とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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幻想御手編
追い詰められた人間の思考回路は不可思議。


 期末試験が始まったが、非色にとっては退屈でしかない。理由は単純、簡単だから。勉強しなくても80点は固いし、したら満点取れる。

 が、あまりクラスで浮きたくないし、進学のための成績なら90点前後取れていれば問題ないため、特に勉強するつもりは無かった。

 そのため、試験期間中だけ早くヒーロー活動を出来るわけだが、試験期間は学校によって違う。だから、それに合わせて早めに出動してしまうと、周りに正体がバレてしまうかもしれない。

 ただでさえ、少なくとも一人の風紀委員に目を付けられているのだ。なるべく、今まで通りの行動を取るのが一番だろう。

 よって、試験期間中は図書室やファミレスで勉強する事にしていた。

 

「はぁ……こんな事してる場合じゃないのに……」

 

 なるべくお金を使わないように、図書室で勉強中だ。バイトが出来ればベストなのだが、生憎まだ中学生なのである。

 まぁ、試験期間中はみんな勉強なり「能力測定」やら「身体検査」やらの対策をするため、あまり事件は起きないのだが。

 

「あれ? 固法くん?」

 

 勉強に飽きたため、ペンを投げて図書室の面白そうな本を読んでいると、後ろから声が聞こえた。立っていたのは、佐天である。

 

「あ、さ、佐天さん……」

「試験勉強?」

「え? あー……というより、勉強サボり」

 

 隠すこともなく、読んでいる本を見せた。今、読んでいるのは「ポチでも分かる料理本」である。何故、ポチなのだろうか。普通は猿だろうし、悪くても犬や猫などの動物の名前だろう。

 

「いけないんだー。赤点とっても知らないからね?」

「取らないから大丈夫」

「うわ、ヤな感じ……」

 

 軽く引かれてしまったが、嘘をつくのが苦手な上に、相手が女の子だと緊張して上手く話せなくなるのは弊害である。

 しかし、まぁ謙虚にしておいて損はない。次の返答は気をつける事にした。

 

「前回の試験はどうだったの?」

「どうだったかな……点は覚えてないや」

 

 我ながら上手い返しだ、と思ったりしたが、佐天の次のセリフには少しむきになってしまった。

 

「あ、それあんま良くなかった人の反応じゃん」

「一位だけどね」

「は? 何が?」

「中間のトータル。学年一位」

 

 思わず得意げに答えてから後悔した。何を言っているんだ俺は、と。

 しかし、もう手遅れだった。本来なら向こうも「知り合いを見かけたし、声かけとくか」程度であっただろうに、余計な情報を与えてしまった所為で興味津々に自分の方を眺めてしまっていた。

 

「勉強教えて!」

「え……」

「お願い!」

 

 どうしよう、と思った次第だ。何せ、人に物を教えるのなんか初めてだから。

 上手くできるかどうか不安だが、まぁもしかしたら成績について悩んでいるのかもしれない。

 なら、自分に出来る範囲でなら協力しても良い気もする。

 

「わ、分かったよ……」

「よっし、決まり! じゃ、隣座るね!」

 

 問答無用、と言わんばかりに隣の席に座る佐天。そのまま、勉強道具を出して来た。

 思ったよりも距離が近い。肩と肩がぶつかり、思わず心臓がドキドキしてしまう。これくらい、今の中学生では普通なのだろうか? 一緒に暮らしている義姉は年上過ぎて一周回って意識とかそういうのの外側にいるのだが、同い年だとどうにも緊張してしまう。

 そんな非色の気を知る由もない佐天は、隣に座ったまま教えて欲しい教科のページを開いた。

 

「じゃ、まずは理科ね!」

「あ、う、うん……」

 

 なんかクラスメートに勉強を教えることになってしまった。

 それから、3時間ほど経過した所だろうか。もう良い時間なのでお開きになった。

 中一の理科に難しいことなんかない。定期試験ごとに化学、物理、生物と変わり、今回は物理である。

 しかし、やはり中一の物理なだけあって、単位に惑わされなければほとんど数学や算数と大差ない。単位の変換にさえ気を付ければ、何の問題もないのだから。

 その事を教えてやると、意外なものを見る目で見られてしまった。

 

「……本当に頭良いんだ」

「嘘だと思われてたのん?」

 

 しかし、この程度で頭が良いとか思われても……って感じだった。自分が武器に使っている液体なんて、混ぜて加熱するだけとは言えかなり面倒だが、化学を理解していないと作れない。

 そんなものを作れる時点で中一レベルの頭ではないのだから、その程度で褒められてもあまり嬉しくなかった。

 ……とはいえ、女の子に褒められた、という一点に関してはかなり嬉しかったりもするけれど。

 

「……」

 

 思わず赤くなった頬をぽりぽりと掻いていると、逆に全く意識していなかった佐天は、ニヤリとほくそ笑んだ。

 

「何、褒められて照れてるの?」

「ーっ……て、照れてないよ」

「うわ、うちの弟と似たような反応。意外と可愛いとこあるじゃん」

 

 佐天としても、少し不思議な感覚だった。あまり友達がいないけど、中学生離れしている体格からバッキバキの体育会系だと思っていたが、部活には入っていない。

 いつも一人でいて、たまたま席が近い自分だけが、極々たまに話すくらいの交友関係だ。

 けど、身体だけでなく頭も良いようだ。それに、人と話すのが苦手みたいで、見た目の割に気弱なようだ。

 ちょうど無能力者同士で気が楽だし、仲良くなってみても良いかもしれない。

 

「ね、試験終わった後、暇?」

「え、な、なんで?」

「もし私の成績がよかったら、お礼したいから」

「お、お礼? いや、そんなお礼を言われるようなことは……」

「ダメなら、別にいいけど」

「いや、ダメってことは……」

「じゃ、決まりね」

 

 ニコリと微笑まれては断りづらい。まぁ、ぶっちゃけ同い年の女の子とデートって考えれば悪い気はしないが。

 

「帰ろっか。スーパーの特売終わっちゃう」

「あ、うん」

 

 控えめな返事をして、とりあえず帰宅した。

 

 ×××

 

 家に帰ってからは、ヒーローの時間である。せっかくなので、図書室で料理や裁縫の本を借りて、夜に読んでみることにした。

 だから、珍しく帰宅時間を楽しみにしつつ、とりあえず今はヒーローとしての活動をしなければならない。

 特に、今、気になっているのは能力者による爆破事件だ。この前、姉から話だけは聞いていた。まだ一度めの爆破だけでは何とも言えないが、風紀委員が被害に遭った、と聞いただけでも少し不安になる。

 万に一つの可能性として、風紀委員を狙った爆破事件なら、次は姉がやられるかもしれない。そうなる前に止める。

 

「……もし、俺が風紀委員を狙うとしたら」

 

 まず予告はしない。学園都市の防犯システムは並ではない。予告から足がついたら最悪だ。

 だが、確実に風紀委員を狙えなければ意味がない。予告無しでは風紀委員は動かないため、考えられる可能性は三つ。

 一つは風紀委員のパトロールルートを完全に網羅している事。

 二つ目は、爆破のタイミングを自由に操れる事。

 三つ目は、爆破前に何か大きな信号が送られ、それを風紀委員が掴めるようになっているという事。

 

「……まぁ、二番目が一番、濃厚かな」

 

 とはいえ、まだ爆破事件は一度しか起きていないし、推測どころかただの想像の域も出ていない話だ。とりあえず、今は情報を集める他ない……と、思って屋上を跳ねていた時だ。

 

「ん?」

 

 何処ぞの高校の校舎裏、そこでカツアゲと思わしき影が見えた。数人の生徒が一人の眼鏡の生徒を囲んでいる。同じ制服を着て学校でカツアゲをしている以上、常習犯だろう。

 

「やれやれ……お金に困ってるのかね」

 

 そう言いつつ、飛び降りた。今は別件を捜査中だが、だからと言って見かけた以上は放っておけない。事件の大きさ関係なく、困っている人を助ける事こそヒーローと言える。

 

「サンキュー。じゃ、近いうち返すから」

「さ、財布返してくれよ!」

「返すっつってんだろ!」

 

 中のお札だけ抜いて、財布だけ返して立ち去ろうとする連中に、ヘッドホンを首にかけているメガネの少年は食い下がる。

 が、それを意に返さず蹴り払おうとした時だった。その脚を、変なライダースーツの男が受け止めた。

 

「君達、借金には保証人がいないと成立しないの知ってる?」

「っ! お前……二丁水銃……⁉︎」

 

 カツアゲ犯は全部で五人。楽勝だ。まず蹴りを放った奴の足を払い、転ばせると地面に水鉄砲で縫い付けて一人。

 

「テメッ……!」

 

 二人目が殴りかかって来たが、その拳を受け止めて背中に捻り上げると、校舎の方に突き飛ばし、水鉄砲で貼り付けて二人目。

 その時点で、残り三人は一斉に逃げ出した。

 

「ヒィああああ⁉︎」

「ダメだ、あんな奴に勝てるかよ!」

「逃げろ!」

「あー、ダメだよ君達。帰るなら、お金は置いていかない、と!」

 

 更に3連発、水鉄砲を放つ。狙いは身体ではなく、脚だ。足元がガクンと止められ、動けなくなる三人組。これで、もう逃げられはしない。

 のんびりと財布から金を抜いた奴の前に移動すると、ポケットの中の金を漁る。殴りかかって来ないのは、圧倒的な戦力差を理解しているからだろう。

 

「これだけ?」

「そ、それだけだよ!」

「あっそ。じゃ、今まであの人から盗ってきた総額は?」

「っ……!」

 

 そこまでやる気か? と、思ったが、それ以上はヒーローの役割ではない。本当は取り返してやりたいが、裁きを加えるのは風紀委員や警備員の役目である。

 

「冗談だよ。その辺は俺じゃなくて風紀委員に言いな。‥……今は、これだけで勘弁してあげる」

 

 それだけ言うと、お札を倒れているメガネの少年に手渡した。

 

「大丈夫?」

「っ……あ、ありがとう……」

「血が出てるじゃん。……あ、絆創膏無いや」

 

 今度から持ち歩こう、と決めつつ、とりあえず手を貸してメガネの少年をたたせた。

 

「ま、手当ては風紀委員にしてもらって。……にしても、君は強いな」

「え……?」

「どんなに殴られても、最後まで金を取り返す事を諦めてなかった。うん、良いガッツだ」

「……」

 

 そう言って、肩をポンポンと叩く。

 

「風紀委員には君が通報しておいて。それから、今まで取られたお金の総額もちゃんと伝える事。いじめの現場は十中八九、他人に見られているから、この学校にも目撃者はいてくれていると思うよ」

「え、じゃあなんでそいつらは……」

「ちくったことがバレた時の報復が怖かったんでしょ。でも、そいつらはもう捕まるし、報復される奴もいない。あんなことする奴、みんな口にしないだけで大体嫌われてるから、協力してくれると思うよ」

 

 伝えたいことだけ伝えると、すぐに立ち去ることにした。自分は元々、事件を追いかけていたのだから。

 

「じゃ、またな」

 

 それだけ言うと、ひとっ飛びで屋上まで跳ね上がって、すぐに何処かに行ってしまった。

 取り残された少年は、普段は自分を良いようにサンドバックにしてくるカスどもが、今や自分を相手に身動き取れなくなっている場面を目にした。

 一瞬、靴を脱げば脱出されてしまうかも、なんてヒヤッとしたが、抜かりなく靴だけでなく足首以下全てを地面に貼り付けている。

 そんな事よりも、だ。彼は、助けてくれた。あんなに人数がいる風紀委員ですら、今のいままで自分がいじめられていた場面を見つけられなかったというのに、たった一人しかいない彼は、自分のピンチの前に颯爽と現れて救ってくれた。

 

「……ヒーロー」

 

 思わず、ポツリと呟く。そうだ、そんな事よりも通報しなくては。そう思ってスマホを出した時だ。

 

「なぁ、おい!」

 

 いじめっ子の一人が声をかけてきた。

 

「もうこれ以上、お前から金は貰わねえ。今まで貰った分も返す。だから頼む、これ外してくれ。風紀委員の世話なんかにゃ、なりたくねえんだよ!」

「そ、そうだ。頼むわ」

「なんなら色つけて返してやっからよ!」

 

 その勝手過ぎる言い草が、少年のシャクに触った。全く馬鹿にされたものである。そもそも、今までの分はあげたわけではない。貸すと言ったわけでもない。勝手に持っていかれただけだ。

 その上、如何にもウソくさい言い分を並べ、しまいには「返してやっからよ!」だそうだ。

 そうだ、前々から気に食わなかった。自分がこんな目に遭うのは、全てこいつらが悪い。自分を守らない風紀委員に復讐するのはやめだ。あんなバカ達に何かを期待する事自体が間違っている。

 それよりも、元を叩く。ヒーローの仕事が少しでも減るように、ヒーローを手伝う。

 丁度良いことに、近くに石が落ちていた。刑事ドラマとかでよく見る、撲殺するのにちょうど良い石だ。

 

「お、おい……?」

「そんなもん拾ってどうする気だよ……?」

「決まっているだろ……?」

 

 ゆらりと石を拾い上げた少年は、身動きの取れない同級生の一人の前に立った。

 

「僕も悪を根絶やしにして、ヒーローになるんだよ」

 

 そこから先は、Rー15映画のような光景だった。全員が全員、頭を石で殴られ、気を失った。5人揃って息があるのが奇跡なほどだ。

 さて、それからどうするか。まずは、凶器の処分である。石をその辺に捨てると、その近くに鞄から出したスプーンを放った。まだ近くには、五人の人間が転がっているというのにお構い無しだ。

 

「運が良けりゃ、生き残れるかもな。クズども」

 

 それだけ言うと、その場を立ち去った。能力を発動しながら。

 背後から爆発音が聞こえるが、振り返ること無く学校を出る。こういう時に便利だ、爆発というのは。何せ、自分がやったという証拠をまとめて吹き飛ばせるのだから。

 

「まずは、スキルアウトをまとめて吹き飛ばしてやる……」

 

 ニヤリとほくそ笑むと、少年はスプーンの調達に向かった。

 

 


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