とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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場違いの場に行った人は大体、食ってばかりになる。

 なんでこうなるの……と、非色は涙目になっていた。今、乗っているのはバス。それもただのバスではなく、これから御嬢様校の寮に向かうバスだ。

 なんでこうなったのか、それは隣で座る同級生のお陰である。

 

「いやー、楽しみだね、非色くん」

「……そうね」

 

 冥土返しに相談しても「君はヒーローである前に学生だよ? たまには羽を伸ばしてきたらどうかな?」との事で、止めてはくれなかった。

 そんなわけで、仕方なく参加する事にした。せっかく友達に誘われているのに、断るのは申し訳ない、という理由で。

 

「てか、男が行って平気なの? 捕まったりしない?」

「招待されてる人が他にもいるらしいよ。この前もそういう人と会ったし」

 

 そういえばそうだった、と上条の事を思い出す。ああいう正義感の強い男の人は非色は大好きなので、是非とも友達になりたいものだ。

 そういう意味じゃ、ここにきた意味はある。あの男の人を探して友達になってみたい。

 

「……ちなみに、非色くん」

「何?」

「盛夏祭だと、常盤台生はみんなメイド服らしいよ」

「へぇ〜……え、それって……御坂さんや白井さんも?」

「そうだよ?」

 

 少し想像出来ない。ただでさえ校則で私服も着れないというのに。

 

「でも……メイド服ってイマイチ、どんなのか思い出せないんだけど」

「嘘でしょ⁉︎ それでも男か!」

「な、何急に……?」

「メイドって言ったら男の人にとってはロマンでしょ⁉︎ 可愛い女の子がフリフリの制服を着て『お帰りなさいませ、ご主人様♡』って笑顔で出迎えてくれるんだよ⁉︎」

「ご主人様って……」

 

 そんなに力説されても、知らないものは知らない。そもそも、そういうオタク文化に興味が無かった。

 まぁ、せっかく来たわけだし楽しむつもりではあるのだが、どちらかというと旨い飯があるかの方が重要だった。

 

「それよりもさ、フライドポテトとか揚げ鷄とかあるかな。俺、ああいう揚げ物好きなんだよね」

「え……」

 

 言うと、今度は佐天が微妙な顔をする番だった。

 

「なに?」

「あの、非色くん……これからどこに行くか分かってる?」

「え? 常盤台でしょ? ……あ、あと俺海老フライとか食べたいんだよね」

「無いよ! 多分! あるとしたらフォアグラとかでしょ⁉︎」

「……ふぉあぐら?」

「マジかこの子……」

 

 価値観がまったく逆の二人がやって来てしまった瞬間だった。少し誘ったことを後悔しつつある佐天だったが、まぁ行けば何があるか分かると思うので、今は黙っておく事にした。……とはいえ、あんまり恥ずかしい真似をするようだと離れて行動させてもらうが。

 

「……そういえば、佐天さん」

「何?」

「初春さんは一緒じゃなくて良かったの?」

「……あー、初春はね……うん」

 

 何かあったのだろうか? もしかしたら、あまり気にしちゃいけない所なのかもしれない。

 そう思った時だ。後ろの席から聴き慣れた甘ったるい声が聞こえてきた。

 

「呼びました?」

「わっ、う、初春⁉︎」

「へっへーん、私を甘く見ないで下さい。お嬢様への憧れは佐天さん以上ですよ?」

「それ『私はあなた以上の庶民です』って言われてるだけなんだけど……」

 

 普通に初春が来ていた。イマイチ、状況が飲み込めない非色は、不思議そうな顔で二人のやりとりを眺める。

 

「佐天さんが非色くんを誘っちゃったから、苦労しましたよ。他に招待されてる人を探すの」

「なんて意地汚い真似を……大体、あれは仕事サボった初春の自業自得じゃん」

 

 大体、理解した。黒子が仕事をサボって佐天と遊ぶ初春を見つけ、わざと佐天にだけチケットを渡したのだろう。

 もう一人連れて行けるので、佐天は自分を誘い、初春は他の招待されている人を探した、というわけだ。

 

「で、誰に誘ってもらったの?」

「私よ」

 

 そう言うのは、固法美偉だった。普通に初春の隣に座っていた。

 

「……え、姉ちゃん?」

「非色ったら全然、私に気付かないんだもの」

「ご、ごめん……」

 

 なるほど、と大体の経緯を察する。要するにいつも通りの人が集まっているわけだ。ちなみに、黒妻はいないようだ。まぁ、あの人が来たがる所にも思えない。

 

「ていうか、非色さぁ。私に今日『盛夏祭に行く』なんて一言も言わなかったよねぇ?」

「うっ……いや、それは……」

「弟が冷たくて、お姉ちゃん悲しいなぁ……」

「だ、だって! 姉ちゃん割とブランド品にガメついじゃん! 絶対に代わってって言われると思ったから……」

「そーいうことを後輩達の前で言わない!」

「いだだだだ!」

 

 耳を後ろから引っ張られ、悲鳴を漏らす。超人でも、姉には全く頭が上がらなかった。

 その二人を無視し、初春が佐天に声をかけた。

 

「とにかく、せっかく合流できたんですし、一緒に回りませんか?」

「良いよ」

 

 との事で、四人で回る事になった。

 

 ×××

 

 はい、非色だけ逸れた。まぁ、もうそんなのも慣れたものだ。それに、あの子達と一緒だと、食べ物よりも財布や時計とかの小物とか、生け花や利き茶とかの文化面ばかりに目移りしている。

 それなら、食べ物を食べた方が良い。そんなわけで、バイキングに来た。

 

「……」

 

 しかし、困っていた。並んでいるものは見たことがないものばかりだ。いや、あるにはある。例えばパスタなら、いつも食べてるたらこスパゲティとかではなく「なんか高級そうなパスタ」みたいなのが並んでいるわけで。

 他にも、めちゃくちゃ綺麗に盛り付けられたハムとアスパラの何かとか、よくわからん具材が乗ってるピザとか、そんなんばかりだ。

 どれを食べたら良いのか……と、勝手に悩んでいると、そんな非色に声が掛けられた。

 

「何をビビっておりますの?」

「え?」

 

 振り返ると、黒子が隣に立っていた。それもメイド服姿である。

 

「あ、白井さん……」

「あなたも来たんですのね……」

「……」

 

 じーっと非色の視線が突き刺さり、思わず黒子は片眉をあげる。

 

「……何ですの? 私の顔に何かついていて?」

「いや『お帰りなさいませ、ご主人様』って言わないのかなと……」

「何処のお店と勘違いしておりますの?」

 

 あ、言わないんだ、と非色は目を逸らす。なんか怒られそうだったので、もう一言、本音を言っておいた。

 

「それとー……メイド服、とてもお似合いだな、と……」

「へっ? そ、そうですの……?」

「あ、は、はい……」

 

 言われて、黒子は微妙に頬を赤く染め、少し目を逸らす。が、すぐに薄い胸を張って答えた。

 

「ま、まぁ、そうですわね。私に似合わない服はありませんの!」

「でも、他の人に比べて何処か寂しいような気も……」

「へ?」

 

 そう言う非色の視線は、別のメイドに向かっていた。その先にいるのは、泡浮万彬と湾内絹保の二人。非色自身、無自覚だった。何が足りないのかは直感で思ってるだけで分かってはいない。

 しかし、女性である故に、黒子には何が足りないのか分かってしまった。一気に不愉快になり、脇腹に指を突く。

 

「ひゃふっ⁉︎」

「すけべ。……まったく、これだから殿方は」

「な、なんですか急に……」

「それより、こんな所で突っ立っていられても、他のお客様に迷惑ですわ。食べないのなら別の場所に移動してくださる?」

「あ、いやすみません……。そうだ、その……食べ物について教えて欲しいんですけど……」

「……はい?」

「これ、なんですか?」

 

 まず非色が指さしたのは、ピザだった。

 

「それはピザですの」

「や、それはわかりますけど……」

 

 まぁ、聞き方が悪かった。改めて質問した。

 

「そうじゃなくて。この白いのはなんですか?」

「チーズですの」

「この黄色いのは?」

「それもチーズです」

「じゃあこの緑がかった黄色いの」

「それもチーズです」

「……え、具が全部チーズなんですか?」

「そうですわ。これは四種のチーズといって、パルミザーノ、モッツァレラ、ゴルゴンゾーラ、カマンベールを使ったものですの」

 

 マジか、と非色は戦慄する。まず今聞いたチーズの名前の中で聞き覚えがあるのがモッツァレラしかないという点。そして、チーズの名前は全部カッコ良い、という点。ヒーローの名前も、そういう感じが良かった。

 

「……これ、どう取れば……」

「一切れ、お皿に盛り付ければ良いでしょう」

「あ、そ、そっか……」

 

 言われて、手を伸ばした。

 

「ちょっ、待ちなさい! 手で取るつもりですの?」

「え……ダメなんですか?」

「お皿の手前にトングがあるでしょう!」

「あ、ホントだ……」

「まったく……危なっかしくって見ていられませんわ」

 

 そう言うと、黒子はトングを手に取った。ピザを挟むと、非色の皿を手に取る。

 

「失礼致しますわ」

「え? あ、は、はい……」

 

 皿を受け取ると、そのうえにピザを一切れ乗せてくれた。それを手渡すと、スカートの裾を摘み、頭を下げる。

 

「恐れながら、お取りさせていただきましたわ。どうかお召し上がり下さい、ご主人様」

「……」

 

 その破壊力に、思わず見惚れてしまった。口を半開きにし、頬を赤く染め、目を見開く。普段の狩る者の形相とは真逆の対応だ。

 手から皿が落ちそうになって、ようやく正気に戻った。ハッとしてギリギリ、手の上の皿を持ち直し、その上のピザを手に取る。

 

「……あ、す、すみません。いただきます」

「ちょーっ! ば、バカですの? 席についてから召しあがりなさいな!」

「あ、そ、そっか……すんません」

「他に食べるものはありませんの?」

「あ、あります。取ってきます」

 

 少し慌てた様子で、非色は料理をとりに行った。その背中を見ながら、黒子は顎に手を当てる。やはり、二丁水銃と同一人物には思えない。あまりにキャラが違いすぎる。

 さっき、冗談でメイド喫茶の物真似をしてみたものの、かなり動揺していたし。

 

「……っと、いけませんわ。今はもてなす側なのですから」

 

 そう呟いて、とりあえず非色の方に顔を向けた。非色は相変わらず、田舎者っぽく料理を皿に盛り付けていく。

 

「……」

 

 黒子としては、いろんな意味で目が離せなかった。なんか知らない間に両手で7皿持っている。どうやって持っているのか分からないくらいだ。

 周りからの視線はすごく集めているし、メイドですら近付こうとしない。普段、彼はどんなものを食べているのだろうか。少し心配になるほどにがっついていた。

 

「……まったく、仕方ありませんわね……」

 

 小さく呟くと、黒子は再び非色の方に向かおうとした。が、その前に入り込む影があった。

 

「こ、固法さん!」

「? ……あ、えーっと……こ、婚后さん?」

「はい、婚后光子ですわ」

 

 そういえば、前に非色は婚后を助けていた事を思い出した。お礼も拒否して逃げ出したらしいわけだが、まさかこれからお礼でもするつもりなのだろうか? 

 

「な、何か用ですか……?」

「この前助けていただいたお礼をと思ったのですが……まずはお皿をお持ちしますわ」

「あ、す、すみません……」

「……というか、どうやってこれ盛り付けたんですの?」

 

 との事で、お皿を持ってもらう。確かに不思議である。皿は持てたとしても盛り付けはどのように行なっていたのか。

 って、そんなことよりも、だ。何となくだが、イライラしてきた。あれが婚后だからだろうか? 

 羨ましい、というわけでも、嫉妬している、というわけでもない。でも、なんか面白くない。

 

「……お待ち下さい、婚后光子?」

「え……し、白井さん?」

「……何か御用ですか? 白井さん」

「お皿は私が転移させますわ。その方が安全でしょう?」

 

 そう言って、非色のお皿に手を伸ばす黒子。しかし、婚后も譲らなかった。

 

「何を仰っておられますの? 普通に手で持った方が安全でしょう。私でも三枚は持てますわ」

「いえいえ、それでしたら私が三枚お持ちした上で二枚テレポートさせれば、私も非色くんも無理なく運べますのよ?」

「七枚持てる方が四枚運ぶ事を無理だと感じるとお思いですか?」

「無理だと感じるかではなく、落とす可能性を少しでも減らすための処置ですの」

 

 なんか雲行きが怪しくなってきた。思わず黙り込んでしまうほどに。そんな非色に構わず、二人はヒートアップする。

 

「そもそも何なんですの? 私が最初に彼をエスコートしておりましたのよ?」

「そのあなたが近くで彼を見てあげないから、私は出て来たんですわ。何をしていらしたのか知りませんが、役目を放棄しておいて後からのこのこと顔を出すとは図々しいんじゃありません?」

「放棄って、少し離れて場所で見守ることが放棄でしたら、初めてのお使いだって育児放棄ではありませんこと?」

「それとこれとは話が別ですわ。現に彼は両手でお皿を持つ程、困っておられましたのよ?」

「ほんの1〜2分の間にあれだけ料理を持てるなんて誰が思えるんですの?」

 

 ……これは、立ち去ってはいけないのだろうか。いけないんだろう。二人が手を添える皿は、なんかミシミシいってる。

 どうしたものか悩んでいると、自分の隣に白い小さなシスターが立っているのが見えた。

 

「美味しそうなんだよ……!」

 

 目を輝かせてよだれを垂らしている。女の子とは思えない顔だが……なんであれ、良い所に来てくれた。

 

「……食べたい?」」

「うん!」

「じゃ、食べよっか。……このお皿持って、あの机に座ってくれる?」

「分かったんだよ!」

 

 二人が取り合っている皿を残して、二人で一席まで移動した。本来なら仲介したい所だが、まぁ黒子は風紀委員だし能力を使った喧嘩には発展しないだろう……と、思う事にしたわけだ。もしそうなったら、自分が止めれば良いし。

 

「さて、じゃあ一緒に食べようか」

「うん!」

 

 知らない女の子とがっつき始めた。文字通りの意味で。

 

「あなた、優しいんだね! こんなにご馳走してくれるなんて……!」

「いやいや、俺の奢りってわけじゃないから」

「んん〜……にしても、美味しいんだよ……」

 

 話の移り変わりが激しい子供だったが、まぁ実際、美味いのだから仕方ない。非色も思わず至福の時間のように味わっていた。

 が、まぁこの二人が食べればたった七皿などすぐに空になってしまうわけで。すぐに二人で皿に盛り付けに行った。

 そんな事を繰り返して、10分後。とりあえず二人は食休みする事にした。目の前には、白い皿の山が築かれている。

 

「ふぅ……で、お嬢ちゃん、迷子? 親御さんは?」

「迷子じゃないんだよ! あんまり良い匂いがしたから、つられて来ちゃっただけかも」

「迷子じゃん……知り合いでも探しに行こうか?」

「大丈夫なんだよ。どうせ当麻は家事の道具のセールに釘付けだろうし」

「ふーん……」

 

 当麻って言うのか、と思いつつ、とりあえず食事を続けていた時だ。そのシスターの少女の後ろに、ツンツン頭の少年が立っているのが見えた。

 

「インデックス、やっと見つけたぞ」

「え? ……あ、当麻⁉︎」

「お前なぁ……勝手にいなくなるんじゃねーよ。探し回っただろ?」

「ふんっ、当麻がいつまでも家電のセールに食いついていたのが悪いのかも。私はおなかへったって言っていたのに」

「それは悪かったよ……」

 

 なんてやっていると、当麻が非色に顔を向けた。

 

「あんた、インデックスと遊んでくれてありがとな」

「え? いや、全然そんな……」

「ちょっと当麻⁉︎ 私を子供みたいに言わないで欲しいかも!」

「今度、お礼するから。……ほら、行くぞインデックス」

「あ、ま、待って欲しいかも! まだ腹八分目なんだよ!」

「その辺でやめとけよ!」

 

 なんて騒ぎながら二人は食堂から立ち去っていった。なんだか不思議な組み合わせだった。というか、せっかくツンツン頭の人に会えたのに、あまりお話できなかったが……まぁ、顔は覚えてもらえたかもしれないし、もし何かあったらまた今度、声を掛けるとしよう。

 さて、じゃあそろそろ自分も退散を……と、思った時だ。そんな非色の後ろに、二人の女性が立っていた。

 

「……非色さん? 二人の女性があなたを取り合っていたというのに」

「他の女性と食事なんて良いご身分ですのね……?」

「……」

 

 めちゃめちゃ怒られた。

 

 


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