさそうだ。落下しているのは残り四人。ギリギリ両手に抱えられる人数だろう。

 三人目をキャッチしながら初春と三人目を小脇に抱える。さらに四人目は肩の上に乗せ、五人目を反対側の肩に乗せた。各々が非色の身体にしがみ付いているため、ギリギリ落ちていなかった。

 

「後一人……!」

 

 もうほとんど地面ギリギリだったが、ギリギリ足を伸ばし、足首に引っかかると上に蹴り上げ、自分の頭上に乗せた。

 

「ぐえっ……!」

「着陸致します。シートベルトをご確認下さい」

「「「「「どこだよ‼︎」」」」」

 

 全員からツッコミが炸裂したが、何とか地面に着地した。流石に両足に痺れが響いたが、2秒待てば治る。その隙に全員を降した。

 

「す、すまない」

「恩に着る」

「礼はいいからこの子連れて引っ込んでて」

「いや、我々も手伝うぞ」

「一人で相手にするには……!」

「賢明な判断だな、ヒーローくん。今ので全員を守りきったのは流石と言わざるを得ないな」

 

 口を挟んだのは、木山だった。その周りには瓦礫が浮かび上がり、臨戦態勢と言った感じだった。

 

「あんたが手を出して来なかったからでしょ。助けてる最中に能力使われてたら終わってたよ」

「私は、別に警備員を蹂躙したいわけじゃないし、大きなテロ行為を目論んでいるわけでもないからね」

 

 その会話で、警備員は理解してしまった。確かに、自分達がいると足手まといになってしまうかもしれない。情けない話だが、目の前のヒーローに任せた方が良いのかも……と、思ってしまう程だ。

 

「……我々は、付近一帯の封鎖に尽力する」

 

 警備員のうちの一人が言うと、周りの四人はハッとしてそいつを見たが、気にせずに続けた。

 

「学生一人を犠牲に立ち去ったとあらば、我々はクビだ。絶対に死ぬんじゃないぞ」

「ヒーローは生きて帰るからヒーローなんですよ」

「……言ってろ」

「よし、全員まずは本隊と合流するぞ!」

 

 その一言で、全員が動き出した。勿論、初春も同じだ。少し心配そうに非色を見ていたが、ヒーローはこちらに目も向けなかったため、とりあえず警備員の後に続いた。

 その様子を見て、木山は一言、ポツリと呟いた。

 

「……健気だな」

「何が?」

「君のその力も、この街の非人道的な実験の賜物だろう。何故、そんな街で治安維持しているつもりになっている連中を守ろうと思える?」

「……何故、か」

 

 ポツリと呟き、非色は顎に手を当てる。その仕草は如何にもわざとらしかったが、木山は何か言うことはなく返答を待った。

 

「……確かにそうだよ。この身体は学園都市のバ科学者達に改造されたもんだ。施設にいる間に何人も子供達が死んで行ったし、俺自身、ヒーローなんているわけないって思ったもの」

「なら、何故だ?」

「何、簡単なことだよ。『ヒーローがいないなら、ヒーローになっちゃえば良いじゃない』って事」

 

 思わず呆れてしまいそうなものだった。いつも眠たげにしている目をさらに細くし、木山は尋ねた。

 

「……そんな理由で、命をかけるというのか?」

「逆に聞くけど、こんな化け物の身体、他に何に使えって言うのさ。出る杭は打たれる人間の社会じゃ、俺は生きていけない。なら、いっその事、出るとこまで出てやるよ」

「……青いな」

「まだ思春期だからね」

 

 口が減らない二人だったが、それ以上の言葉は不要だった。その直後、非色は足元に落ちている板状の瓦礫を蹴り上げて浮かすと、それを掴み、放り投げた。

 それは木山にレーザーで弾かれ、それと共にその倍返しをするように浮かした瓦礫を飛ばしてくる。

 それらを足場にしながら接近していく非色は、腰の水鉄砲を抜いて放った。

 その液体を炎で燃やすと共に、自身の背後から鉄を伸ばし、浮いている瓦礫を砕きながら非色に向かった。

 空中で身を捩りながら回避するが、それでも躱し切れない奴は両手で掴んでガードするしかない。

 それはつまり、動きを止めたことになる。正面から非色の胸に向かって水球を飛ばした。

 

「ウッ……!」

 

 ボディに直撃し、後方に飛ばされて道路を支える壁に背中を強打した。が、すぐにその壁を走って駆け上がると、まだ崩れていない道路を踏み台にし、また接近した。

 

「まったく厄介な能力だな。その場に応じて使い分けてくる」

「それが多才能力者(マルチスキル)の強みだからね」

 

 浮かび上がる瓦礫がまた飛んでくるが、それをまた回避しながら、今度は木山の周りを飛び回った。撹乱作戦のつもりのようだ。

 

「で、あと何種類くらいあるわけ?」

「言うはずないだろう。……が、まぁそれではハンデが過ぎるから教えておいてあげよう。私の能力は、約一万だ」

「いち……」

 

 思わず言葉を失ったが、それでもスピードが落ちていないのは流石だ。正直、目では追い切れない。ただし、追う必要がないから追ってもいないのだが。

 背後をとった非色が水鉄砲を4〜5発放った直後だ。その液体を木山は自身の周りに炎を放つ事で全て燃やし尽くしつつ、瓦礫の下から水を移動させ、非色の真下を捉えて放った。

 

「のあっ……⁉︎」

 

 ギリギリ、回避したものの、その球は真上に上がって行って、さっきの高速道路の真上に上がっていった。

 

「! いたぞ!」

「撃て!」

 

 直後、その穴から警備員が射撃を始めた。それに対し、木山は近くの瓦礫を浮かせて弾丸を弾く。

 

「やれやれ、ヒーローが逃げろと言ったのだから逃げれば良いものを……まぁ、攻撃して来るからには容赦はしない」

「っ……マズい!」

 

 そのガードに使った瓦礫を、そのまま反撃に使った。警備員達に向けて一斉に下から放つ。射撃戦は上を取った方が有利だが、圧倒的な破壊力の前にはそんな物関係ない。

 勿論、非色が黙っているはずがない。ジャンプして先回りし、道路の端に両手で掴まると、飛んでくる瓦礫を蹴りで砕き続けた。

 しかし、見落としていた。その瓦礫の最後の一発の下に、アルミ缶が隠されていた事を。

 蹴り返す前に突如、爆発し、爆発に巻き込まれて道路が大破した。

 

「ゴアっ……‼︎」

「うおっ、な、なんだ⁉︎」

 

 また巻き込まれる警備員達。今回は落下しそうになった奴は一人だった為、ギリギリキャッチする事が出来たが、その直後に足場そのものが崩れ始める。

 

「ま、マジ⁉︎」

 

 他の警備員達は退避したが、警備員の車両や警備ロボ達は落下していく。非色はギリギリ端に掴まり、警備員を離さないようにしていた。

 

「っ、あ、ああ……!」

 

 無理矢理、身体を引き上げ、警備員だけでも道路の上に持ち上げた。

 

「す、すまん……!」

「いやいや、これもヒーローの役わ……」

 

 直後、自分が掴まっている道路からピシッと嫌な音がする。「えっ」と口から漏れたのもつかの間、一気に崩れて非色だけ落下し始めた。

 

「マジかぁああああ⁉︎」

 

 実際、落下しても軽い怪我で済むし、その怪我もすぐに治る。でも、痛いものは痛いのだ。

 何とか少しでも衝撃を和らげる方法を考えていた直後だ。自分の身体を、黒い霧のようなものが包んだ。

 

「なんだこれ……砂鉄?」

「ご名答」

 

 やがて、その砂鉄に引き寄せられるように地面に着地した。引き寄せた張本人、御坂美琴がそこに立っていた。

 

「み、御坂さん⁉︎ なんでここに……!」

「こっちのセリフよ。なんであんたがここにいんの?」

「そりゃヒーローだからだけど……」

「ったく、ヒーロー気取りも結構だけど、他人にまで気を回してたら勝てる相手にも勝てないわよ」

「? 他人に気を回すからヒーローなんでしょ?」

「……」

 

 面倒くさそうな顔をする美琴。

 

「まぁ良いわ。私があの人の相手をするから、あんたは引っ込んでなさい」

「は? いやいや、俺が相手するから御坂さんこそ引っ込んでてよ」

「バカ言うなっつーの」

「バカ言ってんのはそっちだよ。一般人置いて逃げるヒーローが何処にいんのさ」

「あんたも一般人って括りだから、悪いけど」

 

 そんな話をしている時だった。正面にいる木山が口を挟んだ。

 

「やれやれ、君まで来てしまったか……。超能力者が相手となると、私もそれなりに覚悟が必要になるな」

「ほら見なさい。あんたは蚊帳の外なのよ」

「い、いやいや。俺まだ本気じゃなかったから。これからだから」

「まぁ良い。邪魔をしてくるなら、私は容赦なく叩き潰すだけだ」

 

 そう言うと、木山は自身の周りに瓦礫を浮かび上がらせる。それを見て、美琴も自身の身体に電気を帯びて、非色は構えを取る。

 

「あいつの能力は幾つ把握してるわけ?」

「瓦礫を浮かせている念動力、手からのレーザー、発火能力、水流操作、なんかドーム状の範囲攻撃、アルミ缶の爆破、風をかき集めて飛ばしてくる奴、くらいかな?」

「そう。要するに、幻想御手(レベルアッパー)の使用者の能力って事か……」

「おまけに同時に使って来ることもあるし、コンボや合成技まで考え出すとさらに強力になるよ」

「分かったわ。足引っ張らないでよね」

「はいはい」

 

 それだけ話すと、二人は一気に突撃した。正面から瓦礫を迎撃する美琴と、真横に移動して撹乱しにかかる非色。

 正面からの電撃を瓦礫でカバーしつつ、横からの非色の攻撃にも目を離さない。後ろからの殴打を、念動力で止めると、そのまま遠くに吹っ飛ばした。

 

「うおおおぉぉぉぉ……」

 

 遠くに吹っ飛ばされた非色を無視して、砂鉄を全方位から飛ばす美琴。

 それらを瓦礫でガードしつつ、手から風の大玉を放った。

 その一撃を、電磁石のようにして固めた金属の盾で防ぎつつ、両手の間に電気を集め、一気に正面から放電した。

 その電気をドーム状にバリアを張って分散させて受け流しつつ、自身の周りから水球を複数出現させ、一気に強襲させた。

 それらを、端から電撃を流して一つずつ片付けていく。さて、このままでは埒が明かない。何処かで崩せれば良いのだが、それはおそらく向こうも同じ考えである。

 

「……向こうに搦手を出させた上で、油断させるのがベストかしら?」

 

 そう思った直後だ。ふっと、木山に影がさした。何事かと二人が上を見上げると、警備員の車が上から降って来ていた。

 

「……!」

「車⁉︎」

 

 非色が強引に投擲したものである。勿論、能力者である木山にそんなものは通用しない自身に届くまでに爆発させた。

 その爆破の中からさらに降り注いだのは、車の中に敷き詰められた警備ロボット達だった。ガションガションガションッとそれぞれが木山を取り囲むように着地し、一気に捕獲用ネットを吐き出す。

 

「やれやれ、そんなおもちゃで今の私を止められると思っているとは……」

 

 しかし、それらのネットは片っ端から炎で焼き尽くされていった。木山の周辺は炎に囲まれるが、水流操作も可能な木山には何の問題もない。

 さっそく、視界が潰れないうちに消火しようとした時だ。自分の足元に、ピチャッという不快な音が聞こえた。下を見ると、液体が自分の足と地面を接合するようにくっ付いている。

 一瞬、水流操作をミスったのかと思ったが、違った。炎によって壊した警備ロボットの一つの下から、銃口が覗かれている。

 

「っ、まずい……!」

 

 初めて焦りを見せる木山。その警備ロボから姿を現したのは、二丁水銃だった。安っぽい服装をしたヒーローが中から飛び出し、最短コースで距離を詰めてくる。

 明らかに間合いが近過ぎる。その上、普通の運動能力ではない非色の方が有利だ。避けようにも、足は固定されてしまっている。

 

「このっ……!」

 

 付近に出現させたのは、大量の水だ。それで一気に押し出そうとした。が、非色は近くにあった車の扉を盾にして強引に押し除けて接近する。

 

「化け物め……!」

「ちょっと、痛い目を見てもらうよ」

 

 懐に潜り込んだ非色が拳を構えた直後だった。唐突に、木山の涙腺が緩んだのが見えた。

 

「……ヒーローが、女を殴るの……?」

「……えっ」

 

 その一瞬の怯んだ隙を突かれた。直後、真上から瓦礫が降ってきて、頭を叩き潰すようにダンクされ、一気に地面に叩きつけられる。

 

「ふっ……まさか、女の武器まで使わされることになるとは思わなかったよ」

 

 流石にヒヤリと肝を冷やしたが、それでも負けはしない。最後の最後では、やはり男より女の方が強いものだ。

 しかし、一人を片付けたと思い込んだ事が、大きな隙を作った。背後から肩にヒタリと手をおかれた事で、再びゾクっと背筋が伸びる。

 

「ようやっと捕まえたわよ。あんたの隙」

「っ……!」

 

 直後、肩越しに電撃使いの一撃が流れ込む。手加減はしたが、これで戦闘不能なはずだ。

 

「ギャー!」

「あ、ごめん」

 

 真下にいたヒーローさんも巻き添えを食った。その時だった。

 

『センセー』

「⁉︎」

『木山センセー』

 

 子供の声と姿が、頭の中に流れ込んできた。

 

 


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