とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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すごく読みにくくてすみません。

 一七七支部では、春上について調べていた。やはり、春上の能力が何かのきっかけに触れて乱雑解放を引き起こしている、と見て間違いは無さそうだ。

 だが、彼女自身が自覚して起こしているわけではない以上、彼女を探っても何も出ないだろう。解決すべきは、何が引き金となっているか、だが……。

 

「黒子! いる?」

「っ、お、お姉様?」

 

 電子ロックを能力で解除した美琴が唐突に乗り込んできた。入って来たのは、木山と佐天と美琴の三人だ。

 

「佐天さんと……木山春生まで⁉︎」

「ど、どういう状況ですか⁉︎」

「ご、ごめん……! とにかく、待って……!」

 

 説明するにも、呼吸を整えさせて欲しい。割と修羅場を抜けてきたばかりなのだから。

 椅子に座り、コーヒーを入れてもらい、ようやく落ち着いた。

 

「ふぅ……ありがとう……」

 

 木山はお礼を言うと、すぐに携帯を取り出して立ち上がった。

 

「すまない、私は二丁水銃に連絡を取る。説明は任せて良いか?」

「わ、分かりました……」

「二丁水銃に⁉︎」

「黒子、初春さんと固法先輩も、良いから聞いて」

 

 疑問点を置いといてもらって、とりあえず話を進めることにした。今、あったことを、ヒーローの正体をバラさない範囲で説明した。

 それを知るなり、黒子と初春が顎に手を当てて深刻な顔をする中、美偉がガタッと席を立った。

 

「え、ひ、非色が暗殺者に襲われたって……大丈夫なの⁉︎」

「え? あ、あー……」

 

 しまった、と美琴は目を逸らす。非色は二丁水銃なので大丈夫です、と言えれば良いのだが、それはそれで問題がある。

 

「だ、大丈夫だと思いますよ? さっき家に帰ったって言ってたし……」

「ごめん、みんな。私、心配だから先帰るね」

「え、ちょっ……そうなる⁉︎」

「それはそうよ! 私、これでもあの子の親代わりなんだから!」

 

 まずった、と美琴は奥歯を噛み締める。確かに想像出来たことだ。だが、今帰られるわけにはいかない。

 

「……と、とにかく! 落ち着いて下さい!」

「落ち着いてるわよ。だから帰るの」

「っ、そ、そうですけど……!」

 

 ダメだ、誰がどう考えても帰るのが正しい。引き留める術などない。そう諦めかけた時だ。木山が戻って来た。

 

「……おかしい。彼が出ない」

「え?」

「何をしているんだ……?」

 

 木山の表情が曇る。後を追ってもらったのは、子供達を取り返すためではない。敵の場所を把握するのと、可能な限り情報を集めてもらうためだ。

 しかし、その彼もやられてしまったのだとしたら、これは困った事になる。もう木山がやり返す戦力は無い、ということだ。

 

「……クッ、何をしている……!」

「ごめん、遅くなった」

「え?」

 

 一七七支部の窓に、見覚えが無いのにすぐにあのヒーローだと分かるマスクの男が貼り付いていた。その背中には、何故か婚后の姿もある。

 

「う、二丁水銃⁉︎」

「婚后光子まで……!」

「ごめーん、開けてー」

 

 窓をノックされ、とりあえず黒子がその窓を開けた。

 

「こんばんは、皆様」

「こんばんは、ですわ!」

「どうも〜」

「何故、あなたがここに? 特に、ヒーローさん。ここはあなたのような無法者が来て良い場所ではありませんのよ」

「ん、いや何。木山先生に会いに」

「私は、たまたま戦闘中のヒーローさんを見掛けたので、助太刀しただけですわ。ついでにここまで送ってもらいましたの」

 

 そう言いつつ婚后を風紀委員の支部の中に下ろすと、周りのメンバーに目を向ける事もなく木山に声を掛けた。

 

「子供達の居場所、わかったよ」

「ほ、本当か……⁉︎」

「うん。俺は今日は休んで、明日、取り返しに行く事にする。それだけ」

「へぇ、それで場所は何処なんですの?」

 

 黒子に聞かれるも、非色は小首を傾げる。

 

「教えないけど?」

「……は?」

「だって、あんな駆動鎧がバカみたいにある所、教えられるわけがないじゃん。ああいう悪の組織を相手にするのはヒーローの役目だから。君達は引っ込んでなさい」

 

 ビキッ、と。黒子と美琴の眉間にシワが寄る。本当に人の神経を逆撫でするのが上手い奴である。

 

「ふざけないで下さいます⁉︎」

「そうよ! 私達だって……!」

「はい、閉店ガラガラ」

「なっ……!」

 

 窓を閉めると、非色は問答無用で帰宅した。その背中を見て、美琴も黒子もビキビキと額に青筋を浮かべる。

 

「あんにゃろう……!」

「本当にあの方は……!」

「ま、まぁまぁ、二人とも……」

 

 佐天がやんわりと二人に声を掛けるが、その怒りは収まりそうにない。

 

「とりあえず、今後のことが決まったら教えてくれる? 悪いけど、弟が心配だから私先に帰るから」

「あ、はい。お疲れ様です」

 

 美偉が出て行くのを眺めつつ、木山は子供達に声を掛けた。

 

「それで、どうするつもりだ?」

「私達は明日、行くわよ。二丁水銃一人で手に負える相手だと思えないもの」

「当然、私も参戦いたしますわ」

「私も行きます!」

「わ、私も!」

「君達……」

 

 みんな来るつもりのようだ。本当にバカな子供達だ。お人好しにも程がある。だが、問題は他にある。

 

「では、どうやって奴らの居場所を見つける?」

「ヒーローの後をつけるのがベストでしょう」

「でも、ヒーローの尾行なんて難し過ぎないですか?」

 

 初春の言い分はもっともだ。美琴なら後をつけることも出来るが、それは正体をバラす事と同意だ。それは流石に気がひける。彼が自分達に正体を隠している理由は、普通に納得できる内容だったから。

 

「……なら、私に任せたまえ」

「え?」

 

 手をあげたのは、木山だった。

 

「君達の事は、彼は巻き込みたがらない。でも、私なら当事者だ」

「なるほど……しかし、どのように説得をするおつもりですの?」

「何、簡単なことだ。……彼の弱点は、女の武器だからね」

 

 そのセリフに、中学生四人は小首を傾げた。

 

 ×××

 

 その頃、非色は帰宅した。サングラスを外し、引き出しにしまい、一息つく。今日は私服でヒーローをやっていたので、着替える必要は無かった。割とこのお手軽感は嫌いじゃなかった。まぁ、マッハで正体がバレそうなので乱用は出来ないが。

 そんな事はさておき、だ。あの暗殺者、あいつのことが頭から離れない。

 

「……あいつは、多分……」

 

 十中八九、同じ実験の被験者の生き残りだろう。元々の被験者ナンバーを言ってきたあたり、間違いない。

 その上、格闘の訓練を受けた奴だ。銃器の扱いにも優れ、確実に勝てる、と言えるような相手ではないだろう。それに追加し、駆動鎧軍団……どう考えても簡単に勝てる相手ではない。正面からぶつかれば、数の暴力で蹴散らされるのは目に見えている。

 

「なるべく戦闘は避けていかないと……」

「非色!」

「ひゃいっ⁉︎」

 

 直後、玄関が開かれる音と共に美偉に名前を呼ばれ、肩が震え上がる。非色が何かアクションを取る隙も無く、美偉はサクサクと部屋の中に入ってきた。

 

「非色! 無事⁉︎」

「ぶ、無事って……?」

 

 美偉の目に入ったのは、唇が切れ、頬に青痣があり、何箇所からも血が流れている非色の姿だった。

 直後、何も言えなくなった美偉は、目尻に涙を浮かべながらも、拭くこともせずに非色を抱き締めた。

 

「っ、ね、姉ちゃん⁉︎」

「良かった……生きてて……!」

「な、何の話……?」

「あなたが暗殺者に襲われたって聞いたから心配してたのよ! こんな大怪我して……!」

「あ、暗殺者……?」

 

 マズイ、と非色は冷や汗を流す。恐らくだが、正体がバレたとかではなく、美琴が全部、説明したのだろう。正体をバラさない範囲で。

 正直、いらない心配ではあるのだが、そんな事は口が裂けても言えない。何せ、心配かけさせてしまっているのだから。

 

「ご、ごめん……でも、大袈裟だよ。暗殺者じゃなくて、普通にスキルアウトだったから」

「え、そ、そうなの……?」

「そうだよ。だから、心配しないで」

「それでも心配するわよ! スキルアウトのタチの悪さはあなたより私の方が知ってるんだから!」

 

 確かに、風紀委員と普通の生徒ならそうかもしれない。しかし、非色は普通の生徒ではない。姉は普通だと思っているが。

 つまり、ここは心苦しくても嘘をつくしかなかった。

 

「……そもそも、あなた木山先生に協力してるって聞いてんだけど?」

「あ、うん。それは二丁水銃に『正義のために手伝え』って言われて……」

「……私の弟を変なことに巻き込むなんて……絶対、許さない」

 

 まさかの姉に、自分のために恨まれる瞬間だった。これはもう死んでも正体をバラすわけにはいかないだろう。

 

「でも、とにかくこっちに来なさい。怪我、ひどいから」

「え、そ、そう?」

「そうよ」

 

 言われて、美偉に手を引かれてリビングに来た。消毒液とティッシュを持ってきて、頬や腕の切り傷をチョンチョンと触れられる。

 

「あーあーもう……少しはやり返したんでしょうね?」

「勿論。こう見えて俺、喧嘩強いんだから……」

「バカなことしてるんじゃないの! 相手を怒らせるような事するくらいなら、逃げて助けを求めなさい!」

「ご、ごめんなさい……!」

 

 こういう時、姉の考えは中々に読めないものだった。どう答えれば怒られないか、予想することもできない。

 そんな時だ。非色と美偉の携帯が、ほぼ同時に鳴り出した。

 

「もしもし?」

「もしもし?」

 

 ほぼ同時に応答しながら、とりあえず席を外した。

 

『あ、もしもし。固法先輩ですの?』

『もしもし、二丁水銃くんかい?』

 

 電話の相手は、黒子と木山だった。

 

『非色さんは大丈夫でした?』

『怪我は大丈夫かい?』

「ええ、平気みたい。よかったわよ、ホント……。なんか青痣とか擦り傷とか作ってたけど、大したものじゃないから良かったわ」

「大丈夫なんですけど……敵も侮れませんでしたね。俺、今までの敵から受けた傷は大体、家に帰るまでに怪我は治るんですけど、今回はまだ癒えてなかったみたいで姉に見つかりましたもん」

 

 まずはそんな挨拶代わりの愚痴から入り、続いて本題に入る。

 

『そうでしたか。良かったですの。……それで、子供達の奪還作戦について、ですが』

『そうか。お大事にしてくれ。……明日、子供達を取り返しに行くつもりなんだろう?』

「……ええ、聞かせてちょうだい」

「そうですよ? ……あ、風紀委員の人達は連れていけませんからね。危ないし。せめて、御坂さんまでです」

『二丁水銃の後をつけることになりましたわ。そのため、木山先生に彼と行動を共にしてもらいます』

『私も、一緒に連れて行ってくれないか?』

「なるほどね……。分かったわ。なら、明日は何時頃に集まれば良いのかしら?」

「ダメ」

 

 微妙に雲行きが怪しくなって来たが、2組の話は続く。

 

『彼と木山先生が行動を始め次第……つまり、早朝には一七七支部に集合しますの』

『そう言うと思ったよ。……けど、私はこれでも彼女達の先生なんだ。私が命をかけないで、一体、誰が命をかけると言うんだ?』

「了解したわ。ちなみに、木山先生に追いつく足はあるの?」

「……」

 

 怪しい所を聞く美偉と、黙り込む非色。

 

『問題ありませんわ。……大変、癪な話ですが、婚后光子に協力していただくことになりましたの』

『あの子達は……グスッ、私が命に変えても守らなければならない、生徒達なんだ!』

「……分かった」

「分かりました。……でも、教師の役目は生徒達を教育する事。生徒も先生も命をかけて守るのは、僕の役目です」

 

 二人ともほぼ同時に了解すると、そこで電話を切った。

 再びリビングに戻ると、二人は携帯をポケットにしまう。

 

「ごめん、非色。お姉ちゃん、明日も仕事だからお風呂だけ入ってもう寝るね」

「うん。分かった」

「じゃ、おやすみ」

「うん」

 

 挨拶だけすると、美偉は風呂場に入り、非色も自室に戻った。各々、同じ戦場に立つための備えをしながら。

 

 


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