とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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ヒーローにとってヴィランはただの敵であり、ライバルは同業者である。

 ヒーローと警察は相入れない仲である。それは当たり前のことだ。警察にとっては、結局ヒーローも市民であり、それらが法の外による制裁は私刑と何ら変わらない。特例を簡単に認めるわけにもいかないのだ。

 警察、というわけではないが、似たような立ち位置の風紀委員にとってもそれは同じである。特に、二丁水銃と活動範囲が被っている一七七支部にとっては、目の上のタンコブ的存在だ。

 

「また貴方ですか、二丁水銃!」

「げっ……ジャ、風紀委員……」

 

 最悪のタイミングだった。事件を終えた後のこの時間での遭遇。この後の展開は目に見える。

 

「今度こそ、逃しはしませんのよ!」

「うおっ……!」

 

 姿が消えると共に背後からの悪寒、慌てて避け、ジャンプして信号機の上に着地した。

 少し前までは厳重注意で済んでいた。だが、何度も繰り返すうちにそうはいかなくなってしまった。今や、問答無用で捕らえに来る様である。

 

「そこ!」

「っと、危ねぇ……!」

 

 空間転移を躱すために、信号機の上からさらに別の信号機に移る。しかし、それをさらに追ってきていた。

 一度、路地裏に逃げ込み、360度あらゆる角度から追われる、という事態を回避するためだ。それと、もう一つ狙いがある。

 

「相変わらず、ふざけた反射神経ですのね!」

「やかま、しい!」

 

 壁と壁を蹴って跳ね上がる非色と追う黒子。実際は反射神経だけでなく、敵意を感知する第六感的なものなのだが、まぁ言わぬが花だ。

 もう少しで屋上、という所で、先に黒子から仕掛けた。自身をテレポートさせる直前、金属の矢をテレポートさせた。

 カラン、という音が屋上から聞こえる。それにより、思わず反射的に後ろを見た。

 

「かかり、ましたわね!」

 

 その直後、真下から脚を掴まれた。そのまま手を振るわれ、背中を屋上の角に強打する。

 

「そこです!」

 

 その隙をついて、手錠を構えた時だった。ふと違和感、ホルスターの水鉄砲が消えている。それと共に、脇腹から銃口がのぞかれている。

 

「やばっ……!」

 

 直後、黒子の身体を液体がとらえた。勢いに負け、向かい側のビルの壁に貼り付けられる。

 

「ふぅ……危ない危ない」

「今のは公務執行妨害ですのよ!」

「はいはい。じゃ、俺そろそろ行くから」

「待ちなさい! こんなの、テレポートで……!」

「やめといた方が良いよ。それ服まで染み込んでるから、触れたものをテレポートさせる君の能力じゃ、服ごとその場に残すことになっちゃう」

「っ……!」

「ま、1時間で蒸発する薬だから、それまでおとなしくしてる事だね」

「ふぎぎぎぎ!」

 

 口惜しげに唸りを上げる黒子にピースで挨拶すると、非色はその場から立ち去っていった。

 

 ×××

 

 今日の活動も無事に終えた非色は、自宅のマンションの壁を上り、自室の窓を開けた。そーっと部屋の中に忍び込み、着替えを始める。変身スーツは、普通に畳んでタンスの中にしまっておいた。

 自分と一緒に暮らしている風紀委員の能力は何でも透視することが出来る。下手に隠すのは逆効果だ。

 その点、服ならば畳んでおけばどれも一緒に見えるし、他の物も単品で見れば持ってても不自然でないものばかりだ。何の問題もない。

 さて、そろそろ姉(ということになってる人物)が帰ってくる時間である。風紀委員の勤務時間は最長で21時。それから帰宅時間や諸々の処理を考えると22時くらいになると踏んでの行動だった。

 手早く着替えると、手洗いうがいをして晩飯の準備に入った。固法家の夕食は遅いのだ。

 

「……まぁ、俺料理できないんだけどね……」

 

 だから、大体は冷凍食品になる。姉が非番の時は普通に姉の手作りだったりするのだが。

 お米を炊いで、冷凍庫から適当な冷凍食品を取り出し、レンジでチンし、お風呂の準備をしに行くと、そのタイミングで姉が帰って来た。

 

「ただいま〜……」

「あ、お帰り。姉ちゃん」

 

 お疲れの姉が帰ってきた。

 

「お風呂沸かしてるよ」

「ありがと……ご飯は?」

「ごめん、今日も冷食」

「だよね」

 

 しかし、一年前に姉の料理を手伝おうとしてマンションを爆破した事もあるので、下手に料理を作らせるわけにはいかないのだった。

 手洗いうがいをする姉を眺めながら、レンジからチンした料理を机の上に運ぶ。

 

「ご飯はもう少しで炊けるから」

「はいはい」

「疲れてるね」

「まぁ、夏は問題起こす人多いからね」

 

 現在、7月10日。もうすぐ夏休みである。が、学生はその前に期末試験がある。

 

「試験の方は大丈夫なの?」

「大丈夫だよ」

「すごい自信ね……私なんかいつも苦労してるのに」

「ていうか、そっちこそ平気? 疲れてるみたいだけど」

「まぁねぇ……最近、風紀委員が負傷する事故があってね……」

 

 それに、非色はピクッと顔を上げる。ヒーローなだけあって興味津々だ。

 

「……どんな事件なの?」

「さっぱりよ。分かっているのは、能力による犯行って事。最初は事故だと思われたんだけど、何も無い所で急に爆発が起きたんだから」

「へぇ〜……」

「ちょっと、興味持たないでよ? 本当に怪我人も出てるし、今話したのはあなたにも気をつけて欲しいからなんだから」

「分かってるよ」

 

 分かっていなかった。明日には、その事件について調べる気満々だ。

 

「じゃあ、姉ちゃんも気を付けてね」

「分かってるわよ。……はぁ、二丁水銃の件で白井さんもゴンゴン燃えてるし、もう大変よ」

 

 その話題になると、思わず目を逸らしてしまった。何せそれは自分の所為なのだから。

 

「白井さんって……あ、あー、いつも言ってるテレポーターの子か」

「そうよ……もう、二丁水銃に対抗心燃やしちゃっててね。今日もバスジャック事件を先越されたとかなんとか」

「は、ははは……」

 

 言えない、自分がその相手とは言えない。思わず乾いた笑いを浮かべると、美偉が半顔になって聞いてきた。

 

「聞いた話だと、やっぱ二丁水銃って身体能力がとんでもないそうなんだよね」

「へ、へー……そうなんだ?」

「これは念のために確認しておくんだけど……関係、ないよね?」

「や、やだな。やめてよ……」

 

 固法美偉は、非色が「超人兵士作成計画」の被験者である事を知る数少ないメンバーだ。自分に彼を預かるよう頼んできた、じゃんじゃん言う警備員から聞いた話では「実験は受けたけど何の変化も起きていない被験者」という風に聞いていたが、実際はどうなのかわからない。

 そもそも、預かった当時の彼はほとんど廃人のような状態であったため、本当に超人になったのか確かめることも出来なかったのだから。

 現在まで、超人と思えるような反応を見たことはないが、それはあくまで美偉が見ている範囲での話だ。

 なんとか話を逸らさないと……と、思っていると、お米が炊けた。

 

「あ、で、出来たよ。食べないと」

「ええ、そうね」

 

 話を逸らして、食事をする事にした。

 やはり、言えない。今のセリフ的に十中八九反対される。何より、心配かけさせたくない。

 急に研究所を放り出されて右も左も分からない自分を、ここまで育ててくれた人だし、少なくとも自分にとっては本当の姉のようなものだから。

 でも、せっかく手にしたこの力、活かさないと勿体ない。そうなれば、やはり隠れながらでもヒーローを続ける事がベストだろう。

 

「……はぁ」

「何、悩み?」

「いや、試験面倒だから早く終わらないかなって」

「余裕って言ってたじゃない」

「受ける事自体が面倒なの」

 

 そんな会話をしながら、食事を続けた。

 

 ×××

 

 常盤台中学学生寮では、白井黒子がベッドの上で寝転がっていた。

 こう言った姿を見せるのが珍しいため、同じ部屋の御坂美琴は思わず声をかけてしまった。

 

「どうしたの? 黒子、随分とお疲れじゃない」

「あいつ、あいつですわ……」

「ああ、二丁水銃ね」

 

 噂程度には美琴も聞いていた。変な格好をしたマッチョが、各地で悪い奴をしばき回っている、と。

 

「また逃したわけ?」

「逃しましたわよ! 今回こそ、後少しだったというのに……!」

「あんたも懲りないわね。別に悪い事しているわけじゃないんだし、放っておけば良いのに」

「なし崩しに特例を許すと、他にも似たようなことをする方が増えるでしょう。そうなれば、風紀委員の立場が無くなりますの」

 

 今の所、似たような例は挙げられていない。あの男がヒーローとして活動出来るのは、変態的な身体能力を持っているから、と理解しているからなのか、それともそこまでする勇気がないからなのか。

 前者の場合はまだしも、後者はバカな奴ほど猛威をふるいそうなものだ。

 

「というか、その点ではお姉さまも同じですのよ。一般人ですのに、売られた喧嘩を全て買って……」

「私は別に自分から他人の揉め事に首突っ込んだりしていないわよ。私の場合は、あくまで正当防衛だもの」

「そう言われてしまえばその通りですが……」

「でも、あんたがどうしても勝てないって言うなら、私がそいつをとっちめてやっても良いわよ?」

「お気持ちは嬉しいのですが……彼は別に悪人というわけではないので」

 

 今日だって、命懸けでバスジャックを止めていた。一度はバスの外に追い出されさえしたというのに、それでも諦める事なく食らい付いた。という話をバスジャック被害者の方々から聞いた。

 それでも、やはり特例は見逃せない。あの力は強力だが、それを活かすのならば風紀委員に入るべき、と黒子は思わざるにはいられないからだ。

 それをしないということは、やはり表に出られない理由がある、という事なのだろう。自分の行動が正しいと確信しているのなら、顔を隠す必要なんかないのだ。

 

「ま、私は嫌いじゃないけどね。一回だけだけど、私が絡まれた時に、私の事を知らないで助けてくれた事もあったから」

 

 実際の所、学園都市に7人しかいない超能力者である美琴は、誰が絡んでこようと撃退出来る力を持っている。

 そんな有名人だと知らずに、突然、空から降ってきた二丁水銃はあっさりとヤンキー達を排除して見せた。最後に「女の子が夜道に一人でうろつくのは良くないよ」とか抜かされたのにはムカついたが。

 しかし、今のエピソードは黒子はお気に召さなかったようだ。

 

「……お姉様の露払いは私の役目だと言うのに……あのヒーロー擬き……‼︎」

「いや、あんたの役目でもないから」

 

 奥歯を噛み締める黒子に、冷たく美琴が隣からツッコミを入れた。

 

「と、とにかく! あの男はいつか私が成敗してみせますので、お姉様はお気になさらなくて結構です!」

「あっそ。怪我だけはしないようにね」

「その心配はあのヒーローごっこしているムカつく小童に差し上げて下さいな!」

 

 それだけ不機嫌そうに言い放つと、ベッドの上で再び不貞寝し始めた。自分の事を異常なほど敬愛している黒子が、こういう態度を取るのは珍しい。

 が、別にそれが不愉快に思うことはなかった。むしろ、その不満の割に楽しそうに見える黒子が、どこか微笑ましくもあった。

 

「……ホント、素直じゃないんだから」

 

 お前にだけは言われたくない、そんな呟きを残しながら、美琴も眠る事にした。

 

 

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