とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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知らない間に事件を呼んでる。

 一方、その頃。テレスティーナは部下からの報告書に目を通していた。非色の後を部下につけさせたが、御坂美琴が乱入して、ミッションは失敗に終わると思ったが、追いかけているうちに二人が話し合いを始めたのが良かった。すぐに盗み聞きする事が出来たからだ。

 テレスティーナこそが、木山の生徒達を狙う張本人、フルネームで木原テレスティーナ・ライフラインである。

 報告書を読んで確信した。やはり、あの非色とかいうガキは木山の持つモルモットについて知っている。それも、かなりの所まで。

 だが、その時点で彼はすでに情報源として使える事が分かった。ちょうど、超電磁砲との信頼関係も完全なものではないようだし、今こそ、こちらの切り札を使う時だろう。

 

「おい、お前」

 

 部屋の中にいる、自分の用心棒に声を掛けた。

 

「……なんだ?」

「仕事だ。固法非色、こいつの始末を頼む。報酬は100万でどうだ?」

「了解した」

 

 二つ返事でOKを出してくれるあたり、やはり使える暗殺者である。

 

「あまり大事にはするな。奴はおそらく、人気の少ない道を選ぶ。お前の把握できる範囲で人がいなくなった時を狙え。おそらくだが……奴は超電磁砲と行動を共にしているはずだ。超電磁砲は逃しても構わん。お前は固法非色を足止めしろ」

「足止め? 仕留めても良いのか?」

「出来るならな。……もし、こちらの予定外の動きをするのであれば、その後の行動は任せる。ただし、必ず超電磁砲が接触する時を待て。明日、絡んで来ないようであれば後日に回しても構わない」

「……わかった」

 

 それだけ話すと、依頼を受けた男はアサルトライフルを担いで部屋を出て行った。

 さて、こちらも色々と準備をしなければならない。

 

 ×××

 

 翌日、目を覚ました非色は木山からのメールに目を通した。一応、追手を最警戒して、子供達を起こすのは夜にするそうだ。

 それまでの間は、ヒーロー活動に専念することにしたわけだが……その前に来て欲しい……との事で、木山に呼び出された場所へ向かった。

 その場所は、冥土返しの病院の一室だった。指定された病室に入ると、木山は上半身、下着姿だった。

 

「ふぅ……暑いな……」

「失礼しまー……ふぁ⁉︎」

「ああ、来たか。座りたまえ」

「し、失礼しました!」

 

 大慌てで引っ込み、扉を閉める。が、その扉はすぐ開かれてしまった。

 

「何故、隠れる? 入ってきたまえ」

「む、無理です! まず服を着て下さい!」

「なぜだ? 暑いだろう」

「良いから着ろー!」

 

 無理矢理、見ないようにしながら背中を押して病室に叩き込み、扉を閉めた。突然のハプニングにバックバクの心臓を手で抑える。頼むからそういうのは勘弁してほしい。家では割と薄着でいることが多い姉がいるとはいえ、家族以外の裸には慣れない。

 

「どうぞ」

 

 改めて招かれ、中に入ると、今度はちゃんとブラウスを着ていた。

 

「ふぅ……もう、やめて下さいよ、そういうの」

「すまないね。あまり夏に衣服を着るということに慣れていないもので」

「原始人ですかあんたは。……で、何の用です?」

 

 ツッコミ続きになる気がしたので、早めに話題を逸らした。自分はああならないようにしよう、と心に固く誓いつつ聞くと、木山はポケットからサングラスを取り出した。

 

「こいつだよ」

「? なんですかそれ?」

「一言で言うなら、変身アイテムって奴だ」

「え、も、もう?」

「もう、だよ。釈放されてから子供達に会えなかった期間に作った」

 

 なるほど、と非色は理解する。

 木山はこちらが聞くまでもなく説明してくれた。

 

「ま、こいつは頭しか包めないんだがね。コスチュームの方はまだ準備中だ。もう少し待っていてくれたまえ」

「すみませんね、なんか」

「いや、君に世話になっている分を考えたら当たり前のことさ。それより、早く試してみないか?」

 

 どうやら、一番はしゃいでいるのは木山のようだ。小さくため息を漏らしつつ、とりあえずサングラスをもらう。

 

「まずは普通にかけてみたまえ」

「あ、はい」

 

 言われて、サングラスを掛ける。レンズの色は黒なのに、視界が無色なのがかなり不思議だったが、木山の説明が続いた。

 

「サングラスのブリッジ……ああ、真ん中の部分についているボタンを押してみたまえ」

「は、はい」

 

 言われて押した直後、サングラスのフレームのあらゆる箇所から顔を覆うように布が形成され、顔を包み込んだ。頭に完全にフィットしているのに、ちゃんと息も出来るようになっている。

 

「す、すごい……! どうですか⁉︎」

「いや、私服姿だから流石に似合うとは言えないな。むしろ、感想をもらいたいのはこちらの方だ」

「あ、そ、そっか……! えっと、とても良いです!」

「息が苦しかったりしないか?」

「いえ、ちゃんと呼吸できますし、目も見えます。特に不快な所はないです」

「そうか。なら、良かったよ。じゃあ、続いてテンプルのあたりについてるボタンを押してみてくれるか?」

「あ、はい」

 

 何かそこにも機能があるのだろうか? と思って押してみると、目の前にあった木山の顔が目前にまで迫って来る。

 

「うわっ……⁉︎」

「遠距離もそいつで見物する事も出来る。長押しで最大、2キロ先まで見れるぞ」

「そんなにですか⁉︎」

「あと、反対側のテンプルのボタンは熱源感知も出来る。それと、隣のボタンで携帯にかかって来た電話をサングラスで応答する事も可能だ」

「す、すごい……」

 

 なんかかなりハイテクなものをもらってしまった。こんなものを作れるなんて、この人やっぱり天才だ、と思わざるを得なかった。

 と、そこでふと思った事を聞いた。

 

「これ外す時はどうしたら良いんですか?」

「同じ場所を押せば良いさ。あ、でも二回押さなければならないがな」

「え、なんでです?」

「一回だと、敵に殴られた拍子に押してしまうかもしれないだろう」

 

 なるほど、と納得しつつ、二回押した。それにより、変身が解除されて元に戻る。これなら、姉に部屋を物色されてもサングラスにしか見えないだろう。

 

「すみません、わざわざ」

「何度も言うが、お礼を言うのは私の方だ。ありがとう」

「いえいえ」

「とりあえず要件は以上だ。……ああ、あと夜の件、頼むぞ」

「はい」

 

 それだけ話して、とりあえず解散となった。木山が部屋を出て行ったのを眺めつつ、ソワソワしたまま、非色はサングラスを胸ポケットにしまう。

 

「……やばい、どうしよう」

 

 めちゃくちゃサングラスを使いたかった。もうヒーローになって暴れたいが、変身シーンを誰かに見られるわけにもいかない。

 

「そ、そうだ……とりあえず夜だ。それまで待たないと……!」

 

 うん、それまで我慢だ。そう、なるべくこういうハイテク機器は日常でいじらない方が良い。

 そう決めたので、とりあえずイメチェンという程で装着した。考えている事と行動が真逆である。

 外見が今までのスキー用ゴーグルとほとんど同じなのが、また最高だ。違う所と言えばゴムで後頭部まで括るタイプか耳にかけるタイプか、という点だ。と、いうのも、耳にかけるタイプだと戦ってる途中で落ちる恐れがあったから。

 が、このサングラスなら戦闘になる場合はマスクで顔を覆うのだから何の問題もない。

 

「ふへっ、ふへへっ……」

 

 気持ち悪い笑みが漏れた時だ。携帯に電話がかかってきた。ちょうど良い機会なのでサングラスで応答する事にした。

 

「もしもし?」

『……あ、非色くんですか?』

 

 初春からだった。自分が最近、絡んでる友達の中で初春から電話がかかって来るのはとても珍しい事だ。

 

『少々、ご相談したいことがあるのですが……今、大丈夫ですか?』

「大丈夫だけど……」

『では、ファミレスで待っています。御坂さんもご一緒です』

「え、み、御坂さんも……?」

 

 浮かれている場合じゃないくらい深刻であることはわかった。もしかして、超人兵士作成計画のことをバラされたのだろうか? だとしたら非常に厄介極まりないが……かと言って、行かないのも不自然だ。

 

「了解。じゃ、後で」

 

 それだけ話して、電話を切った。さて、また気を引き締めなければならない時間だ。

 病院を出てファミレスに向かおうとすると、またまた電話がかかって来た。同じようにサングラスで応答すると、今度は黒子からだった。

 

『……あ、非色さんですの?』

「あ、はい。なんですか?」

『少々、お話ししたい事があるのですが……よろしければ、お時間もらえませんか?』

 

 お前もか、と心の中でツッコミを入れた。まぁ、でも黒子が自分を頼るのは中々、珍しいし、応対するくらいは良いだろう。

 せっかくの相談なら、答える人間は多い方が良いかもしれない。

 

「分かりました。では、ファミレスで」

『ええ。ありがとうございますの。佐天さんもお呼びしております』

「あ、そうですか。了解です」

 

 それだけ話して、今度こそファミレスに向かった。

 

 ×××

 

「ねぇ、あんたバカなの? なんて事してくれるわけ?」

「お、俺の所為ですか……?」

「当たり前じゃん……なんで意図せず爆弾同士を引き合わせてるの?」

 

 目の前にいるのは話好きで友達思いの女子中学生が四人。だが、空気はかなり重かった。

 何故なら、初春と黒子の相談、というのはお互いと喧嘩した、という内容だったからだ。や、本当にやらかした。よりにもよってその二人が向かい合っているのが、もはやギャグの領域である。

 

「……」

「……」

 

 空気が重い。誰も何も話さない。一応、初春の隣に美琴、黒子の隣に佐天と非色が座っているが、この五人がいて会話が盛り上がらないのは初めての経験だった。

 まぁとにかく、こうなってしまった以上は仕方ない。一番、年長者の美琴が全員に声をかけた。

 

「と、とりあえず何か頼もっか?」

「いえ、ドリンクバーを頼んでありますので」

「大丈夫です」

 

 摘みを頼む、という意味で聞いたのだが、当の二人は連れない返事をするだけだった。美琴が気圧されるのは珍しい事だ。

 

「……そ、そうだ。初春! 今、ヤシの実サイダーとコラボしたパフェ出てるらしいよ!」

「別にお腹空いてないので」

「あ、う、うん……」

 

 佐天が聞くも、玉砕。すると、砕かれた二人組は非色を睨んだ。その目は「自分達は頑張った、あとはお前だ」と言わんばかりのものだ。

 仕方なさそうに非色はため息をつく。自慢ではないが、自分はバスジャックも解決してきた男だ。女子中学生二人の喧嘩くらい、なんとかしてみせよう。

 そう決めると、とりあえず聞いてみた。

 

「で、なんで喧嘩してるんですか?」

「「ぶふっ!」」

 

 直球だった。喧嘩中の二人には絶対に言ってはいけない一文。美琴も佐天も吹き出してしまった。当然、他二人はジロリと非色を睨む。

 

「喧嘩? 何を言っておりますの? 公私混同している花飾りが勝手にがなり立てているだけですわ」

「疑われる気持ちも分からない人が何か言っていますね。そんなんだから非色くんにも怖がられるんです」

 

 まるで要領を得なかった。頼むから一から説明してほしい。

 

「分かんないから。一からちゃんと教えて。……あ、まず白井さんからね」

「私からですか?」

「初春さんは口挟まないで。とりあえず白井さんの説明が終わるまで」

「な、なんでですか⁉︎」

「口挟むと、徐々に『あーでもない』『こーでもない』って話がズレるでしょ」

「……わ、分かりました……」

 

 そんなわけで、大体の話を聞いた。黒子が言うには、乱雑解放の件に関しては春上が何かのトリガーになっている可能性があるという。と、いうのも、乱雑解放が起こった時、ほとんど春上が近くにいた事、そしてその予兆のように春上の様子がおかしくなったという点。それと、乱雑解放は何者かが引き起こしている、という点、そして春上の能力は時に能力以上の力を引き起こす、という点からだ。

 しかし、それを聞いた初春は黒子に「春上を疑っているのか」と反発し、今に至るらしい。

 説明が終わった、と判断すると、初春に目を向けた。

 

「初春さん、何か反論は?」

「いえ、特には……」

「……」

 

 さて、非色は何を言い出すのか、と佐天と美琴は息を飲む。なんだかんだ、少なくとも自分達よりはよくやってくれたものだ。もしかして、この手の問題を解決するのに慣れているのだろうか? 

 ソワソワしながら待っていると、非色は佐天と美琴を手招きして顔を寄せた。

 

「えっと……これでなんでここまで話が拗れるの?」

「だから、割と二人とも意地っ張りなのよ!」

「そこまでやったんなら、非色くんが何か言ってあげないと!」

「え、でも俺あんま二人と仲良く無いし……俺よりはお二人みたいな、初春さんや白井さんの親友の人達に何か言われた方が納得いくんじゃ……」

「女々しい!」

「そこは頑張ろうよ!」

 

 なんてヒソヒソやっている時だった。初春が、肩を落としたまま声を掛けた。

 

「……春上さんを、疑っていたわけではないんですか?」

「いえ……厳密には、疑っておりましたの。余りにも、条件が揃っていたので。……ですが、友達であれば目を逸らすよりも、疑いを晴らす事に尽力するのは当然でしょう」

「白井さん……」

 

 少し照れたように、黒子は頬をかきながら答えた。

 自身の思慮の浅さに、初春は心底恥じた。やはり、まだまだ目の前の同期の風紀委員には敵わない。同い年なのに、何故、自分とここまで違うのだろうか。羞恥の中に、悔しさもあった。

 

「……すみません、でした……白井さん」

「別に、謝る必要はありませんわ。春上さんも、自分が何かしてしまった、という自覚はあるようですし、あなたまで私と同じように疑ってかかったら、彼女が保たなかった事でしょう」

「え……」

「今後の捜査も、あなたは春上さんの側にいてあげなさいな」

「は、はい……!」

 

 そう言われ、初春は涙ぐみながらも笑顔で頷いた。

 さて、そうと決まれば、こうはしていられない。自分達には、風紀委員としてやるべき事がある。

 ……いや、でもその前にわざわざ集まってくれた人達にお礼を言わねばならない。

 

「すみません、非色さん。ありがとうございました!」

「ええ、今回は感謝致しますわ」

「だーかーらー! 俺はもう十分、役割は果たしました! そもそも友達もいたことない人に喧嘩の仲裁させんなよ!」

「あんたが二人を引き合わせたんでしょうがァァァァッッ‼︎ 荒らすだけ荒らして逃げるんじゃないわよ!」

「そうだよ! 私達もできる限りフォローするから! だからもう少しがんばろうよ!」

「「……」」

 

 何故か、今度はこっちサイドが揉め始めていた。

 

 ×××

 

 なんかよく分からないうちに解決していた帰り道、非色は美琴と佐天の三人で、まずは佐天を送っていた。

 すでに日は傾いていて、ビルに挟まれて太陽が見えない箇所は、夜と遜色ない暗さとなっている。そんな道を通るのが近道、という佐天に続いて、美琴と非色は後ろをついて歩いていた。

 

「にしても、早く仲直りしてくれて良かったですね」

 

 佐天が微笑みながら呟いた。

 

「このまま喧嘩が続くと、捜査なんて全く進みそうにありませんでしたしね」

「そうね。……まぁ、二人とも割と意地っ張りだから」

「ですよね。初春もアレで割と頑固な所があるし……」

「頑固、と言えば……非色くんも相当よね?」

「えっ」

 

 急に自分の話になり、声を漏らしてしまう非色。急に何だろうか、なんて思うまでもない。やはり、まだ木山の子供達の件についてだろう。

 割としつこいレベル5である。が、まぁそのしつこさが無ければ努力でレベルを1から5まで上げられないのだろう。

 

「どういう意味ですか? 御坂さん。非色くんも頑固……って事ですか?」

「ふふ、どういう意味でしょうね?」

 

 そう言いつつ、ニヤリと微笑みながら非色を見上げる美琴。ホント、いけ好かない相手には性格が良いものである。

 まぁ、流石に戦う力のない佐天にまで情報をバラすような真似はしないだろうが……何にしても、この場では何も言えない。

 話題を逸らすために何か周りに無いかと辺りを見回すも、通っているのは薄暗い駐車場と、ラブホテルの間の為、何も見えない。そのため、何となく携帯を見下ろすと、時刻はあと30分で木山との約束の時間だった。

 

「げっ……もうこんな時間……」

 

 と、言いかけた直後だった。ほんの僅かだが、しかしハッキリと自身の胸を突き刺すような殺気を感じた。それにより、ほぼ反射的に壁沿いに身を寄せて隠れた。

 直後、美琴の電磁波が異物を検知し、佐天を庇うように身を隠した。

 

「危ない!」

「っ……!」

 

 狙われたのは佐天ではないが、流れ弾が当たる可能性を危惧しての行動だった。

 直後、非色と、佐天と美琴の間に一本の透明の線が走る。そのわずか先の地面に減り込んだのは、銃弾だった。

 ライフルでの狙撃、それにより、非色の脳はフル回転する。

 暗殺者、しかもこのタイミングでの一撃。今の今まで、自分が一切、気付かなかったのが最重要ポイントだ。つまり、いつから尾けられていたのか分からない。

 万が一、病室での木山との会話が聞かれていたとしたら、今日の夜に木山が「何かをする」事と、自分が行かないとそれを始められない、ということがバレてしまう。

 この狙撃は、おそらく自分を足止めするための一撃。つまり、暗殺者は狙撃を失敗すると踏んだ今、直接攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。

 あの暗殺者が足止めだとしたら、危険なのは木山達だ。

 そこまで読み切った直後、非色はサングラスを掛けて狙撃位置をサーチすると共に美琴に言った。

 

「御坂さん、佐天さんを連れて今から俺の指定する場所に急いで下さい!」

「どういうことよ⁉︎」

「説明は通話しながらします。急いで!」

「あんたはどうする気⁉︎」

「今の狙撃手を抑えます!」

「……分かった。絶対、戻って来なさいよ」

「当然ですよ」

 

 そう告げた直後、美琴は佐天の手を引いて移動を始めた。狙撃ポイントをサーチしている直後だ。

 銃弾が地面に減り込んだ位置からして、あまり遠くからではない。おそらく、サングラスで追える射程内のはず……と、踏んで探している直後だった。

 今度は、全く包み隠すつもりのない殺気が真上から感じ取れた。

 

「っ!」

 

 今度はライフルではなく、サブマシンガンの連射音が耳に響いた。立体駐車場の上から、大量の銃弾の雨が降り注がれた。

 その場でバク転やらロンダートやらの体操技と受け身を併用させた回避を行いつつ、ジャンプして壁を蹴って銃弾を避けながら跳ね上がって行った。

 駐車場の屋上まで跳ね上がると、そこにいたのは白銀のマスクを着け、髪をポニーテールに束ねた男がサブマシンガンを構えて立っていた。

 

「……」

「……」

 

 何処の誰だか知らないが、良い度胸だ。自分に対し、銃に頼るような奴が敵うはずないというのに。

 着地すると、非色はサングラスの中央のボタンを押した。布製のマスクが徐々に広がり、非色の顔を包み込む。

 そのマスクを着けて、初の戦闘だ。水鉄砲もコスチュームも無いが、人間一人が相手なら十分だろう。

 

「や、どうも。マスク仲間だね」

「……」

「挨拶されたら挨拶しないと。ママに礼儀は大事だって、教わらなかった?」

 

 そう言いつつ、非色は殴り掛かった。殺さないように、なおかつ怪我をさせないように、それでいて気絶する程度のパンチだ。普通の人間に、これを防げる奴はいない。

 が、そのマスクの男は、片手で正面から受け止めた。

 

「……え?」

「死ね」

 

 サブマシンガンを放り捨てたその男は、左脚を思いっきり振るった。非色はそれを腕でガードするが、威力を殺し切れず、身体は大きく飛ばされてラブホテルの屋上まで蹴り飛ばされた。

 

「うあっ……⁉︎」

 

 ゴロン、ゴロンと転がりながらも受け身をとり、マスクの男を睨み付ける。ガードした腕は、まだ痺れている。普通の人間が食らえば折れている威力だろう。

 自分と殴り合いで互角……いや、現状では互角以上の相手、そんな奴と対峙したのは初めてだ。

 

「……お前、誰だ……?」

「……」

 

 非色の中で、過去に無い緊張感が走った。

 

 


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