とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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バレる嘘はつくな。

 外で食う飯というのは、割と美味く感じるものだ。開放感という名の新鮮さが味を引き立たせる。割とそういうのが味覚に影響を及ぼすことはあるのだ。

 それが、例え夏場であっても、屋台で食べるラーメンというのはとても美味いものなのだ。

 

「っはぁ、美味かったー! ごっそさんです!」

「だろ? 暑い中、暑いもん食っても美味いもんは美味いんだよ」

 

 非色は、革ジャンの男、黒妻に行きつけの屋台を紹介してもらい、ご馳走してもらっていた。

 

「なんかすみませんね、奢ってもらっちゃって」

「年下に奢られる男がどこにいんだよ。それに、さっきの喧嘩もお前さんのお陰で大分、やりやすかったぜ」

 

 結局、何人かは逃してしまった。と、いうのも、逃げ出した時点で必要以上に傷つけるような真似を非色がしなかっただけだ。水鉄砲があれば無傷で捕らえることも出来たが、素手では怪我をさせてしまうから。

 ブロロロッと車を走らせたので、生身のまま走って追いつくわけにもいかなかった。

 

「いえいえ、俺なんて所詮、ただの中学生ですから」

「人の頭を足で挟んでバク宙する奴の何処がただの中学生?」

「……すみません。まぁ、少し特殊な訓練を受けた、ということにしておいてくれます……?」

「おう」

 

 本当に気さくな人だ。深く突っ込んでこないあたり、人付き合いも上手なのだろう。

 

「……な、えーっと……固法、だっけか?」

「あ、はい。なんですか?」

「なんで逃げたんだ? 風紀委員が来た直後に」

「あー……その、実はですね……あの後から来た風紀委員に知り合いがいまして……」

 

 というか、どっちも知り合いである。

 

「喧嘩した、なんてバレたら面倒な事になるんですよ……」

「奇遇だな。俺もあの中に知り合いがいたんだ。それも、バレたら面倒になる、というのも同じだ」

「ええっ⁉︎ ど、どっち⁉︎」

 

 姉か黒子か、どちらにしても究極的に気になる話である。

 

「いやいや、言わないって。言ったろ? バレたら面倒なことになんだよ」

「誰にも言いませんから!」

「俺が面倒になるんじゃなくて、向こうがなるんだよ。だから言わない」

「っ……むぅ」

 

 そう言われれば引き下がるしかない。正直、死ぬほど気になるが。姉は姉でこんなスキルアウトみたいな人とどんな関係なのか知りたくなるし、黒子に至ってはあの百合百合しさだ。こんな男とどんな関係なのか知りたくならない方がおかしい。

 すると、今度は黒妻が質問してきた。

 

「それよりさ、俺も気になってたんだけど……お前なんであの中に入って行ったんだ?」

「え、なんでって……助けるためですけど?」

「……」

 

 至極当然、と言わんばかりに非色が答えると、黒妻は愉快そうに微笑んだ。中学生にしては、なかなか根性がある。

 

「……お前、自由な奴なんだな」

「え?」

「お前はただ、素直にやりたいことやってるって感じするわ。まだ出会って一日も経ってないけど、お前ほど素直な奴は見たことないな」

「え、そ、そうですか?」

「ああ」

 

 微妙にうろたえてしまう。確かにあまり感情を隠すようなことはしない。というより、隠すも何もそういう相手がいないから。ただ、秘密だけは割と多いけれど。

 

「さ、そろそろ行くか」

「あ、はい。ホント、ご馳走様です」

「気にすんな。また、何かあったら連絡くれ。特に、今のスキルアウトが何かやらかしたら教えろよ」

「? なんでですか?」

「あいつら、ビッグスパイダーっつって俺が元々、いた組織なんだ」

 

 その言葉に、非色は思わず驚いてしまった。そんな感じは一切しなかったし、目の前の男から殺意や敵意が向けられることもなかったから尚更だ。

 

「だから、今回の件に関しちゃ俺がカタを付けてぇんだ」

「……分かりました。考えておきます」

「おう」

 

 それだけ言うと、連絡先だけ交換して別れた。

 いっぱいになったお腹をさすりながら歩きつつ、とりあえず冥土返しと合流して木山に言われたファーストサンプルを組み上げることにした。

 

 ×××

 

「すみません、初春さん。大したことありませんのに、わざわざ病院まで」

「いえいえ。これも風紀委員のお仕事ですから」

 

 婚后と初春が、二人並んで病院の廊下を歩いていた。実際、怪我はなかったわけだが、どちらかと言うと能力を使えなくなる音を貰った事による後遺症を調べるためものものだった。

 結果は異常無し。能力も普通に使えるようになっていて、何も変わった所は見られなかった。

 

「でも、良かったです。怪我も何もなくて」

「本当ですわ。婚后家の跡を継ぐこの私に何かあったとあれば、お父様が何を言うか……」

「あ、あはは……そ、そうだ。その助けてくれた二人の男性とやらは本当に名前も言わずに去ってしまったんですか?」

「は、はい。白井さん達が来た直後に慌てて逃げてしまわれましたわ」

 

 つまり、風紀委員に後ろめたいことがある、ということだろう。もしかしたら、本当にスキルアウト同士の抗争だったのかもしれない。無能力者でも強い奴は強い、というのは、二丁水銃を見れば分かる。

 武道を喧嘩のために習う人もいる、と聞くし、喧嘩素人相手なら二人でも無双出来るのかもしれない。

 

「えーっと……一応、その方達の情報を聞いてもよろしいですか?」

「あ、はい。一人は黒い革製のジャンバーを着た方で、ムサシノ牛乳を片手に持っていました」

 

 そっちは、美偉が心当たりがあるようなので心配はしていなかった。しかし、あの様子だと話してくれるかは別問題ではあるが。

 

「それで、もう片方の方は?」

「見た目は、かなり鍛えてある筋肉に、黒いシャツに膝くらいまでの短パンを履いた方でしたわ。正直、大きな特徴は……」

「あんな感じの、ですか?」

「あ、はい。あんな感じの……ん?」

 

 初春が指差す先を視線で追うと、婚后は眉間にしわを寄せて目を凝らす。やがて、間違いないと言わんばかりに声を張り上げた。

 

「ていうか、あの方ですわ!」

「え? そうなんですか?」

「はい! あの、そこの方!」

 

 声を掛けながら早歩きで後を追い始めたので、初春も続いた。初春には、声を掛けられた少年がどことなく見覚えがあった。あの筋肉は間違いないと思うのだが……。

 

「あなたですわよ!」

「えっ?」

「……あ、非色くん」

「……げっ」

 

 見つかって早々、嫌そうな顔をする少年に、婚后は不満げな声を漏らした。

 

「ちょっと、女性に声をかけられてその反応は失礼じゃありませんこと?」

「あ、す、すみません……」

 

 素直に謝られてしまったので、婚后もその後をとやかく問い詰めるつもりは無くなった。

 その後に続いて、初春が非色に声を掛ける。

 

「非色くん、何してるんですか? こんな所で」

「え? あー……えっと、ちょっと散歩に……」

「病院ですよここ? 正気ですか?」

「あ、じゃなくてえっと……」

 

 相変わらず嘘が下手な男だった。なんで言い訳しようか考えているのか、頭をぐるぐる回しているクラスメートを見て、初春はさっさと核心をつくことにした。

 

「非色くんが婚后さんを助けたんですか?」

「っ⁉︎ ち、チガウヨー?」

「違くありませんわ! 私は確かにあなたに助けられました!」

 

 非常に迷惑な女だった。初春に知られれば黒子に知られる。黒子に知られれば姉に知られる、と連鎖的に悪いことが起きるのは目に見えている。

 

「ひ、人違いじゃないかな?」

「そ、そんなはずありませんわ! 確かにあの謎の音波で蹲っておりましたが、顔が見られなかったほどではありません!」

 

 正直、そこは助かった。ノリノリでいつもの戦法でやってしまったため、あの化け物じみた動きが見られていないのは幸運だ。見られていたら本当に終わりだから。

 しかし、まだ油断は出来ない。そうなれば、次にやるべきは口止めである。

 

「……あー、その初春さん。この事、他の人には……」

「もしもし、白井さん? はい。協力いただいた方を見つけました。非色くんで……非色くん⁉︎」

 

 もうダッシュで逃げ出した。

 

「病院は走らないで下さい!」

「はっ、い、いっけね!」

 

 慌てて早歩きに戻る非色。その非色の目の前に、黒子が転移してきた。

 

「どこへ行かれるのですか? 非色さん」

「……」

「さて、ではお話を伺いましょうか」

「あの……お願いが。今回、危ない事に首を突っ込んだ件は謝るので、姉には言わないでいただけると……」

「お話次第です」

 

 との事で、とりあえず支部でお話をすることになった。

 

 ×××

 

 なんだかんだ、初めて一七七支部に入る非色は、物珍しそうに支部の中を見回した。姉は、何やら調べたいことがあるとかで表に出ている。

 

「キョロキョロしないで下さいな。コーヒーですの」

「……砂糖入ってます?」

「固法先輩からお話は伺っていますわ。砂糖とミルク入り、ですのよね?」

「はい!」

「ふっ……お子様ですわね」

「あ、あはは……」

 

 目を逸らしながらコーヒーを飲んだ。否定できないからだ。ブラックが飲めるようになりたいが、あと三十年は砂糖入れないと無理だと自覚している。

 

「それより気になったんですけど……なんで御坂さんや佐天さんもいるんですか?」

 

 非色の指摘通り、何故か支部の中には関係ないはずの人達も混じっていた。

 

「え? だって……ねぇ?」

「みんなで集まるのがなんか当たり前みたいになってるし」

「なっていませんわ。……まぁ、お手伝いいただける、というお話でしたので通しましたが」

 

 実際、何やら書類のようなものを片付けたり、能力者狩りと書かれた資料に目を通したりしていた。

 今度は佐天が、非色に質問した。

 

「ていうか、非色くんこそなんでここに?」

「え、あー……俺は、その……ちょっと色々あって……」

「……色々?」

「暴行罪ですの」

「暴行⁉︎」

「人聞きが悪すぎてビビるな……」

 

 しれっと出鱈目を言う黒子に、ため息をつきながらツッコミを入れる非色。 その非色に、美琴が改まって聞いた。

 

「で、何があったのよ」

「あ、いやスキルアウトに絡まれてた子がいたから助けたってだけです……」

「はぁ? あんたが?」

「は、はい……」

 

 疑い深そうな目で非色を睨む美琴。非色も思わず目を逸らしてしまった。

 

「……どうやってよ?」

「あ、あー……」

 

 どうしたものか、と非色は頭を悩ませる。無能力者なのはバレているし、黒妻にも自分のことは口止めされているので、一人でやったことにしなければならない。しかし、武器を使って殺人未遂ギリギリ、なんてことにされたら最悪だ。

 

「え、えーっと……あの、すみません……夢中で両手を振り回していただけなので……あんまり覚えてないんです」

「そんなことあるわけ?」

「あーなんかそういう人たまにいますよね。高校デビューとかしてヤンキーの真似したら、本物に絡まれちゃって、夢中になってるうちに全員、倒しちゃうの」

 

 おそらく無意識だろうが、佐天が助け舟を出してくれた。しかし、初春が余計なことを言う。

 

「それ、漫画の話ですよね? 何処の三橋さんと伊藤さんですか?」

「えへへ、バレた?」

 

 ネタバラシはやくね? と思ったのは言うまでもない。

 

「と、とにかく……あまり覚えてないんです。ホント、死ぬかと思って夢中で……そのまま逃げちゃったんですから」

 

 嘘は言っていない。ただし、その場が怖くなったわけではなく、風紀委員から逃げたのだが。

 

「……まぁ、事情は分かりましたわ。しかし、なるべくならそういった場合は通報してくださったほうが……」

「いやいや、それじゃ遅かったんで。俺が首突っ込んでないと、婚后さん怪我してましたよ?」

「……あなた、本当にテンパっていましたの?」

「て、テンパってたよ!」

 

 冷静かつ客観的な意見に勘繰られ、思わず焦って弁解してしまった。

 徐々に、自分なんかに時間をかけている場合では無い、と思ったのか、黒子はため息をつきながら結論を出した。

 

「……まぁ良いですわ。とにかく、今は注意ということで」

「あ、あはは……ありがとうございます……」

「それよりも、です。能力が使えなくなった、というものに関しての情報をいただきたいのですが」

 

 むしろ、そっちが本命のようだ。しかし自分に聞かれても困る、と言うものだ。

 

「婚后さんが言ってたことが全部ですよ。俺は無能力者だから喧しいだけでしたし、よく覚えてません」

「しかし、現場にその音を出したと思われる機械がありませんでした。でなければ、他の能力者の能力ということに……」

「あー、そういやなんか『アレだけは絶対壊されんなよ!』とか言ってましたね。俺達も全員、倒したんじゃなくて何人か車に乗って逃げられちゃったんで、もしかしたらそういう機械があるのかもしんないですね」

「……そうですか。わかりましたわ。ありがとうございます」

 

 お礼を言う黒子。話を一区切りした所だ。そろそろ帰ろうかと、非色は席を立った。

 

「じゃ、俺帰りますね」

「え、も、もう帰るの?」

 

 佐天に声を掛けられ、思わず怪訝な顔をしてしまった。

 

「え? だってもう用ないし」

 

 今日はもう木山との約束も果たしたし、あとはヒーローとして活動するのみである。一つの事件に執着して、自分の本来の仕事を疎かにはできない。

 

「せっかく来たんだし、手伝ってってよ」

「え、いや俺はこの後用事が……」

「無いでしょ?」

「……無いけど」

「なら良いじゃん。ほら、早く」

「……」

 

 佐天に、半ば強制的に手伝わされ、結局その日のヒーロー活動は無くなった。

 

 

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