とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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勝負は時の運。

 自身の肉体にダメージが入り、治る程、身体は強くなる、そのような肉体である事に気付いた直後、一方通行との戦闘が始まった。

 科学の街にいる以上、運命なんてものは信じていないタチである非色だが、少しそう言った何かを感じ取ってしまった。最強の超能力者と戦い、負ければ負けるほど身体は強くなる。

 その肉体を試す暇もなかったので、今はどれだけの性能があるか分かってもいなかった。

 その上、今日の相手は今まで戦っていた一方通行と比べると、遥かに格下。つまり、余りにも心に余裕があった。

 

「ほっ、よっ、と……」

「ちょこまか逃げてんじゃねェぞ! それでも男か、アア⁉︎」

 

 恐ろしい事を怒鳴り散らしながら後を元気に追ってくる。

 脚を地面と固定させたはずなのに、どうやってあそこから抜け出して来たのだろうか? なんて考える余裕まであった。

 

「……って、そんなの考えるまでも無いか」

 

 おそらく、あのビームだろう。出力を調整すれば、糸だけ焼き切ることも可能だ。微妙に破れている私服が良い証拠だ。

 ……さて、ここからどうするか。このまま相手をしてやっても良いが、そもそも本来の目的はここではない。ならば、ここで止めて通報した方が良いだろう。

 

「……さて、問題はどう戦うか」

 

 殴るのは論外、かと言って、暴力無しに勝てる相手では無い。とりあえず、まだあの能力に関しての情報が足りない。

 幸い、殴る蹴る以外にも封じる手はある。顔に水鉄砲をぶちまければ、視界を潰せて終わりだ。

 ……だが、顔面を潰すにはやはり隙が必要だ。能力を使い切らせてダウンさせれば隙もクソもあったものでは無いが、それでは実験の方が終わってしまう。

 

「一方通行戦まで取っておきたかったけど……」

 

 小さく呟くと、マスクの機能をオンにした。木山が作り直してくれたマスクには、新たな機能が追加されている。

 それは、対能力者用モードである。能力者が相手の時にのみ使える視界制御で、他人が能力を使う直前のAIM拡散力場を視認して、非色の第六感では分からない「能力を何処に使うつもりか」を視認する力だ。今回の相手にはもってこいの機能である。

 ただし、制限時間があり、3分が限度だ。だからこそ、非色は気に入っていた。制限時間付きのパワーアップはかなり燃える。それ故に、そのモードの名前まで考えていた。

 

「『対超能力者(スキルハンター)モード』……!」

 

 二丁水銃という名前に文句をつけた割に、同じレベルだった。麦野を視界にとらえると、壁を走って一気に急接近する。

 

「お、やる気になったかァ?」

 

 好戦的に微笑んだ麦野は、光線を連射する。それを発動する前に回避しつつ、壁を蹴って反対側の壁に飛び移り、さらに別の壁に着地しながら水鉄砲を放つ。

 

「あ?」

 

 その液体を、麦野は手で円を描き、能力によってシールドを張る。液体を燃やし尽くし、反対側の手からビームを放つ。それが正確に非色の方に飛んで来たが、それが読めていた非色は糸状にした水鉄砲で壁際に避ける。

 水鉄砲を再度放つ。今度は煙幕だ。

 

「煙幕なんてつまんねェマネが通用するかクソガキが!」

 

 能力で片っ端から薙ぎ払うが、目の前に非色の姿が無くなっている。直後、背後から液体が足に飛んできた。また正確に両足を地面と縫い付ける。

 

「チっ……! 聞いてたスペックと全然、違ェぞクソがッ!」

 

 さらに、回り込んで水鉄砲を5発放つ。それらを麦野は迎撃するが、2発は抜けてさらに両手足を拘束した。

 

「テメェ……!」

「悪いけど、助けたい人が待っているんだ。君達に構っている暇は無い」

 

 最後に、顔面に銃口を向けた時だった。ふと、背後から悪寒が走る。慌てて横に避けた直後、フレンダと絹旗の同時攻撃が自身のいた場所を空振りした。

 

「あっぶな……!」

「本当に超予知能力でも持ってんですかあいつ⁉︎」

「麦野、平気⁉︎」

「二人とも……どうやって……!」

「わたしがたすけた」

「滝壺⁉︎」

 

 後からやってきたのはジャージ姿の少女だった。手にはライターを持っている。ヒーローの液体は火や電気に弱い。弱火でじっくり炙っていけば、外すことはできる。勿論、服は多少なりとも燃えてしまうが。

 下着が破れた服から微妙に見えてしまっていて、非色は微妙に視線を逸らす。

 滝壺に麦野が声を掛けた。

 

「あんた、なんでここに……!」

「だいじょうぶ、わたしはまだやれるよ」

「そうじゃなくて……」

「私の居場所、ここだけだから……」

「っ……」

 

 それを聴き、麦野は少し黙り込んでしまう。だが、これ以上は無理させられない。これがアイテム壊滅の瀬戸際とかであれば話は別だが、所詮は一仕事である。

 

「よくやってくれたわ、滝壺。でも、もう平気よ」

「でも……」

「これ以上、あんたに働かせるのは割に合わないの。今回の仕事を失敗したら私達、処罰されるとかそんなんじゃないんだし、無理はしない事」

「むぎの……」

 

 それだけ話すと、絹旗とフレンダに声を掛ける。

 

「二人とも、あのヒーローを逃さないようにしなさい。決してまたあの液体に捕まらない事。引き気味に距離を取って戦いなさい。私がここから抜け次第、本気で潰しに掛かるから。私が来たら、あなた達も撤退して良いわよ」

「え、ほ、本気で……?」

「今の今まで、所詮、無能力者だとナメてたわ」

 

 そう言って笑う麦野の表情は、今まで見た笑みのどれよりも凶悪なモノだった。

 一方、その標的である非色は。面白くなさそうにその様子を眺めていた。なんていうか、まるで自分の方が悪役のようで納得がいかなかった。

 ぼんやりしている間に、対超能力者モードが切れ、通常時に戻ってしまう。

 

「……」

 

 その直後だった。絹旗が正面から殴りかかって来た。それを回避するが、その後を追うように絹旗は攻撃を仕掛けて来る。

 

「ねぇ、そろそろ帰ったら? 俺、これ以上は時間取れないんだけど」

「超そうもいきませんね。私達にも意地がありますので」

「俺は別に君達の敵ってわけじゃないんだけど……」

「私達にとっては敵です」

 

 絹旗の攻撃を避け続けながら後ろに距離を置きつつ、地面に水鉄砲を撃つ。が、絹旗はそれを踏む事なく飛び越えた。

 

「何度も同じ手が通用すると超思うな!」

 

 そのまま廻し蹴りが脇腹に飛んで来るが、ガードしながら真横に飛んで威力を殺した。

 直後、遠くから小さなロケットのような爆弾が飛んでくる。それを、非色は壁を蹴って回避し、着地する。その着地した先に、再び絹旗が攻めてきた。襲い来る猛襲を捌きつつ、距離を離して水鉄砲を構える。

 が、絹旗はその射線から外れて距離を置きつつ、近くの壁を殴った。粉々になった瓦礫を持ち上げると、非色にぶん投げた。

 背面飛びでそれを回避しつつ、瓦礫をキャッチする。それを使い、後方から飛んでくる爆弾に投げつけて相殺した。

 

「……攻めが慎重になってきたな」

 

 水鉄砲の射程内に入らず、遠巻きに攻めて来る。中々、やりづらい。だが、このままでは敵もこちらに決定打を与えられないのは分かっているはずだ。

 多分、この後に……。

 

「絹旗、フレンダ。下がりな」

 

 緑色の太いビームが、非色の真横に飛んで来た。まるでわざと外すかのように放たれ、非色も足を動かすことはなかった。

 

「来ちゃったか……」

「来てあげたわ」

「もう一回、聞くけど……見逃してくれるわけにはいかないんだよね?」

「いくわけねェだろ。ここまで私らをおちょくっておいてふざけてんじゃねェぞ」

 

 麦野が現れるなり、絹旗とフレンダは撤退していく。その表情はさっきまでとは大きく違い、油断も何もない。もう今までと同じように翻弄するのは難しいだろう。

 

「ふざけてなんかない。本当に、もう時間が無いんだ」

「あ?」

「一方通行が実験で絶対能力者になるため、2万人の人を殺そうとしている。俺は、それを止めたいだけだ」

「……」

「実験が終わってから、いくらでも相手してあげる。だから、今は……」

「だから、それがふざけてるってんだよ」

 

 その返事に、非色は片眉を上げた。

 

「お前一人が足掻いた所で、その実験が止まるわけねェんだよ。テメェのその能力で一方通行に勝てると思ってんのか? その実験以外だけじゃねェ。この街には腐った科学者どもが好き勝手に人体実験を繰り返してやがる。それ全部、テメェだけで止められる気でいやがんのか?」

「それでも戦う」

「あ?」

「無理だと決めて何も足掻かないままじゃ、何も変わらない。せっかくこんな力が備わったんだ。これで助けられる人がいるなら、助けたいでしょ」

「……」

 

 正面から麦野を見据えて言う。

 麦野は、内心では思わずうろたえた。おそらく、こいつもクソみたいな実験の被害者のはずだ。何度も日常的に地獄を見てきたはずなのに、何故ここまで前を向けるのか。

 学園都市の犬として働いている自分が、とても情けなく映るほどに。それが異常に腹立たしくて、奥歯を噛み締めた。

 

「偉そうに、ゴチャゴチャと……本当にむかつく野郎だ」

「……」

「もう良い、消えろ」

 

 直後、正面からビームをぶっ放された。それをバク宙で回避すると、正面から殴りかかって来た。

 それに対し、非色も身構える。なんか知らないが、また怒らせてしまったようだ。ならば、こちらももう女だから殴らないなんて言っていられない。世の中、殴らないと分からない奴だっているのだから。

 正面からの殴打を反り身で避けた直後、拳の先端が薄らと光っているのが見えた。

 

「あぶなっ」

 

 ビームがさらに延長して伸びて来る。その直後、廻し蹴りが非色の脇腹に直撃した。

 大したダメージではないが、普通の人にしては中々の威力だ。姿勢が崩れた直後、ビームが真上から飛んできた。

 

「っ、と……!」

 

 それをジャンプして壁に着地したが、そこにもビーム。それすらも反対側の壁に避けて、水鉄砲を放つ。それを麦野がビームで迎撃している間に後ろを取り、軽めの足払いで足を浮かせ、足の先端を掴むと大きく奥に投げ飛ばす。

 が、空中で受け身をとりながら壁に向かってビームを放ち、衝撃を殺した麦野は、壁に着地すると距離を詰めて来る非色を視界に移す。

 

「オラァッ、溶けろ溶けろ溶けろォッ‼︎」

 

 その非色に三箇所からのビームを連続で放っていく。その3連射を壁を使って回避しながら、非色は距離を詰めていく。

 そして、残り距離が5メートルを切った直後、麦野の顔面に照準を合わせて水鉄砲を放とうとした時だ。麦野は壁にビームを放ち、勢いをつけて蹴りを非色の顔面に叩き込んだ。

 

「ッ……!」

 

 完璧に顎に入ったわけではないが、綺麗に頬に決まり、非色の身体は後ろに反り返り、落下する。

 間違いない。ビームとビームの隙間と間隔を調整し、非色はそこに誘い込まれた。

 

「そこだボケがァッ‼︎」

 

 上をとった麦野は、さらに真下に落ちた非色の上半身に向かってビームを叩き込む。が、非色は背筋を伸ばして両腕を地面につけながら避けると、肘を伸ばして身体を浮かし、麦野の肩に蹴りを叩き込んだ。

 

「チッ……!」

 

 蹴り飛ばされながら、麦野も苦し紛れにビームを放つ。それが非色の太ももを掠める。二人とも床に落下するも、すぐにお互いに顔を向けた。

 

「クソがッ……ヒーローもどきがァァァァァァッッ‼︎」

 

 麦野は懐から拡散支援半導体を取り出す。何をするつもりか、直感的に把握した。ヤバい、と離れようとしたが、後ろは壁で左右どちらにせよ一本道である。逃げ道はない。

 直後、ビームが大量に放たれ、拡散した。とにかく強引に避けようとしたが、そのうちの一発が脇腹を貫いた。

 

「ーッ……‼︎」

 

 自然治癒力強化が無ければ死んでいた。無数のビームが貫通したことにより壊れた壁の奥に投げ出された非色は、研究所から弾き出され、地面に落下した。

 だが、麦野からの攻撃の手は止まらない。その穴からすぐに顔を出し、ビームを連続して放って来る。

 

「寝てる暇はねェぞクソヒーローがよォッ‼︎」

「っ……!」

 

 それを慌てて回避しながら横に転がる。このまま離れればジリ貧だが、あんな風にビームを拡散されれば、近づくスキがない。

 それを予見していたから、投げ出される直前に罠を仕掛けておいた。

 一方通行戦で使った、時限式煙幕玉。それが一気にボフンと煙を吹いた。

 

「なっ……⁉︎」

 

 一気に視界を奪われた麦野は、ビームを放つ手を緩める。煙を一気に吹き飛ばす直前、煙幕が効かない非色からの攻撃が直撃する。

 糸が自身の身体に触れ、前に引っ張り出される。

 

「クソがッ……!」

 

 頭から落下した時だ。煙の中から非色の両足が飛び出してきて、自身の胸を蹴り込んで壁に叩きつけられた。

 

「ゴフッ……!」

 

 それと共に後ろに宙返りしながら水鉄砲を放たれ、両手両足を壁に繋がれる。原子崩しで糸を切ろうものなら、頭から地面に落下する。

 

「く、クソッ……!」

「……勝負あり、だよね」

「ふざけやがって……!」

 

 身体を起こした非色が、下から麦野を見据える。

 

「テメェ、タダで済むと思うなよ……! 絶対に殺してやる……!」

「その気迫を、なんで学園都市に歯向かうことに使えないんだよ」

「ッ……!」

 

 黙り込む麦野。あくまで非色も、正面から麦野と向かい合っていた。

 

「もう時間も無いから俺は行く。まだ一方通行を止められていないから。……もし、あんた達が今の境遇に嫌気が差す時が来たら。少しでも自分の今から抜け出したいと思う時が来たら。俺はいつでも力を貸す」

「ッ……が、ガキが……!」

 

 言い負かされた麦野は、そのまま黙り込み、立ち去る非色の背中を眺めた。脇腹に穴が空き、太ももからも血が漏れているにも関わらず、そいつはこれから自分より強力な超能力者と戦うつもりのようだ。

 もはや狂気すら感じてしまう。何故、他人のためにそこまで体を張れるのか分からない。

 

「っ……」

 

 初めて負けを感じながら、麦野はとりあえず助けを呼んだ。

 

 

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