とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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何位であっても超能力者は厄介。

 実験開始時刻まで、残り5分。ミサカと一方通行は、既に対峙して後は待つだけとなっている。

 そんな中、ミサカは夜空を眺めた。今日で、自身の命は尽きる。とはいえ、今日の経験は別のミサカに引き継がれる。何も悲しむ必要などないのだ。

 今までは、ただぼんやりとこの時間を待つだけであったが、最近は余計なことを考えるようになっていた。

 それは、今日はあのヒーローはどのような手で一方通行と渡り合うのか、という事だ。まぁ、基本は渡り合えずにボロカスにされているだけなのだが。

 

「そォいやよォ、オマエらさ」

「なんでしょうか?」

 

 珍しく、実験開始前に声をかけてきた一方通行に、ミサカは相変わらず無機質に聞く。

 

「アイツのことどう思ってンだ? あのヒーローもどき」

「どうも思っていませんが」

「……フーン、つまンねェ返事だな」

 

 どうでもよさそうに一方通行は相槌を返す。最近、一方通行はあのヒーローもどきが来る事に苛立ちを覚えていた。

 何なのだろうか、あいつは。今まで絡んできた連中のどいつとも違う。そもそも、そいつらは一度、ボコされたら絶対に立ち向かって来ない。一方通行の気まぐれ次第では殺していたから、と言うのもあるが、何より絶対的な恐怖を植えつけていたからだ。

 だが、あのヒーローはどんな目に遭わされても、必ず別の手を考えて突撃して来る。いい加減、鬱陶しかったりするものだ。

 

「……ですが、最近はこうも思っています」

「アン?」

「彼が助けに来てくれる事が、嬉しいと感じることも少なくありません」

「……チッ」

 

 それを聞いて、一方通行は小さく舌打ちをする。あいつに助けられるはずもないと言うのに、呑気なクローンだ。やはり、目の前のこいつは人形に他ならない。

 

「……時間です」

「オォ」

 

 時刻になり、とりあえず一方通行は「今日来たら殺すか」と決めながら、その前座戦を開始した。

 

 ×××

 

「ッ……!」

 

 三人がかりの猛攻を、非色は一人で凌ぐ。いや、滝壺も合わせたら四人がかりとも言えるだろう。ビーム、拳などをとにかく回避し続け、距離を置く。

 

「ちょっと君達! 人に向かって危ない事しちゃいけません!」

「うるっせぇんだよクソガキがァッ! 避けられてるからって調子こいてんじゃねェぞ!」

「いやいや、調子に乗れないでしょ、この手数! ていうか、せっかく綺麗なのにそんな言葉使いじゃモテないよ?」

「……うわあ」

 

 相変わらず軽口を叩く非色を眺めながら、麦野と共に移動していた絹旗は引き気味に呟いた。あの男、麦野が完全に嫌うタイプの人種である。

 口が軽くて、それでいてピョンピョン逃げ続けて、ストレスばかり与えてくるムカつくタイプ。この仕事、絶対にしくじれない。

 

「……フレンダ。そろそろ施設中に爆弾は仕掛けられました? 麦野、超機嫌悪いです」

『終わったよ! 三人が気を引いてくれたお陰で!』

「だそうです、麦野」

「滝壺、指定したルートを使って施設から出なさい。後は私達だけでやるわ」

「え……?」

 

 最初から全開でやればさっさとカタをつけられる、と踏んでいたが、あのヒーローの能力は想像以上だった。そのため、序盤から「体晶」を飲ませてしまったのは間違いだったわけだ。

 それをカバーするために、途中からフレンダを別行動させ、爆弾を設置させた。サポートに徹しさせ、起爆によって居場所を知らせる役目だ。

 いわば、擬似的な滝壺の役割。勿論、精度は大幅に下がるが、奴を目視出来る上で拳が届かない位置から離さないようにすればカバー出来る。

 絹旗は、万が一、近付かれ過ぎた時の肉弾戦役だ。……まぁ、今の戦闘の様子を見ている感じだと、必要なさそうではあるが。

 

「よし、じゃあやるわよ」

 

 そう言ってビームをぶっ放そうとした直後だ。予想外のことが起きた。暗闇から、ヒーローが自ら顔を出しに来た。

 

「……何あんた。自殺願望でもあんの?」

「いや? ただ、逃げきれそうも無いし、もうさっさと済ませた方が早いと思っただけ」

「ちょっ、あんたお願いだから口に超気をつけて下さいよ……」

 

 絹旗がヒヤリと肝を冷やしたのとほぼ同時のタイミングで、麦野の額に青筋が立つ。

 

「小便くさいガキが……もしかして、本気でやれば私に勝てるとか思ってんの?」

「思ってない」

「ア?」

「ただ、それでも勝たないといけない。この後に、一方通行との戦いが待ってるから」

「はァ? 一方通行だ?」

 

 眉間にシワを寄せる麦野。目の前のヒーローは自分達の後にもまた超能力者とやるつもりのようだ。

 

「その前に一つ、なんで俺を狙ってるわけ?」

「仕事。そんだけ」

「……って言うと、殺し屋的な?」

「そんなとこ。さ、もう良い?」

「……」

 

 黙ったまま、非色は腰に手を当てて下を向く。何かに失望しているようなその仕草に、麦野は片眉を上げた。

 

「……なんだよ?」

「あんたら、学園都市に何か弱みでも握られてんの?」

「あ? 別にそんなんねェよ」

「じゃあなんでそんな事してんの?」

 

 もう聞くのも嫌、と言わんばかりに隣の絹旗が耳を塞ぐ中、麦野も下を向く。綺麗な長髪を前に垂らし、ガシガシと頭をかきながら、口元を大きく歪めた。

 

「くっ……かはっ、プハハハハっ! なんだお前! もしかして、私達に同情とかズレた事してんじゃねェだろうな⁉︎」

「してるよ」

「なら、テメェは想像を超えたバカだな! 暗部の仕事に良いも悪いもねェんだよ! 心の根っこは良い奴だとか、話せばわかるだとか、そんな甘っちょろく出来てねェんだよ、この街は!」

 

 大声で笑いながら続く麦野の台詞を、非色は黙って耳を傾ける。

 

「テメェが今、何に関わってんのかなんて知らねェが、テメェみたいなお子様に、この街の闇がどうにか出来ると思ってんのかァ⁉︎」

「思ってるよ」

「……ア?」

「俺だって、この街の闇に触れてきた。ていうか、俺のこの力が闇から貰ったようなもんだ」

 

 言いながら、非色は近くにある壁を軽く殴る。軽く殴った程度なのに、その壁に穴が空いた。

 

「でも、こうしてヒーローをやってる。どんなに酷い目に遭わされても、もう人として生きれない身体にさせられても、やっぱり良心は捨てられないんだ」

「……」

 

 非色の言葉を聞きながら、絹旗は隣の麦野を見上げる。その表情は、今まで見たことのない顔をしていた。

 

「あんたらが殺しを強要させられているなら、俺が力になる。あんたらがしたく無い事をさせられているのなら、俺がそれをやめさせる。だから……」

「もォいい」

 

 ピリッとした声が、非色のセリフを遮った。その冷たさは、隣にいる絹旗、さらにはその場から遠くにいるフレンダの背筋も伸ばすほどだ。

 

「ゴチャゴチャとガキが偉そうにズレた事言いやがって……! テメェ、五体満足で生きて帰れると思うなよ」

「……」

 

 その場で、ビームが思いっきり拡散した。

 

 ×××

 

 御坂美琴が二丁水銃と決別してから、四日が経過していた。その間、何もしていなかったわけでは無い。絶対能力者計画に加担している研究所を片っ端から潰していた。

 今日であと二箇所、畳めば終わりだ。その一箇所を終えた所だった。ブロックとか言う連中が茶々を入れてきたが、たいした事なかったのであっさりと返り討ちにして撤退させた所である。

 ……さて、これからもう一箇所に顔を出しに行く。そこで全てが終わるはずなのだから。

 

「……」

 

 そういえば、あのヒーローもどきは何をしているのだろうか? なんか死んだとか言う噂が流れていたが。

 黒子に心配をかけさせるとは良い度胸している、と自分を棚に上げて苛立つ。

 まぁ、正直どうなっても知ったことでは無いが。と、いうのも、何となくだが彼は生きている気がする。生命力だけで言えばゴキブリ並みなのだ、あの男は。

 それよりも、今は自分がやってしまった事への責任を取らなければならない。こんなクソみたいな実験、一秒でも早く止めなければならない。

 そのために、次の研究所に向かった。

 

 ×××

 

 研究所は、外から見たら丸い形をしていて、中はやたらと広くなっていた。実際の施設は地下の方にあり、上半分は通路や階段がやたらとあって入り組んでいて、何を研究するのかわからない施設となっている。

 勿論、地下以外にもチョイチョイ、小部屋があったりしているが、人は何故か全員、地下にいて上がってくることはなかった。

 だから、と言うわけでも無いが、存分に暴れている麦野の指先から、ドドドドッ、と派手な衝撃音が研究所内に響き渡された。緑色の光線が乱射され、施設内に幾つもの穴を空けていく。

 一発でも当たればアウトの威力の物が大量に飛んでくる中、非色は冷静に対処していく。

 一先ず、ビームよりも先に位置情報を知らせてくる奴をなんとかしないとどうしようもない。

 

「まったく……ここはライブ会場じゃ無いでしょうに……!」

 

 まるでアイドルのライブのように辺りを照らす緑色の光線を眺めながらそんなことを呟きつつ、熱源感知で自身にひっついている奴の位置を探った。

 まぁ、大体探るまでもなく予測は出来るが。そもそも自分と普通の人間では速さが違う。それでもついて来れている以上は、この円形の建物の内側にいるのだろう。

 その上で、全体が見渡せる上の方を陣取っているのはすぐにわかった。

 

「……ビンゴ」

 

 そこから熱源感知を成功する。まずはそいつからだ。

 壁を蹴って階段をショートカットしつつ、一番真上に到着すると、非色の動きに気付いていたのか、フレンダは逃走を開始していた。向こうも、双眼鏡か何か使っているのだろう。

 そのために、まずは敵の視線を切るために小部屋に入った。一時的に、麦野達からもフレンダからも視線を切ると、非色は小部屋の中を見回した。棚を見つけたので、中を開ける。そこには、白衣が入っていた。

 

「……よし」

 

 それを視認すると、胸の板を押してスーツを格納し、マスクも解除する。その上で、白衣を羽織り、水鉄砲を懐に隠した。

 直後、小部屋の壁を椅子で殴って破壊した。椅子も粉々になったが。その後は、壁にもたれかかって尻餅をつく。直後、麦野のビームによって、部屋に大きな穴が空けられた。

 

「超当たりました?」

「当たってないわね。多分、逃げられたか引きこもってるか……ん?」

 

 その穴の中から、麦野と絹旗が入って来る。その二人の視線に止まったのは、研究員の格好をした非色だった。

 

「ねぇ、あんた。ここにヒーロー来なかった?」

「ひ、ヒーローでしたら……か、壁を壊して……外に……」

「あっそ。フレンダ。この穴から誰か出て行った?」

『穴? 分かんないけど、ここからそこは死角ってわけよ』

「了解。追うわよ」

「わかりました。そこの人、ここは危険です。超逃げて下さい」

「は、はい……!」

 

 バタバタと小部屋を出て行った非色は、そのまま走って研究所内を回る。白衣を途中で脱ぎ捨てると、壁をよじ登ってフレンダが篭っている監視場に向かった。

 その途中で、マスクとスーツを装備する。

 

「う〜……やばいやばいやばいってわけよ……! 早くあのエセヒーローを見つけないと、麦野に怒られるってわけで……!」

「もう遅いよ」

「っ……!」

 

 直後、非色が後ろから飛び降りる。それに気付いたフレンダも、テープに着火した。

 足場もろとも爆発が起こり、非色もフレンダも落下する。真下に通路はあるがこの高さから落ちたら普通の人は死ぬ。

 

「あんた、正気⁉︎」

「この仕事に命かけてんの! あんたに殺されるくらいなら、一緒に死んでやるってわけよ!」

 

 そうは言いつつも、フレンダはちゃんと片手にロープを握っている。繋がっている先は天井だ。

 頬に汗を浮かべながら、水鉄砲を糸状にして放ち、結びつけると自身の方に引き寄せた。

 

「なっ……何を……⁉︎」

「俺は、あんたらを殺すつもりなんかないよ」

 

 胸前に抱えると、自身の背中を下にして着地する。大きく凹んで変形する通路。

 助けられてしまったが、フレンダにとって標的であると言う点は変わっていない。この男が気を抜いた直後に叩きのめす……と、思ったのだが、非色はその敵意を敏感に感じ取っていた。

 すぐに自身の上から退かすと、水鉄砲でくくり付けた。

 

「なっ……⁉︎」

「よし、一丁あがりっ」

 

 そう言った直後だった。正面からビームが飛んで来る。それを非色は宙返りで回避し、敵の方を睨んだ。そこにいるのは麦野一人だった。

 

「間一髪だったわね、フレンダ」

「む、麦野〜!」

「待ってなさい。すぐに片付けるから」

 

 一本道なら、原子崩し以上に使える能力はない。その確信は間違ってはいなかった。

 だが、今回の相手は人では無い化け物である。非色は、平然と通路の上から飛び降りた。下は底が見えないほどの奈落であるにも関わらず。

 しかし、麦野の顔色に油断はない。下から来ると分かっているからだ。

 

「っ……!」

「読めてんだよガキがッ!」

 

 通路の下をウンテイのような要領で移動してきた非色が跳ね上がり、空中に跳んだのとビームを放ったのがほぼ同時だった。

 非色はビームを避け切り、非色が空中から放った液体は麦野の両足を床に固定した。

 

「っ……!」

「チッ……クソガキが……ネバネバした白濁液ぶちまけやがって早漏野郎……!」

「そうろうって……何?」

「本当にガキかテメェは、よォ‼︎」

 

 脚を固定された麦野は、さらにビームを乱射する。それらを欄干を使って跳ね回りながら避け続けた。

 普通の人間に、自身の原子崩しがこうも簡単に避けられるはずがない。前から人と違う力を持っているとは思っていたが、これは流石に予想外だ。

 これでは、まるで超能力者である。それも未来視、肉体強化と二つの能力を兼ね備えたような、そんなパワーだ。

 それだけに、解せない点が多過ぎる。

 

「おい、テメェ」

「何?」

「なんで、攻撃して来ないわけ? どこまで私達をナメてんの?」

「なんでって……女の子を殴るヒーローがいる?」

 

 近くにいたフレンダが、思わずギョッとしてしまった。目の前の凶悪な超能力者の逆鱗に、何故そこまで触れられるのか。もう天才だった。

 

「人をナメんのも大概にしろよ粗チ○野郎ォオオオオッッ‼︎」

「そち……? って、うおわああ⁉︎」

 

 怒りの極太ビームをヒラリと躱した割に、大袈裟な悲鳴を上げながら距離を置く非色を見て、尚更、麦野は眉間にシワを寄せた。

 

「絹旗ァッ‼︎ 絶対そいつ逃すな! マジでブチ殺す!」

『ち、超了解です』

 

 殺意が高まったリーダーに、絹旗もフレンダも肝を冷やすしかなかった。

 とりあえず、仕事をしないと自分達が殺されかねない。非色の移動先を先読みした絹旗が、一気に強襲を仕掛ける。

 その拳を、非色は回避して距離を置いた。

 

「危なっ……!」

「あなたに恨みはありませんが……超逃がしません」

「君は……小学生? 感心しないなぁ、そんな子がこんな時間にウロウロするなんて」

「殺す」

 

 また地雷をぶち抜く非色だった。トサカに来た絹旗は、一気に猛襲を開始。顔面に殴りかかり、それを避けられると廻し蹴りを放つ。

 それもガードされると、今度は逆の手でアッパーを放つが、後ろに反り身で回避されてしまう。

 

「超避けンなァッ‼︎」

「いや、避けるでしょ」

 

 冷静に言い返しつつ、絹旗の攻撃を捌く。それがまた腹立たしい絹旗は、フルパワーでぶん殴ろうと拳に力と窒素を込めた。

 地面を蹴って一気に叩く……と、思ったが、足が何かに引っ張られる感覚。ふと下を見ると、水鉄砲から飛び出た液体が床に散らばっていた。

 

「っ、い、いつの間に……⁉︎」

「そこ」

 

 その直後、非色はあっさりと絹旗の後ろに回り込むと、膝の後ろを軽く蹴って後ろに引き倒し、両腕とお腹を水鉄砲で固定する。

 

「こ、こンなもの……!」

「やめた方が良いよ。それやってまず千切れるのは洋服の方だから」

「っ……!」

「はい。二人目……」

 

 と、思った直後だった。背後から悪寒が走る。振り返るのと両腕をクロスしてガードするのがほぼ同時だった。

 麦野の蹴りが迫って来て、ガードで受け切る。その後にできた隙を、逃さずビームで追撃して来るが、水鉄砲で糸を出して壁の方に避けた。

 

「む、麦野……すみません。超やられました」

「気にしなくて良いわ。正直、侮ってたから。……あの軽口のムカつき度も」

「……」

「私がこの手で直々にブチ殺すから」

 

 いいながら、麦野は自身の周りに光の球を浮かべた。

 

 


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