とある科学の超人兵士。   作:バナハロ

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遠慮なしに図星をつくのはやめたげて。本当に。

 非色は、一人で木山の研究所に篭って準備を整えていた。マスク、スーツ、水鉄砲……などと、いつものメンバーを調整し、自身の身体もストレッチなどをして整える。今回は今までとは違う。一方通行の能力を調べ、一つの可能性を見出した。

 そんな非色の横に、木山がコーラを入れて置いた。

 

「今日も、行くのかい?」

「行きます」

「そうか……無理はしないように」

 

 言っても無駄なのは、木山も分かっている。彼は他人には厳しい癖に自分には甘いタイプだ。つまり、他人の無理は許さない癖に、自分の無理は許容する男だ。

 だからこそ、不安は拭えなかった。一応、今日まで帰ってきてくれてはいるものの、それがいつ途切れてもおかしくない。

 教員なら、やはり彼が何に首を突っ込んでいるのかを把握するべきだ。彼は戦闘面に関しては度胸もあり、力もあり、精神力もあるが、日常生活においてはまだまだ子供なのだから。

 しかし、それを聞き出せば、彼はここを出て行ってしまう。力になれないのだ。

 中々にずるい男だ。

 

「……木山先生」

「なんだ?」

「すみません。今まで、迷惑掛けて」

「ど、どうしたんだ急に?」

「……いえ。では……」

 

 準備を終えた非色は、すぐにその場から立ち去った。その背中を目で追いながら、木山は額に手を当てた。

 

「……」

 

 やはり、何かした方が良いのだろうか? そんなジレンマだけが後に残っていた。

 

 ×××

 

 一方通行は、表を歩きながらぼんやりしていた。最近、何度も顔を出しに来るあのヒーロー。奴は何故、何度も邪魔をしに来るのだろうか? 

 最初は最強の首をとりにきた命知らずとも思ったが、そうでもないようだ。そんな奴は、最初に負かせばすぐに折れるが、奴は何度も何度も抗ってきた。手を変え、武器を変え、作戦を変え、ありとあらゆる武器を使って幾度も幾度も。

 あの必死さ、あの無鉄砲さ、それらを見る度に一方通行の中に一つの懸念が生まれた。

 妹達は、本当に人間じゃないのか? と。

 

「……ちっ」

 

 それを思うたびに、一方通行は頭の中で否定した。人形に決まっている。頭のネジが緩んだ科学者どもは皆、人形だと言っていたし、事実、ボタン一つで作れる模造品だ。

 なら、人間であるはずがない。壊しても何の問題もないはずだ。

 そう強く心底から思わないと、自分が今まで何をしていたのかを考えてしまう。

 何にしても、もうあのヒーローが来たら容赦するつもりがない。あいつが来ると、不愉快に感じるようになってきた。今日で殺す。

 

「……」

 

 そろそろ、実験の時間だ。現場に向かわなくてはならない。おそらく、というか100%あのバカタレは来る。今日でまた、いつもの実験の日々に戻る。

 

 ×××

 

「ああ、うん。あいつ、割と元気そうっちゃあ元気そうだったよ」

 

 上条の電話の先にいるのは、佐天涙子。非色を無事に見つけられたので、それについて報告している所だった。

 

『あ、そ、そうですか……』

「? 何かあったのか?」

『いえ……その……あ、そういえば上条さん、公園で御坂さんと非色くんと会ったんですよね?』

「ああ、そうだけど……」

『実は、私達も近くにいたんですよ』

 

 そうだったのか、と上条は妙に納得してしまった。多分、あのツインテールで前に非色と修羅場っていた常盤台の女の子も友達なのだろう。

 

『その時、分かります? 白井さんっていうツインテールの子』

「ああ、前に固法と修羅場ってたな」

『あ、じゃあ白井さんが非色くんのこと好きなのも知ってます?』

「やっぱそんな感じなのか……」

 

 大体、察してはいた。ハッキリとは知らなかったが。

 

「それで?」

『その白井さんが皆さんの所に行って、あからさまにテンション下がって帰って来たので……その、何かあったのかなって』

「何も無かったぞ。固法と顔を合わせてすぐに行っちまったし」

 

 それは逆に、非色の顔を見ただけで立ち去ってしまった、という事を示していた。何かあった、というより余程、タチが悪い。

 

『はぁ……本当は非色くんの事、大好きな癖になぁ〜……なんか、敢えて非色くんの話出さない感じが逆に拘ってる感じがして……』

「あー……なるほどな。ちなみに、その二人は何があったんだ?」

『よく分からないんですけど、非色くんの方から「友達やめよう」って言い出したそうで……』

「……」

 

 喧嘩は当人同士で解決させるのがベストなのは分かるが、あの非色がそこまで相手を傷つけると分かっている台詞を吐くとは思えない。あいつは割と気を使うタイプだから。

 

「……じゃあ、これからちょっとあいつと話して来るよ」

『え、でももう夜ですよ?』

「こういう話は早いほうが良いだろ?」

『じゃあ、私も探すの手伝いましょうか?』

「いやいや、女の子は危ないから」

『なんか……すみません、何もかもやらせてるみたいで。でも、非色くん私からの電話出ないから……』

「気にしなくて良いよ」

 

 それだけ話すと、上条は電話を切った。そんな話をしていると、後ろから同居人が声を上げる。

 

「とーまー! おなかへったんだよー!」

「悪い、インデックス。少し出かけてくるから」

「ええー⁉︎ こんな時間から⁉︎」

「固法の奴、少し探して来るだけだよ。すぐ帰って来るから」

「うー……分かったんだよ」

 

 それだけ話すと、部屋を出て行った。

 

 ×××

 

 非色は実験現場に向かう前に、一七七支部に顔を出していた。顔を出していた、というか、窓の外から部屋の中を覗き込んでいた。

 中では、白井黒子と固法美偉が二人で何やら作業をしている。そもそも顔を出す資格もないので、こうして覗いているだけにしてあるわけだが。

 どういうわけか、二人の顔を見ておきたかった。一方通行と戦うための手は考えてある。通用するかは正直、賭けだが、それでも不可能ではない作戦だ。敵がこちらをナメ切っている今ならいけるはずだ。

 だが、今日で決めると決めた以上、自分も無事では済まない。最後に、一目見ておきたかった。

 

「……」

 

 いつまでもそこにいたかったが、バレる可能性もあるし、決心が揺らぐのでさっさと立ち去った。

 移動し、今日の実験現場であるコンテナ倉庫へ向かう。川沿いにあるその場所の近くには、大きな橋がある。そこで、非色は待機していた。あと少しで一方通行との戦闘が始まる。

 そのため、一度、深呼吸して精神を整える。なるべくなら、肌で風を感じたかった。今回こそ、負けるわけにはいかないのだから、少しでもリラックスしておきたかったから。

 

「……」

 

 死ぬかもしれない……というか、割と高確率で死ぬというのに、非色は気を楽にして落ち着いていた。

 黒子とは縁を切り、姉とも佐天とも初春とも連絡を取らなくなり、木山にもお礼を言えて、割と身辺整理は終えた非色は、どこか晴れやかだった。上条には挨拶出来ていないけど、まぁ機会を失った以上は仕方ない。

 ここで、一方通行と刺し違えることが出来れば良い方だろう。

 

「……よし、行こう」

 

 橋の上を歩きながらスーツを着て、サングラスを装備し、顔を覆った。

 

 ×××

 

「あいつ、何処で何してやがんだ……?」

 

 上条は街中を駆け回っていた。非色が中々、見当たらない。まぁ、連絡も無しに見つけるのは正直、厳しいし、会えなければ明日にでも会えれば良いと思っていた。

 なので、そろそろ帰らないとインデックスがうるさいかも……なんて思った時だった。前を見覚えのある少女が歩いているのが見えた。

 

「あ、おーい。ビリビリ!」

「はい?」

 

 振り返ったのは想像通りの少女だ。しかし、何故かゴーグルをしていて、いつものように感情をあらわにして電撃をお見舞いして来ることはなかった。

 

「こんな時間にお嬢様が何してんだよ」

「あなたは誰ですか? ……と、ミサカは突然、話しかけてきた不審者を前に不安を露わにします」

「は? お前あれ……御坂美琴じゃねえの?」

「ミサカはお姉様ではありません。お姉様の軍用クローン、通称『妹達』……ミサカ10034号です。……と、ミサカは不審者への警戒は解かず質問に答えます」

「……はい?」

 

 そこで上条の脳裏に浮かんだのは、昼間に非色と話していた御坂美琴そっくりの少女。まさか、あれはクローンだったと言うのだろうか? 

 色々と聞きたい事はあるが、とりあえず今は用件を済ませた方が良い。

 

「ま、まぁ良いや。とりあえず……固法は何処にいるか知らないか?」

「固法……?」

「昼にお前が話してた奴だよ! 公園で……」

「……あの少年は、固法というのですか。と、ミサカは今の今までミサカを助けようとしてくれたヒーローの名を胸に刻みます」

 

 今のセリフだけで、色々と引っ掛かる言葉が入って来る。名前も知らないのに助かるだなんだと言い、終いにはヒーローなどと言い出す。

 上条は混乱直前だが、何とか脳を整理しつつ質問を続けた。

 

「助けようとって……な、何か知っているのか?」

「あの少年でしたら、現在は戦闘中です」

「戦闘……?」

「学園都市最強の能力者兼、絶対能力者計画被験者、一方通行との戦闘です。と、ミサカは補足情報を追加します」

 

 それを聞いて、上条はトラブルの臭いを感じ取り、実験について問い正そうとしたが、少女は説明する事なく立ち去って行く。

 その背中を眺めながら、上条はとりあえず常盤台の女子寮に向かった。あそこなら、クローンの大元になった奴がいるはずだから。

 

 ×××

 

 実験現場では、ミサカは一方通行と向かい合っていた。あの少年は、今日も来るつもりなのだろうか? 昨日の夜は、特にひどいやられ方をしていた。

 もう何度もヒーローと一方通行の戦闘を見てきたが、昨日の二丁水銃は来る前からズタボロだったのは何かあったのだろうか? 脇腹に空いた穴を強く踏みつけられていたシーンはあんまりだった。

 もしかしたら、今度こそ彼は来ないかもしれない……そんな風に思った時だ。

 

「チッ、またきやがったか」

 

 目の前の一方通行が不愉快そうに声を漏らした。その視線が向けられた先は、自分の後ろ。二丁水銃が正面から歩いてきている。

 

「どうも。一方通行さん」

「もう不意打ちは無しかよ?」

「あんたにそんなことしても無駄なのはよく分かってるから」

「カハッ、かと言って正面からかよ。随分、ナメられたモンだなァ」

 

 ザッザッザッ、と砂利道を歩いて近づいて来る非色は、ミサカの隣を通り過ぎる。

 

「何故ですか?」

「何が?」

「何故、あなたはこうもミサカに構うのですか? と、ミサカは……」

「決まってるでしょ。……ヒーローだから」

 

 ミサカの台詞を遮ってそう告げると、非色はミサカの肩に手を置き、自分の後ろに押し退ける。

 その非色に、一方通行も続けて問い掛けた。

 

「よォ、オレも聞きてェ事あンだけどよ。オマエ、何なンだ?」

「ヒーロー」

「ンなの、ごっこ遊びの延長だろォが。なンで、ンなことしてやがンだ? 正義感が許さねェってか? それとも、人より強ェ力を手に入れてはしゃいでンのか?」

「聞きたい事はこっちにも山ほどあるんだ。……あんたこそ、なんでこんな事してんの?」

「……ア?」

 

 一方通行の質問を全く無視して、非色はまっすぐと聞き返した。

 

「こんな事して、強い力を手に入れて、それでどうしたいの?」

「どォ、ってなァ。絶対的なチカラを手にする為」

「……」

「レベル5だとか、学園都市で一位だとか、そンなつまンねェモンじゃ足りねェ。オレに挑もうと思うことすらが許さねェ、無敵が欲しィンだよ」

 

 その話を聞いて、ヒーローは何も言い返して来ない。その様子を見て、一方通行はニヤリとほくそ笑んだまま続けた。

 

「ハッ、もしかしてオレの人間性にでも……」

「要するに」

 

 が、それを非色は遮った。

 

「もう誰も傷つけたくないから、さらにその上を目指してる……ってわけね」

「……」

 

 シンッ、と一方通行の頭の中が真っ白になる。まるで、大昔に思い浮かべ、長らく忘れていた図星を突かれたように。

 その結果、大きな怒りと迷いが具現化したように一方通行の能力が自動で周辺に影響を及ぼした。

 一方通行を中心に、地面には大きな亀裂、周囲には突風が発生し、大きなクレーターを形成する。

 ミサカの身体が思わず後方に飛ばされる中、非色はその場で姿勢を低くして身構えて堪えた。

 そのヒーローに対し、一方通行は過去、類に見ない眼光で告げた。

 

「殺ス」

 

 大きなクレーターを形成したということは、一方通行の身体は一瞬だけ浮いていたことになる。

 その足の裏が地面に着いた直後、一気にベクトルの方向を目の前のヒーローに向けた。

 

 ×××

 

 常盤台中学女子寮に訪れた上条は、美琴に部屋に入れてもらっていた。妹達の件について、と言われてすぐにピンと来た。

 

「で、あの子達の何を聞きたいわけ? 実験なら……」

「終わってねえよ」

「……え?」

「あいつは、まだ戦ってる。……お前、実験の何を知ってるんだ?」

「待って……実験って……私が施設を潰して、全部……」

「続いてるんだよ。一方通行とかいう奴とあいつは、未だに戦っている」

 

 思わず美琴の心臓はドキリと跳ね上がった。まさか、あの実験が続いてるとは思わなかった。あらゆる企業を潰し、実験に加担しそうな研究施設も破壊した。あの少年だって、全てが終わったと言うと決して否定はしなかったのに……。

 それなのに、何故、実験が続いているのか。

 

「どう、して……」

「……教えてくれ。実験の内容を。俺は固法を助けに行きたいんだ」

「……」

 

 そうだ、今嘆いていたって仕方ない。無理矢理、気持ちの整理をつけると、美琴はジロリと上条を睨み付ける。

 が、上条も美琴を正面から見据えていた。相変わらず、世話焼きでお人好しで、それでいて愚直なくらい真っ直ぐな視線を自身に向けている。

 思わず、揺らいでしまった。このバカに、全てを委ねてしまいたくなるくらい。

 だが、ダメだ。ここに来て非色の気持ちがすごく分かってしまった。人に何か情報を与えることは、それだけで巻き込むことになりかねない。それが、全く関係ない人間を犠牲にする結果に繋がるかもしれないのだから。

 

「……ダメ、あんたまで巻き込むわけにはいかないわ。今回の件、元はと言えば全部、私が……」

「お前がどうとか、固法がどうとか、一方通行がどうとか、そんなの何だって良い。俺が知りたかったのは、あいつが今、何処で戦っているのか、それだけだ」

「え……?」

 

 そのセリフに、美琴は目を見開く。

 

「お前だって嫌なんだろ。こんな実験が平然と続けられてんのが。なら、止めるしかない」

 

 何故、そこまで他人に親身になれるのだろうか。今回の実験について何も知らない癖に、非色はどうだか知らないが、自分は毎度毎度、この男を見つけては襲い掛かっていたのに。

 

「ダメ……ダメよ……元々、今回の実験の発端は、私がDNAマップを提供した事なの……! こんな私なんかの所為で、あんたが殺されるようなことが……」

「どうでも良いっつってんだろ!」

「っ……」

 

 急に声を荒げられ、美琴はビクッと目を見開く。上条は真顔のまま続けた。

 

「俺にとって重要なのは、固法と御坂妹が今、殺されかけてるって事。そして、お前がそんな今にも死にそうな顔をしてるって事だけだ」

「……っ……」

「教えろ、今日の実験場は何処だ⁉︎」

 

 言えなかった。まだこんな風に自分を想ってくれる人がいて、思わずこんな状況で嬉しさがこみ上げてしまった事。

 思わず、目尻から涙が溢れ出してしまった。その場で膝を床につき、項垂れてポツリポツリと実験の全容を漏らし始めた。

 この少年に助けてもらいたい、そんな風に思ってしまった。

 

 


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