とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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抱え込んでも上手くはいかない。

 御坂美琴は、あっさりと目的を終えた。というのも、研究施設内で二丁水銃が高位能力者との戦闘が職員の気を引いていたため、美琴はさっくり終わらせ、見かけた以上は二丁水銃の援護を、と思っていたのだが、駆けつけた時には終わっていたようで、何やら怪しげな連中が撤退の準備を進めていた。

 そいつらの事も気になりはしたのだが、とりあえず今は非色の方が重要だ。そんな中、見つけたのはデカい壁と血痕。それを電磁波によって追跡すると、随分と遠くまで移動したようで、何処かの公園まで繋がっていた。

 そこで見つけたのは、倒れている非色の姿だった。

 

「ってわけで、御坂くんが君をここまで運んでくれたんだよ」

「……そう、ですか」

 

 昨日も、非色は一方通行を止められなかった。ギリギリで滑り込んだものの、傷口も塞がっていない、水鉄砲の中の液量も残りわずかの状態で、一方的にボコボコにされた。

 気を失った後、美琴が再び一方通行と相見えたかは知らないが、そうなっていないことを願うばかりだ。

 

「……御坂さんは、どんなご様子でした?」

「ああ。何やら晴れやかな表情をしていたな。君と話がしたいと言っていたよ」

 

 という事は、何かを成し遂げた、という事だろうか? 何であれ、他の人ならともかく美琴からの情報は聞く価値がある。

 

「そうですか。何時に集合とか聞いてます?」

「13時に公園で待っているそうだよ」

「今何時ですか?」

「13時半だ」

「起こして下さいよ!」

 

 大慌てで研究所を出て行った。

 

 ×××

 

「遅い!」

「すみません!」

 

 スーツとマスクだけ収納して、美琴と合流した。顔を見ると、思わず非色はひよってしまった。美琴の顔色が、明らかに悪かったからだ。

 自分が一方通行と戦っている間、彼女が一体、何をしていたのか分からないが、自分と同じくらい働いていたのだろう。

 その割に声音は元気そうだったので、そこはホッとしたが。

 

「随分、無茶してたみたいね。あの一方通行と何度もぶつかってたんでしょ」

「全部負けましたけどね」

「当たり前よ、バカ」

「次こそ勝てますから!」

「次なんてないわよ」

 

 どういう意味? と言わんばかりに眉間にシワを寄せる非色に、美琴は続けて説明した。

 

「私が、計画を潰したから」

「え、ど、どうやって?」

「あの実験に関わっている施設を全て潰したわ。これで、奴らはクローンを作ることは出来ない」

「……それで?」

「いや、分かるでしょ。それで実験は終わりよ。2万体ものクローンを作ることは出来ないんだから」

「……」

「だから、もう終わりよ。あんたも、無駄に命を捨てるような真似はしなくて良いわ」

 

 思わず、非色はポカンとしてしまった。この子は何を言っているんだ、と。随分と楽観的な意見で、非色は思わず否定しそうになってしまった。

 実際、絶対能力者を生み出す実験ならば、その程度の事じゃ中止はされない。他の施設と連携して強引に実験を動かす事だろう。

 それくらい、考えればわかりそうなものなのだが……美琴の顔色、目の下のクマ、全てがそれを口にすることを止めてしまった。

 相当、神経をすり減らしたのだろう。そんな美琴に、推測に過ぎない事は言えない。

 

「……そっか。じゃあ、良かった」

「ええ。だから、あんたも安心して……」

「じゃ、俺帰りますね」

「ちょっ、待ちなさいよ。せっかく一仕事片付いたんだから、少しくらい祝いなさいよ」

 

 どうやら、本気で終わったと考えているようだ。しかし、非色としては祝う気にはなれない。何故なら、実験は全く終わっていないから。

 

「ちょっと、祝いなさいってば」

「無理です。時間無いんだから」

「何の時間よ? ていうか、あんたの予定もなくなったの知ってるんだからね?」

「あーもう、うるせーなーうるせーなー」

「あんた先輩になにその口の聞き方?」

「ごめんなさい」

 

 なんて馬鹿なことやってるときだ。二人の元に「あっれー? っかしーなー……」という聞き覚えのある声が届く。何かと思ってそっちへ行くと、顔見知りのツンツン頭が見えた。

 

「あれ、上条さん!」

「? あ、固法! ……と、ビリビリ中学生?」

「御坂美琴って言ってんでしょうが! ……え、知り合い?」

 

 ヒーローの姿では、御坂と上条の現場に居合わせたことはあったが、非色の姿では初めての事だ。

 きょとんとしてる美琴に、上条が声を掛けた。

 

「あ、ああ。固法は友達なんだ。……一緒にいて一番、疲れない相手というか何というか……」

「あっそ。……で、何かあったわけ?」

「ああ。この自販機にお金入れたんだけど……飲み物が出て来なくてな……」

「ああ、この自販機。コツがいるのよ」

「はぁ? 自販機にコツってどういう……」

「ちぇいさぁああああああ‼︎」

 

 思わず言葉を失った。見事な廻し蹴りが自販機に炸裂する。聞きたくない音が耳に響き、上条も非色も耳を塞いだ。何という暴力的なJCなのだろうか? 

 その後、ゴトンゴトンゴトン、と3本の飲み物が落ちて来る。それを見て、美琴は「おっ」と声を漏らした。

 

「ラッキーね。三本はなかなか出ないわよ」

「いや……何してんの?」

「前にボラれた分だけ出させてんのよ。あと8000円分はあるはずだから気にしないで」

「するよ!」

「するだろ!」

 

 どう見たって強盗である。自販機強盗って一体、なんなのだろうか? 

 

「ほら、あんた達の分」

「俺はちゃんとお金を払います」

「律義ねー」

 

 わざわざ自販機に受け取った分の金を入れて、三人で近くのベンチに座った。

 

「ふぅ……ていうか、御坂さんと上条さんこそどんな関係なんですか?」

「「え?」」

「いや、接点無さそうなのに、仲良さそうだなって」

「ど、どんなって……」

 

 上条はチラリと美琴を見る。その様子を見て、そんな説明しづらい関係なのか? と、思った直後、美琴が立ち上がって怒鳴り散らした。

 

「あ、ん、た、は! 私に何度も勝ってるでしょうが!」

「は……? お、俺が……女子中学生相手に、何に勝つの?」

「勝負よ、勝負! ……いや、私も一発ももらってないから五分って言えば五分なんだけど……!」

「???」

 

 その台詞に、非色は思わず困惑するとともに以前のことを思い出した。前に上条は、美琴の電撃を片手で掻き消していた。

 もしかして、この人は凄い能力者なのかもしれない。とりあえず、あの右手への興味が尽きない。

 

「上条さん、右手出してもらえます?」

「? こう?」

「えいっ」

 

 殴ってみた直後、メキッて音がした。上条の手から。

 

「いってええええ! い、いきなり何すんだ固法⁉︎」

「あれ? かき消せるんじゃないの? ダメージを」

「なわけあるか! 俺が消せるのは異能の力……この街だと能力だけだ! てか、お前力強っ⁉︎」

 

 本気ではないにせよ、強化された肉体で殴ってしまったのだから、それなりにダメージは入ったはずだ。折れていないか不安になったが、割と平気そうに手首をプラプラと振っているので、多分大丈夫だろう。

 そんな非色を眺めながら美琴がポカンとしてるのが見えた。図上に「?」を浮かべて眺めると、非色の左手を掴んで電気を流してきた。

 

「えいっ」

「あばばばば!」

「あ、ごめん」

「な、何するんですかいきなりー!」

「いや、私が勝てない相手に平気で勝たれたもんだから腹立って……」

「八つ当たりじゃねえか!」

 

 心底、困ったように左手をプラプラと振っている非色に、ふと上条が思い出したように声をかけてきた時だった。

 

「あ、そうだ。固法、そういえば佐天さんって人が……」

「お姉様〜! こんな所で何を……!」

 

 一番、聞きたくない声が飛び込んで来た。近くの階段からパタパタと降りてきて、非色に視線を移す。

 

「あら、黒子」

「げっ……」

「……興が削がれましたわ」

「え……?」

 

 すぐにテレポートでその場から消えてしまった。非色の方に顔を向けたのは、美琴だった。

 

「あんた……黒子と何かあったの?」

「……何も、無いです……」

「何もないって反応? あれ」

「あー……いや、なんだ……」

 

 ヤバい、と非色は冷や汗を掻く。今、美琴は実験は停止したと思い込んでいる。と、いうことは、今は自分の大切な後輩が傷ついている事を最優先に心配に思う事だろう。

 

「じゃ、俺用事あるんで」

「あ、コラ……!」

 

 すぐに非色はその場を後にした。ダッシュで立ち去り、公園を後にしようとした直後だった。ふと、見覚えのある少女とすれ違う。

 独特のゴーグル、無機質な無表情、その癖、最強の電撃使いと同じ顔の少女。

 やばい、と非色は戦慄する。このままこの少女が歩いていけば、美琴と上条の元に合流してしまう。そうなれば、美琴はまた動き出してしまうだろう。

 

「っ……!」

「?」

 

 思わず、慌てて肩を掴んでしまった。グイッと自身の方に引き込み、足を止めさせる。

 

「……あなたは……」

 

ミサカにとってもこの顔は見覚えがあった。確か、マスクを一度、外して自身に装備させてくれたヒーローだ。生で顔を合わせるのは久々な気がした。

 

「頼む。ここから先に行くな」

「……はい?」

「御坂美琴がいる。お前には分からないかもしれないけど、御坂さんは君のために精一杯、動いた後だ。今は、それを終えて一安心している所なんだよ」

「お姉様が……ミサカのために、ですか?」

「あー……知らないのか。まぁ、知られたくないよね。とにかく、結果が出たと思い込んでる。そんな中で、実験が終わっていないなんて知ったら、何をしでかすか分かったものじゃないでしょ」

 

 この何日か、美琴は相当、無理して動いていたはずだ。顔を見れば分かる。それなのに、その努力が全て無駄だったと思わせるわけにはいかない。自棄になられたら、それこそ黒子や初春、佐天達との日常に戻せなくなるかもしれない。

 

「……よくわかりませんが、わかりました。別の道へ迂回します」

 

 立ち去っていくミサカを眺め、非色はホッと胸を撫で下ろす。で、自分をヒーローの姿へと変身させるアイテムであるプレートとサングラスをポケットから出し、見下ろした。

 今回は、運が良かっただけだ。先に自分が美琴より先にミサカと出会したから、こうして未然に防ぐことができた。

 が、これから先に、美琴がミサカと出会うことがあったらどうなるのか、想像もしたくない。遅くなればなるほど、暴走する反動も大きそうだ。

 つまり……。

 

「……今夜中に片付けた方が良い」

「何をだ?」

 

 横から声をかけられ、ビクッと肩を震わせる。隣を見ると、上条が立っている。慌てて変身アイテムをポケットに隠した。

 

「か、上条さん……? あ、いや、夏休みの課題ですよ」

「え、まだ終わってないのか? いや、上条さんが言えた話じゃないんだけど」

「は、はい……」

 

 苦笑いを浮かべながら、さりげなく後ずさった。ちなみに夏休みの課題は初日に終わったのは内緒だ。

 

「み、御坂さんは?」

「友達と遊びに行ったよ。……てか、さっきお前と話してた子、ビリビリによく似てんな」

「え……そ、そうですね。まぁ、似てる子なんて世界中にいますから。はい」

「お、おう……?」

 

 とりあえず、上手くごまかせたと胸を撫で下ろした。さて、こうしている場合じゃない。さっさと戻って次の実験に備えなければならない。

 足早に立ち去ろうとした非色に、上条が後ろから声をかけた。

 

「お前、何か隠してねえか?」

「っ……か、隠してないですよ⁉︎」

「……ほんとか?」

「本当!」

「なら良いけど……」

「じ、じゃあ……俺、このあと予定あるんで!」

 

 それだけ話して、非色はさっさとその場を後にした。

 

 


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