とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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何日待っても返却されないので、展開を大幅に変えることにしました。こういう事すると明日には戻って来てるんだよな。


子供との鬼ごっこは疲れるし腹立つ。

 翌日、朝起きた非色の元に、一本の電話がかかって来た。発信元は木山春生。子供達に何かあったのだろうか? と、眉間にシワを寄せながら電話に出た。

 

「もしもし……?」

『私だ』

「ふぁい……」

『ああ、起こしてしまったかな?』

「あ……いえ。なんですか?」

 

 用件を聞きながら、ベッドから降りて部屋を出た。

 

『君、随分と進めてくれていたんだな。子供達の事を』

「え? あ、はい」

『お陰で、明日には全てが終わりそうだ』

「そうですか……え、そうなの?」

 

 ていうか、木山の仕事の早さに驚いた。出来る範囲でやっただけのつもりだったが、やはりこの人は天才なのだろう。

 

『彼女達の目を覚ます際、君にも立ち会ってほしい』

「えっ、俺もですか?」

『君の尽力があってこそだ。是非、紹介させて欲しい』

「それは良いんですけど……その、正体とかは……」

『分かっている。顔を出すなら君の名前を言うし、出さないのならヒーローの方を紹介しよう』

「あ、ありがとうございます」

『なにを言っている。お礼を言うのはこちらの方さ』

 

 そう言われると、非色も少し照れたように頬をポリポリと掻く。やはり、他人に感謝されるのは気持ち良いものだ。正直、それもヒーローをやってる理由の一つに入っているわけで。まぁ、カッコ悪いから絶対に誰にも言わないが。

 

「では、準備が出来たら教えて下さい」

『ああ。分かった』

 

 それだけ話すと、とりあえず通話を切った。だが、無事に起こせたとしても、まだ安心はできない。学園都市を味方としている敵が、どういう手段で来るかを考えた場合、まず思い浮かぶのは「犯罪者の木山が作ったワクチンでは身体に害があるかもしれない」と言って子供達を検査の名目で掻っ攫うパターン。

 だとしたら、防ぐ方法は他にない。それまでに、敵が本当に悪い事をしている、という証拠が欲しい所だ。

 

「……調べに行くか」

 

 そう呟き、とりあえず窓から外を見下ろすと、やはり視線を感じる。また美琴が張り込んでいるのだろう。

 仕方なく、変身セットを鞄の中に詰め込んで昨日と同じように玄関から出て行った。

 マンションの自動ドアを開くと、今度は正面から待っていた。

 

「ちょっと良いかしら?」

「良くないんで失礼します」

「『超人兵士作成計画』」

 

 それを聞くと、非色の目の色が変わった。ジロリ、と美琴を睨む。その形相は、如何にレベル5と言えど多少、怯むほどの迫力があった。

 

「……その話題、俺にとってどれだけデリケートな話題だか分かってる?」

「それは……」

「続く言葉は、慎重に選べよ。俺はまだ、本気で怒ったことがないんだ」

「……」

 

 ……これは、マズい話の入り方をしてしまった、と少し美琴は後悔した。別に彼を怒らせたかったわけじゃない。ただ、話を聞きたかっただけだ。

 とりあえず、降参と言うために両手を掲げる。

 

「……悪かったわよ。これに関しては、単純にハッキングしてあんたの事を調べたってだけ。……よく、あんな実験を耐えて生きていられたわね」

「たまたまですよ」

 

 それに関しては本当のことだ。美琴が調べた範囲では、生き残った被験者は50人中2人、それももう片方はその後にどうなったのか全く分かっていない。

 こうして普通の子供のように日常に戻れている時点でかなり運が良かったのだろう。……結果、ヒーローなんて日常ではないことをしてしまっているが。

 

「なんでそんなに俺に付き纏うんですか?」

「決まっているでしょ? あんたのやろうとしている事に混ぜてもらうため」

「……」

 

 残念ながら、明日で仕事は終わりである。もう手伝ってもらうことなど何も無いのだが……しかし、それを言うわけにはいかない。誰が聞いているか分からないから。

 なので、打てる手はひとつだ。

 

「あ────ッ!」

「もう無理よ」

 

 無理だった。

 次はどうしよう、なんてひよっている間に、バチバチっと美琴が少量の火花を散らす。

 

「言っておくけど、あんたがただの無能力者じゃないことは分かってるから。多少、電撃ぶっ放しても平気って解釈してるから」

「……え、いや流石にそれは痛いと思うんですけど……」

「痛い、で済むなら良いじゃない」

 

 流石、レベル5である。やはり基準がぶっ飛んでいる。こうなれば仕方ない、非色としても痛いのはゴメンである。

 

「分かりましたよ……話しますから、とりあえずカフェに入りません?」

「ああ、立ち話も何だものね」

「おすすめのカフェが駅の方にあるんですよ。行きましょう」

「あら、良いわね。駅って……」

「あっちです」

「ああ、あっちか」

 

 非色が指差した先に釣られて顔を向ける美琴。が、駅は全くの真逆である。怪しいと思って非色の方に顔を向けると、ダッシュで遠くに離れていた。

 

「んがっ……あ、あんにゃろう……! 待ちなさーい!」

 

 大慌てで追い掛けるが、非色は聞く耳持たず。耳を両手で塞いでドンドン距離を離していく。

 とうとう、美琴はプッツンいってしまった。確かに、これは黒子がイライラするのも頷ける。自分なら何回、雷撃を行っているか分かったものではない。

 

「待て……っつってんだろうがコルァァァァッッ‼︎」

 

 思いっきり素を出しながら地面に足を踏み込むと共に、そこから電気を飛ばした。どんなに足が早くても、電気の速さには追いつかない。

 下から稲妻が自分を上回る速度で接近してくるのに対し、いち早く察知した非色は前方に受け身を取りながら回避した。

 その時の動作が、美琴の怒りセンサーに引っ掛かった。あの実験については美琴も把握している。失敗した、とされているが、一応、実験を耐え抜き、こうして超人的な力を発揮している以上は、少なからず成功しているのだろう。

 つまり、彼が本気で走れば車より早く走れるはずなのだ。それをすれば、その上、あの第六感である。追い付くのは難しいし、如何に美琴がレールガンを撃っても、隙もクソもない今の状態では恐らく躱されるだろう。

 しかし、今の非色の速度は良いとこ自転車と同じレベルである。つまり、レベル5に追われているにも関わらず、他人に超人である事をバレないための配慮を行なっているわけだ。

 

「その余裕……絶対にぶっ壊してやるわ」

 

 久々にあのバカ以外の強敵に当たった、と美琴はニヤリとほくそ笑んだ。とてもお嬢様の顔ではない。

 足の裏に大量の砂鉄を集めながら、磁力を持ってして近くの街灯の上に登り、天辺に砂鉄をつけた足の裏をつけた直後、電磁石を発動し、一気に加速した。もう割とかなり遠くに離れていた非色の前に一気に先回りし、ズザザッと着地する。

 

「っ……は、早っ……!」

「超能力者を、ナメんな!」

「おわっ、と……!」

 

 回り込んで、そのまま電撃を飛ばしてくる。真横に側面飛びして回避しつつ、距離を置く。

 

「あっぶないなぁ!」

「どうせ当たっても死なないんでしょうが!」

「いや死ななきゃ良いとかいう問題なわけ⁉︎」

「どいつもこいつも無能力者はー!」

 

 その台詞、そっくりそのまま「どいつもこいつも常盤台生はー!」とアレンジしてお返しする。

 飛んでくる電撃を回避しつつ、とりあえず他人を巻き込まないために行先を変更した。目指す場所は廃ビルの中で良いだろう。

 

「……も〜、なんで俺ばっかこんな目に……」

「あんたがちゃんと話さないからでしょうが〜!」

 

 せめて進捗状況を話せるなら、向こうも諦めてくれただろう。が、今はそうもいかない。目的達成の前だからこそ、気は抜けないのだ。

 後ろからの電撃を、まるで体操選手のような受け身を繰り返しながら回避しつつ、廃ビルの中に逃げ込む。

 遮蔽物を利用して逃げ切るつもり、と美琴は一発で非色の作戦を看破する。確かに効果的だ。街中でビルごと吹っ飛ばすような真似は出来ないし、それでも仕留められるかは微妙なラインだ。

 だが、同じ手で二度も撒かれる程、超能力者は甘くない。

 

「……ふぅ」

 

 集中すると、自身の周りに纏っている電磁波の範囲を広げた。精度は落ちるが、ビルの中にたった一人しかいない人間が何処に向かっているのかくらいは分かる。

 その上で、さらに電気を利用して隣のビルの屋上まで駆け上がった。大体、非色の作戦は理解出来る。普段、屋上を移動しているのは、他人にぶつからないための他に、上からの方が地上を見下ろせる、とかあるだろうが、何より人目につきにくい。従って、犯罪を見掛けたら必ず先手を打てるのだ。

 それは、突然、逃走にも応用出来る。

 

「ほら来た♡」

「げっ……さ、先読み⁉︎」

「もらったァッ‼︎」

 

 放たれたのは電撃、屋上の出口の扉を吹っ飛ばす威力で放たれ、非色はギリギリで回避する。その回避した先に、美琴は回り込んでいた。

 

「チェイサァァァァッッ‼︎」

 

 自販機仕込みの必殺の回し蹴りが放たれた。人にはやらないが、非色には大したダメージにはならないことは分かっている。だが、姿勢を崩す事くらいは可能だ。

 そこから電撃を……なんて考えていたが、甘かった。その脚を、非色は平然と片手で受け止めたから。

 

「おー怖っ……女の子の蹴りじゃないよねこれ……」

「か、片手で……⁉︎」

「ていうか、なんで短パン履いてるんですか? 夏なのに暑くないの?」

「う、うるさいわよ!」

 

 自販機を壊す威力を誇る廻し蹴りを片手で受け止められるとは……まぁ、想定内だが。そうなれば、足から電流を流すだけだ。

 

「あ、やべっ」

「遅い!」

 

 攻撃を察知した非色は慌てて手を離したが、遅かった。モロに電撃を喰らい、反射的に両手をクロスして頭を庇うように構えつつ下がった。

 

「い、痛い……電気マッサージは望んでないんだけど……」

「もっと強めのコースもあるわよ? 次はどのツボを押しましょうか?」

「いやもう延滞料金もまとめて返すから逃して……」

「じゃあ、話しなさい。今、どうなってるの? 本当に子供達は平気なの?」

「それは無理」

「なんでよ⁉︎」

 

 仕方ない、と非色はため息をついた。こうなれば、もう説明する他ない。情報を共有できない理由を。

 

「単純に情報漏洩防止のためだよ」

「誰にも言わないわよ!」

「白井さんにも?」

「それは……く、黒子だって秘密は守るわよ?」

「ほらだめじゃん」

「だ、か、ら、理由を説明しろっての!」

 

 ビリビリと再び放電を始めたため、非色は慌てて説明した。

 

「だ、だから! 二人が仮に口を閉ざしていたとしても、敵に精神感応の能力を持ってたら? もしくは拷問に慣れた相手なら? 情報を持っている、というだけでも危険かもしれないし、そうでなくても否応なしに情報を盗られるかもしれないって事!」

「っ……」

 

 美琴に言い返す術はない。実際、自分には無意識に放っている電磁波があるから、その手の能力は通用しない。しかし、黒子にとっては効果抜群だろう。

 

「そんなわけで、情報は渡せません! 信用とか信頼とか……そういう問題では無いので!」

 

 まぁ、正直、その可能性は低いと踏んでいるが。そうで無ければ、自分にちょっかい出したり、木山を釈放する理由が無いから。

 とはいえ、そうなると拷問という手段もなくはないので、やはり言わないことがベストだ。

 これは、美琴も諦めた方が良いかも……と、思いかけた時だ。

 

「分かった? 物覚えの悪いお嬢ちゃん。分かったら、回れ右180度回転して帰りなさい」

「……」

 

 いつの間にか口が軽くなったヒーローモードによる勝ち誇ったような余計な一言で、美琴はやっぱり何があっても協力してやる、と心に決めるハメになった。

 

 


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