とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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噛み付く相手は考えろ。

 ヒーローと言っても、中身は普通の中学生と大差ない非色にも、当然「マイブーム」に近いものがあった。それは、例えば戦闘においてどのように現れるか、とか、どうスタイリッシュなセリフを言おうか、とか。仮面をつけているから出来ることではあるが、これが実行出来ると中々、心地良い。

 で、今のマイブームは、家を出る際に、窓から飛び降りる直後にマスクを装着することである。落下しながらの変身、これは誰だって憧れるものだ。あとは戦闘しながら変身などもカッコ良いが、それをやると正体がバレるので無し。

 そんなわけで、早速、飛び降りながらヒーローに変身した。空中で展開されていく木山お手製のマスク。もうこれだけで嬉しいのに、それが空中展開なんてもう……うっほー! と、言わんばかりにテンションが上がった。

 さて、切り替えてヒーロー活動である。街の中を駆け巡り、犯罪を探す。しばらく走っていると、見つけた。空き巣である。

 学生寮の一室の窓を破り、侵入している覆面の男達がいた。すぐにその場へ急行する。

 

「君達、真夏にフルフェイスマスクって暑くないの?」

「ああっ⁉︎ ……げっ」

「ひ、ヒーロー……!」

 

 直後、手を出して来たのは一人の能力者だった。念動能力により、椅子が飛んでくるが、それをしゃがんで避けてカーペットを引いた。それにより、足元を崩された強盗三人は全員、後ろにひっくり返る。

 

「え、今ので全滅?」

「んなろ……! 死ね!」

 

 再び念力で部屋の中にある家具を飛ばしてくるが、それらも軽々回避すると一気に距離を詰めた。

 

「よっこいせっ、と!」

「ガハッ!」

「ゴフッ!」

「ゲハっ!」

 

 空中で一回転しながら三人の顔面、肩、二の腕に蹴りを繰り出す。ほんの軽く蹴ったつもりなのだが、一番気持ちよく当たった肩の相手は、一発で窓の外に弾き飛ばしてしまった。

 

「うわ、やっば!」

 

 慌てて蹴った相手を追いかけ、ベランダから落ちる前にキャッチする。間に合わなければ死んでいたかもしれない。

 と、いうよりも、だ。なんだか頭より身体が軽い気がした。その上で、いつも以上の力が出ている。

 

「……?」

 

 とりあえず、男達を床に水鉄砲で貼り付けてから自分の拳を開いて握り、また開く。まさか、肉体が日々、強くなっているのだろうか? 筋トレをした覚えはないので、あり得る可能性としては「超人の修復力はただ身体を癒すだけでなく、強化して治す」といったあたりか。

 確かに、ここ最近は木山春生(マルチスキル)、AIMバースト、117号、テレスティーナのよう分からん巨大ロボと強敵が多かったし、従ってそれだけ怪我を負っては治してきた。

 

「……あんまり嬉しくないなぁ」

 

 この説が正しかったとして、それだけボコボコにされている、ということだ。それだけではなく、殴られ過ぎるといよいよもって人として生きられなくなる。玄関を開けようとしてドアノブ壊しました、なんてことになったり、友達を軽く小突いたら怪我をさせてしまったり、なんてことも起こりそうだ。

 

「……」

 

 最近は友達が出来て、久々に楽しい期間を味わえたというのに、知りたくもない情報を得て、また友達を失わなくてはならないようだ。何処までも足手まといな体である。

 実際の所、強い奴と戦わなければ良いのかもしれない。強い奴と戦う機会なんて滅多にないのだから。

 しかし、それでも自身の身体が危険であることに変わりはない。

 美偉や佐天、初春、木山、上条などと喧嘩する事はまず無いが、黒子、美琴、黒妻などは喧嘩、或いは共闘する事もある。その際、自身の攻撃に巻き込んでしまう可能性は大いにある。

 

「……はぁ、仕方ない……」

 

 まぁ、元々友達なんていなかったんだし、友達を減らすくらいどうって事ない。

 とりあえず警備員に通報した後、引き続き今はヒーロー活動に専念しようと思った時だ。サングラスに着信があり、応答した。

 

「もしもし?」

『木山だ』

「あ……こんにちは」

 

 自分の正体を知る数少ない人間の一人だった。実は、この人からの電話はずっと楽しみだったりする。なぜなら……。

 

「出来たんですか⁉︎」

『ああ。出来たとも』

「すぐ行きます!」

 

 例の変身アイテムが完成したようだ。一気にご機嫌になった非色は、その場からまるで瞬間移動をしたかのように消え去り、一気に研究所まで走った。ビルの屋上を跳んで走ってすぐに建物の中に入った。

 

「こんちはー!」

「早いな!」

「走りましたからね!」

 

 強化された肉体を早速、使いこなしていた。そんな話はさておき、だ。とにかく今は変身アイテムである。

 

「で、どれですか⁉︎」

「落ち着きたまえ。そんなに嬉しいのかい?」

「そりゃそうですよ! このライダースーツ、着るのも手間だし、暑苦しいし、姉に見つかるわけにはいかないから洗濯する時コソコソしないといけないし……もう散々ですよ」

「そうか。だが、こいつがあればきっとその手間も省くことが出来るさ」

 

 そう言いつつ木山は、近くにある机に置いてあるアタッシュケースを開く。中から取り出したのは、六角形の板で、真ん中に拳銃が銃口をクロスさせて描かれている。大きさは掌と同じくらいのものだ。

 

「これは……フリスビー?」

「すまないね。流石に何かに擬態させることは出来なかった」

「いえいえ、これこそ『特殊アイテム』って感じするでしょう!」

「そ、そうか……」

 

 元気いっぱいにアイテムを受け取る非色を見て、木山はやれやれと笑みを浮かべる。この前、自分の生徒と挨拶した時は大人びているように見えたが、こうしてはしゃいでいる姿を見ると、やはり彼も子供なのだと再認識させられる。

 そんな子に街を守ってもらっているのだから、学園都市の大人も情けないものだ。

 

「で、これどう使うんですか?」

「胸の上に当てて、ボタンを押したまえ。それで、その胸当てから首元から足の先まで覆うスーツが出て来る」

「早速……!」

「あー待ちたまえ。それは使った者を覆うように布が六角形、全体から現れ、背中で再び布と布がくっ付くまで止まらない仕組みだ。ボタンを押したら、足の裏に布が到達する前にジャンプすること」

「な、なるほど……。え、でもそしたら頭も覆ってしまうのでは?」

「大丈夫。前のマスクの布は覆わないように作ってあるからね。……それと、服の上から使えば、その服もスーツの下に包まれる。使うなら、服を脱いだ方が良い」

「わかりました」

 

 元気よく返事をすると、非色はマスクで付近に自分と木山以外の人がいない事を確認すると、ライダースーツを脱いだ。

 

「……意外と平気で脱ぐんだな?」

「え、どういう意味です? てかそれ、木山先生が言います?」

「いや、中学生と言えば思春期だろう。上半身だけならともかく、パンツまで見せてもなんとも思わないとは思わなかった」

「あー……そういえば、あんま気にした事ないですね。研究所にいた時は女性研究者もいましたけど、普通に着替えとか見られてましたから」

 

 それを聞くと、木山は後になってその話題を選んだ事を後悔した。そういえば、彼もこの街の不当な実験の被害者なのだ。人格に、他の中学生とは違うズレがあっても決しておかしくない。

 そういうズレは、木山が修正するしかない。一応、これでも元教師なのだ。

 

「ヒーロー……いや、非色くん」

「え、なんですか?」

「私は大人だから良いけど、友達の風紀委員の子や御坂くん、佐天くんの前で服を脱ぐのはやめておきたまえよ」

「え?」

「中学生はちょうど、異性の身体について学び、興味が出る時期だ。男性が女性に欲情してしまうのと一緒で、女性も男性に欲情してしまうこともある。それを刺激するような真似はやめた方が良い」

 

 木山なりに、なるべく直接的な表現にならないように遠回しに告げようとしていた。

 しかし、非色は眉間にシワを寄せたまま「脱ぎ女が何言ってんの?」と言った顔になる。

 

「いや、木山先生に言われたくないんですけど。暑いからって服を脱ぐ人がどうしたんです? 暑さでやられました?」

「……」

 

 頭に来た。せっかく人が忠告してやっているのにこのガキは……といった具合である。

 いや、実際の所、日頃の行いがこれでもかと言わんばかりに浮き彫りになった結果なのだが、頭に来てしまったものは仕方ない。仕返しの時間である。

 

「……分かったよ、非色くん」

「何がですか?」

「君、生物学に興味はあるかい?」

「あります! あんまり得意じゃないので。この前も生物だけ90点だったんですよ。他は95以上とったのに」

「なら、ヒトの身体について教えよう」

「本当ですか⁉︎ 助かります。特に、人体の何処を殴れば比較的に相手にダメージも後遺症も残らないかを……」

「良いとも」

 

 この後、驚く程、生々しい表現で性教育を受けた。勿論、座学で実演はない。

 

 ×××

 

 性教育後は、悶々とする頭を壁に打ち付けて何とか煩悩を打ち払った。実際に図解で教わったわけではないので、想像力には限界があったのが救いだ。

 そのため、なんとか落ち着くことができた。で、落ち着いてからは早かった。研究所の中で変身を終えた非色は、改めて自分の姿を見る。エッチな話のインパクトで危なかったが、とりあえず改めて、ようやくヒーローっぽくなった自身の姿を確かめる。

 

「ふふ……よっしゃ、しっくり来る……!」

 

 色々あったが、やはり木山には感謝しないといけない。このスーツがあれば、もう毎回、家で変身する必要もない。着替える環境がない場所でも、服の下から胸に当ててボタンを押せば、服の中でスーツは展開される。便利なものをもらってしまった。

 

「っしゃ、行くぞ! 新・ヒーロー出撃!」

 

 元気よくそう言うと、研究所の屋上から飛び降り、夜の街を駆け巡った。

 まるで新しい自転車を買ってもらった子供のように、全速力で街の屋上を走り回る。地上にいる人からは姿もほんの一瞬しか映らないほどの速さだ。

 しかし、人間ははしゃぎ過ぎるとロクな事にならない。それが如何に良い事があったとしても、冷静さと理性だけは損なってはならないものだ。

 気がつけばそれなりに遠くへ来ていた非色は、早速事件を見掛けた。場所は、橋の下に建てられた貨物列車庫。そこで、一際大きな爆発が見えた。

 遠くからでも、優れ物のサングラスによって事件を見ることができる。黒いTシャツに白髪の少年が、どこかで見た覚えがある常盤台の制服を着た少女を追いかけ回していた。

 

「……少し、急ぐか」

 

 そう呟くと、一気にその場から全速力で走り出した。

 

 


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