とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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見通しの甘さは人間性を決める。

 非色が普段、研究所に向かう際は、人通りの少ない道を選んでいた。理由は単純、後をつけられないためだ。つけられれば、全てがおじゃんとなるから。

 だが、最近は誰かの視線を感じることが増えた。その度に遠回りして追跡者を撒いて移動しているのだが、中々にしつこい。

 その程度のことは問題じゃない。それよりもマズいのは、自分が置き去りの子供達の元に向かう、という事がバレているということだ。

 一度、相手になるべきか。しかし、向こうが悪事を働いている、とハッキリした証拠が上がるまではなるべく、派手な真似はしたくない。

 とりあえず、屋上からの移動は目立ち過ぎるため、地上に降りた。路地裏の間に降り立ち、一般人に紛れるためマスクを外そうとした時だ。

 

「……よう、ヒーロー様よぉ」

 

 声を掛けられた。顔を向けると、辺りにいるのはスキルアウト達だ。それも、手元には銃や刃物など、明らかに違法の武器を握っている。それが、4〜5人ではなく15〜20人はいた。

 

「何、君達。こんな所でそんな物騒なもん持って。自作映画の撮影ですか?」

「ほざけバーカ。状況分かんねえのか?」

「分かるのは、あんたらが余程のバカってことだけだよ。なんで勝てない相手に自分から挑むかな?」

「言うじゃねえか。……ただまぁ、いつまでも調子に乗られちゃ不愉快って事だよ」

「ここいらで、痛い目に遭って自重してもらおうか」

「……」

 

 ここで、ただのオラついたバカだと思うほど非色はバカではない。多分、唆した奴がいる。そして、唆すことが出来るだけの武器を与えたということも、想像がつく。

 

「ま、文句があるならかかっておいで。拳でお応えするよ」

「上等だコラ‼︎」

「畳め!」

 

 突然、襲いかかって来た不良達に対し、非色は軽く身構えた。一斉に向けられるのは銃口。ご丁寧にサイレンサーがつけられ、街中に銃声は響かないようにされていた。

 それらの銃弾を全て壁ジャンプで回避しつつ、まずは一人ずつ片付ける事にした。下肢のホルスターから抜いたのは水鉄砲。一発放ち、敵の元へ向かっていくが、そいつは傘をさした。

 

「……!」

 

 対策を練られている、そう判断した非色は少し力を入れる事にした。大人数戦の場合は、下手に手心を加えるとこっちが命取りになる。

 壁ジャンプで動き回りながら、壁についている窓を一枚、ひっぺがした。それを、思いっきり投げ下ろす。

 

「!」

「やべぇ、離れろ!」

 

 この弾は、傘では防げない。銃で撃っても穴が開くだけで解決にはならない。わざと人が密集している方向に投げたため、慌ててそいつらは避ける。まったく半分に分かれたわけでなく、おおよそ7:3くらいだろうか。

 ならば、まずは3の方からである。6人の背後に着地すると、一人目の背中を蹴り飛ばした。

 

「グッ……!」

「テメェ!」

 

 釘バットを振り回されるが、それをしゃがんで回避し、足を払ってその足を掴み、遠くに放り投げる。これで2人終わりである。こっちサイドは残り四人……と思ったが、ガラス窓を投げた程度の分断では、大した威力にならない。

 すぐに残りの人数が押し寄せてきた。

 

「……こういうの久しぶりだな」

 

 それだけ呟くと、一気に残りの人数との戦闘を再開した。躱して殴って、また躱して殴るの繰り返し。今回ばかりは怪我人も出てしまうが、まぁ自業自得の正当防衛だろう。

 

 ×××

 

「と、いうわけで、私の新しいルームメイトの春上さんです!」

「は、初めましてなの……」

 

 ファミレスにて、集められたのは黒子、佐天、美琴の三人。そして、その向かいの席に座るのは初春と紹介された少女、春上衿衣だ。

 

「へぇ……ルームメイト、ですの?」

「はい。二学期から私と佐天さんと同じクラスに転校してくるんです」

「そうなんだ」

 

 となれば、挨拶しないわけにいかない。

 

「私、佐天涙子。よろしく」

「私は御坂美琴よ。よろしくね」

「白井黒子と申します以後、お見知り置きを」

 

 各々、三者三様の挨拶をする。それに対し、春上は笑顔で答えた。

 そのメンバーの中で、佐天がふと声を漏らす。

 

「あれ、非色くんは?」

「電話に出ないんです」

「あー、たまにそういうことあるよね。あの人」

 

 そういう佐天と初春に、春上は小首を傾げた。

 

「誰なの?」

「同じクラスの子です。私と白井さんの先輩の姉弟なんですよ」

「しかも、男の子」

「へぇ〜……」

 

 あまり興味なさそうな春上に、黒子はため息をつきながら言った。

 

「いなくて正解だと思いますわ。彼、見てくれはかなりガタイが良い方ですし。怖がらせてしまうかもしれませんもの」

「そんなこと言って。本当は彼をとられる可能性を少しでも減らしたいとかじゃないの?」

「なっ、何を仰っておられますのお姉様⁉︎」

「聞いたわよ。婚后さんと非色くん取り合ったんだって?」

「え」

「え」

 

 その美琴の密告に、佐天と初春が意外そうな顔をする。

 

「え……あの御坂さんに狂ってた白井さんが……?」

「恋話ですか⁉︎ しかも一番、ありえない白井さんの⁉︎」

「あーもうっ、うるっさいですの! そういうんじゃありませんわ⁉︎」

「だって、取り合ったんでしょう?」

 

 ……取り合ったが、あれはそういうんじゃない奴だ。まったくこういう時ばっかり嬉々として攻めてくるのは本当に面倒臭い。

 そんな時だ、一人怒る黒子とからかう三人の間に、控えめな笑いが割り込んできた。

 

「ふふ……よく分からないけど、皆さんとその非色さんって方、とっても仲良しさんなの」

「……え、そ、そう?」

「そう言われたら、そうかもしれませんけど……」

「や、仲良しって程じゃ……」

「私も別に……」

 

 全員、微妙な顔をする。実際、いつも一緒にいるわけじゃないし、大きな事件を解決した時とかも、ほとんど姿を見せない。代わりにいるのはヒーローだ。

 

「……と、とにかく、みんなで一緒に遊びにいきましょう!」

「そ、そうですわね」

 

 いない人の話をしても盛り上がらない。そんな事よりも、今は主役は春上だ。五人はファミレスを後にすると、遊びに行った。

 

 ×××

 

「ふぅ……疲れたな……」

 

 全員一人残らず警備員送りにした非色は、ようやく研究室に到着した。ここ最近、やはり油断できない生活が続いている。そのスリルはそれはそれで楽しいものだが、いい加減にして欲しいというのもある。

 

「お疲れ様、ヒーローくん?」

 

 出迎えてくれたカエル顔の医者は、コーヒーを淹れてくれる。

 

「すみません、ありがとうございます」

「うん。……誰かにつけられたりとかは?」

「あったら第六感が反応しているので、大丈夫のはずですよ」

「なるほどね」

 

 仮にドローンでつけられたとしても反応できる。便利なものだ。

 

「……それより、どうですか? 進行具合は」

「まぁ、ボチボチだよ? 僕1人で作業することの方が多いからね?」

「すみませんね。俺ももっと参加できりゃ良かったんですけど」

「あ、いやそういう意味じゃないよ? 君はまだ中学生だしね? 普通の中学生は、もっと夏休みを満喫するものだしね?」

「普通じゃないのでそこは気にしないで下さい」

 

 所詮、自分は化け物だ。友達は最近、出来てきたが、その輪の中にはいかない。自身で一線を引いている。それに、彼女達だって化け物と友達なんてごめんだろう。

 ……何より、ヒーローは孤独の方がカッコ良いとかも少し思ってみたり。っと、のんびりはしていられない。それよりも仕事を進めなければ。

 

「やりましょうか」

「そうだね」

 

 そう言って、作業を始めた時だ。微妙な揺れが研究所を襲った。物が倒れるほどの大きさじゃないが、立っていても感じる程度には揺れている。

 

「……地震?」

「最近、多いっすねー」

 

 呑気な話をしつつ、非色はふと思ったことを聞いた。

 

「そういや、木山先生から連絡とか来ました?」

「何故だい?」

「あ、いやなんか釈放の話が来てたみたいなんで。ここには来るな、って言ってあるんすけど、やっぱり来てませんか?」

「来ていないね?」

 

 良かった、と非色は胸を撫で下ろしつつ、小さく伸びをする。さて、そろそろ受けに回っている場合ではない。目を付けられている以上、反撃の必要がある。

 でなければ、この子供達が目を覚したとしても、狙われ続ける事になる。

 

「……敵の事、そろそろ探すか」

 

 そう決めつつ、今は作業に集中している時だ。冥土返しが「あ、そうだ?」とふと思い出したように漏らした。

 

「そういえば、君に言われていたものを用意したよ?」

「あ、あれですか?」

「正直、専門じゃないから、調整は自分でやって欲しいけどね?」

「は、はいはい」

 

 言われて出してもらったのは、水鉄砲だった。それも、かなりコンパクトなタイプ。近未来の光線銃のような形がしていて、本来の銃のハンマーの部位には、何かネジがカチカチと回すギアのようなものがついている。

 

「これは?」

「そこで、弾丸のバリエーションを増やせるようにしたよ? 今、赤い線がついてる状態がデフォルト、つまりこれまで通りの液体が飛び出すけど、それを左に捻ると、射程が伸びる。逆に、右に捻ると縮むように出来ているよ?」

「へぇ〜、なるほどね」

 

 水鉄砲の射程は基本的に短い。と、いうのも、相手の動きを封じる為に、普通の水鉄砲のように細長く直進するのではなく、発射されると共に徐々に広がっていくようになっているが、当然、無限に広がるわけではなく途中で途切れて失速し、地面に落下する。

 が、今回作ってもらった改造型なら、飛距離によって液体の広がる面積と射程が反比例するそうだ。

 

「ちょっと撃ってみて良いですか?」

「大事な機材には当てないようにね」

 

 そう言われて、水鉄砲を使った。まずは短い飛距離から。最短にしてみると、わずか1メートルで霧吹きのように視界を覆った。もうこれでは捕獲は出来ないが、多人数戦での目眩しには使えるかもしれない。

 あまり汚してはいけないと思い、続いて今度は射程最大にしてみる。とりあえず、施設内の端から端を狙うことにした。

 直後、銃口から発砲されたのはいつもより遥かに細い液体が、1メートルほどの細長さで飛んで行った。施設の広さは縦に15メートルほど。その壁から壁の間をくっつけて見せた。

 その代わり、拘束できる範囲は少ない。足の甲の範囲程度のものだ。遠くから狙って撃って、拘束可能なのは片腕や片足だけ、と言った所だろう。何れにしても、使い分けが出来るのはありがたい。

 

「ありがとうございます。無理な注文を……」

「ただ、さっきも言ったけど僕の専門じゃないからね? 細かい調整は自分でやるか、専門の人に聞いてね?」

「はいはい」

 

 そう言いつつ、自分でやる気満々だ。前に使っていた銃だって自分で作ったわけだし、何の問題もない。

 少し次の戦闘にワクワクしつつ、とりあえず作業を再開した。

 

 ×××

 

 翌朝、目を覚ました非色はいつものようにいそいそ着替えと準備を始める。今日は、少し遠回りする予定だ。

 と、いうのも、そろそろ子供達を狙っている相手のことを調べておかなければならない。それに、自分をマークし始めた時点で、簡単に研究所に到着すれば、それはそれで怪しい。もしかしたら、非色でも気付かないレベルの尾行をされている可能性もある。

 ならば、ここはこちらがいつまでも受けに回っているわけでは無いと思わせる良いチャンスだ。

 

「……うしっ、行くか」

 

 そう決めた時だ。携帯に電話がかかってきた。名前は、佐天涙子。

 

「も、もしもし……?」

『あ、もしもし。非色くん? 今日暇?』

「え?」

『今から、うちのクラスに転校してくる子と遊びに行くんだけど、白井さんと初春がー……なんだっけ、乱雑解放? のことで会議でさ。代わりにどう?』

 

 まさかの遊びの誘いである。どうしたものか、と非色は悩んでしまった。何せ、友達からのお誘いである。絶対に行きたい。

 ……のだが、冥土返しにも「敵について調査するんで夕方くらいから遅れて行きます」と言ってしまった。

 何より、その乱雑解放とやらの事件にはとても興味がある。

 

「……あー、ごめん。実は俺、今日予定が……」

『えー、そうなの? 何?』

「え? えーっと……上条さんと、ラーメンを食べに」

『友達?』

「う、うん。この前、盛夏祭で知り合って……」

『そっかー、分かった』

 

 心が痛かった。嘘をついて断るとか……なんというか、普通に胸が痛い。なので、思わず考えもせずに言葉が出てしまった。

 

「う、埋め合わせするから!」

『え?』

「あ、いや……」

『じゃ、今晩は空いてる?』

「え?」

『みんなでお祭り行くの』

「……」

 

 もう少し考えてから言うべきだった。今晩……夕方に作業を開始し、大体19時過ぎまで。行ける、と見通しの甘さで判断してしまった非色は頷いて答えた。

 

「分かった。19時以降ならなんとか……」

『りょうかーい。じゃ、詳細はまた後でね』

 

 それだけ話して電話は切れた。非色は小さくため息をついて、思った。今日はハードになりそうだ、と。

 

 

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