周りに散らばっているのは尸(生きてるけど)の山、近くで音を発生していた装置も破壊され、最後に黒妻が蛇谷を殴り飛ばした。
「ふぅ……終わりかな」
「お疲れさん、ヒーロー」
黒妻と軽くハイタッチした後、ようやく黒子を地面に下ろした。
「黒子!」
「だ、大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄る佐天と美琴の方に、髪がボサボサになった黒子は直す気力もなく振り返った。
「……大丈夫? ……大丈夫か、ですって……?」
「え?」
「大丈夫なわけありませんわ! あんな気まぐれなジェットコースターに乗せられて! 目が回って今も少し虹が見えているほどですの!」
そんなに大変だったんだ……と、二人が思ったのは言うまでもない。一方、そのジェットコースター張本人は、黒妻とハイタッチをしている。
で、黒妻は二丁水銃に声を掛けた。
「で、こいつらどうする?」
「ん、まずは動きを封じる」
そう言うと、今回は黒子抱っこしてて両腕が塞がっていたため、出番のなかった水鉄砲を取り出し、倒れているメンバー全員に放った。地面や壁に縫い付けられ、動けなくなったのを確認している時だ。
「な、何の音……って、せ、先輩⁉︎」
「あ? ……あ、美偉?」
「え」
振り返ると、美偉の姿がある。それにより、非色は思わず黒妻の背中に隠れてしまうが、黒妻は堂々としたものだった。
「よう、美偉。久しぶりだな」
「……なっ……どうして……」
その美偉の反応に、非色は思わず片眉をあげる。この二人は知り合いなのだろうか?
グルリと周りで死屍累々とした状況を見回した後「ま、いっか」とだけ呟いて美偉に声を掛けた。
「……こいつらはこれで終わりだし、まぁ良いわな」
「? な、何がですか……?」
「出頭するよ。お前にゃ、すべてを話す必要があるだろうしな。これは、いわばスキルアウト同士の抗争だ。それなら、俺もお縄についた方が良いだろ」
そう言って、黒妻は両手を合わせて美偉に差し出した。しかし、美偉はまだ納得いっていない。何故、ここにいるのかは大体わかる。自分が元にいた組織だし、けじめをつけるつもりなのだろう。
黒子も助けてもらった手前、捕まえるとは言いづらかった。そんな空気の中、非色は一切、関係なく黒妻に水鉄砲を放った。
「「「「は……?」」」」
「悪いね、みんな。ちょっとこの人、借りて行くよ」
それだけ言うと、非色は黒妻の身体を担ぎ上げる。
「ちょっ……ま、待ちなさい!」
「じゃあね」
美偉が止めかけるが、非色は無視して立ち去ってしまった。大きくジャンプし、ビルの上に駆け上がって、その上をさらに跳ねて移動する。
これで、残されたのはいつものメンバーだけ。美偉はしばらく立ち尽くした後、全員に声を掛けた。
「とりあえず、警備員に通報しましょう」
「そ、そうですわね」
それだけ話すと、それぞれで行動を開始した。
×××
「お、おい! 俺をどこに連れて行くってんだよ!」
黒妻を持った非色は、テキトーな所で降りて黒妻から手を離した。
「や、何処でも良いんだけど……とりあえずこの辺」
「お、おう……」
何処でも良いんかい、と思ったが、話があるだけならばそれも分かる。特に、何処にでも平気でジャンプで移動出来る奴なら尚更だ。
「ふぅ〜……いや、ビックリしたよ。まさか、姉ちゃんにスキルアウトの知り合いがいたなんて」
「……何?」
「で、何企んでるの?」
そう言う非色の声音は、普通より遥かにピリピリした緊張感に溢れる声だった。
「俺の姉ちゃんとどんな関係? 洗いざらい吐いてもらうまで逃さないよ」
「ハハッ、美偉に弟がいたのか。じゃあ、こっちも聞かせてもらうぜ」
そう言うと、凄みは非色の倍以上の殺気を放ち、黒妻は怯む事なく睨み返す。
「……美偉に弟なんていねぇ。テメェこそ何を企んでる? ヒーロー」
「あ?」
「あいつは三年前までは俺の女だった。兄弟も姉妹もいねえのは知ってる。……つまり、テメェが偽物の弟って事もな……」
「ニセモノ?」
「もし、テメェがあいつを利用してんだとしたら……殺すぜ」
ヒーローとスキルアウト、立場は真逆でも、ついさっきまで共闘していた仲の二人だが、やはり相入れない仲なのか。
二人の殺気だけがメキメキと育ち、今にも両手を真っ赤に染める正面からの殴り合いが始まりそうなオーラを醸し出していた。
×××
通報を終え、後処理をとりあえずこなした一同は、一七七支部に戻って来ていた。
とりあえず、怪我を負った黒子と美琴の傷を治療する。特に黒子は、どちらかと言うとあのヒーローに持ち上げられていた時の方がトラウマになっているようで、さっきから「次は絶対に捕まえる……」とかなんとかブツブツ呟いていた。
「それにしても、よく佐天さんは出てきてくれたわね」
美琴が声を掛けたのは、佐天だった。一応、無傷とはいえ、かなり怖い思いをしただろうに。
「あ、あはは……いや、たいした事ないですよ」
「そんな事ないわよ。普通、あの場面じゃ出て来られないわよ」
「出て来る?」
「ああ、黒子は気絶していたものね。佐天さんが、私達が連れ去られた時に後をつけてくれて、初春さんに連絡してくれたみたいよ。多分、あの二丁水銃がここに来たのもそういう経緯があったからじゃない?」
その一言に、黒子はキッと初春を睨み付ける。
「初春……あなた、まさかあのムカつくヒーローに助けを求めたんですの?」
「ち、違いますよ! 私が助けを求めたのは非色くんです! そもそも、あのヒーローにどうやって連絡を取れと言うんですか⁉︎」
「ちょっと初春さん? あなた私の弟を巻き込んだわけ⁉︎」
「ひぃ!」
どう逃げても誰かを怒らせる結果になってしまい、初春の目尻には涙が浮かんだ。
「だ、だってぇ……非色くん、強いから……。能力を封じられるって話は聞いていましたし……」
「……強い?」
「は、はい。この前、婚后さんを助けてくれたのが、非色くんなんです」
「もう一人は多分、黒妻さんだよね」
「……そう、あの子が、強いの……」
顎に手を当てる美偉。脳裏に浮かんでいるのは、警備員の黄泉川から聞いていた報告。「超人兵士作成計画」の実験には失敗している、という話だったはずだが、もし、成功しているとしたら……。
「先輩?」
初春に声を掛けられ、ハッとして顔を上げる。
「な、なに?」
「どうしました? 暗い顔をされていましたけど……」
「な、なんでもないわ」
まぁ、今、結論を出すべき所ではない。とりあえず考えるのはやめておいた。
「それより、あの黒妻という男と固法先輩はどのような関係なのですか?」
黒子に聞かれ、美偉は仕方なさそうに答えた。
「実は……先輩は、あの人は私の元カレなのよ」
「「「「も、元カレ⁉︎」」」」
美偉から聞いた話は、あまりに意外な答えだった。あの真面目を絵に描いたような風紀委員の代表、固法美偉がスキルアウトと関わりを持っていたことに驚きだ。
「そうよ。私も、昔は自分の能力に限界を感じて伸び悩んだ時に、気晴らししていた時に出会ったのが、先輩だった」
「先輩にも、そんな時期が……」
思わず黒子はそんな事を呟いてしまう。
「その時に先輩が所属していて、その上でトップに立っていたのが、ビッグスパイダーだったのよ。だから、私は十中八九、先輩が絡んでると思って、今回の事件を追っていたの。……あまり関わる事なく終わっちゃってたけどね」
「……そ、そうですか」
「当時のビッグスパイダーは、今ほど悪い人達じゃなかったのよ。先輩なんて、他のスキルアウトに襲われている女の子を助けたりなんてしてたし。とにかく、自由気ままな生活をしている先輩がとても羨ましくて……だから、あの時はとても楽しかったわ」
そう言う美偉の目は、過去の思い出話をしているような、そんな瞳をしていた。本当に、その生活が楽しかったのだろう。
「でも……先輩は、死んだって聞いていたのに……どうして」
「……」
「……」
まだ恋愛や恋人、というものが分からない黒子や美琴達も、一つだけわかることがあった。それは、美偉にとって黒妻という男はとても大事な人だという事だ。
ならば、ここは一つ、一肌脱ぐのが後輩の役割というものだろう。
「ならば、先輩!」
「あのムカつくヒーローを捕まえて、その黒妻とかいう人と会いに行けば良いでしょう!」
「え……?」
「大事な人なら、ちゃんと想いを伝えなきゃダメです!」
「そうですわ。それが久々にあった人なら尚更ですの!」
「あなた達……」
そうだ、せっかく生きて会えたんだ。ならば、せめて1日だけでも、一緒にいられる時間が欲しい。
「分かったわ、協力してちょうだい!」
「「「「はい!」」」」
四人は元気よく返事をした。
×××
「「あっはっはっはっはっ!」」
一方、その黒妻は。ヒーローから非色に戻った少年と公園に来て飲み物を飲んでいた。
「いやー、まさか義理の弟とはな! 子供を引き取るなんて、面倒見の良いあいつらしいわ!」
「そっちこそ、何? 姉ちゃんの元カレだったんですか? マジかよ! 姉ちゃんにそんな時期あったんだ!」
「「あっはっはっはっはっ!」」
二人でラーメン屋で爆笑していた。と、いうのも、お互いに美偉のことを知っているから、完全に意気投合してしまったわけだ。仲良さそうで何よりである。
「いやー、てかヒーローの正体が、まさかの弟とはなぁ……」
「簡単に見抜かれたからビビったわ。『素直に話さないと美偉にチクる』と言われた時は本気で死ぬかと思いました」
「まぁ……スキルアウトなんてやってるとな、仲間だと思ってた奴が変なお面かぶって闇討ちしてくる事だってあるからな」
「あー……なるほど、そういう事ですか」
大変なんだなーと他人事のように思いながら、飲み物を飲む。
「で、お前は言ったの?」
「何を?」
「ヒーローやってることを、美偉に」
「言ってませんよ。言ったら、心配かけちゃいますし」
「……そうか。でも、俺は言ったほうが良いと思うぜ」
「え、な、なんで?」
「そういうのって、いつかは必ずバレる事だからな。……ま、今すぐじゃなくても良いから、考えておけよ」
「……」
なるほど、と非色は頭の中で理解する。どうせバレるなら、不可抗力よりは自分から言った方が良いと、そういう事だろう。
でも、正直、止められるのはわかっているので言う勇気はない。特に、自分は姉の部下である黒子に嫌われているし、割と普通に無理な相談でもあった。
そんな時だ。二人の真後ろにヒュッとテレポートの音が聞こえた。飛んで来たのは、黒子と美偉だった。
「……げっ、白井さん……」
「美偉……⁉︎」
「どうも、非色さん?」
「……先輩」
まず、現れた美偉が歩み寄ったのは、非色だった。自分の方まで近づいて来て、耳元で声をかけてくる。
「……あなた、勝手に喧嘩したそうね?」
「っ」
ビクッと非色の方が震え上がる。
「しかも、それを私に隠して……あとでお説教よ。覚悟しておきなさい」
「は……はひ……」
それだけ話すと、美偉は続いて黒妻の方に向かった。その間、黒子は空気を読んで非色の手を引いた。
「ほら、来なさい。お邪魔虫は退散ですのよ」
「……白井さん、今日、君の家に泊めて」
「うちの寮は男子禁制ですわ」
なんてやっている間に、美偉は黒妻と向き合った。
「……先輩」
「美偉……悪ぃな、さっきはヒーロー様に連れていかれちまってよ」
「い、いえ……」
お互い、微妙な空気が流れる。死んだと思っていた元カレが現れたのだ。誰だって気まずくなる。
「……先輩、先程は出頭されようとしましたよね」
「ああ……」
「でも、私は……それは困ります。せっかく、こうして会えて……さっきは弟とも仲良くしてくれて……空いている日があれば、また二人で遊びに行きたいです」
「……」
どう答えるべきか、と黒妻は悩む。正直、立場的には自分と美偉は関わるべきではないのだろう。
しかし……と、さっきの弟を見て気が変わった。彼はヒーローという危うい立場のまま、風紀委員の弟、という立場を貫き通している。
ならば、自分も美偉とまだ関係を持つのは許されるのだろうか。
「……美偉、連絡先は変わってねえか?」
「は、はい……!」
「なら、何かあったら呼べよ。俺は、いつでも駆け付けるぜ」
「分かりました!」
それだけ話すと、黒妻は立ち去って行った。その背中を眺めながら、非色と黒子は少し離れた場所でポカンとする。
「……良いんですか? 白井さん。スキルアウト、野放しで」
「……まぁ、彼は特例ですの」
「そうすか」
意外と融通利くんだなこの人、と思いつつ、ならば二丁水銃も見逃してよ、という感想もちょこっと。
そんな非色を、黒子はジト目で睨んだ。
「……にしても、あなた。今日はヒーロー様と同じ服装していらっしゃいますのね」
「え?」
「もしかして、あなた……」
ヤバい、と思った非色は、慌てて誤魔化すことにした。
「そ、それよりも、白井さん……怪我してるけど、何かあったんですか?」
「え……?」
そう言いつつ、頬の絆創膏に手を当てる。
「ダメですよ、女の子が無茶したら。親御さんからいただいた大事な身体なんですから、大切にうえっ?」
直後、視界が一転して空中にいた。顔面が地面に向かっていて。そのまま落下し、鼻を地面に強打した。
「ふごっ⁉︎」
「せ、セクハラですのよ⁉︎ つっ、つつっ、つぎやったらしょっ引きますの! 良いですわね⁉︎」
それだけ言って、黒子は立ち去った。何故怒られたのか分からないが、とりあえず非色はそのまま美偉に連行された。
思ったより一期の内容覚えてなかったです。すみません。